実は可愛いものが好きです。モフモフはもっと好きです。
ポッポはあたしがやらかした魔法の痕を片付けてからパトロールしに行くと飛んでいった。一人でランニングしようとしたら、料理人のおじさんがおやつとお茶をくれた。おやつ…甘いんだろうな。うちの特産は砂糖キビ的な作物。樹蜜は高級品だからわざと甘くしてるんだろうが…あたしは甘さ控えめの方が好きなんだよなぁ。
おじさんは好意でくれたんだろうから、笑顔で受け取った。水筒のお茶は正直ありがたかった。
乗馬服はかなり運動しやすい作りになっている。馬に乗る練習もしなきゃ。ユーリフィアンの知識があっても、上手く使えるとはかぎらない。特にこの………立派な膨らみ。走るたびにたゆんたゆんと揺れるのだ。すげー違和感あるわぁ。
一時間ほど走り、森の切り株に座って水分補給しようと水筒のお茶を飲んで、盛大にむせた。お茶まであっっまいとか、マジないわ!
「そうだ、錬金釜!」
蜜と茶を分離できないだろうか。というわけでやってみた。なんと、出来た。しかも、蜜は砂糖になっていた。しかも瓶詰め。なんと気が利く錬金釜か!
「なら、これも!?」
お茶に溶けた樹蜜を分離できるなら、焼き菓子の樹蜜も分離できるに違いない!さらに、砂糖は金平糖にしてみた。マジ便利だな!
焼き菓子はマフィンになり、できたてホカホカである。甘味もほどよく、おいしい。お茶はヒンヤリ冷えていて、うまい。
「はぁぁ、幸せ……」
「きゅ………」
茶と緑のリスっぽいナニかと目があった。よだれを垂らしている。
「……………いるか?」
半分に割って、リスっぽいナニかに差し出す。左右を見てから自分を指差すので頷いた。どうやら言葉が通じるらしい。
「きゅ!きゅうぅ………」
マフィンと同サイズなのに、奴はマフィン半分を食べきった。よく食ったな!
「きゅ…………」
なんか増えた。あたしはリスっぽいナニかに包囲されてしまった。奴らはよだれを垂らしている。あたしが喰われる!?いや、もっと美味しいもんがあるよな!仕方がないので、金平糖をあげた。瓶は開けらんないかもしれないからあけて、一つだけ口にいれて食べ物だとアピールする。
「んまいぞ、やる」
「きゅ!きゅうう!!」
「きゅうう!!」
「きゅうう!!」
リスっぽいナニかは金平糖で満足したらしい。金平糖に夢中な隙に逃亡しようとした…が、回り込まれた!
「きゃう!」
「きゅうう!」
リスっぽいナニかは果物を沢山持ってきた。金平糖の礼ってことかな?リスっぽいナニかはなかなか礼儀正しいようだ。
「あ、えーと…虹色の花、知らね?果物よりそっちがいいんだけど」
「きゅ!」
「きゅうう!!」
いっぱい種をくれた。虹色の不思議な種だが、全て同じものだ。
「これ、虹色の花が咲くのか?」
「きゅ!」
頷いている。咲くらしい。まさかの棚ぼたゲット!!
「ありがとな!」
リスっぽいナニかを一匹一匹撫でた。こいつら、獣臭くないのな。花っぽい匂いがする。
「きゅっ、きゅきゅ♪」
「きゅっ、きゅきゅ♪」
「きゅきゅ♪」
リスっぽいナニか達は一斉に踊り出した。ナニコレ、きゃわゆい。やべぇ!リスっぽいモフモフがお尻フリフリして踊るとか、やべぇ!かっっわいい!!
「ぎゅううい!」
しかし、幸せは長く続かなかった。巨大なリスっぽいナニかが来たせいで、ちっこいリスっぽいナニか達が一斉にいなくなってしまった。ちなみに小さいリスっぽいナニかは手のひらサイズから兎ぐらい。巨大なやつは熊サイズだ。
「……………なんか用?」
「ぎゅ!?」
「あたし、小さいモフモフと戯れていたのに、お前のせいで居なくなっちゃったじゃん!」
「ぎゅう……」
あ、なんか巨大なリスっぽい奴が泣きだした。いやいや、騙されてはいかん。巨大なリスっぽいナニかはちっこい奴らが逃げたときにドヤ顔していた!嫌なやつだ!
