P96 お風呂が広まってたり、壁作ったり
信者二人にボロボロにされた後、わたし達はお昼を食べてツズリランドに向かう事にした。あ、元ツズリランド、現ラライアシティーだ。今はまだラライアビレッジかもしれないけど、将来的にはシティーになると思う。
向かう理由は、わたしの家がどういう状況になっているのか見ておきたいからだ。
この前は上から見ただけ追い払われて掃除も出来ていなかったからね。掃除と空気の入れ替えをしておきたいのだ。
ラライア姫とコタビも付いて行きたいと言ったので二人も一緒だ。
「あ、ツズリ様。ツズリランドに行く前に神殿に寄って欲しいの」
「おっけー。神殿ね。あと、ツズリランドじゃなくて、ラライアシティーだからね」
「名前はわたくしが大人になって、正式にツズリランドの領主になった時に決めますから、今はツズリランドでいいですわ」
ラライアシティーと思っているのは、どうやらわたしだけみたいだ。あれ、おかしいな。そんなダメかね、ラライアシティー。
なんだか微妙な気持ちになりつつ、神殿に向けて絨毯を飛ばす。
そして、神殿にはすぐに到着した。街の中央にあるお城から、街の端にある神殿は歩くと結構な距離だけど、絨毯に乗ればこれくらいは僅かな距離だ。
「神殿に来るの久々だなー」
騎士の施設と繋がっているので、騎士門から入って直ぐの広場に着地した。
ここに来るのはムカデ襲来の時以来だろうか。あの時はここの広場を埋め尽くすほどの怪我人で溢れてて、コタビが張り切って治療していたのを思い出す。
「見せたいものがあるから付いて来て欲しいの!」
「見せたいもの?」
「ふふふ、見てのお楽しみですわ。わたくしとコタビの案で作ったものですわ」
二人の案と聞くと不安が頭をよぎるけど、大丈夫だろうか……。神官達全員が耳と尻尾を付けてたりしないだろうな。
わたし的にはそれはそれでありだけれども。もふもふは正義なり。
神殿の中に入ると、まず目に入ってくるのは女神像だ。けど、初めて見た時と少しばかり変わっていた。
「なんか女神像に耳と尻尾が生えてる!?」
最近もあったこの既視感。大会から帰って来た時に、ラライア姫とコタビに耳と尻尾が生えていたときと同じなこの感じ。
しかし、今回は付け耳と付け尻尾ではなく、ちゃんと像の一部として耳と尻尾が増えている。
まさか二人の案って女神像を獣人化させる案か?
わたしの事を獣人の姿をした女神だと思っているから、女神像をバージョンアップさせたのか?
まぁ、悪い気はしないね。この女神像は美人だ。その美人女神像に耳と尻尾が生えているのなら、将来のわたしの姿と言っても過言ではない。寧ろ、理想だ。
「ツズリ様を意識して女神像の御姿も変えたの! でも、予算が足りなくてツズリ様像に新調出来なかったの。申し訳ないの」
「これでいいよ! これがいいんだよ!」
グッジョブ予算不足! 危うくわたしの像が作られるところだった!
