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  王子様は婚約者のことになると豹変するらしい②

王子様視点の続きです。

可愛い可愛いと、残念な思考となっています。

 生徒会長室の扉がノックされ、控えていた護衛騎士が扉を開く。

 可愛らしい小箱を持った第一王子付き補佐官が「失礼します」と頭を下げて入室した。


「ヨーゼフか」

「殿下、本日の回収品です」


 黒髪を後ろへ撫で付けて補佐官の制服をきっちり着用したヨーゼフは、持っていた小箱をソファー前のテーブルへ置く。

 テーブルへ置かれた箱だけを見たら、見た目は白いリボンで飾られた女子が喜びそうな贈り物。


「こちらは今朝連絡ロッカーに入っていた趣味の良い贈り物と、先ほど入れられたばかりの情熱的な恋文です。恋文に仕込まれていた剃刀は取っておきました」


 説明付きで小箱の横へ開封済みの白い封筒を置く。

 小箱のリボンを手解き蓋を開けて片眉を上げたユーリウスは、封筒へ手を伸ばし中に入っている紙を取り出し開くと苦笑いをした。

 封筒に入れられていたのは、真っ赤なインクで「調子に乗るな」と一行書かれた便箋一枚。


「ふん、剃刀入りの手紙にミミズと昆虫の死骸入りの贈り物か。なかなか陰湿で凝っているな」

「実技授業中、教室へ忍び込み教科書を破ろうとした女子生徒もいましたが、直前でガルシア殿が阻止して未遂に終わりました。シュバルツ殿下が主犯の女子生徒を指導し謹慎処分となっています。その後、シュバルツ殿下の聞き取りにより彼女を含んだ女子生徒三名が贈り物を作成したと、A組女子生徒数人から命令されて行ったいうことが分かりました。恋文は調査中です」


 腕組みしたユーリウスは、A組に所属していることを鼻にかけて高飛車な態度をとる貴族令嬢達の顔を思い浮かべる。

 ミンティア・サンジェスのように、正面からリージアに食ってかかるような真似はしないのは流石だが、やる事が陰湿で不快だった。


「あの女達なら姑息なことをやるだろうな。で、叔父上は何と?」

「どのような処罰を与えるかは、ユーリウス殿下に任せるとおっしゃっています」

「そうか」


 ユーリウスの声の冷たさに気付いた補佐官は表情を強張らせる。


「殿下。どうか、冷静な対応をお願いします」

「分かっている。私も国王生誕祭前に、国を混乱させるのは避けたい」


 嫌がらせを企てた女子達は伯爵家以上の貴族、父親は国政に関わる役職の者や祖父は元老院議員という者もいた。

 娘や孫を罰すると父親や祖父に対して監督不行き届きだと責を問うことになり、確実な証拠を押さえなければ王家と貴族間に軋轢が生じる。

 愚かな女子達は、自分達の行動が一族の今後を左右するということを理解していない。

 言い逃れできない証拠を掴み、制裁は生誕祭後に与えるとして……


「混乱は避けたいが、リージアを軽んじられるのは許せない」


 制裁までいかなくとも生徒会長、クラスメイトの一線を越えないぎりぎりのところで圧力をかけ女子達を牽制することは簡単だ。

 だが、それではリージアの耳に入り確実に叱られる。叱られないように、周囲を黙らせる方法は無いか。

 考え込むユーリウスは視線を巡らせ、執務机上に置いた試作品の硝子の小瓶に目を止める。


「ヨーゼフ、マンチェスト伯爵領から取り寄せた化粧品と装飾品は、ご婦人方に好評のようだな」

「はい。殿下の見立て通りメサイア侯爵夫人が上手く広報してくださいました。マンチェスト伯爵家へ直接購入したいと、連絡を入れるご婦人もいるとか」

「中間業者を通さず販売はしない、としているのにご苦労なことだ。好評ならば、王都に直営店が出来たら喜んで利用してくれるだろう」


 ユーリウスの言わんとしていることを察知したヨーゼフは、ジャケットの内ポケットから黒い手帳を取り出す。


「直ぐに、立地条件の良い数店舗を押さえておきます」

「ふっ、伝令を飛ばして義父上と義兄上に相談しなければならないな」

「手配します」


 ジャケットの内ポケットに手帳を仕舞ったヨーゼフは手を胸に当てて頭を垂れた。


「して、オルファン。平民は休日に恋人と街を散策、デートをするのだろう?」

「は?」


 話を振られるとは思っていなかった護衛騎士は間の抜けた声を上げた。


「今度の休日はマーガレット嬢と観劇デートするんだと、ロベルトが楽しそうに話していた。劇場やレストランではなく、第一王子が婚約者と平民の格好をして街中でデートを楽しんでいたら、新聞社へ話題の提供が出来るだろうな」

