関わりたくない奴に限って寄ってくる
最近、なんか視界にチラチラしている気がする。気のせいだと思いたい。
「またですわ」
「ユーリフィアン様に謝罪をしたいとか?」
令嬢達がヒソヒソと噂しているのは、攻略対象のネークラスト=モルヤシス。優秀な魔法使いだが……実際は根暗でモヤシっ子な研究オタクである。最近ヒーロイ嬢ではなくあたしの周囲をやたらとウロチョロしている。
「ネークラスト、何をしている」
「王太子殿下………えっと……観察をしています」
あまりにもうろつくモルヤシスに、王太子が声をかけていた。観察って何さ。
「かんさつ」
「はい。ユーリフィアン様は魔力波長が急激に変化しました。とても興味深いのです」
「…………そうか」
あ、王太子が諦めた。根性がないな。あたしもモルヤシス自身はただヒーロイ嬢が聖女だから一緒にいただけだと知っている。なので、仕返しする気は今のところない。禿げたのはあたしのせいじゃないからノーカウントだ。
「それに、精霊様もいます」
「そのせいで禿げたがな」
「すごい呪いですよね!解呪しても感知できるみたいで、また禿げるんです!でも頭皮は荒れないし、毛だけ生えないんですよ!緑の精霊は植物だけが力の範疇だと思っていたのですが、毛も操れるなんて大発見です!!」
うん、そこはあたしも知らなかったよ。
「……………そうか」
諦めたというか、諦めざるをえないタイプなんだな。自分の毛髪よりも魔法や呪いが気になるんだね。王太子の疲労が増しているのがわかる。
「ええと……そうして中途半端に隠れながら観察するのはやめなさい。完全に不審者だから。話しかけたければ、話してみたらいい」
「いえ、僕はユーリフィアン様に嫌われてますから。やらかしたことも理解してますし、話しかける資格なんか無いですよ。むしろ、あんなことをしでかしておいて普通に話しかけているノウルキンスがおかしいと思います」
「………………………………………そうだな」
だからって観察するのはやめろ。王太子もいいように転がされるんじゃない。論点がずれてるから。話しかけられないから観察するって、おかしいから。
「モルヤシス様、お話がございます」
「……えっと……その……ネークラストは繊細だから、ほどほどにな?」
王太子はあたしを何だと思っているのだろうか。
「善処いたします」
王太子が『あ、駄目だ』って顔をしていた。失礼な男だな、まったく。
放課後の空き教室で話をすることにした。二人きりはまずいのでマトモな人間にも化けられたポッポ(なんと美少女姿)が同席してくれた。部外者なのに大丈夫かと確認したら、認識阻害の魔法があるから平気とのこと。無駄にスペックが高いな。そもそも最初からこの姿で来れば殴られなかったのに、残念な神の使いである。
「優音さん、思考が筒抜けですからね?誰が残念ですか、誰が」
「何のことですの?」
他人の思考を覗いたりするからそうなるんだよ。わざとだよ、バーカバーカ。
「ひ、酷い」
「お、お話ってなんでしょうか」
あたしがせっかくポッポちゃんとの漫才で場をあたためてやったというのに、空気が読めない根暗野郎が話しかけてきた。やたらオドオドしている。
「ええ。わたくし、急に魔力が増えたので制御が上手くいかなくなってしまったのです。ですから、制御を教えてくださいませんか?」
「は?」
面倒だから、観察されるなら関わることにした。こいつ、魔法の天才らしいからどうにかしてくれるんじゃないかな?魔法の制御が下手すぎる件については、すごく困ってたし。魔力水を作るたびに暴発しそうになるのをどうにかしたい。
「対価は、可能な限り貴方の質問に答えることですわ」
「よろしくお願いいたします!」
モルヤシスはためらいなく土下座した。目的のためなら、プライドをポイ捨てできるタイプらしい。こいつとはほとんど関わっていないらしく、ユーリフィアンの記憶にも顔と名前と王太子の取り巻きだってぐらいしかデータがない。会話した記憶がない。
「先ず、魔力コントロールに関してですが……」
声が小さくて聞き取りにくいが、モルヤシスの説明はわかりやすくて丁寧だった。ただ、理解していてもできるかどうかはまた別問題である。内部への魔法が問題ないなら、放出もできるはずなのだが、やはり出すぎてしまう。
「………んん………少し視てもよろしいですか?もう一度やってみてください」
魔力水を作ったのだが……手の平大がプールぐらいになっている。むしろ悪化してないか?仕方がないので圧縮してみたら、なんか塊になった。
「「……………………」」
塊を拾ってみたが、凍ったわけではないらしい。
「マスター、魔力が結晶化するってどうなってるんできゅか?」
樹たんが、超真顔だった。いや、知らんよ。もしや錬金釜さん?錬金釜さんが仕事しちゃった?
「多分、ですが……ユーリフィアン様は魔力過多なのではないですか?流石に内部でやると中から破裂しかねないので普通に発動するけど、溜まりすぎた魔力を少しでも出すため、無意識に多く放出するのでは?」
「つまり、ある程度発散すれば普通に使えますの?」
「理論上、恐らくは」
「なるほど………では、実験いたしましょう!」
「そうですね!」
そんなわけで、我が領地の農家さんから畑をお借りした。樹がいるから、緑の魔法が一番コントロールがきくというか………万が一失敗しても樹がフォローできるからどうにかなる、というのが理由だ。やるのは簡単な成長促進魔法。ただし、見渡す限りのだだっ広い畑全部に魔法をかける。
ちゃんと範囲内でおさまった。
「モルヤシス様………」
「成功ですが……もはや人類として魔力がヤバすぎません?」
でも芽を出すだけのはずが、全部収穫できるようになってしまった。ポッポが白目をむいていた。美少女が台無しだ。
農家の人には謝罪して収穫をお手伝いしたのだが、逆にすごく喜ばれた。頼まれたので、他の畑にも魔法をかけた。かけまくった。領地の畑ほとんどを収穫可能にした辺りで、感覚が変わってきた。
「あれ?」
なんかこう、綿でくるまれてた感じから、普通になったような。身体が軽い気がする。そこから普通に魔法が使えるようになった。
しかし、翌日には元通りだった。解せぬ。
「対策を考えましょう!」
モルヤシスは楽しそうだったので、任せてみる事にした。ところで、昨日からポッポ(鳩姿)が白目をむいたままなんだが。何がそんなにショックなんだろうか。解せぬ。




