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11.モブ令嬢は生誕祭に参加する

生誕祭が始まりました。

 国王の生誕祭は、建国祭、新年祭と並び王都中が華やぐ特別な一日。


 王都の各広場には出店が並び、この日ばかりは人々は朝から公共の場でも酒を飲み、踊って過ごすことが許されていた。

 普段は一般人の立ち入りは制限されている宮廷前の広場が一般人に開放され、広場入り口で入念な持ち物検査を受け、武器の不所持を確認された一般人の入場が許可される。


「国王陛下万歳!!」

「おめでとうございます!!」


 宮廷前広場を見下ろすテラスの脇から正装姿の国王が現れると、広場に集った人々から歓声が上がる。

 国王の後ろには王妃、側妃、王子と王女、王弟という王族が勢揃いする光景は有名な画家の描いた絵画のよう。

 夢の中にいるような気分で、王族達の隙間からリージアはテラスに立つユーリウスを見詰めていた。

 まだ王子の婚約者段階のリージアは国王の側に立つことは出来ない。

 去年はテラスに立つ姿を広場から見上げていた、年齢を感じさせない若々しい国王とユーリウスの凛々しい姿。今はまだ王族と並ぶことは出来なくても、後ろ姿を見られるとは感慨深く、反面、自分だけひどく場違いな気分になる。


(眩しいくらいキラキラした、完璧な王子様ね)


 国王が広場に集まった群衆へ向けて日頃の謝辞が伝えられ、広間に集まった大群衆から歓声が上がる。

 国王の横で輝く王子様の笑みを振り撒くユーリウスは、近くに居るのに遠い存在に感じられてリージアは眉尻を下げてしまった。


「そろそろお時間でございます」


 護衛騎士に声をかけられ、振り向く前に素早く目元を拭う。

 側妃エルシアと共に来賓の歓迎をする役目を担っていた。国王よりも先に貴賓室へ向かわなければならない。

 第一王子の婚約者という仮面を貼り付けリージアは、歓声が止まないテラスを一度だけ振り返りエルシアの後ろに続いてテラスを後にした。



 貴賓室へ着き、王妃教育の一環だと言われ必死で記憶した来賓名を検索しながらエルシアの隣でリージアは歓迎の台詞を口にする。


(あの方々は……)


 来賓達の中でも華やかな一団に気付き、視線を動かして確認する。

 学園で顔を合わせたことがある公爵と侯爵家の令嬢達。彼女達からリージアへ向けられる視線には、嫉妬が混じった明らかな敵意が込められていた。


(A組の皆様と卒業生の方々か。私の立ち振舞いで少しでも欠点を見付けようとしているのね。後で嗤って攻撃するために)


 溜息を吐きたくなる気持ちをグッと堪えて、張り付けた微笑みで敵意に満ちた視線をやり過ごす。

 彼女達が睨んでこようとも、王妃代理を務める側妃エルシアと他の有力貴族婦人達が側に居る場で第一王子の婚約者リージアに大っぴらに嫌味を言うことは出来ないのだ。今は淡々と与えられた役目をこなせばいい。



 精神力を削られる接待を終え、部屋へ戻ったのは日がだいぶ傾いた頃だった。

 侍女達に世話されながら夕刻前に舞踏会用のユーリウスから贈られたドレスへ着替える。

 学園の寮や王都の屋敷とは違い、王宮内に用意された部屋は豪華で広々し過ぎて落ち着かずドレッサーに映るリージアは、強張った表情を崩そうと唇を動かそうと何度も試みるが、作った笑みはぎこちないものとなり更に気持ちが沈んでいく。