狐の像は自分で作ってはいるけど、自分自身の像なんて作りたくも作られたくもないよ。どんな羞恥プレイだよ。
「見せたかったものってこれだったんだね」
「いえ、違いますわ。見せたいものはまた別にあるのですわ!」
「そうなの。今回見せたいものはこっちなの! 付いて来てなの!」
これじゃなかったのか。だとすると、一体どんな悪だくみを見せるつもりなのだろう。女神像に耳と尻尾が生えているのが衝撃的だっただけに、流石にもう驚く事はないと思うけれども。
わたしはラライア姫とコタビに案内されるがままに付いて行く。
「これですわ!」
案内された場所は、これまたお風呂だった。お風呂大好きだなこの二人。わたしも言わずもがな大好きだけどね。
「おー! ここにも作ったんだね。でもまたなんでこんな遠い所に? 移動大変じゃない?」
最上階もどうかと思うけど、神殿ってお城の外だし移動が大変だ。わたしという移動手段がなかったら馬車での移動になると思うけど、お風呂に入る為にわざわざ馬車を使うのはどうなのだろうか。
「コタビ達が入る為に作ったものじゃないの。神官と騎士、それから一般の方が入る用のオフロなの!」
「あ、コタビが神殿でも入れるようにって個人的に作ったものじゃないんだね」
ただのお風呂ではなく、銭湯って事らしい。
「右が男性用で左が女性用に分かれているのですわ。これで、オフロの文化をこの街にも広めていくのですわ!」
「ラライア様と一緒に考えた、ツズリ様の女神文化をこの街の人達にも広める計画の第一歩なの!」
「そんな計画立ててたの!?」
お風呂の文化が広まるのは良い事だから良い計画ではあると思う。清潔魔法では補えない身体の疲れや心の疲れをお風呂は補ってくれるからね。
ただ、銭湯となるとわたしは入らないけれどもさ。見ず知らずの人と一緒にお風呂なんてわたしには無理だ。気の知れた人とならいいんだけどね。
っと、考えると、この神殿の銭湯も入る人はいないんじゃないだろうか。神官と騎士なら女神の文化だって言ったら喜んで入りそうだけれども、特に騎士の中に何故か居るわたしの熱狂ファンの人達とか。でも、一般の人は手が出しにくそうだ。
「利用者っているの? お風呂って裸になる訳だし、お風呂文化がなじんでないと利用されないと思うんだけど」
「その点は問題ないですわ! 国が作ったオフロ、つまり王様に認められたものですので国民も安心安全と理解してくださっているのですわ!」
「更に言うと、王様が女神の文化だって公表しているから、女神様印の信頼度なの!」
この国の王が薦める文化なら国民も使ってくれるっていう理論は分かるけど、女神文化だって言ったら胡散臭さが増すだけなのではないだろうか。ただでさえ、この街ではわたしは出歩いてないし、女神がいるって事を知ってる人は少ないじゃないかな。
そんないるかどうかも分からない、幻想の女神様印に信頼度はあるのだろうか。
「神官と騎士なら分からるけど、流石に一般の人に女神って言っても信頼性ないんじゃないの?」
「そこも問題ありませんわ! この街の方達の女神様への信頼度は高いのですわ。ドラゴンから街を守ってくださったことを皆知っていますし、ツズリ様自身、空を飛んで目立っていますもの」
「皆、ツズリ様の事を女神様だって知っているの! 女神様印の信頼度は抜群に効果があるの!」
そりゃそうか……。目立ってないつもりでも、ムカデを倒してるのは国の一大イベントだったし、頻繁に空を飛んでたら目に付くのも必然だよね。
それに、ルルの街から来た冒険者がこの街でも変な噂を流しててもおかしくない。女神は実在すると思われてても致し方がない事だったよ。
「それじゃあ、お風呂の文化は浸透しつつあるんだね」
「一家に一オフロとまではいきませんけれど、利用者は増えていますから浸透しつつまりますわ!」
将来的には一つの家にお風呂が備わっている状況になるのかもしれないね。
いつでもお風呂に入れるように、今度ルルの屋敷にも取り付けようかな。ハセンさんに怒られるだろうか。うーん、まあいいか。わたし、女神だし。領主よりも王よりも偉いしね!
「実はオフロを広める以外にも目的があるの! ただ広めるだけにはとどまらずなの!」
「他にもあるんだね。一体どんな目的があるの?」
お風呂を広める以外の目的が、この銭湯にはあるらしい。コタビとラライア姫の事だから、わたし関連でなにかしら良からぬ目的な気がしてならない。例えば、わたしがお風呂に釣られて神殿に通うようにさせるとかね。まぁ、絶対使わないけれどもさ。自分で作れるし。
「神殿のオフロは有料になっているの。利用するにはお金が必要なの」
「うん、そりゃそうだろうね。銭湯だもん」
公共の施設なのだから、有料なのは当然と言ってもいい。お湯を作る魔法やら魔道具やらもタダじゃないしね。
「そしてこの神殿のオフロで稼いだお金を――」
「ま、まさかわたしに寄付――」
ラライア姫の言葉に被せるようにわたしは呟く。この世界ではわたし発祥のお風呂。そしてそのお風呂を使って、わたしへの感謝のお賽銭的な展開に……!
