《悪鬼夜行》その十八
それは対等な者同士の戦いではなかった。この戦いを一言で表すなら、そう、蹂躙だ。
『これは魚屋の杢郎さんの分!・・これはそのお嫁さんの小花さんの分!・・これはその娘さんのお菊ちゃんの分!!』
『グフッ!・・グファ!・・ガァ!!』
空鬼が一撃一撃殴る度にこのストーリーイベントのラスボスとして運営から与えられた膨大なHPバーが削れていく。
ヤバいよ空鬼、あれ港町の住人全員分殴る気だ。
「・・。」
何故だか私は《悪鬼夜行》を見ていられなくなってきた。確かにアレはラスボスで、敵で、港町の人々を喰らい、倒さないとイベントクリアにならないのは分かってる。・・だけどそれだけが果たして正解なんだろうか?
新しくキャラを作り直し、私に与えられた《ただ一つの恩恵》はチート級のテイマークラス。今まではただ倒すだけだった魔物を従魔にし、触れ合い、魔物に対しての見方が変わってきた。
「・・これで本当に良いのかな?」
「カルーア姉☆?」
私は自問する、これで良いのか、と。
『グァァァァ!!!!』
だが私の自問とは関係なく戦況は動き続ける。
気がつけば空鬼の猛攻の連撃で《悪鬼夜行》のHPバーは残り1本となっていた。
『あっけないものですね、《悪鬼夜行》。霊脈に目をつけず、港町の人々を喰べず、何処かの山にでも静かに暮らしていればまだ生きられたでしょうに。』
『ガフッ・・貴様ナンゾニ・・生マレタ時カラ力ヲ持ツ貴様ニ何ガ分カル。・・山ノ中、気ガツケバ何ノ力モ持タヌ餓鬼トシテ1人生マレ落チ、獣ヤ人間ニイツ殺ラレルカ怯エル日々ヲ過ゴス儂ノ気持チガ分カルカ?』
《悪鬼夜行》は語る、己が生まれ落ちてからの日々を。
『獣ヲ喰ライ、人ヲ喰ライ、ココマデ力ヲツケタ!力サエアレバ生キラレル!仲間モデキル!儂ハ・・1人デナンゾイタクナイ!!』
「っ!?」
「お嬢!?」
何故だろう?考えるよりも先に体が動きだす。
『言い残す事はそれで最後ですか?では・・死ね。』
トドメを刺そうと空鬼の拳が振り下ろされ・・なかった。
『これはどういうつもりですか、カルーアちゃん?』
拳が振り下ろされなかったのは間に私が割り込んだからだった。
「少し、《悪鬼夜行》と話をさせてくれないかな。」
仮面で隠れていて分からないが空鬼の目が私の目を見ている気がする。それが数秒続き。
『・・・はぁ。・・おかしな動きをしたら即、殺りますからね?』
空鬼は2、3歩下がりこの場を私に譲ってくれた。私は倒れてる《悪鬼夜行》の前に行き、しゃがんで話しかける。
「・・ねえ《悪鬼夜行》、貴方1人でいるのが寂しいの?」
『・・。』
「私もね、以前は力ばかりを追い求めてたよ?親に愛されない苛立ちを魔物や人にぶつけて憂さ晴らししてた。」
『・・。』
「でもね、そんな日々に疲れちゃってさ、戦闘以外に何かやってみたいって思ったの。だけど戦ってばかりの私はそれ以外何も出来なくてね、どうしたらいいか悩んだの。」
『・・。』
「そんな時に私は変われるチャンスを得たの。それは私に戦い以外の事を与えてくれた。私にとって家族とも言える仲間を与えてくれた。」
『・・何ガ言イタインジャ。』
ようやく喋った《悪鬼夜行》は目の前の少女に問う。お前は儂に何が言いたい、と。
「だからさ《悪鬼夜行》。1人が嫌なら、私のところに来て家族にならない?」




