とりあえず事情聴取
休み時間になった。先生が教室から出た途端、あたしは叫んで走り去った。
「モクレン、シルビア!ついてきなさい!」
「「御意」」
人間であたし達の全速力について来れる者などいるはずもなく、空き教室に無事たどり着いた。
「モクレン、シルビア。どういうことですの?」
空き教室の椅子に座り、二人にたずねた。
「我らは我が君の護衛。ゆえに、常にお側に在る必要があるのです。それに、我らが人族との和睦の先駆けとなろうかと。我が君の望みは魔族と人族との和睦でございましょう?我らは比較的人族に友好的な種族でありますゆえ、うってつけかと」
モクレンが微笑みながら告げた。納得の理由だ。
「では、何故先にそれをわたくしに告げなかったのですか?」
「それはな!我が君を驚かせようとモクもがが」
モクレンがシルビアの口を塞いだが、大体わかった。時すでに遅しというやつだ。
「……悪戯をするからには、叱られる覚悟もおありですわね?」
「「大変申し訳ありませんでした」」
二人ともあたしの殺気に反応して素直に謝罪したので、今回だけは許してやることにした。
教室に戻ると、当然女子達が物言いたげだったが授業開始ギリギリだったので来なかった。しかし、昼休みに囲まれてしまった。
「ユーリフィアン様のお知り合いなのですか?」
「何故先ほど、彼女達をつれて走り去ったのですか?」
「彼女達の留学に、ユーリフィアン様も関わってらっしゃるのですか?」
目線でモクレンとシルビアには、問題ないと合図をした。二人とも頷き、大人しく重箱弁当を食べている。弁当がでかすぎるとやや引きつつ、令嬢達に説明した。
魔王の婚約者に内定したこと。魔族領で認められ、モクレンやシルビア達が部下になったこと。彼女達は魔族と人族の和睦のため来ていることを話した。
「まあ……」
「仲良くできるかしら」
「モクレン様とシルビア様は何がお好きかしら」
あたしと仲良しなご令嬢達はモクレン達と仲良くなりたいようだ。皆いい娘達である。あ、そうだ。勧誘勧誘。
「サイーショ嬢、お願いがございますの」
「……うかがいましょう」
キリッとした怜悧な美貌と真っ直ぐに切り揃えた髪。眼鏡がよく似合う。あたしと同じく悪役令嬢になるはずだった彼女は、サイーショ=クケンビー侯爵令嬢だ。
「貴女、魔族領で文官になりませんこと?」
「はい」
即答だった。
「………よろしいのですか?」
「はい。魔族領は女性も普通に働くと聞いております。人族だからと妨害する馬鹿は自力で蹴散らします。人族への風当たりを差し引いてもこちらより働きやすいと考えました。と言っても魔王妃としてユーリフィアン様も味方になってくださる事が前提条件ですが、私を勧誘してくださったということは……そういうことですよね?」
とても楽しげに微笑むサイーショ嬢。思ったよりよく考えて決めたようだ。もちろん、あたしが勧誘したわけだから身の安全は保証するし、仕事に集中できる環境を整えるよ。
「では、詳細は帰りに話しましょう。今日の夕方、お時間はありまして?」
「問題ございません。正式に雇用していただけるなら、私は家出してでも働く所存です!馬鹿で無能な男に嫁ぐなど、まっぴらですわ!私は自力で稼いで生涯独身を貫きます!」
「その場合はわたくしがきちんとご両親を説得いたしますから、家出はやめてくださいまし。それから、もしかしたらよい方がいるかもしれませんわ。決めつけはよくありませんわよ」
もっと大人しい女子だと思っていたのだが、予想以上にアグレッシブな子だった。誘拐犯扱いされては困るので、きちんとクケンビー侯爵家に正式ルートで雇用の打診をしなくてはなるまい。
あと、男性への拒否感はなんなんだ?そーいや、この子はホルソマッチョの婚約者………(察した)
そして、令嬢達が私達の会話を聞いて反応してきた。
「女性も働くんですの?」
「その場合、家はどなたが守りますの?」
「人族への差別はどのようなものですの?」
正直わからない部分もあるのでモクレンを呼び、説明してもらうことにした。あたしも役に立たないので、でかモフモフ狼と化したシルビア(説明には不向き)を膝に乗せてブラッシングをしながら聞いていた。
魔族も種族によって様々だが、女性が当たり前に働く種族がほとんど。男女問わず強い者が狩りをし、一族を守る。逆に戦闘に向かない者が家や子供を守り、交渉や頭脳労働をする。それが、魔族の常識である。そこに男女はなく、特に獣人は群れで助け合う風潮であるとのこと。種族差はあれど、大半の種族で女性も能力があれば働くらしい。
「まあ、そうなんですのね」
「ところで、シルビア様は狼さんになれるんですのね」
令嬢達がシルビアを見る。ブラッシングしたので普段よりフワモフに仕上がった。途中で樹たんと晶がヤキモチを妬いて邪魔しに来たので、今は樹たんと晶のブラッシングをしている。可愛いったらない。役得だ。幸せである。
「ああ!モクレンは狐になれるぞ」
フワモフシルビアは機嫌がいいらしく、尻尾を振りながら答えた。獣姿でも普通にしゃべっているという不思議。
「ちょっとだけ撫でてもよろしいですか?」
「いいぞー。少し乗せてやろうか?」
サービス精神旺盛なシルビアは、令嬢数人を乗せてゆっくり歩いたり撫でさせてあげていた。
「シルビア様、ボール遊びはお好きかしら?」
「わふっ!?」
ボールを追いかけるシルビアは、わんこにしか見えなかったが言わないでおいてあげた。楽しそうで何よりだよ、うん。
シルビアは犬に間違われなかったので上機嫌でしたが、ボール遊びする姿は犬にしか見えない罠。銀狼族は皆ボール遊びが大好きです。




