甘い誘惑
「その・・さっきはすまなかった。・・お前達もすまなかったな。」
「いえ、少し驚いただけですから。」
「「フィ、フィ。」」
依頼主と思われるダンさんは、落ち着いたのか私達に謝罪してきた。今のダンさんはさっきまでの興奮?した様子と違って、その、失礼な言い方になるかもだけど、暗い印象だ。多分これが本来のこの人なんだろう。
「ごめんね?ダンは魔物の精巧な飴細工を作るのに命懸けてる変態だから。」
「誰が変態だ。俺はただ魔物達の姿を忠実に再現したいだけだ。」
「それを変態って言うのよ。」
へぇ、ダンさんは飴細工が得意なんだ?ちょっとどんなのか見てみたいかも。
「あの、魔物の飴細工ってどんなのか見てみてもいいですか?」
「あ。」
ん?アンさんが何かやっちゃったって顔してるけど、どうし・・あ。
「ククク。そうか!俺の作品を見たいか!良いだろう!実物のフェアリー・プリンセスを見せてもらったからな!少し待ってろ!」
そう言うとダンさんは店の奥へと目にも留まらぬ速さで消えて行った。
「あ〜、ごめんね?えっと・・。」
「カルーアです。」
「カルーアちゃんね。・・さっきもそうだけど、普段のダンは暗い奴なんだけど、スイーツ・・特に飴細工の事になると人格が変わったみたいに人が変わるから。ああなったダンは止まらないのよ。」
「そう、ですね。よくわかりました。」
「とりあえず、ダンが落ち着くまで適当な席に座ってて。あ、待ってる間何か食べる?お代はダンのポケットマネーから出させるから遠慮しなくていいわよ?」
「え、でも。」
「いいのいいの。あいつが暴走したせいでカルーアちゃんを待たせるんだから。気が引けるようなら、報酬にあった好きなスイーツの前払いだと思えばいいのよ。なんなら女の子の夢、ホールケーキ丸々1個いっちゃう?」
ホールケーキ丸々1個・・ゴクリ。・・はっ!?いやいや、流石にそれは・・。
「・・ち、小さいので、お願いします。」
「ふふ、了解。すぐに持ってくるわね。」
ああ、ホールケーキ丸々1個の誘惑には勝てなかったよ。
その後、数分もしないうちにアンさんは3号サイズ(直径約9cm)と言われる大きさのフルーツケーキを持ってきた。・・2個も。
「この子達も食べるなら1個じゃ少ないでしょ?貴女達も女の子なんだし丸々1個食べてみたいよね〜♪」
「「フィ♪フィ〜♪」」
フィオナとフィーナは早速食べようとしてるけど、2匹がフォークを持つと大きすぎて口まで運べないと思うんだけど、どう食べるんだろう?
「「フィ、フィ〜。」」
すると2匹はなんと、上品に座ったまま風魔法を器用に操り、ケーキを一口サイズに切り取ると、そのまま自分達の元に運んできた。
「・・器用な食べ方するね?」
「「フィ〜♪」」
しかも、ケーキを手で持ってるように見えるが、よく見ると手とケーキの間に風の膜を張って直接触れないように食べてる。まるでお姫様が庭園でお茶会をしているかのように。
だけどそんな光景も彼女達からしたら巨大なホールケーキを食べてるんだと思うと、台無しな気がするのは気のせいだろうか?と、思いながら私もケーキを食べ始める。
「美味しい。」