P97 ノリスさんとリリナと交渉
次のイベントで使う予定のもふもふの付け耳と付け尻尾の準備は出来た。これで、四人ともに付ける事が可能という事だ。
ついでに元ツズリランドにある家の掃除とラライア姫の頼みの壁の作成もパパッと済ませられた。
で、次に準備が必要なのは場所と、それから服かなぁ。場所はもう目星は付けてあるんだけど、服はどうしようかな。折角だから皆でお揃いの服を着ているのが見たいからなぁ。
ノリスさんって服とか作れたり出来ないかな。迷ってないで先ずは行動して聞いてみなきゃね。
「っという事でノリスさん! 服を作る事ができちゃったりなんてしちゃったりしない?」
「またツズリはそうやって急にものを頼みますね! 今度は一体何を企んでるんですか!」
ノリスさんに話しかけたのに、真っ先にルルのツッコミが飛んできた。まぁここはルルの部屋だからね。ルルもいるよね。
ノリスさんに会うとなると、朝はルルに勉強を教えているので、ノリスさんが居る所にはルルがいるし、ルルが居る所にはノリスさんが居る。当然だ。
「企んでるなんて人聞きが悪いなあ。ちょっと次のイベントの準備をしてただけだよ」
「何のイベントですか? ツズリの事だから碌な事じゃないと思いますが」
ルルが半目でわたしの考えているイベントを疑っている。
ルルはわたしへの信用が低いな。そんなコタビじゃないんだから、変なイベントなんて起こす訳がないのに。まったく、困ったものだね。
「今度は皆で飲食店をしようと思ってるんだよね! ラライア姫とコタビ、それから勿論、ルルとリリナと一緒にだよ」
「飲食店ですか? わたしは良いですけど、ラライアちゃんはお姫様ですよ? お姫様が店なんか開いたら大騒ぎになる気がするんですが」
「大丈夫、大丈夫。寝たきりだったから、誰もお姫様だって気づかないよ」
「それはまぁ、確かにそうかもしれないですが……」
ラライア姫には悪いけど、悲しい事にこれが現実だ。騎士や神官、一部の貴族なら兎も角、一般人がお姫様の姿を知っているって事は少ないと思う。
この世界にネットがあればラライア姫の顔写真が広まってて、顔は知っているって事になるだろうけどね。大々的にお披露目パレード的な事しない限り、この世界では広まらないさ。
「それでツズリ様、私に頼みたい事とはそのお店で着る服という事でいいのですか?」
「そう! お店で着るお揃いの服が欲しいんだよ! で、服って作れる?」
「ツズリ、流石に服は作れないんじゃないですか? メイドは服屋さんではないんですよ」
まぁそうだよね。家事に掃除に家の事をするのがメイドの仕事だ。服なんて作れたりするわけないか。
「いえ、当然作れますよ」
「え!? ノリス、服作れるんですか!?」
「勿論です。メイドに不可能なんてありません。料理も作れますし服も作れます。なんてたってメイドですから」
ノリスさんは自慢気に、メイドである事を誇っているように笑顔になっている。
「やったー! ありがとうノリスさん!」
「いえ、礼には及びません。ご主人様、お客様の声に応えるのがメイドの務めですので」
プロだ! メイドのプロだ!
どっかのあわわわメイドにノリスさんの爪の垢を煎じて口にねじ込んでやりたいね。ノリスさんならお城で迷子になんてならないだろうし。
「どのような服をお作りしたらよろしいですか?」
可愛い美少女達が飲食店をする服といったら、これはもう一つに決まっている。
「それは勿論メイド服! 事務的なものじゃなくて、ドレスみたいなメイド服!」
そうメイド喫茶! 更に言うと付け耳と尻尾を付けたメイド喫茶である!
「ドレスみたいなメイド服ですか……。作れなくはないですが、飲食店をするとなると、働きにくいかもしれませんよ」
「そこはノリスさんの腕の見せ所だよ!」
必殺丸投げである。こういう事は知識ある人に任せた方が万事上手くいくってものなんだよ。元の世界でネットとゲームでしかそういう情報を見て知っているだけのわたしよりかは、絶対に上手やってくれるはずだからね。
「ツズリ……流石のノリスにも無理な事はあります。無茶を言ってはいけませんよ」
「畏まりました。お受けいたしましょう」
「え!? ノリス、出来るんですか!?」
「メイドに不可能なんてありません。部屋の家具のセッティングから服のデザインまでなんでもお任せください。なんてたってメイドですから」
ノリスさんはそう言って、また誇らしく笑っている。
凄い! これがプロのメイド! なんでも頼んでみるもんだね!
