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変態は即座に滅する主義です

 今日は全体的に色々ありすぎて、お風呂に入ったらクラクラしてきた。疲れているんだろうな。


 そして眠ると、いつもの真っ白な世界。


「ユーリフィアン!ユーリフィアン!?」


 しかし、今日は鏡がない。必死にユーリフィアンを呼ぶ。


優音(ゆあん)!!」


 あたしがあたしに抱きついてきた。ややこしい。頭が混乱している。


「ユーリフィア…………ン??」


 声やしぐさは確かにユーリフィアンなのだが、彼女はあたしの姿をしていた。そして、今気がついたがあたしはユーリフィアンの姿のままだ。


 そこに、全身白タイツの変態鳩マスクが現れた。


「お二人の絆は強いのですね。本来在るべき身体へと魂が戻り、そのリンクは解けるはずでした。しかし、お二人の魂は混線じっ!?」


 とりあえず、何やら語りだした変態に蹴りを入れた。変態に耳を貸すべからず。変態は即滅すべしである。変態に人権は存在しない。


「おい、貴様。とりあえず死ね」


「くるっぽぉぉ!?お待ちください!私はしがない神の使い!貴女方の状況を説明しに参りましたあああああ!!命ばかりはお許しを!!」


 変態は文鳥の姿になって泣きながら命乞いをした。流石に小さな文鳥は殴れない。


「………優音…鳥さんが可哀相ですわ」


 何故だ。何故顔はあたしなのに可愛いんだ。中身か。中身の差か。納得した。


「そうだね!聞いてからでもとどめは刺せるもんね!」


「落ち着いてくださいまし、優音!なんで今日はそんなに荒ぶっているんですの!?」


 今日はユーリフィアンを苦しめる元凶達と会ったからだろうな。まだテンションが高いのだよ。


「あたしはいつもこんなもんだよ」


「違いますわ!わたくしにはわかります!!」


「……あー、お二人共、続きを話してよろしいですか?私は神の使いです。ポッポちゃんとお呼びください」


 ポッポ…鳩マスクだからか?今は文鳥になっている。中途半端な鳥だな。鳥もどきと呼ぼう。


「結論から申し上げます。貴女方はいわゆる取り替え子…チェンジリングです。神の手違いにより、魂が生まれるべきでない身体に入ったまま生まれてしまいました。そのために魂が本来の肉体に惹かれて混線し、語りあうことなどあり得ない貴女方は知り合った。本来ならば在るべき身体へと入れ替わった時点で貴女方のリンクはなくなるはずなのですが…予想以上に貴女方の魂は相性がよく、未だに混線しているようです」


 よくわからない部分もあるが、一つだけ理解した。


「……つまり、あたし達は自分の世界に帰れない?」


「………………はい」


 この鳥もどきから告げられたあまりにも残酷な言葉に、混乱し…とりあえず苛立ちをぶつけようとして気がついた。


「なんで上司の尻拭いでお前が謝罪しにくるわけ?」

「ですよね!?おかしいですよねぇ!!何もしてないのにおかしいですよね!!間違えた本人が誠心誠意謝罪すべきですよね!?」


「………悪かったよ」


 鳥もどきは悪くなかった。しかもこの後も鳥もどきはベラベラ喋った。恐らく色々とたまっていたのだろう。鳥もどきの主は別の神なのだが、これがまた超いいかげん神で鳥もどきの了承なく勝手に鳥もどきを貸し出すらしい。そもそも上司ですらない奴の尻拭いだったわけか。マジで悪いことしたわ。


「まぁ…大変ですのね」

「さっきは本当に悪かったな」


 可愛い文鳥がしくしく泣くのは心が痛む。鳩マスクだと痛まないけど。


「いえ、お二人の方が大変でしょう。このポッポがせめてもの償いに、お二人をサポートいたします。その…実はユーリフィアン様の世界では神が直接は手を出せないので、お詫びとしてスキルをプレゼントするそうです。確認してみてください。優音様の世界ならば多少の干渉が許されます。この夢の中に物を持ち込んだり、優音様が書いた手紙を持ち出すこともできますよ」


「逆はできないのか?ユーリフィアンの大事なものを渡したりは?」


「……あまり大きくなければ許可しましょう。本当はダメですが、手のひらサイズまでならいいですよ。また、魔力を帯びたものは不可です。あちらには魔法がありませんからね」


「わかった。ありがとう、鳥」

「ポッポです」


「ユーリフィアン、持ってきてほしいモノはあるか?」

「ポッポです」


「では、ペンダントを。赤い石がついていて、ロケットになっておりますの。家族全員の肖像画が入っているのはそれだけですから、わかるはずですわ」


「わかった」

「ポッポです」


「……ポッポって呼んでやるからあたしが喋ったあとにアピールすんな」


「かしこまりました」


 さっき命乞いまでした相手に、メンタルが無駄に強い鳥だな!