「第一王子殿下がいらっしゃいました」


 目蓋を閉じてこの後の流れを思い起こしていたリージアは、侍女の声で弾かれたように顔を上げる。


「リージア」

「ユーリウス様」


 舞踏会用の正装に着替えたユーリウスは、顔を上げたリージアと視線が合うとくしゃりと微笑んだ。

 輝かしい外向きの王子様の笑みではなく自然な笑み。ユーリウスから名前を呼ばれただけで、体の強張りはゆるみ緊張と不安でがんじがらめになっていた心がほどけていく。


「綺麗だ」

「ありがとうございます」


 溢れ出そうになる涙を堪えて微笑む。

 伸ばされたユーリウスの指先が労わる様に目元へ触れる。それだけでこの後の展開が怖くて、此処から逃げだしたくなっていた気持ちが和らいでいくのを感じた。


「何もされていないな? 叔母上が一緒とはいえ、何かされないか心配だった」


 腰を曲げてユーリウスはリージアの顔を覗き込む。


「大丈夫です。来賓の方々に失礼なことをしていないか不安ですけれど」

「叔母上から、しっかり役目を果たしてくれたと聞いている。あと少しだけ頑張ってくれ」


 額に一瞬だけあたたかくてやわらかいものが触れた感触がして、何をされたのか理解出来ずリージアは目を瞬かせた。


「もう、行かなければ。父上達がお待ちだ」


 呆然としているリージアの腰へ手を添え、ユーリウスはリージアを促す。今のは何か、考える猶予すら与えられずにリージアは扉へ向かって歩き出した。




 国内外の来賓が参加する舞踏会の会場は、王国の権威を象徴した豪華絢爛な広大なホール。

 ホールへは赤い絨毯が敷かれた通路を歩き、国王と王妃に続いて第一王子が入場するのだ。因みに第二王子と王女は、まだデビュタント前のため舞踏会には不参加だった。

 婚約者だとしても並んで入場するわけにはいかないと、一歩後ろへ下がり歩みを遅らせたリージアの動きに気付いたユーリウスの腕が腰へ回されて、素早く彼の横へ引き戻されてしまった。

 後ろを歩く護衛達が息をのんだ気配が伝わってくる。

 慣例に従い、あの王妃でさえ国王から一歩下がって歩いたのだ。次期王太子と目されている第一王子と婚約者の伯爵令嬢が並んで歩くのは異例だと言える。離して欲しいと視線で訴えても、ユーリウスの腕は腰から離れずリージアを解放してはくれない。


「ユーリウス様、やはり、こんなにくっついて、並んで入場するのは、」

「俺がリージアと並んで入場したいのだから、離れるのは駄目だ。文句を言う者は、黙らせるから安心していろ」


 黙らせればいいという事ではない。反論したくてもホール近くの通路、衛兵が並ぶ場で言うのはためらう。


「緊張するならば、もっと寄りかかって歩けばいい」

「そんなっ」


 無理だと言いたいのに、腰へ添えられたユーリウスの手は一際大きくて頼もしく感じられ、本音は離れてほしくない。彼の手のひらから伝わる温もりが今にも震えだしそうな体を支えてくれているのと、唯一頼ることが出来る相手は彼だというのも事実。



「第一王子ユーリウス殿下、御入来! リージア・マンチェスト伯爵令嬢、御入来!」


 入場を告げる侍従の声がホール中に響き、大扉が開かれる。

 ユーリウスの隣に並んで登場したリージアの姿に、ホール内に静かなざわめきが広がる。

 婚約者とはいえ伯爵令嬢が王子の隣に立っているのだ、当然の反応といえる。王妃でさえ公式な場では国王の半歩後ろに立つのだから。


(うぅ、こ、怖いよっ)


 奇異な物を見るような数百の視線に恐怖を抱き、リージアの指先が冷たくなっていく。

 腰に添えていた手を動かし震える背中を撫で下ろしたユーリウスは、表情を消してホール内を見下ろす。

 圧を込めた視線を向けられた人々は閉口し、一斉に頭を垂れた。

 人々を黙らせたユーリウスは、リージアを支えながら階段を降り玉座へ座る国王と王妃の元へ歩みを進める。

 震える足では足元が不安定で、ユーリウスにしがみつくリージアに彼は愉しそうに笑う。その笑みに令嬢達はパートナーの存在を忘れ、頬を染めて婚約者を気遣う王子へ熱い眼差しを送っていた。


 玉座までの赤絨毯を歩くユーリウスを愉快そうに口角を上げて見下ろす国王と、苦虫を嚙み潰したような顔でリージアを睨む王妃の元へ向かう。


 玉座までの階段を上がり国王と王妃、エルシアへ頭を下げ、リージアは後ろを振り向く。


(うわぁ! 圧巻の光景だわぁ)


 国内でも高位の貴族や隣国の王族達、数百名もの着飾った貴人達が集っているホールを見渡して気が遠くなりかけた。




いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

華やかな描写は苦手なため、後程手直しするかもしれません。

次話も生誕祭の続きです。


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