脳筋は直感で生きている
ホルソマッチョ氏ぼろ負け事件から、数日。
「ユーリ!一緒に鍛練しようぜ!」
「ユーリ!一緒にメシ食いに行こうぜ!」
「ユーリ!」
「ホルソマッチョ様」
何故かホルソマッチョはやたらとあたしにかまってくる。
「なんだ?」
そして悪気がないだけに、邪険にしにくい。ちくしょう、小動物みたいな汚れのない目で見るなよ!
「わたくし、ホルソマッチョ様と縁を切ると申したつもりだったのですが」
「そうなのか?」
「はい」
そうなんだよ。通じてなかったみたいだがな。まあ、あっちでこっちをチラ見してはため息吐いてる殿下よりはマシだけども。辛気くさいんだよ。ウザいんだよ。そっちよりはマシだけども。
「謝るから許してくれ!」
「わたくし、下手をしたら殺されておりましたのよ?どうにかひっくり返しましたが、そんな裏切りをする相手と仲良くしたくありません」
「………そうか。なら、信用してもらえるように頑張るぞ!」
「……………………はあ」
通じないわああ。まあ、もういいか。こいつは馬鹿だから殿下に同調して流されちゃっただけだし。ゾクッと悪寒がしたので背後を見た。
「……………………」
ヒーロイ嬢が鬼の形相でにらみつけていた。こわっ!ホラーひょっこり□んだ!あたしがビクッとしたから殿下もヒーロイ嬢に気がついた。殿下もドン引きしているようだ。
「どうした?ジュリア。すげー顔怖いぞ」
ホルソマッチョ、お前はオブラートに包むという言葉を理解して実践した方がいいぞ。面白いから許すけど。よく言った!
「ノウルキンス様があまりにもユーリフィアン様と仲良くしてらっしゃるから、ヤキモチをやいちゃいました」
スゲーわ。演技力、スゲーわ。鬼婆から可憐な乙女にジョブチェンジしやがったわ。でもさ、ホルソマッチョはともかく殿下は騙されなかったみたい。スゲー白い目で見てるよ。
そういえば毛は………カツラと付けまつげか。なるほど。
「俺か?俺は今、ユーリに悪いことをしたから謝って許してもらおうとしてるんだ!ジュリアはちゃんとユーリに謝ったのか?お前、ユーリにスゲー酷いことしたろ」
「……………え?」
一瞬だけ、完璧な可愛い仮面が剥がれた。そんな気がした。明らかにヒーロイ嬢、顔がひきつっていたよ。ついでに毛を生やしてカツラを浮かすのをやめようね、樹たん。
「私は何もしてません!信じてくださらないんですか!?」
「んー?」
ホルソマッチョは頭をガリガリ掻いて首をかしげた。
「ジュリアがユーリを嵌めたのは事実だろ?それに関しては俺らも裏をとらなかったし、ちゃんとユーリの言い分を聞かなかったから同罪だ。ジュリアはユーリにいじめられてると勘違いしたからやり返そうとしたんだろ?違うのか??」
「それ、は……」
「今、ユーリの庇護が無くなってキツいのはわかるよ。元通りになんかならないから無駄かもしんないけど、悪いことしたんだから謝らないと」
小さな子供みたいな言い分だが………正論だ。このままではヒーロイ男爵家は潰されるだろう。少なくとも彼女が非を認め、更正しようとするなら多少はマシになるだろうが……無理じゃね?
だって、あいつは怒りで震えているから。
「もうしわけ、ありません、でした」
それでも謝罪してみせた。あたかも『無理矢理頭を下げろと要求された可憐な乙女』のように震えながら。でもカツラがずれてるからギャグでしかないよ。やめて、笑わせないでよ樹たん。
「それは、何に対しての謝罪ですの?」
純粋に疑問だったので聞いてみた。
「……………え?」
「その謝罪は、わたくしを殺そうとしたことを認める……ということですの?」
教室内がシンと静まりかえった。んん?違うの?
「殿下を寝盗った事への謝罪ですの?」
「えふ!?」
殿下がむせた。え?バレてないと思っていたわけ?
