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第二話 かんたん玉子雑炊

 さて、私の家はというといわゆる裏浅草と呼ばれる場所にある。

 表も裏もなかろうと思うんだけど、まぁ昔から言われているらしい。浅草寺が表、その裏っかわにあるから裏浅草。家が立ち並び商店街もある。ちょっと観光名所とは一風変わった場所だ。


「……本当に人間?」


 まだ疑っているらしい重成くんに対して、からかうように振り返ってこんっと鳴いて見せたら、ものすごくビビった。猫とか犬が驚いた時みたいに垂直に跳んだ。ていうか、意外に元気がある?


「さて、ここですよっと」


 家についてぽかんと口を開けて見上げているその姿にふふっと笑いながら、私は家の鍵を取り出して開けた。昔ながらの引き戸。からからっと音がして玄関。左右にドアがふたつある。

 靴を脱いでくるっと身をひるがえして揃えていると、重成くんも同じように靴をそろえた。右手側のドアをがちゃっと開けると、洋室。ここは通路も兼ねているので物はそんなに置いていない。きょろきょろと部屋の中を見ている重成くんを先導するように、また先にあるドアを開ける。開けた先は今度は本物の廊下で、その先にはすりガラスが嵌まったドア。ここがリビング。


「はい、進んで進んで」


 テーブルに四つ並んだ椅子のうちのひとつを引いて座るように促すと、重成くんはすとんと座っておとなしくしている。きっといいとこの出だな。それか擦れていないか。


「とりあえず簡単に出来るものにするよ。ちょっと待っててね」


「あ、はい!」


 良いお返事だな。実家にいる弟を思い出す。

 とりあえず小分けにして冷凍しておいたごはんをレンジであっためている間に、電気ポットでお湯を沸かす。買い置きの玉子スープがあったはずなのでそれを準備して、大きめのお椀をセット。


「あちち」


 あたためたての冷凍ごはんは何でこんなに熱いのか。ラップからころんと転がして、その上にフリーズドライされた固形の玉子スープの素を乗っけてお湯をそそぐ。浅草六区のまるごとにっぽんという名のデパートの中で一目ぼれをした一目ぼれした木のスプーンで、ごはんをほぐしながらかき混ぜるとふわんといい香りがしてくる。これだけだと塩っけが足りないので少しお塩を足せば簡単玉子雑炊の出来上がり。

 飲んで帰ってきた夜の一杯にはたまらないお味である。


「はい、どうぞ」


「え、これ」


(そで)()り合うも他生(たしょう)(えん)てね。おなか空いてるんでしょう? はやく食べなよ」


 にっこりと笑ってみせれば、少し警戒を解いたのか、重成くんはごはんに手を合わせていただきますと呟いた。うーん。やっぱりそこかしこに若者っぽくない部分が見えるなぁ。

 とりあえず緑茶のティーパックを取り出して急須に入れた後、沸いた電気ポットからお湯を注いではぐはぐと一生懸命ごはんを食べている彼を観察してみる。

 髪も服もそこまで汚れている感じは受けない。清潔にしている。手は武骨だけど傷は見えない。さっぱりとした顔立ちをしていて、好青年。なんであんなにお腹を空かせてうずくまっていたのか、ますます気になってきた。


「ごちそうさまでした」


 両手を合わせてご飯の食べ終わりの挨拶をする。うんうん。食べ物に感謝するのはいいことだ。


「お粗末様(そまつさま)でした」


 はい、と準備していた緑茶を差し出すと、重成くんは深々と私に頭を下げた。


「すいません。何から何まで」


「私が好きでやってることなので気にしなくていいよー。でも、腹ぺこであそこにいた理由は気になるから、いやじゃなかったら教えてほしいな」


 にこっと笑ってみせると、重成くんはぽつりぽつりと事のあらましを話し始めてくれたのだった。


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