「「殿下?」」


 ほぼ同時に声をかけたヨーゼフとオルファンの驚く顔が愉快で、ユーリウスは喉を鳴らして笑う。

 ソファーから立ち上がり、執務机の引き出しから公務日程が書かれた分厚い手帳を取り出す。


「殿下、まさかとは思いますが……」


 パタンッ、音を立ててユーリウスは手帳を閉じる。


「義兄上が王都へ来る今週末、一日自由に動けるように調整出来るな?」

「っ、……はい」


 若干顔色を悪くしたヨーゼフは、数秒の間をおいてから力なく頷いた。


「強引だと思うか?」

「そうですね。リージア嬢の意思は無視ですから」


 遠慮なく言ってくれるヨーゼフにユーリウスは口角を上げた。

 補佐官としての能力もそうだが、自分を諫めてくれる者を欲して乳母の息子で乳兄弟でもあるヨーゼフを補佐官に選んだのだ。


「殿下が強引に事を進めたせいで立場の変化に戸惑っていらっしゃるのに、更に追い込んでどうするのですか」

「リージアが可愛いのだから仕方ないだろう。それに、今のうちにしっかりと固めておかなければならない」


 強固な結界で護られている学園に在籍しているうちは王妃も手を出せない。

 学生でいるうちに、次期王太子はユーリウスだと国王(ちちおや)に認めさせる必要があった。

 

「全てが恋心に支配されてはいないと分かって安心しました。調整はお任せください」


 感情を切り替えたヨーゼフは、週末の時間確保のために脳内で予定を組み立てていた。




 ***



 

 週末、良家の子息という風を装いユーリウスはリージアが週末過ごしている屋敷を訪ねた。

 因みにこの屋敷は、王都での滞在時は借家を利用していたマンチェスト伯爵家のために国王が用意した王家所有の別邸で、王都を見渡せる高台に建っている。


 屋敷のエントランスホールへ向かってくる軽い足音が聞こえ、顔を上げたユーリウスは目と口を開けて停止してしまった。


(……可愛い)


 普段はほとんど化粧をしなくてもリージアは可愛いが、彼女の可愛いらしさを引き立てるような化粧と、シフォン素材のワンピースは動く度にウエスト部分のリボンとスカートの裾が揺れる様に見とれた。


