《悪鬼夜行》その十四
湖に現れた道を歩く事、数十分、私はようやく社に到着した・・のだが。
「入り口が、無い?」
社は一般的な神社にある社と同じぐらいの大きさだった。だが、この社、入り口どころか窓すら無いのだ。
私はどうすればいいのか考えていると突如社に入り口と思われる穴が開き・・そして。
『どうぞ、中へとお入りになってください。・・ああ、土足で構いませんからね?』
頭の中に優しい声が響く。姿は見えないがおそらくこの声の主が炎鬼達のお母さんなんだろう。私は言われた通りに社の中へと入っていく。
すると社の中は外見とは裏腹に広々とした空間になっていた。それこそ明らかに社よりも広い空間が、だ。
『さぁさぁ、そんな所に立ってないで、此方に来てお座りください。暖かいですよ。』
社の中が外見と違って広い事に周りをキョロキョロ見ていた私は奥へと向かう。・・ん?暖かい?
何が暖かいのか疑問に思ったが、それは奥へと進み、声の主が見えてきた事で理解した。・・いや、理解したと言うか見たままの事を言ってしまうと・・。
「・・こんな広い空間で炬燵、ですか?」
『安心してください、堀炬燵なので。あむ。モキュモキュ・・ゴクン。ん〜♪やっぱり炬燵で食べる蜜柑は最高ですね♪貴女も立ってないで炬燵に入って話しましょう。』
何が安心してくださいなのかは分からないけど、それじゃあ、まあ、・・失礼します。
「・・はぁ〜、あったかい。」
『暖かいですよね〜。』
何だろう、私が言うのもアレだけど何だこの光景は。聞きたい事があったはずなのになぁ。
『そういえば、まだ名前を言ってませんでしたね。私の名は《空鬼》と言います。あ、決して空腹の空ではありませんよ?空間の空と書いて空鬼です。』
「そうですか。・・私の名前はカルーアです。」
私の短い人生で炬燵に入ったまま名乗り合う日がくるなんて思わなかったよ。・・どっちも同じ空では?というのは言わないでおこう。
目の前の女性、空鬼は見た目はどこかチトセを思わせ、髪は雲の様な白髪、目の部分を仮面で隠し、角は・・。
「角が・・無い?」
『角が無い鬼は珍しいですか?』
「鬼と言えば角があるイメージですから。」
『なるほど、確かに鬼と言えば角があるのは一般的な印象ですね。でしたら・・これで如何ですか?』
そう言って空鬼はニョキっと角を生やした。・・生やせるんだその角。
『強力な力を持つ鬼は角の出し入れなんて朝飯前です。・・ですが、角が無い鬼も居るのですよ?例えばそう、餓鬼、とかですね。』
「餓鬼、ですか?」
『そう。・・この島に来る前に濃霧がありましたよね?アレは外に居る鬼を島に近づけさせない結界の役割があるのです。』
「!?」
その話を聞いて私の考えが正しいという事を理解してしまった。
「じゃあ、2人が粉になったのは・・。」
『消滅した以上、そのお二方は人に化けた餓鬼です。』
原爺と勘蔵さんが餓鬼だった。なら、あの港町は・・。
「・・空鬼は、此処から1番近い港町の事は知ってるの?」
『知っています、知っていますとも。此処から動けぬ身ではありますが、遠見の術でよく見ていました。漁業を営む漁師達、舟を造る職人達、捕れた魚を売る市場、町の人々の生活。私はそんな港町を見るのが大好きでした。・・あの鬼が現れるまでは。』
「それは、餓鬼の事?」
『いいえ、違います。餓鬼はあくまで奴の手下にすぎません。・・奴は夜な夜な港町の人達を喰らい、手下である餓鬼に喰らった人間の記憶と姿を与えその者になり替わり港町を掌握していきました。そして奴は次に、この島の霊脈に目をつけたのです。』
「それであの霧の結界を張ったんだ?」
『はい。そして奴は自分や餓鬼が島に近づけれないと分かって以降、度々こうやって貴女の様に力ある人間を騙し、送り込んでは霧の結界で進路が分からなくなり遭難を繰り返しているのです。この島に無事についたのは貴女が初めてですよ。』
「!?・・待って、じゃあ、桃太郎は?」
私の問いに空鬼は首を横に振る。
『そもそも、桃太郎という人物は最初からいません。それは奴が人を送り込む為にでっちあげた存在しない人物です。』
桃太郎が存在しない・・、ならあの依頼は、まさか・・。
「・・空鬼・・その奴って鬼の名前は?」
『奴の名は・・。』
『《悪鬼夜行》』
たまに自分が書いてるのは本当にVR MMO作品なのか疑問に思う時がある。




