頭と魔法は使いよう
ごちそうをいただいてから、モクレン様が城に送ってくれた。
「我が君。名残惜しいが、またじゃ。わらわにできることがあれば、なんでもしよう。遠慮せずに申しつけておくれ。わらわの里を救ってくれた恩は忘れぬ。それから、わらわは我が君の臣下なのじゃ。敬語も要らぬ。モクレン、と呼ぶのじゃ」
モクレンは微笑んだ。俺も俺も!とシルビアが走り回っている。落ち着けよ。モクレン達に頼みたいことかぁ。最近何か困ってたっけなぁ…………あ。
「モクレン、シルビア。急ぎで欲しいものがあるのだが」
「なんなりと」
「おう!」
「そんなわけですの」
オルネース様の執務室で働く白狐族の方々について、そう説明した。欲しいもの……それは、書類仕事ができる人材。残念ながら銀狼族は頭脳労働に向かないそうであたしの警護をしてくれている。
「癖が強いモクレンまで手なずけるなんて……すごいわ!しかも優秀な人材確保まで!もう一生放さないんだから!」
「えへへ、もっとほめて」
ぎゅうぎゅう抱きしめて撫でてくれる手は、とても優しい。調子にのったからか、オルネース様が固まった。
「俺の優音が可愛すぎる………!」
何かぼやいていたが聞こえなかった。固まったわけではなかったらしく、なんとデコチューされた!
「ひゅあ!?」
「はあああああああ………可愛すぎるわぁぁ」
「堂々とサボるとは、いい度胸じゃのう………小童。我が君が困っておろうが!」
モクレンが怒りだした。お仕事サボってイチャイチャしていたら、文句のひとつもいいたかろう。モクレンの怒りは正しい。
「オルネース様、わたくしは仕事ができる殿方が好ましいですわ」
「ジャンジャン仕事をもってらっしゃい!!」
オルネース様がやる気になってくれて何よりだ。イチャイチャは後でにしよう。流石に人前では恥ずかしい。
「モクレン、困ってはいたが……嫌がってはいないんだ。だから、次からは大目にみてくれ」
「我が君のなんと可愛らしいこと……。男は甘やかすとつけあがるものじゃ。あまり甘やかさぬ方がよいぞ。我が夫など……戦戦でちいとも帰ってこぬ」
「………戦?」
「力が弱い獣人の村を襲ううつけがおるのよ。夫は各地を飛び回って防いだり戦ったりの毎日じゃ!もっとわらわにかまうべきではないか!?………とも思うのじゃが、里長としては理解しておる」
うーん、なんとかしてあげたいなぁ。つまりは、馬鹿が村を襲えないように………なんかあったな、そんな魔法。胸元をちらりと見る。たゆんたゆんの乳以外何もないように見えるが、ここには聖女の証がある。
「もしかしたら、解決できるかもしれませんわ。襲われる可能性がある村に案内していただけます?」
仕事を片付けてからおでかけしたのだが………。森の中にある集落は、ボロい柵がある程度。これでは防衛しようもない。周囲にはいくらでも隠れる場所があり、柵は獣人の身体能力なら簡単に飛び越えられてしまうだろう。魔物による被害もあるそうだ。そちらは嫌う植物を植えることでどうにか対処しているらしい。問題はやはり、他の獣人というわけだ。
とりあえず、周囲を更地にして見晴らしよくした。さらに堀を作り、近くの川から水を引いて流す。川に戻るように水路を作っておく。農業に使いたいというから、村の中にも引いてあげた。
土魔法で獣人でも越えられない高さの岩壁を作り、扉は錬金釜で自動開閉機能付きの扉と跳ね橋を作成。さらに物見櫓を樹と作った。錬金釜は大きくもなると今回初めて知った。
「こんなものかしら。あとは……樹、ベティと罠を作ってくださる?」
「まかせるっきゅー」
「お嬢様がお望みとあらば」
元暗殺者のベティは罠作りの名手だ。樹と組んでたまーにすごい罠を披露してくれる。道をそれなければ罠にかかることはない。潜みやすい場所を選んで罠を仕掛けてくれた。村人には危ないから道を外れないようにとキチンと説明しておいた。
「わ、我が君はすごいのう……。魔法にはこのような使い方があったのか……」
モクレンが呆然としていた。普通だと思うんだけど?ついでなので聖女の力で悪意あるものを弾く結界もこっそりつけといた。結界に悪意ある敵が触れればわかるはず。ゲームでヒロインがやってた奴だ。これができるってことは、あたしは本当に聖女なんだなぁ。どーでもいいけど。それよりお仕事お仕事!あんまりにもボロい家は木製だったので樹と修繕してあげたらめっちゃ感謝された。可愛い鼠獣人の女の子から花冠もらっちゃった。嬉しいなー。
「モクレン、他の村にもやるよー。案内して」
「はっ!我が君の御意のままに!」
モクレンに案内されるがままに村をまわり、全部に設備を作ってきた。非力な獣人さん達からは感謝され、あたしとしても良い事したなって感じ。頑張ってくれた樹と晶、ベティには、特製クッキーをプレゼントした。他のメイド達から、次行くときは全力でお手伝いするから連れてってくださいと泣かれた。
メンテナンスするときでいいかな??あんまり泣くから追加でパンケーキも作った。
毎日の終わりには、必ずオルネース様と過ごすのが定番となっている。マーキングの必要があるからだ。オルネース様が美味しいお茶を淹れてくれて、それを飲みながらもふもふしつつ話したり、膝に乗ってお話したりする。
「オルネース様ー!!聞いて聞いてー!!」
「はぁん……アタシの嫁が可愛すぎる……!」
「聞いて!そしてほめてくれ!!」
「もちろんよ。何があったのかしら?………まあ、優音は本当にすごいわね」
今日やった仕事をオルネース様に話す。話している間、オルネース様は優しくあたしをほめながら撫でてくれた。幸せって、こういう感じなのかなぁ?
「ん?」
ふと見上げたら、オルネース様はとても優しく微笑んでいた。顔が良すぎる。あたしはやはりメンクイだったのだろう。彼の笑顔にキュンとした。照れ隠しに抱きつくと、今度は背中を撫でてくれた。
あれ?なーんか忘れているような??まあ、思い出せないぐらいだからいっか!
一方その頃、何も知らないモクレンの夫は、なんじゃあこりゃああああ!?と行く先々で叫んでいたそうな。モクレンもできばえに満足して夫に連絡するのを忘れていたそうだ。まあ、そんな日もあるさ!




