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04.モブ令嬢は雑用係に任命される。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 眩しいばかりの王子様の微笑み。

 絵面だけ見れば、前世で見たキラキラ王子様のスチルと酷似しているのだが、ユーリウスから逆らいがたい圧力を感じたリージアの体が緊張で強張る。

 生徒会室から逃げ出したくとも扉は閉められてしまった。扉の前にはロベルトもいる。


 呼び出しの用件も聞かず退室などしたら、「不敬だ」と罰する力をユーリウスは持っているのだ。どう頑張っても逃げ出せない。


「殿下はリージアといつ知り合ったんですか?」


 能天気なロベルトの声が、生徒会室の雰囲気を和らげる。


「一昨日、偶然会ったんだ。その一昨日の事で、リージア嬢に話があってね」


 顔色を悪くするリージアを見詰め、ユーリウスは目を細めて笑う。


「あの後、痛みが酷くなってきてシュバルツ先生に診てもらったんだ」


 ユーリウスの隣に座る、彼と同じ色の髪を肩口で一括りして眼鏡をかけた教師、シュバルツが立ち上がった。


「ユーリウス殿下の診察結果は……左脇腹の打撲と左の肋骨2本の亀裂骨折だった。回復魔法で既に完治してはいるがな」

「打撲、骨折……」


 思った以上の大怪我をユーリウスに負わせていたと知り、一気に全身から血の気が引いていく。


「故意では無いとはいえ、王子に怪我を負わせた罪は重い。リージア・マンチェスト、君は王族への暴行容疑で捕縛され、しかるべき刑罰を与えられるだろう」

「うそ……」


 淡々とシュバルツから言われて、リージアの思考は真っ白になっていく。両足から力が抜けていき足元から崩れかける。

 タンッ、円卓に手をついて転倒だけは免れた。


「で、殿下っ」


 崩れたリージアに狼狽え、支えようと手を伸ばすロベルトをユーリウスは片手で制止する。


「だが、 一昨日のことは私の油断が招いた事態でもある。不問に附すことも可能だ。……君が、私の提示する条件を受け入れるならば」

「条件、ですか?」


 緩慢な動きで顔を上げたリージアへ、ユーリウスは大きく頷いた。


「近々、生徒会長選出選挙があるのは知っているな? 今は生徒会の執務と合わせて選出の準備を、現生徒会長と共に執務を行っている。選出後も、2ヶ月後にある学園祭の準備があり、とにかく人手が足りていない。リージア嬢、君には生徒会の雑務を手伝ってもらう」

「えぇっ?! 私が生徒会のお手伝い、ですか……?」


 驚きのあまり口を開いて数秒間固まってしまった。

 隣国の王子と暗殺者以外の攻略対象者は生徒会に関わりがあるのだ。

 中でも、ユーリウスの近くに居るのはヒロインとの遭遇以外に、女子生徒達の妬みを買う危険がある。

 此処、生徒会室は他の攻略対象者も訪れる、学園内でも一番危険な場所じゃないか。


「あくまでも頼むのは雑務だ。表には君の名前は出さない」

「ロベルト君に頼むとかはどうですか?」

「肉体労働ならともかく、ロベルトに細かい作業を任せられない」

「確かに、俺には出来ないな」


 ロベルトは歯を見せて苦笑いする。

 ゲームの記憶では、細かい作業が苦手なロベルトは正式な生徒会メンバーに入れてもらえず、荷物運びや肉体労働を手伝っていた。


「で、では、A組かB組の他の人に頼んでください。私よりも優れた方はいらっしゃいます」

「A組は公爵家以上の貴族か、成績は優秀でもエリート意識の強い勘違いする者達ばかりだ。私から手伝いを依頼されたとなれば、本人だけでなく親までもが勘違いするだろう。B組はクラスの状態が悪すぎて頼めない」

