《悪鬼夜行》その十
賭けに勝つために、私は雹鬼の元へ近づかないといけない。当然ながら雹鬼、それに雷鬼も私を迎撃しにくるだろう。2人の攻撃を躱しながら雹鬼の元に行くのは至難の技、だから今、この時は、カルーアではなくテキーラとして、『銀の死神』と呼ばれていた頃の私として動こう。
なに、能力値があの頃より低い事や色んなスキルが無い事は長年の感でカバーすれば良いんだよ。・・すぅ〜、・・はぁ〜、・・軽く深呼吸して全身から無駄な力をなくす。
「・・行くよ。」
ゾクッ。
『・・なに?今の悪寒、は?・・まさか、あの人間から・・なの?』
雹鬼は悪寒の原因があの金髪の人間からだとすぐに悟った。何故ならば今のあの人間の纏う気配が先程のものとは全くの別物だからだ。
例えるなら先程まではこの戦闘を何処か楽しんでいる様な気配が突如相手を確実に殺しにいく殺意の様な気配へと変わった。
・・実際はカルーアに雹鬼を殺すつもりはなくとも、この島で生まれ育ち、外の世界を知らず、戦闘も訓練で炎鬼と雷鬼としか戦った事のない雹鬼にとって、目の前に居る人間の纏う気配は殺意以外の何物でもない。
始めてその身に感じる殺意に雹鬼の弓を射る手が止まる。そしてそれは炎鬼、雷鬼も同じだった。
雷鬼は空からの強襲を止めてしまい、炎鬼はマリーの相手をしているのにカルーアの方に意識が入ってしまった。マリーはその隙を見逃さずに攻撃に移る。
「クー!マー!!」
『なっ、しまっ・・ガハッ!?・・・カハッ!・・・グハッ!!』
マリーは隙を見せた炎鬼の腹に強烈な一撃を喰らわせた後、崖の壁に投げ飛ばし、更に突進して炎鬼を壁から動けない様にした。
『・・っ!?炎兄☆!?』
雷鬼は咄嗟に炎鬼の元へと飛んで行く。その隙を見逃さず私は雹鬼の元に走り出す。
『・・馬鹿、野郎!!・・雷鬼!・・俺は大丈夫だ!それよりも、あの人間を雹鬼に近づけさせるな!!』
『っ!!・・分かった☆!!』
雷鬼は炎鬼の言葉を聞き私の方へと向きを変える。だがその時、既に私は雹鬼の近くまで接近していた。雹鬼は殺意の大元である私が自分の元へと近づいて来ている事に動揺したのか先程から通常の矢ばかりを放つ。
《猟犬氷縛》を使っていない矢など今の私が避けるのは造作もない。
矢を躱し、近づき、そして・・。
『・・くっ。』
「悪いんだけどさ、利用できる物は何でも利用するのが私だからさ・・貴女を手に入れさせてもらうね。」
『・・え?』
私は右手を雹鬼に向け、あの言葉を言う。
「テイム。」