「殿下、一応忠告しておきますが、殿下達は監視されていますのよ?行動はやろうと思えば筒抜けですわ。彼女が婚約もしていないのに懐妊しては可哀想だから、せめて側妃になれるようにと動いたのですが……逆恨みされた結果が………殿下との婚約破棄ですわ」
「つまり、ジュリアは恩を仇で返したのか!ヤバいぞ、ジュリア!本気で謝っとけ!」
「……私は………悪いことなんか、してない。ただ、好きになっただけです!」
「だからって、他人の婚約者を略奪していいのですか?あんなに大勢がいる前で辱しめる必要はなかったでしょう。この世界は夢物語ではないのです。現実を見なさい。わたくしも、貴女も、物語の役者ではなく……生きた人間ですのよ」
「!!」
彼女は、多分初めて『あたし』を見た。認識した。悪役令嬢ユーリフィアンではなく『あたし』を。
「心の伴わない謝罪は不要ですわ。自分は悪くないというのが本音でしょう?わたくしも貴女にきつくあたった自覚はございます。わたくし『は』貴女に何もしません。頑張ってくださいませ」
そう、あたしは何もしない。だが、周囲は色々するだろう。すでにヒール家は報復行為を開始している。ヒーロイ男爵家の没落は時間の問題だ。聖女だから没落はしないかもしれないが、実家は大変なことになるだろう。知っていても、教えてあげない。それこそが、あたしの復讐なのだから。
「……なんか違和感があったんだよな。そっか、ジュリアは俺達を人間だと思ってなかったんだな」
「な!?なんでそうなるんです!??」
予想外に的を射たホルソマッチョの発言に、ヒーロイ嬢だけでなく私も殿下も驚いた。殿下が驚いたのは別の理由だろう。
「え?ジュリアはさぁ、たまに『こう考えてるだろ』とか『こんなことあったよね』って、話してないことを言ったりするんだ。ずっと違和感があったんだよな。何か、似た物語のキャラとかに当てはめてたんだな。だから『俺』を見てない気がしたんだ」
脳筋は直感で生きている。だからたまに、とてつもなく鋭い。しかし、これを認めたら超痛い子だ。かといって事実を伝えたら、超弩級の痛い子だ。どうするんだろう。口元がにやけそうになるのを隠すため、扇子を使った。やっべ、面白いわ。
「そんな事、ありません。私は皆さんを愛しています!」
「その言葉に嘘はないけど、ジュリアの愛は薄く広くって感じだよな。だって、たくさん好きで、全部愛してるんだろ?」
親友の小田郡を思い出す。小田郡も俺の嫁がたくさんいるタイプだ。皆違って皆いいって言ってた。薄いかは知らんが、現実でソレをガチにやったらただの軽い女だよなぁ。アイドルみたく好きなだけならともかくも。
「そんなことありません!私の愛は無限大です!!」
ヒーロイ嬢はそう言って走り去った。あたしも猛ダッシュで走り去り、人気のない裏庭で樹たんに結界をはっていただいた。
「ぶははははははははははは!!ぎゃーっははははははははははは!!だはははははははははは!!ぐふっ、がはっ!!」
「マスター、笑いすぎっきゅ………きゅふふ」
「だっ、おま!無限大って!しかもあそこで鼻毛ボンバボン……ぐひゅっ………」
ヒーロイ嬢の中二な台詞にもウケたが、最後の最後で樹の悪戯が炸裂してしまった。無限大の鼻毛がボンバボンしたのである。衝撃…否、笑撃映像だった。あたし的に笑いのツボへストライクを決められてしまい、しばらく笑いが止まらなかった。
笑い過ぎて泣きはらしたように見えるあたしを、クラスメイトが慰めてくれた。まさか爆笑したからだとは言えず、ちょっと罪悪感を感じたのだった。
ちなみに、遠目から鼻毛ボンバボンは見えなかったらしいっすよ。ノウルキンスは近くにいたので、固まっていたそうです。彼的には衝撃映像だったらしいです。




