P92 普通に帰るのじゃ物足りない
お風呂から出た後も、長々とラライア姫の部屋で向こうでの出来事を二人に話に話した。道中に襲われた魔物の事だったり、大会の事だったりと色々だ。
泥にまみれた事だけは、話さなかったけどね。そりゃそうでしょ。何で失敗した恥ずかしい事を自ら話さなければならないのか。泥にまみれた女神とか思われるのは嫌だし、墓場まで持っていくレベルで話したくないよ。
長々と話してしまったせいで、結局一泊してしまった。
ルル達の方に先に帰りたかったけど、まぁ遅かれ早かれ二人とも話したかったし、順番が変わっただけで予定に変更はないけどね。
「っという事で、ルルのとこに帰るね! きっと、枕を濡らしながらわたしが帰って来るのを待ってると思うからさ!」
まぁ、そんな事は絶対にないだろうけれども。コタビなら兎も角、ルルとリリナの二人が、わたしの帰りが遅いだけで泣くなんて事はない。絶対にない。想像が出来ない。
悲しき現実だ。
「また遊びに着てくださいですわ!」
「ゼルドガルの二人ともまた遊びたいの。今度来るときは二人を連れてきて欲しいの!」
「そうですわね。わたくしもまた五人で遊びたいですわ」
「そうだねー。二人とも店やら勉強やらで忙しいから、どうにか時間を作らせて連れて来るよ」
そう言えば、ラライア姫とコタビはいつ来ても遊んでる気がする。今回だって、耳と尻尾を付けて遊んでたわけだし。
姫と神官という重役と言ってもいい二人なのに、いつも遊んでて大丈夫なのかな。まぁ、子供だしそれが正解なんだけれどもさ。
「歳の近い友達って少ないですから、あの二人とはもっと親交を深めたいですわ!」
「ラライア様はコタビしか友達が居なかったから、同年代の知り合いが増えるのが嬉しいの」
わたしが来るまで、寝たきりの姫だった訳だから、知り合いが少ないのは仕方ない。そもそも、寝たきりじゃなかったとしても、一国の姫ってなると心許せる友達何て中々出来ない気がする。
わたしも友達何て多くないけど、というか元の世界ではゼロだったけども、この世界ではゲームの中のように活発に動き回ってるお陰か知り合いは増えている。
大会の国ではシャロとシルフさんと仲良くなれたし、獣王から神獣様と崇められていたから、友好関係は築けるんじゃないかな。崇められているだけで、わたしが友好ととらえるかどうかは別の話だけれどね。出来たら崇められたくない。
「ラライア姫の為にまた何かイベントを考えとくね!」
ラライア姫の為というか、自分自身の為でもある。強いては五人全員の為だ。
「楽しみにしていますわ!」
「女神であるツズリ様が考えるイベント、とっても楽しみなの!」
ラライア姫達と別れ、ルルのいる街へと絨毯を飛ばす。
神が考えるイベントってなるとハードルがなんだか高く聞こえるけど、コタビのハードルはわたしが何をやっても崇めてくれるから、とても低い。
リバーシですら神々の遊びって思ってくれるから、トランプとか作るだけで神イベントになるだろうね。
ただ、土魔法でトランプを作ると……、石板だからなぁ……。五十二枚とジョーカーの石の板なんて、重すぎる。無理だ。
っと、次のイベントは何しようかなって考えているうちに、もう街が見えてきた。
いつも通り門も壁も全てを無視して街の中へと入る。わたしはこの街の住人なので、不法侵入ではない。
王都は違うだろって? 女神だから何をしても許されるんだよ。細かい事は良いのだ。
朝の時間は勉強しているはずだから、ルルは自分の家にいるのかな。
「いや、待てよ。普通に帰って来たんじゃ何の面白みもないよね。もっとこう、久しぶりに会うんだから、サプライズ的な、劇的な再会を果たしたいよね」
普通に窓から、ただいまーって帰ってきても、ルルは感動しないだろうからね。窓から帰ってきてる時点で、普通は普通じゃないんだけれども、わたしとしては普通の事だ。
「よし、ルルがビックリするような登場の仕方にしよう。うん、それがいい。きっとルルも喜んでくれるに違いない!」
その為には、先ずは協力者(強制)に会いに行かないとね。
「っと言事で! ルルにサプライズをする為にリリナには協力してもらうから! あ、ただいま!」