お金はどれだけあっても困らないから、貰える物は全部貰うつもりだ。
「孤児院に渡すのですわ!」
「あ、あーそうだよね! うん、良い案だと思う! 偉い!」
全然違った。わたしがわたしの事しか考えてなかった。
それに比べてラライア姫とコタビは孤児院にお金を回すという、国の為、孤児院の為を思っての考えだったとは……。
「ラライア様と一緒に考案したの! コタビは孤児院出身だから、何か孤児院に対して出来ないかなと思ったの」
「で、それならばと思い考え付いたのが、神殿でオフロ文化を広めつつ、少しでも孤児院が裕福であれるようにお金を回そうと思ったのですわ」
流石は一国のお姫様だけの事はある思い付きだね。本当にあの王の娘なのかってくらい優秀な姫だ。それに、自分の事しか考えてない女神と思われているわたしとも大違いだ。王よりも女神よりも賢いとはこれいかに。
将来の元ツズリランドはラライア姫に任せておけば安泰だ。良い領主になれると思う。
「二人とも……、まともな思考も出来たんだね!」
「どういうことなの!」
「どういうことですの!」
そして、ツッコミも息ぴったりの二人である。
不安があるコンビだけれども、優秀なコンビでもあるね。
神殿を後にして、当初の目的だった元ツズリランドへと向かう。
「実際に目で見るのは初めて見ますけれど、建物が増えてますわね」
「街として成長しているの! ツズリ様が作った神聖なる土地が街になっていってるの!」
「そうだねー」
神聖なる土地でもなんでもなく、ただわたしが整地しただけなんだけどね。それに、街にするつもりもなく、わたしの隠れ家的なものにするつもりだったんだけど、何故こうなったのか。隠れ家の隠れ要素はどこに隠れてしまったのか。
何はともあれ目的地にたどり着いたので、自分の家の前へと着地する。すると、何処からともなく騎士の人達が駆け寄ってきた。
まぁ、空から降りてくればバレバレだし、わたしが来たって気づくよね。
「女神様が来たぞー! 皆で出迎えに行くぞー!」
「うおおおおおお! 女神様あああああ!」
相変わらずの熱狂ファンが多い騎士団だね。わたしはアイドルじゃないぞ。
それに姫様もいるというのに、女神優先かい。国に使える騎士としてはどうなんだ。
「尻尾振ってくれー!」
「尻尾触らせてくれー!」
「パンツ見せてくれー!」
熱狂ファンの中になんか尻尾信者がいる! 女神信仰が尻尾信仰になってる!
あと方向性を間違えてただの変態になってるやつもいるな!
大丈夫かこの騎士団。大丈夫なのか、こんな騎士団を使えさせているこの国。
「おお、これは女神様! お久しぶりでございますぞ! 大会から戻っていたのですな!」
「ああうん、久しぶりだね……」
本当は一回会ってるんだけどね。わたし、ドラゴンだったけど。攻撃されたけど。
「ラライア姫様とコタビ神官様もお久しぶりでございますぞ! 着々と街の発展は進んでいますですぞ!」
「ええ、上から見ましたわ。素晴らしい進捗ですわ。これからも頑張ってくださいですわ」
「有難きお言葉感謝しますですぞ! 一回ドラゴンに襲われたのですが、我ら騎士団の力で護り切り、追い払ってやりましたのですぞ!」
そのドラゴンわたしだよ! 言わないし、言えないけどね!
「またドラゴンが現れたの!? 最近この辺りのドラゴン率が高いの。でも、流石騎士団なの! ドラゴンを退けるなんて凄いの!」
「このくらい当然ですぞ! 女神様に恥ずかしくない騎士団になるのが目標ですからな!」
だからそのドラゴンはわたしなんだって! 騎士団たちは女神を退けてんだよ!
「それでは我々は作業に戻りますぞ!」
「あー、うん、頑張ってねー」
わたし達は作業に戻る騎士団たちに手を振ってお見送りをする。
「うおおおおおおおお! 女神様達が手を振ってくださっているぞー!」
「皆で振り返すぞー! 女神様ー!」
いや、振り返さずにさっさと作業に戻れよ!
