先ずは己を知ることから
ヤス兄が固まったままなので、鳥が丁度いいから置き去りにしようと言い出した。
「えええ…ヤス兄と稽古したかったのに」
素手対剣対決、してみたかった…。
「いいですよ。罪もない人達が山ほど死んでもよいのでしたら」
「よし、聞こうか!」
というわけで、あたしの部屋にリターンした。メイド達も下がらせ、鳥が防音結界をはった。
「さて、優音様。ユーリフィアン様が悪役令嬢として現れるゲームについてどのくらい覚えておられますか?」
あたしは正直に話した。ユーリフィアンは悪役令嬢としてファーストざまぁで婚約破棄される。これは全ルート共通のイベントだ。ヒーロイ嬢への酷いいじめが露見した事が原因である。確か階段から突き落とす等の死にかねないものまであったから、むしろ寛大な罰と言えよう。
当然学院に居づらくなったユーリフィアンは退学。自暴自棄になり魔王妃となる。
そして、魔王が覚醒しヒーロイ嬢達は世界を救うために立ち上がる。聖女であるヒーロイ嬢に選ばれた男は勇者となり、魔王を殺してハッピーエンド。ただし魔王ルートの場合は勇者があの馬鹿王太子ことオルレリアン=サマル=オルトメルゲになる。魔王を愛により浄化し、魔王は死なない。
ユーリフィアンは中ボスなので必ず出てくる。倒された後は以前も述べたが、死ぬか幽閉か追放か。ろくな道がない。
「………ぐらいかな?」
「大筋はとらえておいでですね。次のイベントは伝染病です。多数の死者が出ます」
「伝染病……あれか」
なんか、虹色の珍しい花で作る特効薬が効くやつだな。
「あれです。放置すれば多数の死者が出ます。聖女も記憶持ちなので花を集めていますが、いかんせん栽培が難しく貴族ぐらいしか救えないでしょう。そこで、優音様です。中ボスユーリフィアンの得意属性は?」
「えっと、闇、水、緑……あ」
そういう事か!緑属性はまたの名を便利属性。作物を増やす事や錬金に特化し、攻撃はイマイチだが毒やサポートに長けている。パーティメンバーとしては微妙だが、居るとなにかと便利なのだ!
「というわけで、魔法の練習をしてください。花の種さえあれば、原料の薬草を増やし放題。貴女は魔力も高いので特効薬を作り放題です」
「おお……」
魔法か!テンション上がるな!
「そういや、スキルは何なんだ?」
「錬金釜とスウィーツです」
「錬金釜?」
「特殊な錬金魔法で、本来調合や錬金には設備が要りますが、材料さえあればこのスキルでいつでもどこでも作りたいものが作れます」
「おお…」
これはなかなか便利なんじゃないか!?
「じゃあ、スイーツは?」
「スウィーツです」
そこはどうでもいいじゃないか。心底どうでもいいじゃないか。
「………スウィーツは?」
「スウィーツと心のなかで唱えると、かけられた相手は甘味が食べたくなります」
しょうもなかった。
「………………」
「あ、相手とのレベル格差がどれだけあっても、精神魔法耐性もちでも必ずかかるんですよ!!」
無駄にすごいがやはりしょうもなかった。
「………………まあ、一つ目はマトモだからいいか」
スウィーツはぶっちゃけクソスキルだが、錬金釜は使えそうだ。
「それから、錬金釜持ちは作りたいものを考えると原材料が思い浮かびます」
本当に便利スキルだな。それにひきかえスウィーツはなんなのだろうか。意味がわからん。
「スウィーツは眼鏡神が勧めました。一応やめろと言ったのですが…」
「念入りにつついといて」
「御意」
さて、先ずは魔法の練習をすることに。室内では危険だからと人がいない家の裏手にある林へ移動した。魔法についての知識が頭に浮かんでくる。
駄目だ。なんか複雑すぎて理解できない。こんなクソ面倒なやり方じゃなくて、簡単なやり方はないだろうか。要は精霊に呼びかけて力を使ってる訳なんだから、シンプルでいいじゃん。
「水!」
イメージ通りの水が、とんでもない勢いで木をなぎ倒して見えなくなった。地面はえぐれ、カメハメ○あああああ的な感じでまっすぐ道ができちゃった。
「「………………」」
流石の鳥も予想外だったらしい。
「………れ、練習あるのみですね。周囲への安全のためにも!ユーリフィアン様の魂は、マナ…魔法の素が少ない地に適するよう、魔力がほとんどありませんでしたが、優音様は違います。貴女の魔力は凄まじい。他者を傷つけないためにも、コントロールを学ぶべきです」
「わかった。メガ兄に聞いてみる」
当面は魔法修行が必要なようだ。しかし、メガ兄はユーリフィアンへの長編大作を執筆中。邪魔してはいけない。
「…………とりあえず、走るか」
ドレスから兄の乗馬用の服に着替えて軽く走る事にした。健全な精神は健全な肉体に宿る。魔法も多分一緒だよね!