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07.モブ令嬢は因縁をつけられる。

 生徒会役員選挙当日、講堂に集まった生徒達の前に立ち、威風堂々なユーリウスの演説は完璧だった。


 次期王太子と有力視されているユーリウスは王者の貫禄が備わっており、満場一致で彼が生徒会長と成ることが承認されたのだ。

 結果は見えていた承認選挙とはいえ、この日のために書類の綴じ込みやポスター貼りを手伝ったリージアは、舞台に立ち拍手される生徒会役員達の姿に胸が熱くなり両手を胸元に当てる。



 新生徒会長ユーリウスの挨拶後生徒達は教室へ戻り、選挙管理委員の生徒と生徒会役員の生徒で講堂の片付けをしていた。


「何これっ!」


 立候補者の名前が書かれた紙を剥がそうとした女子生徒が声を上げる。

 紙に書かれたロベルトの名前に大きな×印が書かれていたのだ。


「きゃあ!」


 出入口付近の片付けをしていた女子生徒も悲鳴を上げた。彼女の悲鳴を聞き付けた男子生徒も「うわぁ」と呟く。

 壁に貼った選挙告知ポスターに、赤色のインクがベッタリとかけられていたのだ。


 他に異常は無いか片付けの手を止めて全員で調べると、他の場所に貼られていたポスターも破られていたりインクで汚されているのが発見された。

 ポスターに描かれている3人の中でも、ロベルトだけに破損は集中しており犯人の狙いは明らかだった。



 破損させられたポスターと投票結果を纏めた紙を見比べ、ユーリウスは苦笑いする。


「ロベルトだけを不信任で投票をした者が数人いたな。さすがにあの二人は信任で投票したようだが、抑えようとはしなかったか」

「彼奴等は殿下の信頼よりも、彼方を優先したということですね」

「ま、俺が副会長じゃ彼奴等としたら面白くないだろうしな~」


 嫌がらせを受けたロベルトは全く気にしない様子で笑う。


(彼奴等って? もしかして犯人は……。あー、今後犯人達の学園生活は険しいものになるだろうな)


 偶然、舞台袖でユーリウスとロベルト、書記に当選した男子の会話が聞こえたリージアは彼等の会話と一連の出来事から、犯人の目星がついてしまった。

 犯人達は恐らく“彼女のため”に動いただけで、王子様が悪巧みを企てる悪役顔でお仕置きを考えているとは思ってはいないのだろう。



 片付けと見回りを兼ねて学園内を巡回するようにユーリウスから依頼され、リージアは選挙管理委員の1年生と一緒に体育館への渡り廊下を歩いていた。


「ロッソ君、此処のポスターは無事みたいだね」

「金儲けをしようと考えないなら好きにしていいって、殿下は懐が広いですねぇ。僕だったら悪戯されたら悲しくて落ち込みますよ。殿下みたいに冷静ではいられないです」


 崇拝と尊敬で瞳を輝かせるロッソには分からなかっただろうが、ユーリウスは冷静に対応しているわけではない。

 雑用係になってから、多少だが彼の人となり、王子様の裏の顔を知って分かるようになった。

 あの冷たい笑みは、破損させた犯人達への報復を愉しく考えている顔だ。


(嫌がらせとか怖いなぁ。面倒なことに巻き込まれないよう、さっさと片付けて寮へ帰ろう)


