31.モブ令嬢は“ヒロイン”を断罪する
ヒロインとモブの対決①
昏睡状態だったユーリウスが意識を取り戻した翌日。
学園から連れて来られ取り調べを受けていた、制服姿のまま両手に手枷と魔力封じの首輪を付けられたシャルロットは、四方を石の壁に囲まれた面会室の椅子に座っていた。
ガチャリ、扉が開き入室した面会者の姿を確認すると、空色の瞳を揺らしたシャルロットは音を立てて椅子から立ち上がった。
「イザーク様ぁっ!」
壁際に立つ兵が動こうするが、イザークの鋭い視線で動きを止める。
「シャルロットが捕らえられたと聞いて驚いたよ。大変だったな」
労いの言葉をかけられて、シャルロットはくしゃりと顔を歪めた。大きな空色の瞳は涙で潤み出し、イザークを見上げた。
小刻みに震えるシャルロットの肩へ、労わるようにイザークは手を置いた。
「わ、私は何もしていないのに罪人の扱いをされて……イザーク様、私はユーリウス様を害することなどしていません。信じてください」
瞳を涙で潤ませたシャルロットはイザークの胸元へ体を擦り寄せる。
両手首の枷が無ければ彼女はイザークへ縋りついていただろう。
震えるシャルロットは、無力でか弱い女子生徒にしか見えず、イザークは目を細める。
「ああ。それを確かめるために此処に来たんだ。無罪が証明されれば君は此処から出ることが出来る。何があったのか教えて欲しい」
「あの時は、突然ユーリウス様が苦しまれて……私も何が起きたのか分からないのです」
目を伏せたシャルロットは首を横に振る。首を振った拍子に伏せた瞳から涙が零れ落ちた。
「成程。もう一つ知りたいことがあるんだ」
シャルロットの 肩へ置いていたイザークの手が下がり、強い力で彼女の二の腕を掴んだ。
豹変したイザークの態度に驚きシャルロットは目を見開く。
「お前は何者だ」
「イザーク様? どうしたのですか?」
耳元へ唇を近付けて言われた、低く冷たい声と鋭い刃のようなイザークの雰囲気に怯え、シャルロットはビクリッと体を揺らした。
キィ……軋んだ音とともに面会室の扉が開く。
黒い覆面で顔を隠した暗部の青年に続いて、落ち着いた濃紺色のジャケットを羽織ったリージアが異様な雰囲気の部屋へ足を踏み入れた。
「あぁっ!? アンタは!?」
スキル抑制の髪飾りとピアスを外しているリージアが入室した瞬間、面会室に施されている魔力封じの魔法陣が解けていく。
驚愕の表情を浮かべたシャルロットの全身から、強大な魔力が吹き出し渦巻き始めた。
「あった。此処だ、リージア」
驚くシャルロットの胸元へ手を伸ばしたイザークの口角が上がる。
ブラウスの合わせを片手で掴み、一気に引っ張り上げた。
ブチブチッ、ビリィ!
派手な音を立ててブラウスは破れ、弾けた釦が飛んでいき床を転がる。
「ちょっ、何する、の!?」
破けたブラウスの胸元、シャルロットの胸の間から覗き見えたのは、心臓の真上の肌に深々と埋まっている紫紺色の玉。
静物のはずの玉は、心臓の鼓動に合わせて脈打つ。
顔を歪めたシャルロットは身を引こうとするが、それよりも早くリージアが紫紺色の玉へ向けて手を伸ばした。
「くっ」
指先が玉へ触れた瞬間、強い魔力抵抗と静電気のような痛みがリージアの体を駆け巡る。
痛みを堪えてなおも触れれば、魔力を無効化され輝きを失っていく玉の表面に亀裂が入り、蜘蛛の巣状に亀裂は全体へ広がっていった。
顔色から血の気が失せていくシャルロットの様子から、異変を感じ取ったイザークは後方へ飛ぶ。
ビキビキ、バリーン!