こちらが降る限り振返してくるので、わたし達は早急に家に入る事にした。
「騎士の方達がみんなツズリ様に夢中だったのですわ!」
「うん、夢中になり過ぎて信仰先が尻尾になってる人がいたけどね」
「ツズリ様の人気がとてもすごかったの! 熱が凄かったの!」
「うん、熱すぎる熱に狂って変態になってる人もいたけどね」
嬉しいような嬉しくないようなそんな気分だ。これがラライア姫やコタビ、ルルにリリナだったら、そりゃ嬉しいけれども、鍛えてガタイのいい男たちだからなぁ。
変態に関しては例え美少女であったとしても嬉しくはない。早く正気に戻って欲しいものだ。
家の中は手入れをしていないないから、やっぱり埃が積もっているね。定期的に掃除をしないといけない。
元の世界だと掃除は大変だけど、この世界には魔法があるのでちょちょいのちょいだ。清潔魔法を家全体を対象にして掛ければパパッと解決だ。
魔法最高か。
「ツズリ様、少しお願いがあるのですけれど……」
「ん、何? 何でも言ってよ。わたしに出来る事なら、何でもするよ」
友達の頼みなら、出来る限り叶えてあげたいからね。出来る範疇の頼み事は全部受け入れる。
「ここのことなのですけれど、将来的にもっと広くしたいと思っているんですの。ですので、ツズリランドの更に周りに壁を作って欲しいのですわ」
「ああ、そうだね。わたしが作った広さだとちょっとした村って感じだもんね。いよーっし! その願い、このツズリ様が叶えてあげよう!」
「ありがとうございますですわ!」
ラライア姫が輝かしいほどの笑顔で喜んでくれる。
流石美少女お姫様、笑顔が眩しい程に可愛い。この笑顔が見れるのなら、女神というオプションも悪くないと思えるね。
「コタビもお願いがあるの! ツズリ様の等身大の像が欲しいの! ここにも神殿が出来る予定だから、そこに設置するの!」
「だめー! そのお願いは受諾できまーせん! わたしが作らなかったとしても、見つけたら直ぐ壊すからね! 女神像は王都にあるやつと同じにしてね!」
「ラライア様だけ許可されたのに……なの」
何が悲しくて自分の像を自分で作らなければならないのか。他人にも作られたくなんてないのに。
残念そうにしているコタビには悪いけど、友達の頼みでもダメなものはダメなのだ。こればっかりは無理なのだ。
壁を作るために、再び外に出て絨毯に乗り空へと浮かぶ。
うーん、今あるツズリランドを中心に円形の壁を作るとして、範囲はこのくらいかな。
思い描いている範囲にお久しぶりのテリトリー魔法を発動させる。テリトリーは円形に発動するので、これで綺麗な円形が作れるという訳だ。
あとは、通れるように門も作っておかないとね。閉じ込められることになってしまうと大変だ。わたしじゃなくて、騎士達が。
「それじゃあ、作るよー!」
あ、分かる。分かるぞ、これ。この世界で魔法を使って大分長くなってきたから分かる。妖力がガンガン減っている感覚がするぞ。
でも、ラライア姫の街になる重要な壁だ。魔物が襲ってきてもびくともしない頑丈なものにしないといけないから、手を抜く訳にはいかない。
「おー! 凄いのー! 広範囲魔法なの!」
「少しづつ創るのかと思ってましたけれど、一気に創られるなんて……、神の魔法は凄いですわ!」
あ、そうか、別に一気に創る必要なかったんだ……。まぁ、でも創れるんだからいいよね。うん。疲労が凄いけど、疲れて落下する程でもないしセーフだセーフ。
「ふぅ、完成だね! 名付けてツズリウォールだよ!」
「ありがとうございますですわ! これで、名実ともにツズリ様に守られている街ですわ!」
空からも地中からも弱いけど、大抵の魔物の攻撃は防いでくれると思う。ドラゴンでもなんでもかかってこいだよ。
ただし、シャロの攻撃は無理。実証済みである。
「ツズリ様、自虐は良くないの。誰もツズリ様の事を壁だなんて思ってないの」
「うぉーい! 誰が自虐かー! わたしのどこを見て壁だと自虐したと思ったんだコタビー! 胸か! 胸なのかー!」
コタビの肩をガシッと掴んで前後に揺らしながら、さっきの言葉の真偽を問いただす。
「ごごごご、ごめめめんなっさいなのー!」
「ちょっと自分が大きいからって調子にのりやがってー!」
「まあまあツズリ様、落ち着いてくださいですわ。例え無でも胸何て気にする事でもないですわ」
「誰が無かー! ちょっと自分の胸が成長してきたからってー!」
コタビ同様に今度はラライア姫の方をガシッと掴み、前後に揺らし抗議する。
「すすすすすみませっんですのー!」
本当にこの二人は似てきているな。それも悪い方向に……。
まぁ、こういうやり取りが出来るくらいには親しくなれて、女神だからっていう気の使われ方も解消されるのは嬉しい。嬉しいけれども、もっと女神を敬う心は残しておいてもいいんだけどな。




