想定していた斜め上
オルネース様との和やかなお茶会。人払いをしているので素で話すことになった。しかし、話の内容は全く穏やかではなかった。話ながらどんどん落ち込むオルネース様。内容が内容だけにもっと早く話すべきとは思ったが、あたしに逃げられたくなかったので言えなかったそうだ。
「オルネース様」
「ううう……申し訳ありません……」
「聞きたいのは謝罪じゃない。正式なあんたの嫁候補はあたしだけ。あんたが自分の意思で嫁にしたいのもあたしだけ。それで間違いない?」
「ないわ!」
「ならよし。つーか、そんな面白い事になってるんなら早く教えてよ!もっと同居を早めたのにー」
「…………へ?」
オルネース様から聞いたのは、後宮の現状だ。今、後宮には自称嫁がはびこっている。有力者達が勝手に送って勝手に住み着いたらしい。追い出したいところだが、最初に追い出した種族との関係悪化は免れない上、内乱に発展する危険があり野放しにするしかなかったそうだ。
オルネース様は誰より強いが、内乱となれば犠牲ゼロとはいかないだろう。何より、魔族領は今、内乱をどうこうする余力がない。結局、泣くのは弱いもの達だ。だからこそ、迂闊には動けなかったわけだ。
本来あたしの住居は後宮だったが、危険だし目の届く範囲にいて欲しいからと部屋をオルネース様の隣室にしたらしい。
「相手にとって不足なし!!」
敵は、後宮にあり!!あたしは握りこぶしを固め、後宮の方角に突きだしたのだった。いやあ、やりがいありそうな仕事だね!つまらない社交なんかより楽しそう!!笑顔で腹の探りあいも楽しそうではあるが、こっちの方があたし向きだと思う。敵はハッキリとしている。排除すればいいのだ。あたしにも利はある。排除できればオルネース様はあたしが独り占めできる。オルネース様がハーレムを所望するような男だったら即帰宅していただろう。あたしはその他大勢の一人になるつもりはない。
、
「ええええ……た、たくましいわね……」
「たくましい嫁は嫌かな?」
「いいえ、最高だわ!いつお嫁に来てくれる?」
「いつでもと言いたいけど……実家に聞いてからかなー。それより、早速敵について教えてよ!対策考えないといけないからさ!」
「対策は必要だけど、私との時間も大事にしてね?」
「は、はい………」
くっ、無自覚イケメンめ!真顔になるとカッコいいんだよなあ。普段は可愛いけど。やはり、顔がいいって得だよな。
「くぅ」
黒狐のオニキスちゃんが茶菓子をねだってきた。オニキスちゃんや、君最近太ってないか?今日もよきモフモフだなあ。
「ひとつだけだよ?こっちは樹と晶にね」
「くぉん!」
オニキスちゃんはお菓子をくわえて樹達の方へ行った。
「すっかり貴女になついちゃったわね。貴女は匂いと言動が矛盾しないし、すごく綺麗な魔力だからかしら」
「匂いと言動が矛盾しないってなんです?」
「あ………うーん……なんとなく匂いで相手の感情がわかるのよ。その……ごめん」
何故謝るんだ?わからないので聞いてみた。
「何に対して謝ってんの?わざとじゃなくて、体質みたいなモンなんでしょ?あたしは別に気にしないからいいよ」
「え………」
「魔力を嗅覚で感知してるのかな?嘘つくと魔力って揺らぐし」
そんなわけで検証してみたら、やはりそうだったらしい。あたしはやろうと思えばオルネース様に嘘がつける。オルネース様にも過信しないようにと話した。
「そういえば、オルネース様もオニキスちゃんみたいになれるのか?」
「なれるわよ。気持ち悪い?」
「え?なんで?オニキスちゃんを可愛がってる私が狐姿のオルネース様を嫌うわけないじゃん」
オルネース様がため息を吐きながら机に脱力した。なんか悪いこと言ったか?オルネース様なら美狐だと思う。
「………これが、半獣化よ」
体型は人のまま、顔は狐。全身に毛が生えている。しなやかで美しい黒狐様だ。
「やっぱり美狐様だな!あ、手に肉球か?ふにふにー」
手に肉球らしきものがあったのでフニフニしまくった。楽しい。
「………悩むのがバカらしくなってきたわ。これが完全獣化ね」
美しいが大熊サイズの狐様が現れた。
「うわあ……うわああ!!」
オニキスちゃんは子狐だから可愛いが、オルネース様は美狐だ。思わず首に抱きついてスリスリしてしまった。獣臭はせず、花みたいな香りがした。フカフカだが、毛艶はあまりよくない。丁寧にすかれてはいるが、油分が足りないようだ。
「オルネース様、ブラッシングしていいか!?」
これはブラッシングのしがいがありそうだ!オルネース様は何故かオドオドしていたが、許可してくれた。取り出したのはあたし愛用の櫛……のスペア。日本にはつげ櫛というものがあるのだが、それをイメージして作成したものだ。向こうでほぼ唯一の女子らしいアイテムだったと言えよう。
九州へ旅行に行った際に繊細な薩摩つげ櫛を見つけて、お年玉をはたいて購入した。櫛はユーリフィアンから返してもらい、今でも愛用している。大事にすれば一生ものなんだそうだ。
「変わった櫛ね。でも……とても素敵」
今使用しているものはレプリカだが、あたしの櫛より便利で油に漬け込む必要がない。魔力を吸い、髪に潤いを与えてくれる。丁寧にブラッシングした結果、天使の輪っぽいものが発生していた。ただし、毛にではなく……いや、毛にも発生しているが、オルネース様の周囲に謎のエフェクト的何かが浮いていた。
幸い本人はブラッシングが心地よかったらしく熟睡中。
「よし、私も寝るか」
寝たら消えてるかもしれない。とりあえずあたしはオルネース様のフカフカサラサラぽんぽんにダイブした。温かいしモフモフしていていい感じー。尻尾が掛け布団みたいに包んでくれる。樹と晶、オニキスちゃんも一緒に、いつしか寝てしまった。
「何してんすか!?なんで主はキラキラしてんです!??」
残念ながらキラキラエフェクトは昼寝しても消えなかった。
「あ?知らん。ユーリフィアン嬢の櫛じゃない?細かいことを気にしていたらはげるわよ」
「あんたはなんで平然としてんだ、クソ主!!」
「害はないわよ。綺麗だしいいじゃない」
そしてキラキラをまったく気にしないオルネース様は大物……そういやラスボス魔王様だったなと思った。
今回のタイトルは、優音にとってもオルネースにとっても互いが予想より斜め上だったってことです(笑)