「ぎゅうううう!!」
「……………メンタル弱っ!」
泣きながらでっかいリスっぽいナニかは走り去った。何故か罪悪感…。
「きゅっ♪」
「きゅうっ♪」
「きゅきゅ♪」
いつの間にか戻ってきた小さなリスっぽいナニかを眺めていると、変わった色の小さなリスっぽいナニかが来た。あ、こいつ最初にマフィン半分食べたやつだ。
「きゅきゅきゅ、きゅう!」
「……………ん?」
何かを訴えているのだが、よくわからない。そして、リスっぽいナニかが一生懸命ジェスチャーで伝えようとしているのがまた可愛い。
「可愛いな~、お前!うちの子になるか?」
「きゅ!きゅうきゅう!」
思わず抱っこしてスリスリしたら、めっちゃ頷いてた。
「…マジ?」
「きゅう!(こくり!)」
「いや、マジで?」
「きゅう!(こくこく!)」
マジか。この手のひらサイズの可愛いリスっぽいナニかがウチの子に…。
「じゃあ、名前つけなきゃな。樹とかどうかな?」
柔らかく、樹が輝いた。
「うん、気に入ったできゅ。よろしきゅね、マスター」
「……………うん?」
樹が喋ってる!?
「ボク、いっぱいがんばるできゅ!」
「う、うん。よろしきゅね?」
うっかり樹の口調がうつったが、無理もない。意味がわからんもん。
「ぎゅうううう!!お前!抜けがけするとか最悪だぎゅう!」
「きゅう!」
「きゅう!」
「きゅう!」
「早い者勝ちなのできゅ!マスター、逃げるできゅ!」
「ええええ!?」
でかくなった樹に乗っけられ、一時間かけて走った道をあっという間に戻ってしまった。
「おや、素晴らしい」
「ポッポ…」
ポッポはあたしの頭の上が気に入ったのか、頭の上に着陸した。
「そちらは緑の精霊…かなり上位なようですね」
リスっぽい樹に確認した。
「そうなの?」
「そうできゅよ」
マジか!人語を理解したり、喋ってる時点でおかしいと思ってたけど、マジか!!
「精霊がいれば、優音様の魔力コントロールがザルでも精霊がどうにかしてくれます!やりましたね!」
「………そうなの?」
「そうできゅよ」
マジか!ということは、今すぐ特効薬が量産できる?
「えっと、この種を増やして薬を沢山作りたいんだ」
「わかりましたっきゅ」
両手から種が溢れこぼれた。つまり、もらった種が両手からこぼれるほどに増えた。ナニソレ、どゆこと?
「………ま、いっか。花がいるから、花にしてくれる?」
「お任せっきゅ!」
「ポッポ、手伝って~」
錬金釜にタップリ花を入れ、特効薬に。残りはドライフラワーにしてくれた。なんと説明書付き!効力は落ちず、長期保存ができるんだって。
「……… 錬金釜はここまで汎用性のあるスキルではないはずなのですが…」
ポッポがひきつっている気がした。
え?うちの錬金釜、なんかおかしいの?便利だからいいじゃん!
「樹のおかげで薬がたくさん作れたよ。ありがとな!」
「マスターのお役に立てて嬉しいできゅ!」
うわあ、可愛い!可愛くて健気とか、マジ可愛い!!樹はまた手のひらサイズになって、撫でるあたしの手にスリスリしてくる。フカフカで可愛い。
「あの調合難易度が高い治療薬を千本作ってもケロッとしているなんて、優音様の魔力はどうなって……ああああああ頭が狂っぽー!!」
なんかポッポが叫んでいたが、樹が可愛かったのであたしは聞いていなかった。とりあえず、治療薬がこれだけたくさんあれば感染症はミッションクリアかな?