「それを五着お願いします! わたし、ルル、リリナ、それから王都にいるお姫様とラライア姫と神官のコタビ分!」
「お姫様に着ていただける服となりますと腕がなりますね。お任せください。御期待に添えるドレス風メイド服をお作り致しましょう」
「やったー! ありがとう! 素材やら制作費用はわたしが出すから、妥協する必要はないからね! やるならとことんだよ!」
やるのならやれるだけやるのが、わたしのゲームの頃からのプレイスタイル。
魔法は好きだから極めたけれど、魔法だけじゃなく剣も極められるところまでとことん極めたのは、このプレイスタイルあってこそだ。
「ラライア姫様とコタビ様には会った事がないのでサイズが分からないのですが」
「わたしやルルとほぼ同じだから、みんな同じサイズで大丈夫だと思うよ」
年齢も背丈も大差なんてないわたし含めた五人組だ。みんな一緒で大丈夫だと思う。二、三日で急に成長したりはしないだろうしね。
「それでしたら何とかなりそうです。ルルーナ様のありとあらゆる情報、ありとあらゆるサイズはメイドとしてすべて把握していますので」
「ええ!? そうなんですか!? それはちょっと……、なんていうか、メイドだとしてもおかしい気がします」
「主人に仕える者としてこのくらい一般常識ですよ。なんてたってメイドですから」
ノリスさんがメイドとして当然だと言わんばかりの笑顔で笑っている。
今回に関してはルルが言うようにメイドの範疇を超えている気がするけど、そのお陰で作ってもらえるから気にしないでおこう。
ただ言えることは一つである。
「メイドって凄いね、ルル」
「凄いですけど、ノリスは他のメイドとは違う方向にも伸びている気がします。不安です」
ちょっと主人愛が強い優秀なメイドって事でいいんじゃないかな。うん。
ルルの勉強もあるので、わたしは自分の用事も澄んだ事だし、早々に立ち去る事にしよう。
「さーってと、わたしはその間に次の用事を済ませにいこーっと!」
服の注文は何とかなったので、次は場所の確保だ。
飲食店をやるのならツズリランドとか辺境の地ではなく、街の中でやる必要がある。人が来ないと意味がないからね。
街の中でやるのなら、勝手に家を建てる訳にもいかないので、借りるか買うかしないといけないんだけど、ちょうど借りられそうな場所に目途があるんだよね。
「っという事で! リリナ、一日だけここ貸して!」
そう、その場所とはリリナの家である!
リリナの家は宿を経営していて、飯時には飲食店にもなっている。飲食店をするのなら飲食店を借りればいいのだ。それに何と言っても、リリナ母という最強の料理人も付いてくる!
なんて素晴らしく完璧な計画なんだ。自分の才能が怖い。
「どういうことか分からないし、分かっても無理」
何という事だ。わたしの完璧な計画がリリナという強大な壁によって阻まれてしまった。これは手強いぞ……!
「何しに来たの。昼食にはまだ早いし、ルル様も一緒じゃないし、ツズリだけならあたしはもう戻る」
辛辣! 素っ気ない!
相変わらずルル以外に興味がない様子だね。わたしに対しての扱いが日に日に雑になっていっている気がする。このまま気がするだけであってほしい。
「まーって! まって! 本当に戻らないでよ!」
立ち去っていくリリナを後ろから抱き着くようにして引き止める。
「離して、毛が移る」
「移らないよ! 風邪じゃないんだからさ!」
毛が付くなら分かるけど、移るってなんだ。わたしに触れられると尻尾でも生えてくるのか。色んな人をお触りしまくって、もふもふ溢れる世界に変えてやろうか。
……ありだね。天国じゃん。主にわたしだけ。
「また悪い顔してる。その顔はもふもふ溢れる世界に変えようと企んでる顔」
「エスパーかっ! 顔だけで思考を読まないでよ!」
もふもふ溢れる世界に変えようと企んでる顔って我ながらどんな顔をしていたんだよ。なんでそんなピンポイントの顔があるんだよ。
「それで、ここを借りたいってどういう事」
「今度、皆で飲食店をしようかと思っててさ、どこかにいい場所がないかなーって思ってたらいい場所があった訳なんだよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃ、仕事に戻る」
「もっと興味を持ってー! 戻らないでー!」
話を聞いただけで直ぐに戻ろうとするリリナを、わたしは再び引き止める。
絶対に逃がさないぞ。わたしは一度決めたら成し遂げるまで諦めないぞ。レアアイテムを手に入れる為に、何百何千とボス周回したわたしを嘗めるなよ。
「ツズリしつこい、ダメなものはダメ。他の場所を探すと良い」
「ルルも参加するんだよ! このイベントの為に新しく作る可愛いメイド服を着たルルが見られるんだよ! ノリスさんが作る衣装だからそりゃもう格段と可愛いよ!」
「ルル様の可愛いメイド服姿……」
ルルのメイド服姿を見られると知って、リリナが迷いだしている。わたしに貸したくないという決意が揺らぎだしている。
やっぱリリナはルルに弱い! このままルルというカードを使ってリリナを説得してみせる!
