錬金術師は信用が命!
樹について話がまとまった所で、兄達にジャージを渡した。
「こ、これは……!すごいぞ!ユアン、明日から私はこのじゃーじを着て仕事に行く!!」
「それはやめたほうがええよ、さすがに」
「うん、やめようか」
城勤めの兄がジャージで城を歩くのは違和感がありすぎる。おかしいから。
「いや、オコシャスもこの素晴らしいじゃーじの効果を知れば着ていきたくなるはずだ!」
メガ兄がジャージの効果を説明した。
【クルメガネスのジャージセット】
クルメガネス専用装備。フル装備するとリラックス効果があり、肩こり知らず。さらに、魔力・知力・敏捷が二倍に増加する。
【オコシャスのジャージセット】
オコシャス専用装備。フル装備するとリラックス効果があり、疲労を軽減する。さらに身体能力が二倍に増加する。
【ユアンのジャージセット】
ユアン専用装備。フル装備するとリラックス効果があり、疲労がなくなり魔力消費を半分にする。さらに全てのステータスを二倍に増加する。
「…ユアンの、スゴすぎやん」
「……解せぬ」
ただ、フル装備しないと効果がでないのが難点かな。
「うーん、着ていきたいのはやまやまやけど、騎士は制服あるしなぁ…」
いや、ヤス兄まで悩むなよ。着ていくなよ?
「…ユアン、お前のステータスを鑑定していいか?」
「いいよ」
ステータスを勝手に鑑定するのはマナー違反なんだって。まあ、あたしに鑑定スキルはないから別にいいけど。
【ユーリフィアン=ユアン=ヒール】
職業
公爵令嬢 レベル52
空手家 レベル37
錬金術師 レベル?
魔術師 レベル5
スキル
とってもスゴ~い錬金釜(固有)
スウィーツ(固有)
称号
魂の取り換え子
王太子をフッた女
神の使いの愛し子
精霊の愛し子
よし、どこからつっこもうかな??名前…はわかんなくない。公爵令嬢はユーリフィアンの努力と研鑽の賜物だろうな。
あと、王太子はあたしがフッたことになってるんだが……何故?逆じゃね?神の使いは…ポッポか??スキルについては考えたくないわぁ…。
「とりあえず、ユアンのレシピでうちのお抱え錬金術師にさっきのを作らせてみるか。効果が落ちる可能性が高い」
というわけで、我が家のお抱え錬金術師ことレイン=キルティングさんがレシピ通りに作ったミントフレグランスウォーターをメガ兄が鑑定した。
【普通のミントフレグランスウォーター】
爽やかなミントの香りが汚れを浄化する。効果は2~3日。作成者のスキル・練度により差があり。抗菌、消臭、防カビ、防虫作用があり。ある程度の汚れを消し、よせつけない。防虫は虫の魔物にも効果あり。
聖なるではなく、普通のになっている。レシピは同じはずなのだが…魔力水の入れすぎか!?あれだけレシピを無視せざるをえなかったからなぁ…。
「素晴らしいですね!世紀の大発明です!これは絶対売れますよ!特許を取得して我が領地の特産にしましょう!」
レインさんはキラキラしている。大体大貴族にはお抱え錬金術師がいる。化粧品や魔力付与したアイテムを作らせるためだ。それは家ごとに秘伝がある。どの家が何に長けているかについてはなんとなく伝わっているものの、その家の者しか詳細は知らない。秘匿され、当主しか知らない場合もあるらしい。ちなみにうちは薬に長けている。そのためか、ユーリフィアンも化粧品や美容グッズを自作していた。
「…やっぱ、ボトルなんかは用意するんだよねぇ…」
あたしのスキルはやはりおかしかった。そもそも、錬金術にはそれなりの設備が必要だ。あんな大雑把なやり方では確実に失敗するとユーリフィアンの知識が教えてくれた。では何故斜め上に成功するのだろうか。
「え?もちろんです。容器がないと不便ですからね。それにしても、コーキンとはなんでしょうなあ?」
「抗菌?悪臭は元々は菌…目に見えない小さな生き物が汗や皮膚なんかを腐らせて発生させるものだよ。それを近寄らせないってこと。病気とか破傷風を起こすのも菌やウイルス…えっと、ウイルスは菌より小さな生き物だよ」
「……………………」
「そうなん?」
「ユアン…」
ポカーンと口を開けたままのレインさん。
首をかしげるヤス兄。
やっちまった感があるメガ兄。
「世紀の大発見ですよ、お嬢様!新しい医学書の知識ですか!?つまり、このスプレーには病気の予防効果もあるのですね!?」
「…あ、そうかも」
既に体内に入ったものはどうにもならないが、新たな感染は予防できるんじゃないかな?
