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再スタートです。

 おかしい。

 何がおかしいって、全部です。全部。


「ピョ」


 目の前にいる()()()()の小鳥が首を傾げる。私も傾げる。

 ピンクか……しかも蛍光色……。


「おかしい」

「ピヨヨッ」


 私が呟いた声に反応したのか、小鳥が飛び立っていった。その姿を追い見上げた先にある、生い茂った緑葉の枝。

 それが視界一面に広がっている。どう考えてもおかしい。

 私が住んでいたのがいくら田舎とはいえ……ここまでじゃかった。樹の幹ももっと細かったし、なんというか、空気も違う気がする。

 いやそれ以上におかしいこともあるんだけど。


「まず、ここがどこかって話だよねぇ」


 辺りを見渡すも、先ほどの小鳥以外の生き物は見当たらない。足首までの草が生えていて、道らしきものもなさそう。というか樹しかない。

 迷子……というか、遭難? 明るさからしてまだ昼を少し過ぎたあたりっぽいけど、夜になったら真っ暗闇になりそうだ。

 暗闇が怖いなんてことはないけど、知らない場所での移動は危な過ぎるよなぁ。いきなり穴が開いていたり、崖になっていたなんてシャレにならない。

 しかし移動するにしても、どこへ行けばいいのか検討もつかない。全方角が同じ風景だ。


「仕方ない。適当に歩いてみるか」


 考えてもどうにもなりそうにないので、散策がてら歩き回ってみることに。遭難したら無闇に動いてはいけないって何かで読んだ気もするが、それは雪山とかだったかな?

 地面に座っていたせいで汚れた服を軽く(はた)いて、適当に方角を決めて足を進めた。

 それにしても、さっきも感じたけど随分と空気が澄んでいる気がする。

 私の住んでいる場所も田舎で自然が多いとはいえ、人が住んでいるからには多少なりと空気は汚れるものだ。主だった原因は車の排気ガスだけど……ここの空気からは全くと言っていいほど感じない。

 となると近くに人の住んでいる場所がないのか、車が全く走っていないのか。

 前者だと詰み、後者ならまだ可能性はあるけど帰る手段が難しい…………まぁ、うん。

 今の一番の問題は、とりあえず――。


「お腹空いた……」


 クゥと小さく鳴いた私のお腹だ。今日は朝から何も食べていなかったのです。

 数日食べなくても死にはしないだろうけど、動けなくなるのは困るなぁ。

 周辺の樹木を見上げてみるも、特に何か実っている様子はない。ただ青々とした葉が茂っている。

 季節的なものというより、何か実るような種類じゃないっぽい。

 でも、あの小鳥が生息しているんだから、何かしら食べられるものがあると思うんだけど。

 まぁ、さすがに虫とかなら遠慮したい。

 それに生き物を獲ったとして……さすがに、(なま)はなぁ。火は起こせないし。

 なので、出来れば生でも食べられる植物系が好ましい。欲を言えば果物。

 そして、何より水だ。


「確か、人間って空腹より脱水の方が危ないって、どこかで聞いたような気がする」


 炎天下の中、水分を取らずに数時間いただけで、人間は脱水症状で倒れてしまう。それで病院へ担ぎ込まれたニュースは、夏にはそう珍しくもない。学校でも体育の授業で倒れるとか、年に1度くらいはあったし。

 今の気温は涼しいといえるが、動き続けば少なからず汗をかくだろうし、何より喉は乾くものだ。

 今日一日くらいは我慢できるとしても……数日は無理。

 せめて3日以内には、水は確保したい。というか人のいる場所に出たい。

 見渡す限りの樹々の光景は変わることなく、視界の端まで広がっている。

 仕方ない。とりあえず行ける所まで行こう。




「おかしい」


 日が落ちる頃。私はまた、目が覚めた時と同じことを思っていた。

 しかし、その内容は違っていて。


「これだけ移動しているのに……全く疲れが出ない」


 いくら歩きとはいえ、整備などされていない場所。

 それを、おそらく数時間歩き続けているというのに、身体には全くと言って良いほど疲労感がなかった。

 元々、体力には自信があるほうではあるけれども、それでも少しくらいの疲労はあって然るべきだと思う。

 なのに、足が怠くなることも、息が切れることもなく、汗1つ掻きやしない。

 私はいつの間に、こんなに体力がついていたのやら。

 特別、何かをしたわけではないのだが。


「まぁ、困るようなことじゃないし」


 むしろ現状では大いに助かる。疲れたから動けない、なんて言っている場合じゃないのだから。

 周囲は相変わらず樹ばかりで、人の気配は感じられない。

 とりあえず、傾斜は下るようにしている。登るよりも疲れないし、人がいるのなら山頂とかより麓の方が可能性がありそうだから。

 でも、ここまで人気(ひとけ)がないと不安になる――――ん?


「これは……」


 獣道だ。それもかなり大きな。

 私が進んできた方角を、横切るようにして獣道ができていた。

 どうやら、何かしらの動物の生活圏内に入ったらしい。


「問題は、これが何の動物かなんだけど」


 草食であればいいけど。

 私には動物の専門知識なんてないが…………どうも、草食動物にしては獣道が大きい気がする。

 そして何より、足跡だ。

 まるで地面を抉るようにして、足跡が刻まれている。そのサイズは、なんと私が両手を広げた長さ。大体30センチ、とかだろうか?

