どこかで方向性を間違えた気がします。
自分のスキルの強力さにビビっていたが、それを気取られてはならない。なぜなら、あたしは悪役魔王妃なのだから!
「無罪放免にはできそうもありませんわねぇ」
あくまでも、冷酷無慈悲な魔王妃っぽく。じっとり嫌みな感じで!
あくまでも、悪役らしく頬笑む。
「お願いいたします!なんでもいたします!どうか、妻の忘れ形見である娘の命だけはご容赦ください!!お願いいたしますぅぅ!!どうしてもお許しいただけぬのであれば、私の首で許していただけませんでしょうか!!」
泣きながら地面に額を擦り付け、必死で土下座するトードス様。娘とそのメイドは毒で動けない。チラリとオルネース様を見る。視線に気がつき、オルネース様が頷いた。
「今、お前に死なれるのは都合が悪い。お前がうまく立ち回っているから、争いが減っている。脳みそまで筋肉で出来ている馬鹿共と違い、状況をある程度先読みして行動できる高位魔族は数が少ない………とはいえ、我が妻を狙った馬鹿を放置するわけにもいかない………悩ましいところだな」
オルネース様はわざとあたしに情報をくれたのだろう。まだ結婚してはいないけど、嫁扱いしてくれるらしい。ちょっと嬉しい。
それはさておき、状況はわかった。つまり、オルネース様的にトードス様が死んだら困るんだね?でも、あの娘とメイドは無罪放免にできないし、したくないと。
「では、ご息女の心に致命的な傷を作りましょう。二度とわたくしに逆らえないように。人間とわたくしと毒に恐怖するようにいたしましょう」
「どうするおつもりですか?」
「ひたすらに毒を摂取させ、解毒します。ありとあらゆる毒を、その身体で味わっていただきましょう。今まで、オルネース様の婚約者候補達にも同じことをしてきたのですから、仕方ありませんわよね?ああ、安心なさって。絶対に死なせませんわ。丁度いいから、解毒の新薬の実験もしようかしら。毒がいかに恐ろしいか、その身をもって味わうといいわ」
にっこり笑うあたし。因果応報ってやつだよ。数倍になって返ってきただけだよ。細かいことは気にすんな。
「お、お許しください……」
怯えながら許しを乞うトードス様の娘に、あたしは聞いてみた。あくまでも笑顔で。世間話をするかのように。
「貴女は、そう言ったご令嬢達に何をしましたか?一度でも許してあげましたの?」
娘は、何も言えなかった。許すことなどなかったのだろう。圧倒的に優位な位置から、ご令嬢達に陰湿ないじめをしていたような女だ。その沈黙が答えだった。
「楽しかったですか?か弱いご令嬢達をいじめるのは。弱者をいたぶるのは。しかし、貴女も運がありませんわね。猫の子と獅子の子を間違えるようなものですわ。見た目こそ似ていても、その本質は別物ですのに」
ふわりと冷気が漂う。こいつが何をしたのか、あたしはちゃんと知っている。
「ご、ご慈悲を………」
震えながら言ってきた娘に、笑顔で返事をしてあげた。
「ですから、貴女はそう言われて今までなんとおっしゃいましたの?わたくしの返答は貴女と同じでしてよ。ああ、それから………わたくし猫は少しばかり苦手ですが、気持ちがわかってしまいましたわ」
「ねこの、きもち……ですか?」
「ええ、猫は獲物をいたぶって遊びますのよ。貴女、本当に運がないわ。それから、頭もあまりよくないわね。良いことを教えてあげる」
絶望した娘に、教えてあげた。
「真の悪役は、自分の手を汚さないものよ。欲しい物も、自分の手を汚さずに手に入れるの。こんな弱いものいじめをして満足するなんて、三下以下だわ」
「さんしたいか………………」
「真の悪役は、その魅力で他者を動かすの。真の強者は、弱いものを庇護するのよ。よく覚えておきなさい。今後もその立ち位置にいたいなら、ね。貴女、自分の下で働きたい?わたくしはごめんですわ。こんなに醜悪な心根の上司、蹴落としてわたくしがトップになります。さて………では、時間もあまりありませんし、じゃんじゃん行きましょうか」
『はい、お嬢様!!』
うちの子達が超ヤル気だー。あたしが話してる最中、樹たんも交えてどの毒がどぎついか検討してたもんなあ。うちの子達は本当に有能だわぁ。笑顔で毒を用意してくれたよ。
「うちのお嬢様は、最高の上司なんですよ」
「お嬢様のためなら、笑顔で死ねます」
「お嬢様は、私達を人にしてくださいました。お嬢様のために生きていたいと思います。ですから……お嬢様に仇なす輩は……」
「「「消去します」」」
「死んではダメよ。それから、消すのもダメ」
うちの子達、何故こうなったのだろうか。おかしいなぁ……あたしは普通に接しただけなんだが。元は暗殺者な子達もいるので、多少物騒なのはご愛嬌。慣れない職だろうに、よくやっている。
「お任せください。加減は心得ております」
「切り刻んでもいい?大丈夫!回復薬があるから、痕も残らず治るよ!」
「いいわね!ちょっと裂く?」
「ゲコオオオ!!裂かないで!ちょ、うちの娘よりよほど危険じゃありませんか!?」
頼もしすぎるうちの子達。トードス様が泣きながらドン引きしている。
「仕方ありません」
「縦に四分割」
「横に二分割で我慢します」
「八つ裂きじゃないかあああああああああ!!」
「あらあら、仕方ない子達ですわねぇ」
トードス様をなだめるのが大変だった。面倒なので娘達は別室で教育していただいた。あたしだけをターゲットにするならどうとでもなるが、なんの罪もないご令嬢を傷つけられたら、確実に外交問題だ。見せしめも兼ねて、ド派手にいっていただこう。
解放された娘達は、生きてるって素晴らしいとか人間こわいとかブツブツ言っていた。いい塩梅だね。
「首尾は?」
「魔王妃様、最高!」
「魔王妃様、素晴らしい!!」
「……………………」
予想外の方向に矯正されたようだ。修正したいが、これ以上負荷をかけるのは……無理だろうな。虚ろな瞳であたしに賛辞を贈る娘達を見て……仕方がないから諦めた。




