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兵糧ぜめは基本です。

 すばやく馬車に飛び乗り、我が家お抱えの弁護士を手配した。使用人はユーリフィアンに同情するものが多く、協力的だ。御者にざっくり事情を話したら、すぐにお抱え弁護士の事務所に連れていってくれた。


「お嬢様、めっっちゃ搾り取りますから、臨時報酬をはずんでくださいね!」


「ふふ、お前の働き次第ね。期待しているわよ」


 そして向かうは、当然お城。早急に慰謝料をいただかねばならない。即金よりは分割で。さらに『ヒール家』ではなく『ユーリフィアン個人』に貰えるようにしなくてはならない。けっこうガチで、ユーリフィアンの現状はまずいことになっている。


 城は顔パスだ。気が利く御者が、私が弁護士に説明している間に陛下へのアポイントメントを取ってくれていた。謁見の間に行く途中、魔族の青年とすれ違った。艶々な黒髪とふかふかしてそうな素敵な尻尾。犬や猫ではなく狐………かな?身体はしなやかで、どこか中性的な美しさだ。


「…あまりジロジロ見るな。そんなに気味が悪いか?」


「あら、失礼しました。綺麗な毛並みだなぁとみとれておりましたの。特にその尻尾…素敵ですね」


「…………………………は?」


「お嬢様、早く行きましょう」


「そうね、陛下をお待たせするわけにはまいりませんもの。不躾に見てしまい申し訳ありませんでした。失礼しますわ」


 まだ呆けている青年を放置して、謁見の間の扉に向かった。あのフカフカ…いつか触れないだろうか。



 謁見の間では国王夫妻が待っていた。すでに婚約破棄について情報を得たのだろう。王妃様が駆け寄ってきた。


「ああ……ユーリフィアン、本当にごめんなさいね」


 国王夫妻との仲は良好だった。本当はあの王太子とも仲が良かった。少しずつすれ違い、気がつけば大きすぎる溝ができていたのだ。


「王妃様…もったいなきお言葉にございます」


 特に、王妃様には可愛がられていた。優しく抱きしめてくれる腕。とても温かい。こんな優しいお母さんがいるなんて、あの馬鹿王太子が羨ましい。


「そちらの男性は?」


「彼はヒール家お抱えの弁護士です。実は…このままだと家を追い出されるか、金持ちの後妻あたりに出されそうなのです」


 ユーリフィアンは実父との折り合いが超悪い。現実にありえる話なのだ。


「そんな!貴女はこんなにも素晴らしい娘なのに!」


 ショックを受けた王妃様に淡々と事実を伝える。


「…わたくしは母の命と引き換えに産まれました。だから父は、わたくしが母を殺したと申しております」

「ユーリ!そんなことはなくてよ!貴女の母は、ユフィは…貴女の誕生を心待ちにしていたの!身体が弱い彼女は、少しでも旦那様に家族を遺してあげたいと……ああ、なんてことなの!?」


「わたくしも、一部の使用人達からそう聞かされております。ですが、わたくしの出産が母の死期を早めたのは事実です」


「ユーリ……」


 泣いてくれる王妃様に、なので生活費にするから慰謝料くださいとは言いにくい。どうしたものか。


「そなたの父は、本当に母に惚れていた。恐らく、そなたの言葉は事実であろう。余もそなたが馬鹿息子のせいで路頭に迷うのは本意ではない。すまなかった…金で解決とはいかぬが、あって困るものではあるまい。最大限融通しよう。これはそなたへの詫びであり…臣下として我らに仕えてくれていた礼であり、王妃教育をほぼ終了していたそなたへの口止めだ」


「陛下……」


 それまで黙っていた国王陛下のおかげで、あたしというかユーリフィアンが路頭に迷うことはなさそうだ。ありがとう、陛下!すいません!そのためにここに来ました!話が早くてありがたい!!