 不安そうに長いまつげを揺らすリージアに「可愛い」と告げるだけで精一杯だった。

 街中を歩くのではなく、今すぐ二人きりになりたい。

 今すぐ抱き締めて髪から香る甘酸っぱい香りを堪能したい。

 恥ずかしそうに色づく肌に触れたい。彼女と密着したい。

 湧き上がる欲望は口には出す前に飲み込む。


 馬車へ乗り込んだユーリウスは、我慢出来ずリージアと密着して座り彼女と指を絡ませて繋ぐ。

 互いの腕と脚が密着する距離の近さに、戸惑うリージアに気が付かない振りをして彼女の香りを楽しんでいた。


「リージアの好みが知りたい。雑貨屋に行くぞ」


 噂好きの若い女性が多いと予想して入った雑貨屋は複数の香りで満ちており、もう足を踏み入れることはないと思った。

 目論見通り、学園内で見たことがある女子数人にも目撃され、声を出して笑いそうになった。


「ありがとうございます」


 硝子玉とリボンが付いた髪飾りを付けてやれば、リージアは照れ交じりにはにかむ。


「どうした?」

「今まで家族以外の男性から贈り物をされたことがなかったので、ユーリウス様から贈り物をされる度に嬉しくて、つい顔がにやけちゃうんです」


 満面の笑みでリージアは答える。

 僅かに目を見開いたユーリウスは目を細めて繋いだ手の指に力をこめた。

 家族以外で贈り物を贈ったのは自分だけだ。

 その事実と向けられた笑顔の破壊力で頭の血管が切れるかと思った。

 今すぐ路地裏へ連れて行き、さくらんぼのような可愛い唇に口付けたい。


 王宮の自室へ連れて帰りたくなる衝動に駆られるが、


『暴走して無体を働けば嫌われます。嫌われたくなければ理性を失わないでくださいね』


何度も釘をさしてきたヨーゼフの顔と、言葉が脳内で再生され、ギリギリのところで踏みとどまる。


「コットンカフェのオススメのメニューはなんだ?」

「カフェも行くのですか?」

「リージアが好きな物を、友人と出かけた時にどんな物を好んで食べているのか知りたい」


 驚いたリージアは隣を歩くユーリウスを見上げた。

 まるで、口付けを請うているように見えてしまい、気合で抑えた欲求が揺らぐ。

 欲求を捩じ伏せて不埒な感情を感じさせないよう、慎重に手を繋ぎ歩道を歩いていると、街路樹の影から此方を探る素人ではない視線を感じたユーリウスは、リージアに気付かれないようにほくそ笑んだ。




(うっ、これはまたキツイな)


 コットンカフェは店名を裏切らず、店内はデザート系の甘い香りと女性客の香水の香りが混じる甘ったるい匂いで充満していて、眩暈がしてきた。

 事前予約させておいたテラス席へ出て、ユーリウスは息を吐く。

 元より生クリームやケーキは苦手だった。リージアがいなければ、女性客が多いカフェへ入ろうとも考えなかった。

 苦手な物が売りのカフェへ入ったのはある目的のため。


「食べさせてくれ」


 密かにロベルトが愛読している流行りの恋愛小説(学生鞄から勝手に拝借した)によると、互いに夢中で熱々な恋人達はスプーンですくえるデザートを食べさせあうらしい。

「あーん、は?」と照れながらリージアに食べさせて欲しい。

 逆に恥ずかしがるリージアの口を開けさせて食べさせたい。

 小さな口を小動物のように動かして食べるリージアを愛でていたい。


「ユーリ、あーんして?」


 ほんのり頬を染めたリージアが生クリーム付きのバナナをユーリウスの口元まで運ぶ。


(ぐっ!!)


 一瞬、心臓が止まった気がした。

 食べさせるのに程よい量を考えているのか、真剣な顔でパフェのアイスクリームをすくっているリージアが可愛すぎて、この後のことなど本気でどうでも良くなってくる。


 パフェを食べさせあう幸せに浸っていた時、通りを挟んだ反対側から何かが光る。

 離れた場所に待機させている護衛騎士の動く気配で、ユーリウスはもう一つの目的を思い出した。


 途中で吐き出しそうになりながらも何とかパフェを完食し、コットンカフェを出て購入したばかりの店舗へ向かった。


「お兄様?!」


 兄達との思いがけない再会に驚くリージアへ「デートに集中してくれないだろう?」と、もっともらしい理由を述べる。

 本当はデートのことで思考が埋め尽くされ、義兄達のことなど忘れていたのだが。


 繋いだ手を放そうとするリージアの耳元へ唇を近づけ、低い声で「駄目だ」と囁く。

 びくり、と肩を揺らした彼女の耳元から顔を離す際、わざと耳朶を掠めていくように唇を動かす。



 店舗の具体的な内装を決めた頃、外はすっかり夕暮れに染まっていた。

 疲れたのだろう、馬車へ乗り込んですぐにリージアはユーリウスの方に凭れ掛かり眠ってしまった。

 少し幼い無防備な寝顔もまた可愛い。


「店は生誕祭に合わせて開店させる。リージアがドレスと装飾品を身に着ければ宣伝にもなるだろう」


 にやけかけた口元を誤魔化すため、向かいに座るアレックスへ真面目な話を振る。


「成程。この数時間で殿下が本気でリージアを想ってくださっていることがよく分かりました。しかし、重過ぎる恋心は怖がられるだけですよ。妹を追い詰めるような真似だけはして欲しくありません。お節介ながら、逃げ道を完全に塞ぐまではその執着心は隠しておいた方がいいでしょうね。あと、妹を見てデレデレしているのがバレバレです」

「なっ」

「こう見えても私は殿下よりも十は年上ですから」


 あくまでもアレックスは柔和な雰囲気を崩さずにこりと微笑む。


「もしも、殿下がリージアを泣かすようなことがあれば、すぐに領地へ連れ戻します」


 外見と口調は穏やかなアレックスは、立場も性格も全く違うだろう学園の教師をする酔狂な叔父に似ている。

 穏やかな口調の奥に逆らい難い妙な圧を感じ、逆らうのは得策ではないとユーリウスは素直に頷いた。



新聞の一件は確信犯でした。


いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

見落としが多くてすみません。

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