魔法でぽっちゃりにされた女騎士は今日も唐揚げが止まらない
ぽっちゃりに包まれたい…………
怪しい色をした薬品が立ち込める不気味な部屋。そしていかにもな魔女と大きな鏡。魔女は鏡に向かってしわがれた声で問い掛けた……。
「鏡よ鏡よ鏡さん……世界で一番美しいのは……だぁれ?」
――ポッチャリーナです!――
「…………は?」
――アヘール王国の女騎士隊に所属するスタイル抜群の歌って踊れるメチャカワアイドルです! ファーストアルバムはミリオンセールスで写真集は重版に次ぐ重版! その美貌は……
──メキィ……
「こんっの腐れ鏡めぇぇ……!!」
魔女は割れた鏡の破片に映し出されたポッチャリーナを見て、悪巧みを講じる顔付きをした。
「ヒヒヒ……ならばその美貌を滅茶苦茶にしてやるわいのぅ」
その日、ポッチャリーナは不思議と寝起きが良かった。しかしすぐにその異変に気が付いた。
「服がきっつい!!」
見ればパジャマは今にも張り裂けそうな程にパンパンに膨らんでおり、あしらわれている可愛らしい白猫のキャラクターはドブネズミの様な顔付きに歪み微笑んでいる。
「キツくてボタン取れない!!」
限界まで膨らんだパジャマのボタンは既に余力が無く、ポッチャリーナは仕方なくボタンの糸を裁ち切りパジャマを脱ぐことにした。
「一体何!? 成長期は終わったはずよ!?」
しかしそれが成長では無いことは露わになった素肌を見てすぐに確信した。
「私……太ってるわぁぁぁぁ!!!!」
鶏鳴と共に朝食の支度をしていた義理の弟であるフトメスキーは、ポッチャリーナの悲鳴を聞き付け部屋へと突入する!
「姉さんどうしたの!? って誰ぇぇぇぇ!?!?!?!?」
フトメスキーは変わり果てた姉の姿を一目見て驚くと共に……喜びの声をあげた。
「やっっっった!!!! 僕ずっと姉さんはぽっちゃりしてた方が素敵だって思ってたから、天に願いが通じたんだ!!」
「いやいやいや、冷静に考えてヤバいわよ。この体型は女騎士としてダメでしょう?」
試すまでも無く、部屋の隅に置かれた出撃様の鎧は既に装備することが出来ない位にポッチャリーナはぽっちゃりしてしまった。
「……パンツも凄い肉に食い込んでるよ?」
「!? 見ないでぇぇぇぇ!!!!」
ポッチャリーナは恥ずかしさの余り頬を染めるも時既に遅し。ポッチャリーナは自分の持ち合わせの服を手当たり次第試したが、その全てが小さく着ることが叶わない。
「僕のワイシャツでも着てなよ。それなら多少は女騎士らしいでしょ?」
「ぐぬぬ……」
ギリギリ着ることが出来たフトメスキーのワイシャツだが、腕の自由が余り効かず少々苦しい。
「とりあえず朝ご飯出来たよ。それ食べて戻り方考えようよ」
差し出された穀物と焼き魚。スタイリッシュな体型を維持するためのいつも通りのメニューなのだが、その日のポッチャリーナはそれだけでは満足出来なかった。
「……あれは?」
キッチンに見える、箱に入った謎の茶色い塊。ポッチャリーナな何故かそれがとても魅力的に見えた。
「唐揚げだよ? 昨日鶏肉沢山貰ったから作ってみたんだ♪」
「……欲しい」
「えっ!? 姉さん肉は昔から食べないって……」
「分からないけど今は何故か無性に食べたいの……」
「オーケー!!」
フトメスキーは唐揚げを皿に盛り、ポッチャリーナの目の前に置いた。そこから先は急勾配の下り坂を転がるかの如く、下へと向かうのみだった!
「んほぉぉぉぉ!!!!」
お手製の唐揚げをこれでもかと言わんばかりに口いっぱいに頬張りアヘり散らすポッチャリーナ。口の中は唐揚げ100%で満たされており閉じることが出来ない!
「ククク……唐揚げの魔力に堕ちたね?」
「何故か唐揚げしゅきにゃのぉぉぉぉ!!!!」
「あーあーあー……酷い顔して食べちゃってさ……可愛いなぁ♪」
「止まらない!! 止まらないにょょょょ!!!!」
「……マヨ付ける?」
「マヨォォォォ!?!?!?」
──ブジュブジュ!!
「かけて!! もっとマヨかけてぇぇぇぇ!!」
マヨネーズが山盛り唐揚げの上から恵みの雨として降り注ぎ、ポッチャリーナは更なる幸福にほぼイきかける!
──ブジュブジュブジュブジュ!!!!
しかしその恵みの雨はスコールとなり唐揚げを容赦無く飲み込んでゆく!!
「もうかけないでぇ!! マヨかけないでぇぇぇぇ!!!!」
「唐揚げが見えなくなっちゃ……った」
黄海に飲み込まれた唐揚げをスプーンで掬い取り、ポッチャリーナの口に近付ける。ポッチャリーナは抗う事無く溺れる唐揚げを助けるかの如く口の中へと導いた。
──モグ……
「どう?」
「んほぉぉぉぉ!!!! カロリーきちゃうぅぅぅぅ!!!!」
ポッチャリーナは我を忘れ素手でマヨに埋もれた唐揚げを毟り取る様に食べ漁る!
そして次第にワイシャツが悲鳴をあげ始めた…………。
「おかわりする?」
「くだしゃい!!」
「はいはい♪」
フトメスキーは箱ごと唐揚げを持ち上げる。が……
「あっ……」
フトメスキーが躓いた拍子に唐揚げが全て宙を舞う。
「いけない! 唐揚げが落ちちゃう!!」
ポッチャリーナは素早く唐揚げを口で受け取り、全てを咀嚼した! そして床に転がり仰向けでモグモグと幸せを噛み締めた……。
「カロリーには勝てなかったよ…………」
そして、見事に破けたワイシャツは女騎士としての終わりを物語っていた―――
「姉さん唐揚げ出来たよ!!」
「んほぉぉぉぉ!!!! 唐揚げしゅきぃぃぃぃ!!!!」
楽屋でポッチャリーナは心おきなく唐揚げを食べている。歌って踊れて太れるアイドルとして何故か再び成功を収めたポッチャリーナに、もう歯止めは効かない。ステージでの運動量を軽く補うレベルを超え、ポッチャリーナは今日も唐揚げが止まらない…………。
読んで頂きましてありがとうございました(*'ω'*)