《悪鬼夜行》その十六
時は少し遡る。
『奴の名は・・。《悪鬼夜行》』
《悪鬼夜行》・・それはこのストーリーイベントのタイトルにもなっている名だ。
運営も意地悪な事をするなぁ、イベントタイトルかと思ったらそれが真のボスの名前だなんて。それともストーリーイベントって毎回こんな感じなんだろうか?
空鬼の話を信じるなら依頼を出してきた老夫婦が《悪鬼夜行》なのだろう。それに気づかずに鬼ヶ島にやって来たプレイヤーは炎鬼達と戦い討伐、最終的に空鬼がイベントの真のボスとして扱われプレイヤーが空鬼を討伐、それを老夫婦に報告してイベント終了、おそらくこれがバッドエンドだろうね。
「・・ちなみになんだけどさ、もし私が炎鬼達の誰か1人でも倒してたら空鬼はどうしてたの?」
『その場合は隣の大空洞にやって来た貴女を全力で殺しに行ってたでしょうね♪』
空鬼はにこやかな笑顔でそう言い放つ。仮面で目が見えない分その笑顔が怖いよ空鬼。
しかし、どうしようか?私が老夫婦の元に行き真実を突きつけて正体を現したところを討伐するのが無難かな?
『その必要はありませんよ。』
「・・人の考えが読めたりする?」
『いえいえ、大方このまま戻って《悪鬼夜行》を討伐しようか、なんて考えてるんだろうな〜って思っただけですよ。』
それはもう考えを読んでると言えるのでは?
『貴女がこのまま戻って戦う場合、奴は間違いなく手下の餓鬼達を呼び寄せるでしょう、それも10や20なんかではない、港町に居る餓鬼全員を。・・貴女は相手にできますか?子供達の力を借りても数の暴力とはそれだけでも脅威です。・・ですので、ここは奴から此方に来てもらいましょう。』
「来てもらうって、具体的には?」
『まず貴女は私を討伐したと嘘の報告に行ってください。あ、その際には・・(ポキッ)コレを奴に見せてくださいね?』
「ちょっ!?何でそんな簡単に角折っちゃうの!?」
『・・?(ニョキ)別に折れてもすぐに生やせますし大丈夫ですよ?』
そう言う事じゃないんだけどなぁ。
「はぁ、それで?次は何をするの?」
『次はですね・・ちょっと待っててくださいね、すぐに作りますから。』
そう言って空鬼は何やら取り出した。・・あれは、ビー玉?
『コレに術を施して・・はい、できました。使い捨てですが行き来にはコレを使ってください。』
空鬼は先程のビー玉を渡してくる。私はそれを受け取り聞いてみる。
「コレは?」
『転移アイテムですよ。青いビー玉が此処から港町の近くに、赤いビー玉が此処に戻ってくる為の物です。』
「・・すごいね。」
《転移結晶》以外の転移アイテムの生成はそれなりの手間が掛かるんだけど、それをこんなあっさり作っちゃうなんて、実は空鬼ってチートキャラなんじゃ?
『コレで向こうに行き、報告した後は此方に戻って来てください。その間に私は結界を解除しておくので霧が無くなり次第奴は此処にやって来るでしょう。それを大空洞で待ち伏せし一気に叩きます。私は霊脈の近くで戦えるなら餓鬼程度なら、こう、ヒョイっと首を落とせますし♪』
さらっと怖い事言ってるよこの鬼。でもそうか、此処でなら空鬼も参戦できるのか。
それでもやっぱり数の差はあるだろうしなぁ・・いっそチート級スキルなんだし《全ての魔物の主》補正でフルメンバーで挑めれたら良いのにな。
「・・ぁ〜・・いや、まさかね。」
思えばこっちに来てから1度もパーティ編成を開いてないな。自分の能力値を見るのはパーティ編成関係ないし、炎鬼達の能力値を確認したときも3人はチーム枠に居てパーティ編成は開いてないし。
私はパーティ編成を開いてみる。
「・・・。」
『ん?どうしましたか?』
私は指を動かす。・・すると。
「フィ?・・フィ〜♪フィ〜♪」
『おや?これまた可愛らしい子ですね?この子は貴女の?』
パーティ編成を開くと枠が空いていたので、まさかと思いながらフィオナをパーティに入れてみると私の目の前にフィオナが現れた。
「あ、ははは、・・うん、そうだよ。」
元々4人まで参加可能ってのが運営の罠なのか、それとも《全ての魔物の主》の特権なのか、これはどっちなんだろう?
まあ、今それを気にしても仕方ない、最初に選んだ子達以外も呼べるのなら利用しない手はない。
そして時は現在、私はいつもの従魔達を全員呼び出し、新たに空鬼をチーム枠に加入させ、真のボスである《悪鬼夜行》の前へと立ち塞がるのだった。
最近寒くなってきたせいか油断するとすぐに眠くなってしまう。・・いっそ冬眠して春まで寝ていたい(-_-)zzz