 それが、片足分。しかも随分と凶悪そうな爪を持っている。

 そんな草食動物……いただろうか? まぁ、私が知らないだけでいるのかもしれない。

 しかし、肉食動物の可能性の方が大きい。それも大型の。

 辺りはまだ視認できるとはいえ、それなりに暗くなり始めている。相手は野生動物。こちらより夜目は利くだろう。

 それに対して、私は知らない場所で丸腰。

 どう考えても危険しかない。


「はぁ……少し戻るしかないか」


 せっかく進んだ距離だけど、仕方ない。

 そう思い、来た道を引き返そうと背を向けた。


「――――」

「ん?」


 今、何か聞こえたような……。

 振り返り、ジッと聞き耳を立てる。


「――――!」

「やっぱり!」


 聞こえた。しかも、人の声のようだった。

 視界には生き物は映らないが、目を凝らすと、暫く行った場所がかなりの傾斜になっているのが分かった。樹の根本が見えない。

 もしかしたら崖のようになっているのかもしれないが、どうも人の声はそこから聞こえてくる。

 一度聞こえると分かれば、それなりに耳に届く。そして、距離を考えるとかなりの大声をあげているのも分かった。

 あの足跡の主が近くにいるかもしれない場所で、大声を上げるなんて、普通の事態ではないだろう。

 しかし、今の私が既に普通の事態ではないのだ。

 それならば、いっそのこと人が確実にいるであろう場所に向かった方が、どうにかなるかもしれない。

 そうと決まれば、私は声のする方へと駆け出した。草や根に足を取られないように。

 すると、それなりに距離があるように感じていた傾斜はすぐに辿り着き、その下を見ることができた。


「ガァァァアアア!!!」


 まず視界に入ったのは、巨大な黒い毛だ。多分、熊だと思うんだけど……どうも私の知る熊じゃない。

 後ろ足で立ち上がっている状態で、3メートルほどあろう体長。その前足から伸びている爪は、まるで草刈り鎌のようだ。

 それでも、全体的なフォルムは熊のように見える。

 そして、そんな巨躯に隠れて見えづらいが、1人の女性がいるのが分かった。

 私とそう年齢の変わらないであろう女性が、熊から数メートル離れた位置に立っている。

 驚いたことに、その両手には剣が握られていた。鈍く光りを反射するソレは、偽物には見えない。

 そんな物を手に、熊を決死の覚悟で睨みつけている瞳は――――紫。流れる綺麗な髪は、銀だった。

 どう考えても、日本人じゃない。今は険しい顔立ちも、とても美しい、西欧顔。

 そして、その前に立ち塞がる凶悪過ぎる熊。


「おかしい」


 そう思うも、そんな場合でないのは理解できる。

 女性の身体は、所々血を流していた。服が切り裂かれ、痛々しい怪我がはっきり見える。

 熊の方も手足に傷が見えるも、あれは掠り傷だろう。

 どう見ても、女性の方が劣勢だった。

 その視線は熊を睨みつけて離さないが、手足の震えと、息の上がった様子から、かなりダメージを負っていると思う。

 それでも剣を構えたまま、逃げ出そうともしない。

 きっと、背を向ければ一瞬で、あの爪の餌食になると分かっているのだろう。

 そしてそれは、私も分かっている。

 だけど、いや、だからこそ。


「おーい!」


 眼下に向けて、声を上げた。

 当然、こちらに背を向けていた熊も気付き振り返る。それで熊が朱い血のような眼の色をしているのが分かった。

 そしてこちらを向いていたが、目の前に脅威があり、何より少し上の位置にいた私に気付いていなかった女性も、驚きに目を見張っている。


「な、何をしているのっ⁈」


 おっと、見事な西欧顔の女性から見事な日本語が聞こえた。違和感が半端ない。

 しかし、今はそんなこと言っている場合ではなく。


「いいから、早く!」

「っ、はぁあ!」


 私の意図に気付いてくれた女性が、驚きを飲み込んで熊へと剣を振り被った。

 完全に新たに現れた私に気を取られていたらしい熊の、無防備な胴体へと剣が振り下ろされる。

 普通なら大怪我となるであろう攻撃。


 ――――キィン!


 そんな高音を鳴らし、剣が弾かれたように見えた。

 まるで硬い金属にぶつかったかのような音。あの黒い毛が、それほどの硬度があるのか。

 そして、さすがに攻撃されたことに気付かない熊ではなく。


「ガアアアアア!」

「きゃああ!!」


 苛立ったように咆え、その鋭利な爪を備えた右足で女性を横殴りにした。

 軽々と吹き飛ばされた女性は、どうやら爪が当たることはなかったようだが、背中から近くの樹へと衝突し、崩れ落ちた。

 何より、剣がその手を離れてしまった。女性から少し離れた、しかし手を伸ばしても届かない位置。

 すぐ立ち上がれない女性に対し、熊が追撃しようと前屈みになる。


 チャンスだと思った。


 そして、そう思った時には身体は動き出していた。

 傾斜から女性の下まで約10メートル。その間に巨大な熊。

 それを、私は跳び越えた。

 ありえない跳躍力を気にする暇もなく、女性と熊の間に着地した私は迷うことなく地面に転がる剣を拾い。

 駆け出そうと4足歩行へと移行し、頭の位置が下がった熊の首許へと剣を一閃した。

 先ほど、黒い毛に阻まれていたはずの剣は、何の抵抗もなく振り切られ。


「グ……」


 小さな唸り声を余韻に、熊の頭が地面へと落ちた。

 遅れて噴き出した血は、その熊の体毛と同じく真っ黒だった。やたら鼻につく臭い。


「…………え?」


 そして背後から聞こえる女性の茫然とした声。




 これが私の、この地でのファーストコンタクトだった。

悩み唸りながらリメイクしています。

前作を知る読者様、温かく見守ってください。

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