甲高い破裂音が響き、玉は粉々に砕け散った。
粉々に砕け散った玉の欠片から紫色の煙が吹き出し、動きを止めたシャルロットを包み込んでいく。
煙がシャルロットを包み込んだのは僅か数秒ほどの時間。
煙が消えていき現れた彼女の姿を見て、リージアは息をのんだ。
「え、あ……?」
突然のことに混乱するリージアの口からは意味のある言葉が出てこない。
何故、どうして? という疑問が思考を占めていく。
何故ならば、紫色の煙が消えた後、姿を現したのは此処には居るはずの無い人物だったから。
「貴女は、どうして?」
「やはり、そういうことか」
混乱するリージアとは違い、冷静な眼差しでイザークは目前の彼女を見下ろす。
つい先ほどまでシャルロットだった彼女は、憎悪の炎が宿った眼でイザークを通り越してリージアだけを睨みつけていた。
「魔道具の力をその身に受け入れ、シャルロットに成りすまして学園に潜伏していたとは。大した女だな、メリル・ウルスラ」
数か月前、自分の可愛らしさを最大限に利用して男子達を手玉に取った“ヒロイン”。
姿は同じでも、かつて学園をかき乱していたメリルと同一人物とは思えないほど、目前に立つ彼女は憎悪で歪んだ顔をしていた。
明確な殺意を放つメリルの視線から隠すように、イザークはリージアの前へ立つ。
「どうして、ですって? シナリオを元に戻すために決まっているじゃない」
ハッと小馬鹿にしたようにメリルは鼻で嗤う。
「シャルロットの性格と選択肢を思い出して、私を見下してくるムカつく女子達とやけに清廉潔白で悪役とは思えない王女にも話を合わせて、シャルロットの受け答えを思い出しながら慎重にシナリオを進めていたのよ。今度は、今度こそ上手くいくはずだったのに! ユーリウスとイザークも好感度は高くなっていたはずなのにぃ! 今度こそハッピーエンドになれそうだったのにぃ!」
魔道具がはめ込まれていた部位、空洞と化した胸元へ手を当てたメリルの声は感情の高ぶりと共に叫び声となっていた。
「好感度が高くなっていた、だと? 好感度など高いわけ無いだろう。俺もユーリウスも、お前に対する好感度などゼロどころかマイナスだ。“ヒロイン”の役はとうに終わっているのに現実を受け入れず、男を利用して再びヒロインを演じようとする、高慢で恐ろしい女など好きになるわけないだろう」
「じゃあ何で私に優しくしたのよぉ!!」
メリルの絶叫に混じった魔力が部屋の空気を振動させる。
「違和感しかないシャルロットの正体を暴くため、に決まっているだろう。ハッキリ言ってお前が演じていたシャルロットは外見だけなら良いが、言動は全て俺の好みじゃない。俺は他者を利用し媚びを売ってくる計算高い恐ろしい女より、地味でも一生懸命でお人好しな女の子が好きだ。正体を探る目的と、イザベラが関わっていなければお前などには近寄りたくもなかった」
「なっ」
可愛い女子に甘く自分を翻弄する小悪魔なタイプが好き、という設定のイザークから全否定されたメリルは絶句する。
「辛辣……」
偽りだったとしても優しくしてくれていた王子様の一人から、破れたオブラートにすら包まず直球で「お前は嫌いだ」と告げられるのは、少しばかりメリルが気の毒に思えてリージアは口元を手で覆った。
「お前がメリル本人ということまでは考えていなかったが、メリルと繋がりがあるのではないかと予測していた。ユーリウスか俺が気のある素振りをすれば、必ず何かしらの動きを見せると思っていた。メリルと繋がりがある女なら、リージアを貶めようと動くことも想定はしていたが、まさかユーリウスを害するとは大馬鹿だな」
唇を噛んだメリルは淡々と話すイザークを通り越し、彼が背に隠しているリージアを睨んだ。
シャルロットの正体はメリルでした。
長くなったので次話に続きます。
誤字脱字報告ありがとうございますm(_ _)m




