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ナタリー5歳。
有力貴族として5本の指に入り、年齢にしては令嬢としての教育、マナーをほぼ完璧に習得していて将来が楽しみだと言われていた。
そんな噂を聞きつけた王宮はすぐにナタリーの両親の元へ行き第一王子との結婚の話をし、両親は王子本人とナタリー本人の意思を尊重すると話し、お見合いの席を設けさせた。
「こんにちは。初めまして、アルゼルです。」
「初めましてアルゼル王子。ナタリーと申します。」
アルゼルの第一印象は決して悪いものではなかったし、話しがよく合った。
アルゼルとの面会を終えたナタリーは結婚しても良いと話し、アルゼルもまた同じ気持ちだった為内々に婚約者として妃教育が始まったのだ。
妃教育と言っても既に高い水準の教育を受けていたナタリーは細かい部分を直すだけで良かったし、アルゼルは時間が許す限りナタリーと居た。
だから王妃になるのに不安はなかった。
「ナタリー、ちょっと来て。」
ある日、アルゼルに手を引かれ素敵な庭に連れて来られたナタリーは驚きを隠せなかった。
「こんにちは。私、ターシャ。あなたは?」
アルゼルは、ナタリーよりも綺麗なドレスを着ていた少女を引き合わせたのだ。
「ターシャ、ナタリーだよ。僕の将来お嫁さんになる人。」
「初めまして。ナタリーと申します。以後、お見知りおきを。」
ターシャはナタリーの挨拶を無視してアルゼルの腕を取った。
「あちらに行きましょ?私、温室のお花が見たいわ。」
「じゃあ3人で行こう。ナタリー行こう。」
返事をしようとした時にナタリーはターシャに思いっ切り睨まれるのに気が付き、用事があると嘘を付き別れの挨拶をした。
「感じわるーい。…ターシャ嫌われるような事したのかなぁ?」
「そんな事ないよ。ターシャもナタリーもまだ挨拶しただけだろう?ナタリーは妃教育があるし忙しいんだよ。ナタリー、出口まで送ろう。」
「結構です。王子はターシャ様と温室へどうぞ。」
ナタリーは礼儀正しくその場を後にした。
その日からアルゼルはターシャを連れて来るようになった。
ターシャはナタリーに会うなりアルゼルにベッタリくっつきナタリーの存在を無視したし、アルゼルが席を外すとすぐに意地悪を言ってきた。
「あなたお勉強しか出来ないのね。アルゼル様があなたと居てもつまらないと言ってたよ。ターシャといる方が楽しいし楽だって言ってるよ。ターシャと結婚したいんだってー。」
「そうですか。」
ターシャからの攻撃になれたナタリーは読みかけの本を読み始める。
相手にされていないと分かったターシャはアルゼルが戻って来てすぐアルゼルに抱きついた。
「アルゼルッ!ナタリー様がヒドい事を言うのっ!」
涙目でアルゼルを見上げるターシャと本を呼んでいるナタリーの顔を見てアルゼルはため息をついた。
「…分かった。ターシャ、ナタリーと話すから部屋に戻っていて。後で行くから。」
「約束よ?絶対だからね!」
ターシャはアルゼルに言われた通り部屋へ戻って行った。
「ナタリー、ターシャと仲良くしてくれないか?」
「何故ですか?」
「あー…彼女は可哀相な子なんだよ。」
「何故可哀想なのですか?」
アルゼルは少し気まずそうに話を始めた。
王子が市街に出掛けている時にある少女が親に無理矢理売られそうになっている所を助けた。
売られそうになった少女がターシャだった。
助けたは良いが、売られそうになったのに親元に居させるわけにはいかないと考えたアルゼルは孤児が居る教会へ連れて行った。
しかし、アルゼルが帰ろうとしたら暴れまわり暴力的な子は他の子に危害を加える可能性があるので受け入れられないと牧師に言われてしまったのだ。
このままでは見捨てるか親元へ返すしかなくなると考えたアルゼルは父と母である国王と王妃に相談をしたのだ。
「貧しい街や実力ない者は生きていく為に子供を売るし、売られた子は何万と居るだろう。今その娘を王宮の力で助けたらどうなるか、お前には分からないのか。」
と父に言われ、
「貴方の気持ちは分かります。しかし王宮として母としてその娘を受け入れるわけにはいきません。教会の牧師様に受け入れて頂くか親元へ返しなさい。」
と母に諭されてしまった。
親や牧師に見捨てられ国にも見捨てられたターシャを自分まで見捨てたら、ターシャは近いうちに死んでしまうと考えたアルゼルは父と母にターシャが精神的に落ち着くまでは面倒を見ると押し切り王宮に住まわせていると話した。
「誰からも必要とされていないのは可哀想だろう?だから…」
ナタリーは音を立てて本を閉じ立ち上がった。
「なるほど。可哀想だからと保護したわけですね。では聞きますが、この先ずっと彼女が精神的に落ち着かなかったらどうするつもりなのですか?」
「…それは責任を持って…ごにょごにょ…。」
「なるほど、責任を持ってご結婚なさるのですね。では私はどうなりますか?」
「だからターシャを第二妃にして…優秀かどうかも分からないし…」
「なるほど。優秀であると噂される私を第一妃にして第ニ妃に迎えると。では最後に聞きますが、また同じ状況になったらどうするつもりなのですか?」
「えっ…?それは教会の牧師様にお願いに行くよ…?」
「そうですか。ならターシャ様も牧師様にお願いされに行くといいですわ。私は私が仲良くしたいと思う人としか仲良くしませんし、私に意地の悪い事をする様な方と仲良くする様な海のごとく空のごとく広い心は持ち合わせておりません。失礼致しますわ。」
「ナタリー!?」
アルゼルの声を無視して王宮を後にするナタリー。
後日、王子から軽い謝罪と、次の面会の約束とターシャとどうしたら仲良くしてくれるかという主旨の手紙が届きナタリーはアルゼルのアホさ加減にウンザリし手紙には、アルゼルがターシャを引き連れている限り会わないしターシャとは仲良くする気はないとはっきり書いてアルゼルに送った。
「ナタリー、もう少し優しく書けなかったの?」
一連の流れを聞いた母は怒るわけでもなくナタリーに聞いた。
「書けないわ。あんな馬鹿野郎にあげる優しさはないわ。」
「ナタリーよりも優秀なはずよ?」
「知識はそうかもしれないけど人の事を考えなさ過ぎよ!初めて会った時はあんな馬鹿野郎だなんて思わなかったわ!」
「ナタリー、第一王子を馬鹿野郎呼ばわりするのはおやめなさい。」
母親が優しく注意するとオレンジジュースを一気に飲み母親から顔を背けた。
「私、あんなのと結婚したくありません。」
「では、第二王子はどうですか?」
「お母様。我が家は娘を王族に嫁がせなければいけない程、金銭的余裕がないのですか?なれば我が国の王族より隣国の王族に嫁いだ方が御家の為になりますわよ。」
「…あなた本当に7歳なの?」
「ええ。お母様が7年前に私を産んだのならば7歳のはずですわ。」
「…分かりました。もうお部屋に戻っていいですよ。」
この後、ナタリーの母はどの様にして父を説得したのか王妃に婚約破棄の申出をし婚約者披露宴を行う前だったので無事に受理されたのだった。




