持つべきものは、頼りになるお兄様?
薬の配送手配はヤス兄が適当に誤魔化してメガ兄に話を持っていってくれた。出所も詮索しないし、マジいいお兄ちゃんだな!
ふと着ている兄のお古を眺めた。胸はパツパツでボタンがちぎれ飛びそう。袖は長いのでまくっているものの…運動しやすいとは言いがたい。向こうのジャージが切実に欲しい。
そう考えていたら、錬金釜がキラリと光った気がした。
そうだ!錬金釜!
兄のお古は錬金釜によって某有名スポーツブランド的なジャージとTシャツ、スニーカーになった。なんと気が利く錬金釜!スニーカーめっっちゃ欲しかった!!さっそく着てみる。モデルがいいからか、いい感じ!
そこにメガ兄との話を終えたヤス兄が来た。
「ユアン、そのカッコは?」
「ジャージとスニーカーです。一度着ると病みつきになる着心地ですよ」
「へぇ……」
ヤス兄はどうでもよさそうだ。だから、あたしはジャージがいかに素晴らしいかを語った。そして、ヤス兄は予想外の部分に食いついた。
「さらに、抗菌防臭加工!汗くさくならないんですよ」
「それ詳しく」
「…抗菌」
「その後!」
「汗くさくならない?」
「それ!じゃーじの上から鎧を着たら、臭くならんかな!?」
どうだろう。剣道の防具で考えてみた。
「移り香はないかもしんないけど、鎧の臭いを消すわけじゃないから……消臭剤、作る?」
「是非お願い!」
めっちゃ食いつかれた。あと、ついでにヤス兄とメガ兄の分もジャージを作ってみた。うむ、カッコいい。後でプレゼントしよう。
さて、抗菌消臭……といえば、やはりミントだろう。あとは銀?気が利く錬金釜がヒントをくれた。やはりミントはいいらしい。布にシュシュッと的な奴が作りたい。
錬金釜の指示通り、薬草を集めていく。樹が我が家の薬草園で探してきてくれた。なんとおりこうさんなんだ!
「この魔力水って、ナニ?」
「魔力水できゅか?これは魔法で出した水できゅよ。マスターは魔力が強ぉいから、きっと高品質な魔力水をだせまきゅ!」
「………失敗して室内を水浸しにする未来が見える」
「「………………………」」
室内に沈黙が落ちた。樹が『え?マスターそんなに魔法が下手なの!??』という顔をしておる。下手なんだよ。ちなみに、魔力水の精製は初歩の初歩なんだそうですよ。
「……樹がサポートするできゅ!水は樹の属性ではないできゅが、多分お手伝いできるできゅ!」
「樹………」
というわけで、樹にサポートされながら魔力水とやらを作ったのだが…。
「ぎゃあああああ!怖い!はじける!」
「マスター、耐えるっきゅ!樹もなんとか耐えてまきゅ!」
手のひら大の水球を前に大騒ぎするあたし達。スゲー怖い!なんかこう、破裂する直前の風船って感じ!今にも割れそうで恐ろしい!!
「うおおおおおおお!!」
「きゅうううううう!!」
なんとか樹と頑張って錬金釜に入れたら、即破裂した。
「あ、危なかった……」
「マスター、予想外に魔法がど下手だったできゅ……それなのに、なんであんなに圧縮するんできゅ!?怖かったできゅうううううう!!」
「ごめんて……なんか予想以上に水が出るみたいだから、圧縮すればイケる気がしたんだよ」
「圧縮は高レベル魔法できゅよ……わけわかんねっきゅ……」
お互いにぐったりである。地味に樹がガラ悪くなっているが、仕方ない。私も疲れた。
なんか錬金釜内で魔力水が暴れているのか、錬金釜がゴムかってくらい伸びたり縮んだり、とびはねたりしている。アグレッシブな錬金釜である。壊れないか不安になってくる。
「できた!」
気が利く錬金釜のおかげで、素敵なスプレーボトル入りの消臭スプレーができた。ガラスに蔦模様入りでお洒落だ。ぜひリサイクルしたいな。試しにスプレーしてみたら、爽やかなミントの香りがした。
「ヤス兄~、できたよ」
「ほんま!いやぁ、助かるわ!夏とかいっくら手入れしてても鎧が臭くて地獄なんよ!」
さっそく兄が騎士の鎧にプシュッとした。鎧が輝き、新品同然になった。
「「…………………」」
何故だ。臭いが消えるだけじゃないのか。
「………臭くない」
「え、そこ?」
いや、作りたかったのは消臭剤だからそれでいいのか?臭さが消えるのが目的だったのは間違いない。
「いやっふぅぅ!!これで臭い気にせんで済むわぁぁ!あ、これ予備ない?」
「はい」
「………………………」
魔力水のせいか、六百本ほどできちゃったんだな、これが。気が利く錬金釜はケース入りにしてくれたよ。
「…いくらなん?」
「は?」
「買う!めっちゃ買う!!」
ヤス兄の目が本気だ!え?なんで?
「そもそも、うちの薬草園の薬草を樹と増やして作ったやつだからタダでいいよ」
「なら、ボクが売るから!これは売れる!そして、異臭地獄から解放されるんや!」
騎士の鎧はとてつもなく臭いのだそうだ。鎧ってそうそう丸洗いできるモンじゃないし、関節部分や接触部位は擦れないように革とかだから、臭いが染み付く。
女子に臭いからとフラれる騎士が多いらしい。鎧はカッコいいが臭い。それは騎士の常識らしい。例外は儀礼用のやつ。あれはたまにしか着ないから比較的臭くないそうだ。
「風呂に入っても臭い地獄から解放されるんやああああ!!」
長期間着ていた鎧からはもはや異臭がしており、着用者に染み付くそうな。ヤス兄のテンションがヤバい。そんなに辛かったのか。空手は毎回道着洗ってたから、その辛さがわからん。
そういや、剣道部の根津が夏場の防具の臭さについて熱く語っていた。消臭スプレーが発達している向こうでも辛いのだ。こっちはもっとだと思うと納得した。
「何を騒いでいるんだ」
ヤス兄の叫びがうるさかったのか、メガ兄がやってきた。メガ兄に事情を話すと、ミントの消臭剤を鑑定してくれた。メガ兄は鑑定のスキルがあるらしい。
「…これは世紀の大発明だぞ!」
メガ兄のテンションも上がってしまった。そなアホな!メガ兄はテンションを上げつつ消臭剤の説明をしてくれた。
【聖なるミントフレグランスウォーター】
爽やかなミントの香りが全てを浄化する。効果は一週間。抗菌、消臭、防カビ、防虫、浄化作用があり。全ての汚れ、穢れを消し去り、よせつけない。防虫は虫の魔物にも効果あり。
おかしいな。防臭だけでいいはずが…いや、便利ならそれでいいんだけど…。
メガ兄があたし名義で特許申請してくれるというので、レシピを渡したのだった。さらに販売について話し合う兄達。持つべきものは頼りになる兄…かな?




