魔王妃候補になろう
部屋のメイドの尻が腫れ上がる程に叩いてから、あたしは他のメイド達に言い放った。
「貴女方、何をボヤボヤしていますの!?早急に部屋の中にあるものを総て取り替えてくださいまし」
「は!?」
唖然とする魔族のメイド達。逆に頼りになるあたしのメイド達は即座に行動を開始した。勢いよくドレスを投げ捨て、クッションを投げ捨て、アクセサリーに引き出し………おいおいやり過ぎ……!?
「この引き出し、毒が塗られてるっきゅ。かぶれる程度っきゅー」
やり過ぎでもなかった。それを一目で見破るうちの子達、すげえ。壁紙まで剥がされ………これ、一日かかっても部屋で過ごせないよなあと思う。
「剥がして差し上げましたわよ」
「早く代わりのものを用意してください」
うちの子達、怒っているっぽい。まあ、私も呆れているからなあ。よくここまでやったもんだよ。
短時間でどうこうできるはずもなく、オルネース様が来た。
「これは、どういう事?」
ちんたら新しい壁紙を張り替えていたメイド達は、それはもう私達は被害者ですうと言わんばかりにオルネース様に媚びだした。はいはい?あたし達が部屋を気にくわないと壊したって?
「そりゃあ、引き出しや壁紙に毒が仕込まれていたら嫌ですわねえ」
あれ?静かになっちゃった。
ああ、そっか。あんたら、あたしが今回の件をなかった事にしようとしてるって勘違いしていたんだね?
「どういう事!?」
オルネース様が血相を変えて詰め寄る。ああ、よかった。この人は無関係だ。あたしのメイド達が子細を説明する。その瞬間、世界が変わったような感覚があった。ほぼ反射で自分とメイド達を魔力で包む。
「………貴様らは首だ。命が惜しいなら、即刻郷里にでもどこにでも行け!」
凄まじい怒りの魔力が放出され、馬鹿なメイド達が床や壁に張り付いたような姿になる。オルネース様の護衛らしき人達は辛うじて耐えているが厳しそうなので、ついでにあたしの魔力で保護してあげた。なんか、ポカーンとしてるけど……なんで?しかし今はそれよりもオルネース様の怒りを鎮めなきゃかな。なんか壁や床がミシミシいい始めている。どうすべきかな?とりあえず話しかけてみよう。
「オルネース様」
「ごめんなさい……怪我はない?」
話しかけた瞬間に怒りは霧散し、悲しみや心配が魔力を通して伝わってくる。とても優しい魔力だ。
「ありませんわ。オルネース様、わたくしを見くびらないでいただきたいわ!」
「………………………は?」
「わたくしは、オルネース様の婚約者ですのよ?つまり、魔王妃候補です。この程度の火の粉を処理できない女に、魔王妃など務まりませんわ!この残念なメイド達はわたくしが調教じゃなかった……再教育いたしますわ!どこに出しても恥ずかしくないメイドにして差し上げます!」
そう、このぐらいは想定内だ。あたしは徹底抗戦する。この程度の嫌がらせに対応できないと思われるのは心外だ。やられてしくしく泣くようなお嬢さまじゃないんだよ!
「…………そう。そうね、非礼をお詫びいたします。使用人の教育は、貴女に一任いたしましょう。正式に通達を出します。貴女を魔王妃候補ではなく、魔王妃として扱うようにと。ただ、お恥ずかしい話ですが……その件について説明せねばならないことがございます。立ち話ではなく、今度こそ私とお茶をしながら聞いていただけますか?」
「喜んで」
オルネース様はなかなかに話がわかるらしい。流石はあたしの旦那様候補。魔王妃として扱うように通達されれば、あたしもやりやすくなる。ただの客人ではなく、上司になるわけだからね。さらに、あたしを亡き者にしたい輩も動くだろう。うふふふ、楽しみだ。
オルネース様にエスコートされて来たのは、城の中庭にあるテーブル。庭園は整備されていない部分がほとんどだが、この区画だけは綺麗に整えられていた。人払いをされ、完全に二人きり。ちょっとだけ緊張するなあ。
ちなみに、部屋と馬鹿の指導はうちのメイド達に任せておいた。うちの子達は有能だから、問題ないだろう。しっかり絞っておきますと笑っていた。
「さて、何から話そうかしら……」
お茶を淹れながら思案するオルネース様。確かこの人、ゲームでもお茶を淹れるのが趣味だった気がする。お茶をひと口飲んでみたら、イチゴミルク風味が口のなかに広がった。オルネース様の紅茶は、すっごくおいしかった。これには、甘さ控えめスコーンが合いそう。
「オルネース様、お菓子を出していい?この紅茶に合いそうなお菓子があるんだ」
「え?」
学校で女子達からよくおやつをねだられるので、持ち歩く癖がついてしまったのだ。時間停止と空間拡張を付与したポーチには、常になにかしらお菓子が入っている。そこからスコーンを取り出した。スコーンはまだほんのりと温かかった。
「どうぞ」
「……ええ。いただくわ……………うま!超うまい!!あのオイナリサン?も美味しかったけど、これもうまいな!」
オルネース様、可愛い。彼の本質は確かオネエではないせいか、少年のような口調になっている。無意識なのかな?こちらとしても、作ったおやつを喜ばれるのは嬉しい。
「喜んでもらえたみたいで、嬉しいよ。オルネース様の紅茶も、すごくおいしかったよ」
だからあたしも、心からの笑顔と一緒にそう言った。色々問題はありそうだけど、あたし達は上手くやれると思った。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!