「でもっ」


 何か断る材料はないかと、視線をさ迷わせているとシュバルツと目が合う。


「リージア、君がクラスの雑務を嫌な顔一つせず引き受けていると担任の先生から聞いている。真面目で丁寧にやってくれて助かっている、とも」

「買いかぶりすぎます」


 首を横に振るリージアを無表情で見ていたユーリウスはため息を吐いた。


「手伝いは出来ないと断るならば、仕方がないな。やはり、私への暴行容疑で処罰するしかないか。マンチェスト伯爵家も罰を与えられる」

「それだけは許してくださいっ!」


 ゲーム中で聞いたことのある冷たい声で告げられ、リージアは悲鳴を上げかけた。

 小刻みに震えだすリージアへ、ユーリウスは輝く王子様の笑みとは真逆の、悪役がする嘲笑に似たどす黒い闇に染まった笑みを浮かべた。


「では、引き受けてくれるのだな」

「雑用係、慎んでお受けします」


 涙で歪む視界の中、満足そうなユーリウスに向かってリージアは恭しく頭を下げた。




 ***




 拒否権の無い雑用係に任命され、茫然自失状態で寮へ戻ったリージアをメイド達は事情を聞くこともなく、そっとしておいてくれた。

 メイド達のあたたかい眼差しから何か勘違いされている気もしたが、訂正する余裕はなくベッドで丸くなり今後の展開はどうなるのかという不安から、リージアは頭を抱え枕を濡らした。

 成績容姿全て目立たず、誰とも波風をたてずに過ごしてきた一年間の努力が無駄になったのだ。


(私の一年間の努力は何だったの? こうなるのなら、普通に過ごしていた方が良かったんじゃないの?)


 悶々と考え続けても答えは浮かばない。

 結局、朝方まで寝付けなかった。




 睡眠不足のせいか、鈍く痛む頭を抱えて登校したリージアを、満面の笑みを浮かべた担任教師が出迎えた。


「おはよう! シュバルツ先生から聞いたぞ。生徒会の雑用係を任されたんだってなー! C組から生徒会メンバーが選ばれるとは、私も嬉しいよ!」


 担任教師の大声が教室内に響き渡り、クラスメイト達の視線がリージアに集中する。


「まぁっリージアさんが生徒会に?!」

「ユーリウス殿下と御近づきになれるなんて羨ましいわぁ~」

「殿下とお話したの?」


 クラスの中でも目立つ女子達に囲まれ、リージアはひきつりそうになる口元を何とか笑みの形にする。


「特に、楽しい会話はしていません。昨日は、一人黙々と書類整理や印刷物の枚数を数えて、寮に戻るのが遅くなってしまい夕食時間に間に合わなかったんですよ。寮でも書類の添削をしていたから睡眠不足だし」


 生徒会室から持ち出した大量のファイルを入れて、抱えるように持ってきたトートバックを見せれば、女子達は明らかに意気消沈した反応を見せた。


「ユーリウス殿下の情報があったら教えてね」

「好きな物とか、放課後や休日のご予定とか分かったら絶対に教えて!」

「好きな女の子のタイプも聞き出して!」


 鼻息を荒くした女子達はユーリウス殿下推しなのかと、リージアは内心冷や汗を流す。

 ユーリウス殿下は学生の攻略対象者の中で、唯一婚約者がいない。

 幼い頃はとある侯爵令嬢と婚約していたのだが、学園入学前に貴族内の権力争いに巻き込まれ亡くなったと、ゲーム内で彼自身が語っていた。


(政略に巻き込まれるのならば婚約者は自分で決める、だっけ。学園内の女子生徒全員にチャンスがあるから、みんな頑張っているんだな。でも、これって下手したら女子全員を敵に回すかもしれない……)


 ギラギラとした目付きとなった女子達の迫力に圧倒され、リージアは生徒会の雑用係になったことを早くも後悔するのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 実際の所 ただの伯爵なら兎も角、わざわざ子息を王都に送る辺境伯を敵に回す決断は王子の一存で下す場合、 状況が悪くなったら(場合によっては情報が伝わる次第、大局が見えないを理由に)大体は王子が…
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