「朝っぱらから突然帰ってきたと思ったら、急に何を言ってるの? あ、おかえり」
協力者、つまりリリナの下に来た訳だけれども、そのリリナが冷たい目でわたしを迎えてくれた。
ははーん、これはリリナもサプライズして欲しかった口だね。でも、今回はする側に回ってもらわなければ。
「リリナの気持ちは良く分かる! リリナもサプライズして欲しかったんだよね! でも、今回はルルを驚かせたいから協力して!」
「して欲しいなんてこれっぽっちも思ってない。むしろやられたら迷惑」
「またまたー、リリナは相変わらずツンデレなんだからー」
リリナはもっと素直な気持ちになってもいいんだよっていう気持ちを込めて、ほっぺたをツンツンとしてみる。そのわたしの手をバシッと手で払うリリナ。
全く、照れ屋さんだなーもう。そこが可愛いんだけれども。
「ツンツンしないで。あたしにデレ要素なんて一つもない。あたしへのサプライズは本当にして欲しくない」
なんか辛辣にあしらわれるな。そして、デレの要素が見えない冷たい目だな。
あれ、これツンデレじゃなくてツンツンじゃね? 気のせいだよね。一か月空いたからといって、わたしとリリナの絆が離れたりしないよね。
っと思ったけど、リリナはわたしに対して元からこんな感じだった。絆の距離は元から遠かったよ。
「でも、ルル様へのサプライズなら喜んで参加する。是非、ルル様を驚かせよう」
そう言って、リリナが手を差し出してくる。
勿論、わたしはその手を取って、熱く固い握手を交わす。
「ありがと! 一緒にルルをびっくりさせようね!」
ルルを驚かせる為の固い絆が、今、結ばれた。
ふっふっふ、待っていろよ、ルル! 絶対に驚かせて見せるかからね!
仕掛けは簡単だ。わたしが大きい箱の中に入って、リリナがそれをプレゼントとして渡す。
ルルがそれを開けようとすると、わたしがバーンって登場して、わービックリー! ってなる寸法だ。
ルルはわたしがいなくても、ここでお昼を食べるのが習慣化されているらしいので、お昼にルルが来た時が作戦を決行するタイミングだ。
今からルルの驚いた顔が想像出来て、楽しみになってきたね。
「ツズリ、箱持って来た。これに入って」
「おー、丁度いい箱があったね! これなら入れそうだよ!」
「うん、いつもは野菜とか入れている箱だけど、今回の為に特別に母さんからの許可を得て借りてきた」
リリナの母親にも色々と迷惑とかお世話になっているから、いつかお礼をしないとだね。
「……ところで、この箱にわたしが入ったらさ、間違えて食糧庫になんて運ばれないよね」
いつも食料を入れていて、食糧庫にある箱。食糧庫に行けばこれと同じ箱がいくつも置いてある。
ふとした拍子に食糧庫に運ばれてしまって、そこに放置されたりなんてしたら、わたしがサプライズを受ける羽目になるんだけれども……。
「ツズリじゃないんだからそんなミスはしない。ちゃんと、ツズリ入りの箱ってメモを付ける」
「なるほどー! それなら誰が見ても野菜の箱と間違えないね! って、それだとルルにもバレるでしょ!」
誰が見ても分かるなら、ルルが見ても分かるに決まっている。事前に中身が分かってしまったら、サプライズの意味が無くなってしまうじゃないか。
「冗談だから大丈夫。そもそも、ルルが来る直前に入れば移動される心配はない」
「ああ、そっか。今からお昼まで、ずっと箱の中で待つ必要なんてないか」
まだお昼になるのには時間がある。
なにせ、朝一で王都を発ってからそのままリリナの所に来たからね。王都からここまでなんて数十分程度だし、リリナと会ってからもそこまで時間は経っていない。時間にはまだまだ余裕があるのだ。
「じゃあ、あたしは仕事をしなければいけないから、もう行く」
リリナとお昼までのんびり話してたかったけど、リリナは普通に仕事中だったんだった。
「ごめんね。朝の忙しい時に来ちゃって」
「ううん、別に良い。ツズリのお陰でお客が増えて、従業員も増えて、忙しさは分担できている。だから、えーっと、その、ツズリには感謝してる。……ありがとう」
リリナがリリナらしくもなく、もじもじとわたしに感謝を伝えてきた。
え? あのリリナが!? いつも、辛辣に扱ってくるあのリリナが!?
