どうか、素敵な未来でありますように
オルネース様が残念な弟を拉致していなくなった途端、女子達に囲まれてしまった。
「ユーリフィアン様、どういうことですの!?」
「ま、まさか……まさか魔族領に!?」
「何か脅されていますの!?」
「何故上位貴族のユーリフィアン様が!??」
「やはり…………脅迫…………」
「違いますわ。今回の婚約話は、わたくしの意思です。オルネース殿下の使者殿がお困りでしたし、わたくしも魔族領に興味がありましたの」
皆ポカーンとしていた。そんなに変なことを言っただろうか?
「だって、異種族の文化を知る機会なんて、そうそうありませんわ。教科書にはない知識でしょう?ふふ、皆様にお伝えする日が楽しみですわ」
『ユーリフィアン様あああああああ!!』
女子達に泣かれてしまった。いや、だからあたしは嫌々婚約するわけじゃないからね?その誤解がなかなか解けない。強がってるわけでもなんでもなく、本当に楽しみなんだよ。どうしたら伝わるのかな?
「………この国は、魔族領からの援助で成り立っています」
うん。切り口を変えてみよう。これも決して、嘘ではない。あたしの意見だから。実際、王妃候補として国政に携わってきたあたしに……ユーリフィアン=ヒールには、よく見えていた。
「一方的に与えられるだけの関係など、すぐに破綻しますわ。ですから、きちんと知らなくてはならないのです。魔族領に必要なものは何か。我が国からも与えられるものを模索しなくてはならぬのですわ」
『ユーリフィアン様……』
「わ、わたくし、調べますわ!」
「わたくしも!」
「ユーリフィアン様のために……」
『ユーリフィアン様のために!!』
そう言うと、友人達はいなくなってしまった。通じたような、そうでもないような…………?とりあえずオルネース様を敵視してないみたいだから………いいか。
「ユーリフィアン様!」
「えっ………と…………」
誰?マジでわからん。わりとユーリフィアンって他人に興味がないからなあ………。
「魔族に………魔王に嫁ぐなど………私は以前から貴女をお慕いしていたのです!どうか私と……」
「早速悪い虫が寄ってきたようですね、ユーリフィアン嬢」
「あら、悪い虫にもなれませんわ。少しだけお待ちになってくださいましね」
顔面蒼白で震える青年に、はっきりと告げた。
「ごめんなさい。わたくし、貴方が誰だかわかりませんの。それに、今さらわたくしを好きだった……だなんてムシのいい話だと思いませんこと?わたくしが多人数で責められているときに傍観しているような殿方に、嫁ぎたいとは思いませんわ。不誠実な男は、もうこりごり」
「ユーリフィアン嬢!?」
別にその場でなくとも機会はあったはず。不誠実な男が嫌なのは本当だ。あたしは都合がいい女になんてなりたくない。
「ですから、わたくしは貴方を選びません。オルネース様、行きましょう」
愚かな男に背を向けて、真っ直ぐに美しいパートナーを見つめる。
「ああ、行こう」
いやあ、あたしってメンクイだったんだな。オルネース様っていくら眺めても飽きないわぁ。
「その………何かおかしいだろうか」
「いいえ」
「では何故、そんなに見るんだ」
「……多分、ですが……オルネース様の見た目が好ましいからです。駄目でしょうか」
あ、耳がピンとした。なんだかソワソワしている。可愛い。
「駄目ではない、が………」
今度はオルネース様がじっとこちらを見つめる。嫌ではないが、落ち着かないし顔が赤くなる。
「落ち着かないだろう」
いや、マジ可愛い。ちょっとイタズラっぽく笑う顔、素晴らしい。ただ、落ち着かないのはわかった。あまり見すぎないようにしよう。
「そうですわね」
そんな会話をしていたら、ダンスタイムが始まったらしい。何故か王太子はヒーロイ嬢ではなく王妃様とファーストダンスをしていた。
この夜会はヒーロイ嬢との婚約発表をするためではなかったのか?これでは『今の王太子に婚約者はいない』とアピールしているようなものだ。どういうつもりなのだろうか?まさか、私への配慮アピール?うーん……わからん。
「ユーリフィアン嬢」
「あ、はい」
声をかけられて、オルネース様へ意識が戻る。オルネース様に手を引かれた。
「踊ろう」
本来、ファーストダンスが終わってからダンスタイムとなる。だからまだなのだが……?
「いえ、まだでは……?」
その細身な身体のどこから?と思うほどの力で手を引かれ、前代未聞のダブルファーストダンスが開始されてしまった。
ヤス兄が『何しとんの!?』と言っている。不可抗力だよ。あたしは多分悪くないよ。
「すまない、ユーリフィアン嬢」
「はい?」
「弟に、嫉妬したんだ。ファーストダンスを踊るのは一組だけだと……ちゃんと知っている。巻き込んですまない。見つめられると落ち着かないと言っておきながら、君が弟を見つめるのは嫌だった」
「ふぇい?」
あ、やべ。予想外すぎて変な声が出た。いやもう、やめてほしい。こんな逃げ場がないダンスタイム中(しかも中座できない)に、挙動不審になるしかない台詞を言うのはやめようよ!
ただ、誤解を招いたかもしれないから修正しておいた。
「わたくし、王太子殿下への未練はございませんわ。ただ、彼が妻にと望んだご令嬢とダンスをするのではないかと……」
一瞬殺気を感じたので、そちらを見たら……いた。般若を彷彿とさせる形相だ。可愛いヒロイン顔が台無しである。どうやらまだハゲの呪いを受けているらしい。本来の髪色ではないかつらをしている。あたしの視線で気がついたらしいオルネース様は、ヒーロイ嬢をちらりと見て鼻で笑った。
「我が弟ながら………見る目がないな」
その一言が、ものすごく嬉しくて……すごく胸が締めつけられた。変な顔になってないかな。泣き笑いみたいな表情になったかも。
「ええ、わたくしも……そう思います」
この人を選んだあたしは、見る目があるとこの時に確信した。
最近ストックが尽きてまして、当面不定期更新になりそうです。なるべく定期的に出せるよう、頑張ります。




