閑話.男子達の葛藤
短いです。
深刻な表情で生徒会室を訪れたマーガレットは、ロベルトが不在なのを確認してからおもむろに口を開いた。
「最近、ロベルト様は考え込むことが多くて心配しております。殿下はロベルト様が何を思い、悩まれているのかをご存じでしょうか?」
「ロベルトが思い悩むことだと?」
楽観的なロベルトが思い悩む姿も理由も浮かばない。
あるとしたら、副生徒会長の仕事だが、不満を抱けば遠慮なくユーリウスに言うはずだ。それ以外の理由があるとしたら、問題視している編入生絡みか。
嫌な予感にユーリウスのこめかみが痛みだす。
理由が分かったら伝えることをマーガレットに約束した翌日、A組とC組合同で行った剣技の授業中の模擬試合でロベルトと対戦したユーリウスは、幼馴染みの変化に気付いた。
夕食を済ませ、高位貴族専用寮のロビーで寛いでいたロベルトへ声をかける。
「今日の試合はお前らしくなかったな。どうかしたのか?」
剣技の技術面ではユーリウスの方が上。体力と攻撃力はロベルトの方が上のため、二人の対戦成績はほぼ五分五分。
しかし、今日の試合中は明らかにロベルトは集中出来ておらず、隙をついたユーリウスが勝利した。
「あー、最近困っていることがあってな」
椅子の背凭れにもたれ掛かり、ロベルトは大きな息を吐き天を仰いだ。
「困っていること?」
ユーリウスは怪訝げに問い返す。
「困っているというか、悩みっていうか」
膝の上に両手を置いたロベルトは、もじもじと体を小刻みに揺らす。
「ロベルトでも悩むことがあるのか?」
「俺でも少しは悩むって。最近、気になって仕方無いことがあるんだ」
上目使いに見てくるロベルトに引きつつ、ユーリウスは「何が?」と続きを促す。
「隣の席のリージアが、可愛いんだよ」
「は?」
頬をほんのり赤らめて告白したロベルトは、恥ずかしそうに視線を逸らす。
僅かに目を開いてユーリウスの動きが止まる。
「隣の鍛練場に女子がいると思ったら集中出来なくてさ。俺にはマーガレットがいるのに、リージアは友達なのにってさ。地味かと思っていた女子が、実は眼鏡外したら可愛いとかありそうであまり無いことだろ? 今日だって授業中に欠伸して、それを俺に見られたのを恥ずかしがって顔を赤くしていたのが可愛くてさぁ。口に人差し指を当てて「見たの内緒ね」ってなんだよ。可愛すぎだろっ」
両手で顔を覆い身悶えだすロベルトとは対照的に、ユーリウスの気分は急降下していく。
折角、気にかけてやったというのに悩み事の理由はそんなものかという呆れた気持ちと、マーガレットに何と伝えればいいのか困る。
さらに、可愛いと言う意見には同意する、リージアとの親しげなやり取りは聞いてて気分が悪い。
ぐっと目を閉じ、ユーリウスはゆっくり目蓋を開いた。
「ロベルト」
顔を覆い悶え続けているロベルトの額を片手でわし掴みして、ユーリウスは無理矢理彼の顔を上げさせる。
「鍛練場へ行くぞ」
この下降した気分を上昇されるためには、ロベルトを打ち負かして発散するしかない。
「今からか?!」
すでに日没の時間を過ぎ、下校の時刻も過ぎている。学園は施錠されており鍛練場は使えない。さらに、外は夜の帳が下りてきていた。
「ああ」
驚くロベルトの脇へ腕を差し入れ、無理矢理立ち上がらせる。
「校門と鍛練場の鍵は持っている。今から倒れる寸前まで鍛練をすれば、余計なことを考えずに寝られるだろう?」
クツリと喉を鳴らし、口角を吊り上げるユーリウスの圧力に屈する形で頷いたロベルトは、日付が変わるまで鍛練場から解放されなかったという。
翌日、鎖と南京錠で施錠された鍛練場入り口扉には、“修理中、使用不可”と書かれた大きな貼り紙が貼られていた。
王子様視点に入れようとしてカットした、ロベルトの悩み事です。
眼鏡女子のギャップに悶える少年。