「…レイン、これから話す事は、他言無用だ。キルティングの血に誓えるか?」
「……はい。このレイン=キルティングはこの命が尽きようともヒール家に…次期当主、クルメガネス様に忠誠を誓います」
錬金術師は誓約で家に命を捧げている。レインさんも例外ではない。錬金術師の秘密は家の生命線だからだ。誓約を違えれば、命を失う。
「ここにいるのはユーリフィアンだが、以前のユーリフィアンじゃない。取り換え子のユアンだ。先ほどの知識は異界の知識…そうだな、ユアン」
「…うん。向こうはこっちみたいに魔法はないけど文明が発達しているんだ。素人のあたしでも、ある程度の知識があるよ」
「そうなんですね!?うわあ、異界のこと、たくさんお話ししてください!超興味があります!」
レインは大喜びしている。陰気な男だが、興味があることにはこんな顔をするのか。ユーリフィアンも知らなかったようだ。
「…そうだな。私も聞きたい。君がどんな場所で育ってきたのかを」
「はいは~い、ボクも聞きたい!」
「ボクも聞きたいできゅ!」
「せ、精霊様!??」
驚きはしたものの、レインさんはそこまでビビらなかった。
「樹だよ。色々あって、うっかり契約しちゃったんだよね」
「できゅ!」
「そうでしたか~。いやぁ、精霊様にお会いするなんて、学生時代以来ですかねぇ。同級生が精霊の愛し子だったんですよ。あの子も可愛かったなぁ」
なるほど。すでに耐性があったのか。樹を怖がらずによしよししてくれた。いやぁ、羨ましいですと笑っている。今度、人と仲良くしたがってる精霊を斡旋してあげてもいいかも。
「なあ、兄さん。さっき渡した薬も鑑定してくれへん?」
「ん?さっき行商から買ったとか…」
メガ兄がハッとした表情であたしを見て、走って出ていった。そして、すぐ戻ってきた。手にはあたしが作った伝染病の特効薬。振っても混ざらない虹色の薬だ。
「か、鑑定!」
【究極万能特効薬】
ありとあらゆる伝染性疾患に効果を発揮し、治療する。ただし、呪い・寄生虫・悪性腫瘍には効果がない。内服または経皮吸収で効果を発揮する。予防効果もあり、その場合の効力は一週間程度。
「うわあ…」
「うおお…」
「うわぁお…」
「マスター、出鱈目過ぎるっきゅ…」
「え、あたしのせい!?」
「マスターのスキルのせいできゅ」
「これ、市場に出すとまずいなぁ…ユアン、まだ材料ある?レインに作ってもろたらええわ」
「うん」
そして、持ってきた残りの材料に青ざめるレイン。
「これ、虹夢花じゃないですか!うああ…これだけあればいくらになるか……」
「足りなきゃ樹とさらに増やすよ。まだ種あるし」
「…………クルメガネス様が誓約使ってまで口止めするわけだ。ユアン様の力は規格外です。使用には注意してください。私の能力でどこまで出来るかわかりませんが、薬については善処します」
あの治療薬、調合にしこたま魔力を使うから量産はできないらしい。
「あ、レイン。いらんローブある?」
「は?」
「ユアン、レインにもじゃーじを作ってやったら効率アップするんやない?」
「おけ~」
【レインのジャージセット】
レイン専用装備。フル装備するとリラックス効果があり、魔力消費を半分にする。さらに錬金術の成功確率が二倍に増加する。
「だから多用したらダメですよ!でもありがとうございます!大事に着ます!!」
ダメですよと言いながら、ジャージを抱きしめるレイン。ツンデレか?
それから、みんなで楽しくお喋りしながら過ごしたのだった。




