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02.モブ令嬢は王子様に膝蹴りを入れる。

本日二話目の更新です。頑張ってみました、

説明回の続きです。


 入学式翌日から、リージアの気の抜けない学園生活が始まった。


 前世のリージアは、地味で冴えない中学時代を払拭しようと高校デビューを目指し、勉強以上に自分磨きを頑張った。

 ファッション雑誌を読み漁り、眉の形を整えたり流行りの服を買い、雑貨屋で買ったパステル色やラメ入りのお洒落小物を身に付け、アイドルが出演するドラマはチェックし、スクールカースト上位の友人と話題を合わせようと努力していた。そんな記憶がある。

 まさか今世は、真逆の努力を重ねる事になるとは。

 つい、遠い目をしてしまう。


 触れると魔法を無効化してしまう無属性の魔力は、魔力制御の魔石をはめ込んだ眼鏡とピアスによって抑制し周囲に知られないようにした。

 制服は手を加えず、スカート丈も規則通りの長さ。

 先ずは、困った時に庇ってもらえるように教師受けを良くする。


 放課後に黒板を綺麗にしたり、チョークの補充やノートを配る手伝いを率先して行い、担任教師の信頼を得ることに成功した。

 友人関係は、休み時間に読書をしていた子爵令嬢と商家の子女と本の話題から仲良くなれた。

 学期末筆記試験ではちょっとした計算ミスで答えを間違い、試合形式の実技も睨まれると面倒な相手には分からない程度に手を抜き負けるようにした結果、成績は可もなく不可もない真ん中あたり。

 クラスの中心生徒達、特に高位貴族令嬢グループからは無害だと認定され程よい距離感を保ち、何事も無く一年生を終えることが出来た。


 二年生のクラスは、学年末の筆記と実技試験結果で決まる。

 学年末休業日の間、マンチェスト伯爵家へ帰省していたリージア宛に届いた試験結果を見て、努力が報われたと高笑いしたくなった。

 成績判定は“C”。二年生は目論見通りC組になった。




 そして、二年生へ進級した初日。

 新しい教室の指定席の位置を確認して、卒倒しそうになった。


「俺はロベルト・ガルシムだ。一年間よろしくな!」

「リージア・マンチェストです。よろしくお願いします」


 差し出された手を反射的に握ると、ロベルトは白い歯を見せて笑う。

 接触を避けたかった攻略対象、騎士団長子息ロベルトと同じクラスの隣の席になってしまったのは誤算だったが、明るく少々脳筋なロベルトとの会話は気楽で、一年生の時よりも楽しく過ごせそうだと思えた。



「ねえ知ってる? B組に編入生が来るって」


 二年生に進級して一月後、ついに迎えたヒロインが編入する日。

 学年中、彼女の話題で持ちきりとなり落ち着かない雰囲気に満ちていた。


「編入生は光属性持ちなんですって」

「さっき職員室前で見かけたけど女子で、凄い可愛い子だったよ」

「休み時間に挨拶しにいこうよ」


 友達に誘われたリージアは休み時間になると、編入生を一目見ようと人だかりが出来ているB組前へ向かった。


(ゲームでヒロインは自分のことを「平凡な私」と評していたけど、すごい可愛いじゃないの!)


 話題の編入生は、腰までの長いピンク色の髪、空色のアーモンド形の瞳、健康的な肌をした美少女。

 遠目からヒロインを見て、ゲーム画面だと違和感はあまり無かった彼女の色合いは、現実にするとやたらと目立つと感じた。

 パステルカラーな色合いで目立つ上に、これだけ可愛い顔をしていたら高スペックの攻略対象者達から気にかけられるわけだと、納得した。

 ヒロインの編入クラスはC組ではなくB組、魔術師団長子息マルセルと宰相子息ルーファウスと同じクラス。

 因みに彼等が何故B組なのかは、剣技体術の実技が苦手だったからだと情報通の友人が教えてくれた。

 同じクラスで無い分ヒロインとの接点は生じず、リージアはホッと胸を撫で下ろす。


 年度途中の編入、それも珍しい光属性持ちのヒロインは可愛らしい容姿と明るい性格で直ぐにB組に打ち解けたらしい。

 半年前まで、平民として生活していたという親しみやすさと天真爛漫な振る舞いに平民の生徒達は好感を抱き、貴族令嬢達は良く言えば人懐っこく物怖じしない、悪く言えば図々しく無遠慮な言動に眉を顰めていた。


 編入当初は明るいと思えたヒロインだったが、男女で態度が違うことや、婚約者がいようと実家が裕福な家の男子や貴族子息にも馴れ馴れしく、徐々にクラスの女子達と溝が出来ていく。

 クラスの女子達との対立が決定的と成ったのは、B組の学級委員の女子と提出課題の件で言い争いとなってからだ。

 以降、編入当初は好意的なものが多かったヒロインの評価は徐々に下がっていく。


 編入から二月も経つと、ヒロインは魔術師団長子息マルセルと親しげに談笑する姿を見せるようになった。


「ティアーヌ様、よろしいのですか?」

「よくはありません。ですが、何を言ってもメリル嬢には通じないのです。親切心からメリル嬢を注意したら、マルセル様から叱られてしまいました。もう、どうしたら良いのか」


 涙を浮かべた伯爵令嬢は下を向く。

 貴族令嬢としての矜持で怒りを堪えられても、学園内で婚約者が自分以外の女の子と仲良くしていたら、それも編入してきた平民上がりの男爵令嬢が相手では面白くは無いのは当然だろう。


(編入生はメリルって名前なのね。彼女、順調に敵を増やしているな。ゲームのヒロインは、こんな裏表のある性格をしていたかしら?)