「ここを借りられなかったら、このイベントも中止になるかもしれないなー。そうなるとルルの貴重なメイド姿もお蔵入りになっちゃうなー」
「うう……」
チラチラっとリリナの方を見ると、凄く葛藤している。ルルのメイド姿も見たいし、わたしに貸すのも嫌という狭間で葛藤している。
いや、あれだけ好きなルルのメイド姿と、わたしに貸したくない思いが張り合っている事実にわたしはショックだよ。リリナのルルが好きという思いの強さを知っているが故に、その事実に驚愕を隠せないよ。どれだけ貸したくないんだ。
でも、あと一押しだ。もう一押し何かあれば……何か……何か……。あ、あれがあるじゃん! 取って置きの品がわたしの収納に入っているじゃんか!
「貸してくれるならリリナに取って置きのものをあげるよ!」
「取って置きのもの……?」
「じゃっじゃーんっ! ルルのフィギュアー!」
大会に行く途中に暇すぎて作った四人の美少女フィギュアの一つであるルルのフィギュアだ。まさか、こんな所で役に立つ日が来るとは思わなかったよ。
なんでも作っておくものだね! 備えあれば患いなしだよ!
「な、なななな何それ……! 手乗りサイズのルル様の置物なんて、そんなの……そんなのっ!」
「ふっふっふー! これが欲しければ……って、あれ?」
さっきまで手に持っていたルルフィギュアがわたしの手にはもうなかった。どこに行ったかと探してみると、すでにリリナの手中に落ちていた。リリナはというと、うっとりしたような顔でルルのフィギュアを眺めている。
気に入ってくれたみたいで何よりだよ。でも、いったいいつのまに取ったんだ。全く気付かなかった。恐るべしルル愛。
「わかった、あたしは許可する。ここを貸してもいい」
「わーい! やったー!」
「でも、あたしだけの判断ではダメ。母さんの許可も必要。呼んでくるから待ってて」
まあ、そりゃそうだよね。ここ宿で一番偉いのはリリナ母だもん。リリナだけじゃなくてリリナ母も説得させないとダメだよね。
リリナはリリナ母を呼びに部屋から出て行った。去り際に、ルルのフィギュアを下から覗きながら、水色って呟いていたのをわたしの聞き逃さなかったぞ。
分かるよリリナ。覗きたくなる気持ちは分かる。本人のは別に覗こうとは思わないけど、フィギュアになると何故か覗きたくなるその気持ち。分かる。
リリナは直ぐに戻って来た。そして隣にはもう一人女の人がいる。いつも調理場にいて会った事がなかったけど、この人がリリナの母かな。いや、母というよりは姉……?
「あれ、リリナってお姉さんがいたの?」
「あらら、嬉しい事を言ってくれるわね。そうです、私がリリナの姉です。よろしくね、商業の女神様」
「違う、あたしに姉はいない。母さんも嬉しいからってさりげなく嘘付かないで」
「え!? リリナ母なの!? わかっ!」
どう見ても姉にしか見えないんだけど……。一人娘がいるような母親には見えないんだけれども……。
「そう見えるだけ、実際はそんな事はない。本当は――」
「リリー? それ以上言うと今晩のご飯は草の根っこだけにするわよぉ?」
「ごめんなさい。あたしは口をつぐむ」
あ、ちゃんとリリナの母だ。草の根っこだけにするとかいう辛辣なことを言うのはリリナ家系で間違いない。リリナの辛辣さは母親譲りだったんだね。
「それで、商業の女神様がここを借りたいらしい聞いたのだけど、リリも許可を出したらしいし私も構わないわよ」
「え、いいの!?」
てっきりダメって言われるのかと思ってた。あの手この手で説得を試みようと思ってたけど、その必要はなくなったようだね。
「勿論、いいわよ。商業の女神様には、うちのリリもお世話になっているし、ここが繁盛しているのも商業の女神様のお陰だもの。頼み事ならなんでも言ってもらって構わないわよ」
「おー! ありがと! リリナとは違って優しくて助かるよ!」
「あたしも文句なしに優しい。母親譲りの優しさで心が構築されている」
どーの口が言ってんだ。わたしの扱いはいつも辛辣じゃないか。心に優しさの欠片すらも保持していないだろうに。
それから、リリナ母と当日の打ち合わせをちょちょっとしておいた。当日の料理のお願いとか色々だ。まぁリリナ母からすると普段と一緒の仕事をするだけだけどね。
あとは普段働いている従業員を休みにしてもいいよってことも言っておいた。ホールで働くのはわたし達がするからね。
っという事で、服も場所も料理長も確保できたことだし、後は皆にメイド服と付け耳と尻尾を無理やりにでも着せればいいだけだ!
準備が整い次第ラライア姫達を連れてきてイベント開催だね!