「ポッポ、便せんとか貰えない?」


「くるっぽー、こちらでいかがですか?」


 鳥はシンプルで飾り気のない水色のレターセットをくれた。


「サンキュー」


 手紙を書く相手は二人。友人の小田郡(おたく)と母だ。


「こっちは小田郡に渡して。あいつ、変な奴だけどいい奴だからきっとユーリフィアンの力になってくれる。これ、イセカイテンセーとかって奴だろ?あいつそーゆーの好きだから、キター!とか言って喜ぶぞ」


 狂喜乱舞する小田郡が目に浮かぶ。もう会えないんだなぁ。


「まあ…小田郡様ですね?今日、とても親切にしてくださいましたわ。何度も体調を気遣ってくださいました。熱はないかとか、ちゅうに的な新手の病かと、何度も何度も心配してくださいました」


「………………」


「それは、がさつ女子がいきなり清楚可憐系になったからでは………」


 ポッポが的確な意見をくれた。あたしもそう思う。


「それから、根津(ねつ)様が『お前が大人しいと調子狂うんだよ!』と仰っておりましたわ」


「………………」


「リアルでその台詞が出るって、どんな学園生活だったんです?」


「根津とはこう…拳で語り合う感じだった。こう、ガチンコバトルが日常茶飯事的な」


「大体理解いたしました」


 なんか、鳥に諦められたっぽい。解せぬ。


「なあ、どう考えてもユーリフィアンを演じきれる気がしないし、元の身体には戻らないんだが…チェンジリングについて隠すべきなのか?」


「………はい。とりあえず戻ったら、あのクソ眼鏡神はつつきまくります。ユーリフィアン様の世界ではチェンジリングは稀に起きる事象との認識ですから、素直にカミングアウトしてもよいかと。ただし、信用できる人間のみにしたほうがいいです。異界の…優音様の知識はユーリフィアン様の世界では誰もが欲しがりますから」


「念入りに頼む。カミングアウトについてはわかった。私もずっとユーリフィアンを演じるのは無理だから、考えてみるさ」


 鳥が真面目に返答したので頷いた。悪い鳥ではないのかもしれない。


「逆に、優音様の世界ではカミングアウトしないほうがよろしいかと。中二病か二重人格と診断される恐れがあります」


「チュウニビョウ…病気と思われてしまいますのね?わかりましたわ」


 ある意味病ではある。


「すでに小田郡様に疑われてますわ!このままではわたくし、チュウニビョウ患者になってしまいますの!?」


「大丈夫。小田郡への手紙を渡せばオールオッケー」


 その小田郡こそが重篤な中二病患者であるということは、奴の名誉のために伏せておいてやろう。


「ユーリフィアン、もう戻れないなら関係ないかもしんないけど謝っとくわ。馬鹿王太子とは婚約破棄して慰謝料として王太子予算の9割もらうことになった」


「え?」


「大丈夫、国王陛下とは話がついてる。もし家を追い出されても王家が引き取ってくれるって」


「ええ??」


「そんなわけで、ユーリフィアンパパの腹部に重たい一撃をくらわせました」


「ちょっ、なん、えええええ!??そこ詳しく!詳しくお願い…えええええ??」


 なんだかユーリフィアン入りのあたしが霞んでいく。


「時間切れですね。神の過ちによって歪んだ人生を歩まされた取り替え子達よ。また明日会えるのを楽しみにしておりますよ」


 かっこよさげに言ってるが、要は魂を取り違えたうっかり眼鏡神のせいでいらん苦労をしてるだけだろう。まあ、ユーリフィアンに会わせてくれたことだけは感謝してやってもいいけどな。


 ユーリフィアンに会えてよかった。またユーリフィアンに会える。その事実に安堵しながら、あたしは意識を手放した。


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― 新着の感想 ―
[一言] n回目周回中、やっと気づいた… ここって眼鏡の世界かぁ〜〜眼鏡が顕現しても微妙〜だね! ポッポちゃんが貫通するまで突っつきまくるよりも、某“ロ”のつくお方にちょいとシメてもらった方がダメージ…
[一言] イジェンス・・・(;´Д`)あぁヽ(´Д`;)ノ
[一言] ぽっぽちゃん・・・(;´Д`)
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