 放課後になると婚約者のいる男子と二人で出掛けている、公園で恋人のように寄り添っていたのだと、カフェで男子にケーキをねだっていたと、女子生徒達の噂話は続く。

 マルセルの婚約者である伯爵令嬢が涙を浮かべ話しているのを聞き、リージアは内心首を傾げる。


(編入して二ヶ月でマルセルの好感度を上げたの? 二人っきりでデートするには時期が早くない?)


 マルセル以外、婚約者がいてもお構いなしにクラスの貴族子息と親しくするだけでなく、ユーリウス殿下に近付こうとしているヒロインは女子達の反感を買っているらしい。

 非常識な振る舞いだと話す女子達に不穏な空気を感じつつ、リージアは蚊帳の外の話だと完全に油断しきっていた。




 放課後、借りていた本を返却しようと中庭の端を歩き図書館へ向かっていたリージアは、植え込みの隙間から夕陽に反射して輝く何かを見付けた。


(何かしら?)


 肩ほどの高さがある植え込みの方へ歩み寄った時、木の根のような物に靴の先が触れる。


 ガッ! バタンッ!


「きゃっ、とっと!」

「ぐあっ!!」


 何かに足をとられ体勢を崩したリージアは、そのままの勢いで寝転んでいた誰かの顔面目掛けて転倒した。

 偶然にも全体重をかけたリージアの膝が脇腹に入り、ミシッという鈍い音が聞こえる。

 寝転がっていた男子生徒は体を跳ねさせ悲鳴を上げた。


「す、すみませんっ、ああぁっ?!」


 転倒し地面に強か打ち付けた鼻を押さえ立ち上がり、脇腹を押さえて呻く人物を確認したリージアは、驚愕のあまり目と口を大きく開けた。


「もっ申し訳ありませんっ!」


 鼻を打ち付けた痛みなど一気に吹き飛んだ。

 瞬時に正座をして地面へ額を擦り付ける。


「お前っ、いきなり、なんなんだっ」


 痛みに呻いていた男子生徒は脇腹を押さえ、緩慢な動きで起き上がった。

 汗だくの額に貼り付いた金髪が夕陽を反射して朱金色に輝く。


「申し訳ありません殿下! これはその、事故なんです」


 苦痛の表情を浮かべ土下座をするリージアを見下ろす男子生徒はこの国の王子、ユーリウス・ルブランだった。

 王子が何故此処で寝ていたとか、取り巻きは何処にいるのかとか疑問は浮かぶが、リージアの背中を冷たい汗が滑り落ちていく。


「本当に本当に本当に、申し訳ありませんでした!」

「いや、もう謝罪はいい。こんな場所で息抜きをしていた私も悪かった」


 土下座で謝るリージアに若干引きつつ、ユーリウスは生徒集会で見せる完璧な王子様の笑みを浮かべ身を屈めた。

 差し伸べられた手を反射的にリージアが掴むと、軽い力で引き上げて立ち上がらす。


「名前は?」

「へっ?」

「君の名前は、何というのだ?」


 命じることに慣れた声色で問われ、心臓が大きく跳ねる。早くユーリウスから逃げ出したいのに、繋いだままの手は離れてくれない。

 コクリ、唾を飲み込み震える唇を開いた。


「リージア・マンチェストでございます」


「マンチェスト? ああ、マンチェスト伯爵令嬢か」


 デビュタントの舞踏会の日は寝付いて参加していないのに、何故リージアのことを知っているのか。


「何故……」

「マンチェスト伯爵家の次男は騎士団に、三男は三年生に在籍しているだろう。それと、ロベルトが話していた。今時珍しいくらい地味な子と友達になった、と」


 ぽかんと口を開けているリージアの顔を、彼女より頭一つ分以上背の高いユーリウスは見下ろす。


「だが、そこまで地味には見えないな」


 見詰められハッとなった。片手で顔を触って、ようやく眼鏡が無いと気付く。


(眼鏡はどこっ?! あ、あった)


 周囲を見渡して、少し離れた植え込みの根本に転がっているのを見付け安堵した。



「ユーリウス殿下~!」


 どうしようかと視線をさ迷わせていると、中庭に響き渡るくらいの大声でユーリウスの名前を呼ぶ女子の声が聞こえ、リージアはビクッと肩を揺らした。


「チッ」


 頭上からの舌打ちの音に驚いて顔を上げれば、眉間に皺を寄せたユーリウスが険しい表情で中庭の方を見ていた。


(あ、この表情見たことある。確か、好感度が大幅に下がった時の顔)


 険しい表情は直ぐに消え、ユーリウスはやわらかな笑みをリージアへ向ける。


「隠蔽魔法は解けてしまったか。……リージア嬢、失礼するよ」


 リージアが口を開く前に繋いでいた手を離し、ユーリウスは植え込みの間から中庭へ出て行った。



「あー! ユーリウス殿下! 此処にいらっしゃったのですね~」


 鼻にかかった甘ったるい声はどこかで聞いたことがある。

 しかし、今のリージアには、誰の声なのか考える余裕は無かった。


(どうしよう。一番危険な人物に名前を知られて顔を覚えられちゃった)


 攻略対象者の中でも一番権力と影響力を持つ王子様。

 絶対に関わらないと、彼の出没場所には近寄らないようにしていたのに。

 この先、イベントに巻き込まれてしまったら家族や領民にまで迷惑がかかるかもしれない。


「どうしよう……」


 頭を抱えたリージアは、周囲が薄暗くなるまで立ち尽くしていた。


ヒロインと王子様登場。


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