 壁からポスターを剥がしたリージアは、バインダーに挟んだ学園案内地図にポスター回収済みのチェックを入れる。

 ポスターはあと一枚。

 先に体育館入り口へ向かったロッソを追いかけて、ポスターの場所を確認していたリージアは小走りで向かった。



「あれ? あの、何しているんですか?」


 体育館入り口でロッソが声をかけた二人の男子生徒は、体育館入り口に貼ってあるポスターを指差す。


「いや、片付けるのを手伝おうと思ってさ」

「もう必要無いだろ、コレ」

「ありがとうございます。ですが、その手に持つ赤色のペンは何ですか?」


 赤色のペンをロッソに指摘され、男子生徒の目付きが険しくなる。


「何だっていいだろう!」


 声を荒げる男子生徒の様子に不穏なものを感じ、リージアは慌ててロッソのもとへ向かった。


「ロッソ君、どうしたの?」


 小走りでやって来たリージアを見て、男子生徒はハッと目を見開いた。


「あぁ? お前、C組のリージア・マンチェストか?」


 呼び捨てにされた不快感からリージアは眉を顰めた。


「貴方達はB組の方、ですよね?」


 赤茶色の髪の男子は子爵令息と、長身で黒髪の男子は確か貿易商子息だった。

 二人はB組の中でも熱心にメリルへ媚び貢いでいる、とミレイから聞いたことがある。

 赤色のペンを持つ彼等が何をしているかなど一目瞭然だった。

 いくら気に入らなくても選挙終了した日の片付け中、こんな愚行に走るとは馬鹿なのか? と、問いたくなる。


 胸元に手を当てて制服の上から首から下げている魔石を握る。


「で、お前はリージア・マンチェストなんだな?」

「あの、いきなり呼び捨ては、良くないと思いますよ」

「殿下に取り入った性悪女など、礼儀なんか必要無い!」

「ひっ」


 怒鳴り付けられたロッソは恐怖心から体を揺らした。


「はぁ? 性悪?」

「お前が先生を味方につけてメリルちゃんを陥れたせいで、この前メリルちゃんは泣いていたんだよ」

「ロベルトよりもお前の方がめちゃくちゃメリルちゃんを傷付けたんだ。メリルちゃんに謝れよ!」


 男子生徒達は唾を飛ばしながら次々にとリージアを責め立てる。

 自分へ向けられる敵意に思わずリージアは後退った。

 

「メリルちゃん? この方達は一体何ですか?」


 恐怖で震えるロッソの問いにリージアは首を横に振る。


「普通じゃないことは確かね」


 チラリと周囲を見渡すが、辺りに人影は無く助けは期待出来そうになかった。

 体育館は校舎から少し離れた場所にあるため、叫んだとしても校舎へ声は届かない。


「ロッソ君、私のことはいいから職員室へ走って!」

「リージアさんっ?!」


 驚いた顔をするロッソの背を強く押す。


「早く行って!」

「は、はいっ!」


 走り出したロッソを追い掛けようと動いた子息令息の進路を塞ぐように立つ。

 学園内では魔法は使えないように術式が組み込まれている。

 ロッソが職員室へ駆け込み、教師を連れてくるまでの時間を稼がねばならない。


(やってやろうじゃないの!)


 覚悟を決めたリージアは、腕に抱えていたポスターとバインダーを放り投げた。



「はっ! 何するつもりだ?」


 子爵令息が今にも噛み付かんばかりにリージアを睨む。

 話が通じない相手から明確な敵意を向けられるのは怖い。

 怖いけれども、騎士団に所属している次兄が怒った時の方が数倍怖い。


(お兄様のプリンを食べたのがバレた時は大変だったな。お尻百叩きの刑をやられたし)


 普段は温厚でも、怒ると悪鬼か破壊神へと変貌する次兄が大剣を片手に長兄と死闘を繰り広げた時の姿を思い出すと、目の前で拳を握り威嚇している男子生徒など可愛いものだ。


「話し合いをしたいと思いまして」


 恐怖を抱くことなく、冷静なリージアを貿易商子息は訝しげに見る。


「話し合い? お前はメリルちゃんを傷付けたことを謝るのか?」

「いいえ。貴方方がメリルさんに何を言われたかは分かりませんが、彼女に謝らなければならない理由は分かりかねます」

「殿下から雑用係を依頼されたからって調子に乗り、メリルちゃんの手伝いを必要無いと冷たく断ったんだろうが!」

「手伝い? メリルさんは力ずくでポスターを奪いに来ましたよ。シュバルツ先生や学園長先生もメリルさんの発言を聞いていらっしゃいました。私も性悪扱いされるのは嫌ですし、先生方にお願いして話をしていただきますね」


 B組の生徒達にメリルはどんな話を伝えているのか。

 子爵令息は彼女を盲信しているどころじゃない、異常だと感じた。

 リージアの背中を嫌な汗が流れ落ちる。


「お前は学園長まで丸め込んだのか! メリルちゃんの言う通り性悪な女だなっ!」

「丸め込んだも何も、私は事実を話しているだけで」

「だまれっ!!」


 怒りで顔を真っ赤に染めた子爵令息は勢い良く腕を振り上げた。


 バンッ! カランッ


「つっ」


 拳が振り下ろされる瞬間、後ろへ飛び退いたリージアの顔面すれすれを拳が掠め、眼鏡が地面へ転がる。


「おい! それはさすがに不味いだろっ!」


 追撃しようと腕を振るう、子爵令息の肩を貿易商子息が押さえる。


「かまわないさ! 女は顔に傷が付けば、ショックのあまり退学するんだろう!」


 地面へ落ちた眼鏡を拾っている余裕は無いようだ。

 次兄仕込みの体術で応戦しようとリージアは身構えた。



「ごるぁー!!」

「ぶはっ?!」


 雄叫びが響いた瞬間、後ろからやって来た赤色の塊の跳び蹴りが直撃した子爵令息は、リージアの脇をすり抜けて吹っ飛んでいった。


 突然のことに何が起こったのか理解が追い付いていかず、口と目を大きく開いたリージアは、地面に倒れ伏して気絶する子爵令息と鼻息を荒くする赤色の塊を見詰めた。


ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

ランキングにはいっていて、びっくりしました。ありがとうございます。


タブレット新しくしたのですが文字入力に時間がかかり、作業が大変です。誤字が多いかも……

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― 新着の感想 ―
[一言] タブレットで文字入力が大変ならタブレット用のキーボード用意するのも手じゃないかな?
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