貴方の正義は、人を傷つけた
わざとではない、とはいえあたしが脳味噌筋肉……じゃなかった。ノウルキンスをブッ飛ばしたので医務室に運んであげることにした。生回復魔法が見たいなんて……だいぶ思っている。
とりあえず、お姫様抱っこで医務室に運搬する事にした。嫌がらせである。
ちなみに、放出系魔法は不得手だが、内面……つまり身体強化魔法はかなり使えるようになった。なので、ノウルキンスを軽々とお姫様抱っこしている。
「ま、待て待て待て!」
「はい」
教官が必死だ。何か問題があっただろうか。
「何故その運び方なんだ!?」
「腹部を怪我しておりますので担げませんし、意識がない相手をおぶるのは無理ですし……一部を引きずりますわ」
それから、後で私にやられたあげくお姫様抱っこで医務室に運搬されたと噂になればいいと思ったんだ。細やかな嫌がらせも忘れないよ!
「………………………そうか」
教官は説得を諦めたらしい。医務室にノウルキンスを運び、治癒していただいた。治癒魔法は綺麗だった。ちなみに、ノウルキンスは肋骨が折れていた。加減できるよう訓練しよう。そうしよう。
「…………う」
流石は頑丈が取り柄の男。すぐに目が覚めた。
「俺は………負けたのか」
「はい。油断しすぎですわ。実力が未知数な相手とやりあうのです。それも、剣対徒手空拳のイレギュラーな対戦。貴方の敗因は、わたくしの実力を知らないのに見た目で侮ったことですわ」
「…………そうだな」
剣対剣の正式な試合なら、恐らく勝てなかった。それから、多分こいつはケンカ慣れしていない。正式な試合でなければ、フルプレートメイルというハンデがなくともあたしが勝つだろう。
「それから、貴方はイレギュラーな戦闘に慣れていないでしょう。戦場では奇襲や、未知の武器を扱うものもいるはずですわ。慢心するにはまだ早くてよ。貴方は同年代で頭ひとつ抜けているだけ。まだ弱いのですわ」
「………返す言葉もない」
憑き物が落ちたかのように、素直に話を聞くノウルキンス。そういや、こいつは武術パラメーターを上げないと出会えないんだよね。事故でヒロインから重たい一撃をくらい、そこから興味を持たれるのだ。
「……それから、一つうかがいたいわ」
「……なんだろうか」
「何故、わたくしが傷つかないと決めつけたのですか?」
「…………は?」
「わたくしの罪は、ほとんどが冤罪でしたのよ。幼馴染と婚約者に裏切られたわたくしが、傷つかないとでも?」
ノウルキンスは目を見開いて固まった。何も言えないようなので遠慮なく続ける。
「わたくしは違うと何度も訴えましたわ。なのに、貴方も殿下も信じてくださいませんでした。それどころか、わたくし一人を複数で貶めようとしましたわ」
「う……」
「貴方はヒーロイ嬢だけを信じ、結果として彼女の悪意に荷担しました。そして彼女が望むままにわたくしを傷つけた。わたくしは、家名を傷つけられるわけにはいかなかったので、耐えました。だけど……あの場でとても傷ついていましたのよ。複数でわたくしを痛めつけるのは、楽しかったですか?」
そう、ユーリフィアンとこいつは普通に仲がよかった。そんなつもりではなかったとノウルキンスは呟いた。根は善良な男だ。だからこそ、あたしの言葉に反論しない。だからといって、許す気にはなれないが。
樹に頼んで毛は戻してやった。さっきからノウルキンスは気がついてないけど、毛が頭頂で三本(しかも一本枝毛)になっていたり、変な生え方をしているから、笑いそうだ。年末の笑ったらいけない奴みたいでとてつもなく厳しい。
どうにか笑いをこらえてノウルキンスに話した。
「それから、貴方はもう殿下の側にいるべきではないわ」
「は?」
「殿下が間違えたなら、それを正していさめるのが側近の役目。貴方は逆に、殿下と暴走してしまいました。今、殿下の立場はとてつもなく危うい。迂闊な貴方は足を引っ張るでしょうね。離れている方が助けになるわ。殿下はもう、貴方のフォローをできませんのよ。自分で手一杯なのですから」
「う……………」
「ねえ、ノウルキンス。幼く貧しい娘が病気の母を救うために薬を盗みました。これは、罪?」
「………いや、病気の母を救うためなんだ。罪ではあるまい」
「では、薬屋は盗まれても仕方ないのですね。貴方は盗人を見逃すと言うことですわね」
「……………」
「薬屋にだって生活がございます。毎度盗まれては、潰れてしまうでしょうね」
「な、なら、子供に金を……」
「貴方の給金すべてを貧しい子にあげますの?偽善ですわね。どこからどこまで?飢えた子供はいくらでも居ましてよ。貴方がそれを選別しますの?選ばれなかった子は盗みをしても仕方ないのですか?」
彼は何も思いつかなくなったのだろう。その浅慮こそが、彼の罪だ。
「わたくしの元幼馴染、ノウルキンスに最後の贈り物ですわ。正義は正しくない時もあるのです。わたくしにとって、大多数にとって、貴方のしたことは『悪』でした。貴方の正義が誰かを傷つけることがある。貴方の正義が悪に成りうる。世界は、貴方の見えている範囲だけではないのです。それを、忘れないで」
あたしは立ちあがり、彼に礼をした。マントをスカートみたいにつまんだのはご愛嬌だ。
「では、さようなら『ホルソマッチョ様』」
これが幼馴染として接する最後だとわかりやすく示してやった。そして、あたしは医務室から授業へ戻ったのだが、すっかり他生徒にビビられてしまい、殿下しか練習相手がいなかった。
地味に辛い。
正しく自業自得と思うのは、私だけだろうか(笑)
でも、避けられるのは地味に辛いですよね。