 ユーリフィアンには敵が多い。しかし、味方も確かにいる。自然と笑顔になった。


「ありがとう、ございます」


 その後、弁護士が慰謝料の相場を計算した。城の顧問弁護士との話し合いとなるため、別室にて待つことになったのだが…暇だ。彼にはすでにあたしの意向を伝えてある。ユーリフィアンの記憶によれば有能な男らしいので、任せても問題あるまい。

 今後、私と王太子は敵対する可能性がある。だから私は慰謝料をゲットしつつ、奴に兵糧ぜめを仕掛けることにした。最低限以外の王太子予算をいただいちゃうのだ。これはヒール家を蔑ろにしていないというポーズにもなるし、馬鹿王太子への罰にもなるから、陛下も了承した。

 問題は、どれだけ搾り取るかということと、奴が廃王太子になった場合の額、いつまで支払するかだね。離席することを告げ、小難しい話から解放される。




 のんびり散歩していたら、庭園をぼんやり眺める人を見つけた。


「あ」


「あら、また会いましたわね」


 さっきのモフモフ魔族さんだ。今は敵意がないらしく、なんかモジモジしている。トイレかな?イケメンだが、耳のせいか可愛い気がする。


「あー、えっと…さっき、悪かったな」


「さっき?」


 彼は何かしただろうか。あたしがジロジロ見たのを咎められたので謝罪しただけだ。相手にどう考えても非はない。


「お前は悪気がなかったんだろ。ここは嫌なやつばっかりだから、過敏になってた。嫌な態度をとった、から…悪かった」


「まあ……」


 すごくいい奴だな!しかし、魔族ということは、魔王様の使いなのかな?

 この世界の討伐される魔王は、あの馬鹿王太子の兄だ。名前は…そうそう。オルネース=エスト=オルトメルゲ。なかなか個性的な魔王様なんだよねぇ。とある事件で魔王化するんだけど、今はまだ大丈夫。あと一年ある。


「……その、なんか言えよ」


 いかんいかん。意識が明後日に飛んでたわ。


「謝罪、お受けいたします。わたくしこそ、不躾に見てしまって申し訳ございませんでしたわ」


「…その謝罪はさっきも聞いた。えっと、あんたも綺麗だな」


「でしょう!?ですよね!貴方、なかなかお目が高いですわ!!」


 ユーリフィアンはそれはもう美しい。心労のためか鏡にうつるユーリフィアンはやつれていたが、それでもなお凛とした百合のごとき美しさだ。ユーリフィアンの容姿を褒めてくれるなんて、本当にいいやつだ!


「お嬢様、ナルシストだったんすか?」


 話し合いが終わった弁護士が戻ってきた。今の雇い主はあたしなんだが、貴族にその暴言はありなのか?とりあえずユーリフィアンがナルシストのレッテルを貼られては困るので反論した。


「違うわ。でも努力を認められたら嬉しいでしょう?スキンケアにボディラインの保持…美とは努力なしでは保てないのです!」


「そうだな。その通りだ」


 モフモフ青年にスキンケアなんかの面倒さが解るとは思えないが、彼は真面目に頷いた。魔族である彼に弁護士は驚いたようだが、それを表面に出すことはなかった。


「まあ、いいっすけど。ここじゃなんですから、別室で書類確認してください。最終的にお嬢様のサインがいるんで呼びに来たんですよ」


「わかったわ。では、ごきげんよう」


 王太子には食費と学用品費、衣装代(ただしかなり少ない)のみが残り、他はすべてユーリフィアンに。さらに廃太子となっても続く。廃太子になると減額されるのは仕方ない。恐らくこれには、また馬鹿な事をできないよう金を与えないという意図もあるとみた。

 期限はユーリフィアンが成人し、ちゃんとした相手と結婚するまでとなった。予想よりもかなりいい条件だ。半年ぐらいで予測していた一括の慰謝料に届いてしまう。しかも、最悪ヒール公爵家に絶縁されたら王家が引き取ってくれるそうな。ラッキー!


 そして弁護士と別れ家に帰るのだが…モフモフ青年の名前を聞くの忘れたことに気がついた。

 まぁいいか。きっと、また会うだろう。

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