プロローグ
夢を…夢を見ていた。
それはいつも、守ってあげたい女の子の夢だった。
女の子はいつも泣いていた。慰めて励ますのが私の役目だった。女の子を守りたいのに、そこだけは現実のようにあたしは鏡を抜けられない。慰めることしかできない無力なあたしに、彼女はいつも無邪気な笑顔でこう告げる。
『ありがとう。貴女はわたくしの大切なお友だちですわ』
あたしにとっても、女の子は大切な友達だった。女の子はあたしにとっても支えであるのだと知らない。やっても無駄だと知りつつ、体を鍛えた。彼女の代わりにはならないが、涙を流す女の子を助け続けていた。
とても不思議な夢だった。いつも白い世界にいて、ガラスの鏡のむこう側に女の子がいる。女の子はあたしと同じように成長していた。
いつしか女の子は、とても美しい女性になっていた。
夢を…夢を見ておりました。
それはいつも、優しくて強い女の子の夢でした。
いつも泣いてばかりのわたくし。それを慰めて励ましてくださるのです。女の子に触れたいのに、そこだけは現実のように……わたくしは鏡を抜けられません。女の子を抱きしめてお礼を言いたいのに、抱きしめて慰めてほしいのに、叶わぬのです。
現実がいくら辛くとも、わたくしには彼女がいます。夢でいつも彼女に会えるならば、現実がどれ程辛くとも耐えられます。
だから、わたくしはこう告げるのです。
『ありがとう。貴女はわたくしの大切なお友だちですわ』
『あたしも……あたしにとってもあなたは大切な友だちだよ』
強い女の子は、そう言って涙を流しました。強い彼女でも、涙を流すのだと驚き…己を恥じました。無駄と知りつつも、知識を蓄えて淑女としての全てを磨きました。すべては彼女の友人として、恥ずかしくないわたくしになるために。
とても不思議な夢でした。いつも真っ白い世界にガラスの鏡だけがあり、そのむこう側に彼女はいました。彼女もわたくしと同じように成長していたのです。
いつしか、女の子は、とてもかっこいい女性になっておりました。
そして、あたし達にとって運命の日がやってくる。
高二最後の終業式が終わり、桜を見ながら歩いていたあたし。
『……………けて』
かすかな声が聞こえて、そちらを見た。そこには綺麗に磨き抜かれたショーウィンドゥがあった。洋品店なのだろう。ディスプレイがある。だが、私は違うものに釘付けになっていた。
『たすけて』
これは、夢なのか。あたしは白昼夢を見ているのか。ディスプレイには美しい彼女……ユーリフィアンがうつって……必死に手を伸ばしながら、あたしに助けを求めていた。
『助けて!優音』
「ユーリ!!」
迷うことなく伸ばした手は…ショーウィンドゥを抜け、彼女の手をつかんだ。そして、あたしの世界は変わった。
意識が落ちる、その瞬間に声がした。
『おかえり。ようやく君は在るべき場所へと還るんだ』