これはあれだよね? デレたって事で良いんだよね!? リリナを攻略したといっても過言ではないんだよね!
「そうかそうかー。リリナもとうとうわたしに攻略されちゃったかー。ほらおいでー、頭をなでなでしてあげるよー」
わたしはにっこりと良い笑顔で、自分で言うのはなんだけど、それこそ女神のような笑顔でリリナを呼ぶ。
リリナもリリナらしからぬ良い笑顔で近づいてきて、わたしに木の板を渡してきた。
「ツズリはこれを持って箱に入って待っていればいい。じゃあ、仕事に戻る」
それだけ言い残して、そそくさと仕事場に戻っていくリリナ。
渡された板を見てみると何か書いてあるっぽい。
「えーっと、なになに、『拾ってください』……って、わたしは捨て狐じゃないよ! リリナー!」
しかし、リリナはもういない! 仕事に戻るという口実で逃げたな!
ちょっとデレたかなと思ったら、すーぐこの仕打ちだ。相変わらず扱いが酷い。
仮にも、この国では女神で通っているというのに……。コタビまでとは言わないけれども、わたしを大事に扱って欲しいものだ。
でも、リリナみたいに、わたしが女神だと知っても、態度が変わらず接してくれるのは嬉しい事だけどね。気を使わない関係って言うのは、良い事なのだ。
ま、わたし女神じゃないんだけれども。
「リリナが行っちゃうと、喋り相手もいなくて暇だな。……昼までする事ないし、丁度いい箱もあるし、ここでのんびり待ってようかな」
家の中じゃ、魔法の実験をする訳にもいかない。ましてや自分の家ではなくリリナの家だしね。
っという事で、する事もないので箱に貰った板を立て掛けて、わたしは箱の中に入ってみる。
「あ、なんか意外と落ち着く……」
猫が箱に入るのが好きな理由がなんか分かった気がする。
四方を囲まれているという安心感、そして、ぴったりフィットしている感じの安定感が良い。
うん、わたしは猫だったのかもしれない。いや、狐だけど。
そんな事を思っていると、ガチャっとドアが開き、リリナが入ってきた。
「あれ、仕事はもう終わったの? ついさっき颯爽と出て行ったばっかだけど」
颯爽と出て行ったのにすぐに戻って来てしまって恥ずかしいのか、リリナがもじもじと照れくさい仕草をしている。
なんだこの可愛い生き物は! 拾って持ち帰ってもいいですか!
「……母さんが、折角、女神様が帰って来たのだから、今日は一緒に遊んでなさいって……」
「気の利く母親だねー。ちょうど暇だなーって思ってたところだから、助かるよ」
一緒に遊んでなさいって言われると、何だからわたしまで子供扱いされている気がしてならない。けどまぁ、実際リリナと背丈何て変わらないし、前世の年齢にしてもリリナ母よりは年下だから、子供といえば子供か。
「で、箱に入って何してるの。本当に捨て狐になったのなら、うちで拾ってあげようか? 食糧庫として」
「うぉーい! 百歩、いや千歩くらい譲って捨て狐は許したとしても、最後の食糧庫としては許さないからね!」
わたしの収納魔法を食糧庫として活用する計画、まだ諦めてなかったのか。リリナに利用されるのはやぶさかではないけれども、流石にやらないぞ。
わたしは自由気ままに、やりたい事をやってのんびり生きていくんだから、食糧庫として人生を謳歌なんてしないぞ。
リリナと暇を潰していると、ルルが来る時間が迫って来た。
「そろそろ、ルル様が来る。ツズリ、ハウス!」
「犬じゃないよ! 甘んじて入るけれども!」
納得がいかないけれど、入るしか道はない。これも、ルルを驚かせる為なのだ。
「ツズリ、尻尾はみ出てる。切って」
「ああ、ごめん。って、怖いよ! 切らないよ! 普通にしまうから!」
わたしのアイデンティティを何故、切除しなければならないのか。トカゲと違って生えてこないぞ。一生もののもふもふだぞ。
わたしが入り切ると蓋が閉められる。
「あとは、非常食ってメモを貼って、食糧庫に運べばいいだけ」
「非常食じゃないから! わたしを食べても美味しくないよ!」
冗談とは分かっていても、リリナならやりかねない。食べはしないだろうけど、食糧庫には運ばれる可能性はあるから、しっかり否定しておかないと……。




