連絡をとってみた
何事もなく夜会が終了。帰宅したら騒ぎになってしまった。黒い封筒が我が家に届いたからだ。その黒い封筒は可愛い黒狐さんがくわえている。
「何故…!?」
よくわからないがショックを受けているらしい血縁上の父と兄達。使用人たちに同情されているような気がする。黒狐さんから黒い封筒を受けとる。綺麗な字であたし宛に書かれていた。黒い封筒に白いインクが映えて綺麗。中には黒い便箋。やはり白いインクで書かれていた。
『ユーリフィアン=ヒール様
エルセオルネから話を聞き、貴女にとても興味があります。一ヶ月後の夜会で貴女を是非エスコートしたいのですが、いかかでしょうか?もちろん強制ではありません。ですが、私も貴女と話をしてみたいと望んでおります。お返事、お待ちしています
オルネース=エスト=オルトメルゲ』
「やべぇ、文章イケメン」
「くぉ?」
思わず出た言葉に、慌てて口を塞ぐ。たぶん使い魔な黒狐さんを通して魔王様に伝わっちゃうかもしれない。初めて『あたし』に興味があるという手紙に、不覚にもキュンとした。あたしってチョロかったのかな?
「なぁ、賄賂あげるから魔王様に伝えないで」
「くう?」
錬金釜で作るのは、おいなりさん!狐なら多分好きなはず!
「くううう!!」
予想は当たり、大喜びな黒狐さん。喜びのダンスを披露してくれた。これならさっきの失言は内緒にしておいてくれるだろう。
「お土産にいくつか持っていきな。あ、返事も書かなきゃ」
『初めまして。お話、お受けします。オルネース陛下とお話しできる日を楽しみにしております。
ユーリフィアン=ヒール』
シンプルだけど丁寧に書いたから、いいよね?余ったおいなりさんをハンカチにくるんで首に巻いてあげた。
「はい。これをお願いね」
「くぉん!」
黒狐さんは消えてしまった。
「どういうことや、ユアン!」
「何故魔王からの使者が!?」
「まさか、魔王に嫁ぐつもりか!?」
硬直していたヤス兄、血縁上の父、メガ兄が復活し矢継ぎ早に質問してきた。
「とりあえず話をしたいだけ」
しかし、夜会にエスコートされるのは相手が婚約者または婚約者候補であると周囲に知らせる行為であること。そもそも私が持っている黒い封筒は、魔王の婚約者に渡されるらしい。黒い封筒を使うのは魔王だけなんだそうだ。
魔王は第一王子なのだが、その人外な魔力の高さから魔王として魔族に祭り上げられてしまった。上手く魔族を統括してくれたおかげで、我が国は魔族と友好関係にある。だが、人々は気がついてしまった。魔王はいつまで我々と友好的な関係を築き続けてくれるのか…と。だから、魔王に貢ぎ物をすることにしたのだ。
魔王の婚約者とは、すなわち生贄で人質で……スパイなのである。
苦労していたエルセオルネさんが浮かんだ。そりゃ、泣くわ。ただでさえ心細い魔族領に行かされたあげく、人質だもんな。箱入りお嬢様が耐えられるはずもない。
今や魔王の婚約者は罰ゲームとなっている。誰もなりたがらないから、下位貴族でくじ引きをしているとも聞いた。魔王様、不憫すぎる。
「まあ、昨日の夜会で話しかけてきた男性たちよりは好感を持てるよ。まだ話もしてないからなんとも言えないけど、関わってみたいと思った」
きちんとあたしの意思を確認してくれた文面に、とても好感をもった。
「くあ」
「!??」
またしても黒狐さんが封筒を持ってきた。受けとるついでにちょっとだけモフって……!
「なにこれ、サラツヤ!」
しっとりサラサラな質感!き、気持ちいい!
「くあ?」
可愛い!ぜひ!ぜひ我が家にも欲しい!抱っこしてスリスリするとアワアワ逃げようとしたが、無駄と悟ると大人しくしていた。
「マスター、浮気できゅ!うーわーきーでーきゅー!!」
樹があたしの頭をテシテシ叩く。地味に痛い。樹を捕獲して、黒狐さんと一緒にぎゅうぎゅうしてやった。
「樹は樹で大好きだから浮気じゃないんできゅ~!」
「くああ」
「きゅ~」
「仕方ないので許してあげるできゅ」
「樹、世界一!」
やはりうちの樹が一番可愛い!
「くあ」
黒狐さんに封筒をテシテシされた。もしや、黒狐さんはお返事をいただかねば帰れないのだろうか。とりあえず手紙を確認した。
『返事をありがとうございます。ユーリフィアン嬢に会える日を楽しみにしています。できれば、なのですが……私と、いわゆる文通をしてくれないでしょうか。それから、さきほどの料理、とても美味でした。
オルネース=エスト=オルトメルゲ』
あれは黒狐さんへの貢ぎ物だったのだが……食べたのか。もう一度おいなりさんを作って、こっちは黒狐さんのでこっちは魔王様のだよと教えた。黒狐さんは喜んだ。そしていそいで黒狐さんのおいなりさんをたいらげた。魔王様、まさか……黒狐さんから奪ったのか?いや、まさか……な。
『私でよければ喜んで』と書いた手紙を渡すと、黒狐さんは消えてしまった。
樹や黒狐さんとじゃれて無駄に時間がたったから、呆れられてないか不安になったが、気にしていないようだ。これから楽しくなりそうだな!




