一生後悔し続けろ
この学校は貴族が多いからか、ちょいちょい休憩が入る。樹はお嬢様達にチヤホヤされ、お菓子をふるまわれていた。しかし、顔をしかめてあたしの方に来た。
「マスター、マスターのお菓子が食べたいっきゅ。マスターのお菓子が一番おいしいっきゅ」
「そう?じゃあ、これ」
樹に量産したクッキーを渡す。あたしの菓子がうまいというよりは、こっちの菓子が甘すぎるんだよな。紅茶も甘いし、けっこうつらい。なので申し訳ないけど、お断りして自前のお茶を飲んでいるぐらいだ。あたし、紅茶はノンシュガー派なんだよ。ミルクは入っててよし!うちのメイドはそこを理解してくれているからありがたし。
「おいしいっきゅ~!マスターのお茶も分けてほしいっきゅ」
「はいよ」
樹用のミニカップに紅茶を分けてやった。あたしもクッキーをかじる。ほどよい甘味がミルクティーに合うな。ソワソワしているメイドに、多目に入ったクッキーを渡した。
「後で食べなさい。多目に入ってるからね」
「一生ついていきます!」
大袈裟だなぁ。女子達がキラキラしている。
「……食べますか?わたくしのお手製ですが『ユーリフィアン様のお手製!?』
女子達の瞳がギラギラしている。ちょっと怖い。しかし、クッキーを食べたら幸せそうにしていた。可愛い。女子って可愛いよね。
「ユーリフィアン!」
「……………」
せっかく可愛い女子を眺めて癒されていたのに、残念すぎる王太子が来た。オバ○なヘアスタイルが残念…いや、一本だからオ○Qではなく○次郎か。
「何か?」
「私だけでなく皆にまで呪いをかけるとは!」
あたしじゃなくて、樹がね。そろそろこいつともちゃんと話すべきかな。
「殿下、もしキチンとわたくしの話を聞いてくださるならば、精霊様に呪いの解呪を頼んでみます。いかがですか?」
「………よかろう」
人払いをして、生徒会室のソファに向かい合って腰かける。樹は部屋の外にいてもらった。
「で、話とはなんだ」
「殿下には、あたしが本当にユーリに見えるの?確かにこの身体はユーリフィアンだけど……ある意味一番長く過ごした殿下なら、わかるのではないですか?」
少しだけ殿下が怯んだ。
「もし……もし、貴様がユーリフィアンでないとしたら……貴様は誰だと言うのだ!!」
「優音。あたしの名前は、比留間優音。知らないとは言わせない。ユーリフィアンはアンタに何度も何度も話したはずだよ」
ユーリフィアンの記憶がそう教えてくれる。王太子は真っ青になった。
「ば、馬鹿な!あれはユーリの妄想の産物で……貴様、ユーリを乗っ取ったのか!?それとも、本物の魔女か!!」
剣の切っ先を向けてきた馬鹿な王太子。あたしは冷ややかに見つめている。
「違う。ユーリフィアンを乗っ取ったのなら、なんでカミングアウトする必要があるんだよ。アンタは気がついていなかったのに」
「……それ、は……」
「あたし達はチェンジリング…魂の取り換え子。だから、魂が正しい肉体を求めて混線していた」
王太子が目を見開いた。
「魔力の波動、別物でしょ?だけど、以前のユーリフィアンより安定しているでしょ?それが何よりの証拠なんじゃない?この身体は本来、優音のものだから」
「な、ならば、何故お前は私を憎む。違うとは言わせないぞ!お前は私を憎んでいるだろう!?」
「あはははははははは!!」
本当にこの男は愚かだね。優秀な部分も確かにあったけど……あれだ。勉強『は』できるタイプ。本当に馬鹿。
「な、何がおかしい!」
「憎むに決まってるじゃない。だって、アンタはあたしの大切なユーリフィアンの仇だもの」
「………………は?」
「ねえ、アンタを本気で慕っていた女の子を無実の罪で断罪して殺すのって、どんな気分?」
「ユーリフィアンは無実じゃない!ジュリアに厳しくあたっていただろうが!そもそも殺してなどいない!!」
「ユーリフィアンが怒ったのは、あんまりにもあの女が限度を超えてやらかすからだよ。ユーリフィアンに欠片も嫉妬が無かったとは言わないよ。だけど、彼女のせいでユーリフィアンは色んな人に頭を下げていたんだ。ちょっと調べれば、あの女がどれっっだけユーリフィアンに迷惑をかけていたかがわかるはずだよ。それをしていないのは、アンタの怠慢だ」
深く息を吸った。
「結果、彼女を無実の罪で責めた」
「結局お前がひっくり返したじゃないか!もし、万が一ユーリフィアンが無実だったとして、何故否定しなかった!」
「オル様なら信じてくれる。いつか、きっとわかってくれる……そう思っていたから」
オル様とは、オルレリアン=サマル=オルトメルゲ……つまり、この男の愛称だ。
「ユーリフィアンは信じていたよ。だから裏切られて、絶望して、あたしを呼んで…………………この世界から、消えた」
「………う、嘘だ」
愚かな男は涙を流す。
「お前こそが、咎人だ。他の誰も知らなくても……あたしだけは知っている。下手くそなマスコット、花冠、ガラスの指輪……お前がくれたがらくたを、あの子は大事にしていたよ」
「嘘だ、やめろ!!」
「ねえ、アンタを本気で慕っていた女の子を無実の罪で断罪して殺すのって、どんな気分?」
「やめて…やめてくれええええ!!」
うずくまって泣き叫ぶ、愚かな男。
「本当はね、ユーリフィアンとあたしの入れ替りはもっとずっと先だった。この世界から、ユーリフィアンを消したのは、間違いなくお前だよ。ねえ、どんな気分?偽りの愛のために、大切な女の子を自分の手で消したって理解するのは」
「偽りじゃない!私とジュリアは愛し合っている!」
「ジュリアの一番はアンタじゃないのに?なら、その愛を試そうか。樹~、呪い解いて~」
「がってんしょ~ちできゅ!」
王太子は元の姿になる。
「さて、アンタの大好きなジュリアちゃんは、アンタだけもとに戻っても許してくれるかな?」
「貴様…!」
「あいつもユーリフィアンの仇だから、容赦はしない。自覚があっただけ、向こうの方がタチは悪い」
あいつ、狙った男の前でだけ、かよわくキャピキャピする女子だもんな。
「今さらかもしれないけど、ちゃんと周囲を見なよ。ユーリフィアンの真実に気がつけなかったように、世界は表面だけが全てじゃない。それから、アンタは今、崖っぷちだと理解しな。これからヒール公爵家は全力で敵になる。王太子でい続けるのは難しいだろうね。今アンタが王太子なのは、弟の準備が整ってないから。いつ廃嫡されてもおかしくないんだよ」
「………そんな………私は……」
「よかったね。これで王太子って重責から解放されるよ」
「こ、こんなの望んでない!」
だろうね。知ってる。ジュリアも望んでないだろう。
「でも、自分でユーリフィアンを捨ててジュリアを選んだ結果だよ?やったことには責任を取らなきゃ。あたしはアンタを許さない」
「え」
「一生後悔し続けろ」
それは、本心からの言葉だ。
「ユーリフィアンが……無くしたものがいかに大きいか思い知れ。お前なんかを心の支えにして、心から愛していたユーリフィアンの絶望を考えろ。一生をかけて償おうと、ユーリフィアンの絶望には届かない」
私はそう言うと、生徒会を出ていった。
久しぶりの出番にシリアスセンパイがガッツポーズをしておる。




