P91 秘境の地の温泉理論
ラライア姫にツズリランドを譲るとなると、もはやツズリランドとは言えなくなるよね。わたしが作って、わたしの個人的な土地にしようと思ってたからこそ、ツズリランドって名付けたんだから。
って事は、新しく名前を付けないとだ。ラライア姫の為にセンスある素晴らしい街の名前になるような名前を付けてあげよう。
「ラライア姫に譲るって事で、ツズリランド改め、ラライアシティーに改名しようと思います!」
わたしがババーンっと重大発表したにもかかわらず、ラライア姫もコタビも何も言わずに固まったままだ。
あれ? ネーミングセンスに問題でもあったかな? わたし的にはこれ以上ないハイセンスの名前なんだけれども。シャロなんかより、よっぽどセンスあると自負しているんだけれども。
ちょっと間を置いて、はっとしたようにコタビが口を開いた。
「それは気が早いの。ラライア様が街を本格的に治めるのは、大人になってからなの」
「あと五年は先の事になりますわね」
「あ、そうなんだ。そりゃそうだよね。まだまだ子供なのに、そんな大きな責任ある仕事に就くなんて事はないよね。街を収めるってなると、それに関しての勉強もしないといけない訳だし」
この国の姫だからってだけで、街一つ治めるだけの力は十分にあるだろうけど、権力はあっても力量が付いてこないと、結局崩壊してしまうと思う。
まぁ何にしても、わたしのネーミングセンスが悪いせいで一瞬時が止まった訳じゃなくて、わたしの気が五年も早すぎたから困ってしまったってだけだったんだね。良かった良かった。
「ですので、名前は五年後に譲り受けますわ。今はまだ、ツズリランドのままでいいと思いますわ!」
ラライア姫の声には何故か力がこもっていた。力強く、確実に伝わるように、ツズリランドのままでいいという意思が込められている気がする。
「そうなの。急いで今すぐ考えなくても、五年もあれば良い名前が浮かぶと思うの。それまで、楽しみは取っておいた方がいいと思うの!」
うん、これはもう確定的だ。完全にラライアシティーを否定されている!
あの狂信者であるコタビにすら否定されている! わたしのハイセンスなネーミングはシャロ並みだとでも言うのか!
しかも、子供である二人にまで気を使わせて、ちょっと遠回しに言わせてしまっている。大人として情けない。大人として。
っというか、コタビはほぼストレートに言ってない? 女神に対して失礼じゃない?
わたし、女神じゃないけどもさ。
「女神であるわたしの偏見と独断で、コタビにこちょこちょの罰を与えようと思います! 賛成の人、挙手!」
「どうしてそうなったのか分かりませんけれど、ここは昔からの友、コタビの為を思うと挙手せざるを得ませんわ!」
ラライア姫が勢いよく手を上げて、わたしに賛同の意を示す。
「どうしてなの! ラライアシティーを否定したのはコタビだけじゃないの! ラライア様もほんのりと拒否していたの!」
「わたくしは五年後に譲り受けると言っただけですわ。否定はしていませんの」
「ラライア様が裏切ったの! 目を合わせた時の意気投合はどこへやらなの!」
あの一瞬の間で、アイコンタクトをしていたのか。昔からの友ってだけはあるね。
まぁ、その昔からの友に裏切られている犬が一匹いる訳だけれども。
「やっぱり否定していたんだね、コタビ。女神として、とても悲しいよ。信じていたのに!」
「はっ! 誤解なの! ラライアシティーとてもいい名前だと思うの! なんか、その、そこはかとなく愛が伝わってくるの!」
滅茶苦茶、苦し紛れの理由を述べてる! これはもう看過できないね!
「ラライアくん! やってよし!」
「お任せくださいませ、ツズリ様!」
ラライア姫が指をこちょこちょと動かしながら、コタビに近づいていく。コタビはずりずりと後ろに下がりながら、ラライア姫から逃げている。
「ま、待ってなの。話し合いで解決すべき問題なの」
「問答無用ですわ!」
「うわー! なの!」
ラライア姫がコタビの脇腹はこちょこちょとしている景色を見ていると、ああ、帰って来たんだなーって思えるね。
シャロと一緒にいると、シャロの方が姉って気がするから何となく甘えてしまうんだけど、ラライア姫達一緒にいると、まだわたしの方が大人だからちゃんとしなきゃってなる。
見た目的には、二人と変わらない子供なんだけれどもさ。まぁ、気分の問題だよね。
「はぁはぁ……、つ、つかれたの。せめて手加減してほしかったの……」
「ツズリ様のご命令ですから、手は抜けませんわ。遊びでも全力ですわ……」
疲れたのか、二人とも息を切らして床で伸びている。
「二人とも汗でびっしょりだね。そこまで全力を出す必要はなかったと思うんだけど……」
何事にも全力を出す事は良い事だとは思うけれどもさ、何事にも加減も大事だと思うんだよ。大会で全力を出し過ぎて、シャロの腕を斬り飛ばしてしまったわたしが言えた事じゃないけどね。
あの時はシャロの方が一歩先手を取ってて、幻覚で油断させられただけだったから良かったよ。
「汗かいたままだと風邪引いちゃうから、清潔魔法掛けてあげるね」
清潔魔法の万能性は世界一の魔法なのではないだろうか。掃除に洗濯、更には身体の汗や泥、垢まで落としてくれる超有能魔法。
まぁ、風邪を引いてもわたしなら治せるとは思う。ラライア姫の吐血病も治ったし、風邪くらい治る。デバフ状態だと認識されているなら、治る。多分。
「清潔魔法でもいいのですけれど、ここはツズリ様に習ってオフロに入って綺麗になろうと思いますわ」
「え? お風呂?」
「そうなの。最近は一日に一回はお風呂に入って、一日の汗と疲れを取ってるの!」
「え、でも、毎日ツズリランドに行ってお風呂に入るのなんて大変じゃない?」
お風呂があるのはツズリランドにあるわたしの家だけだ。そこ以外には作っていない。
それに、お湯魔法を使えないとお湯を張る事すら出来ないから、コタビ達だけじゃ無理だ。そもそも、わたしみたいに空を飛べるわけじゃないから、ツズリランドに辿り着くのに時間が掛かり過ぎる。
「その点は問題ないですわ。このお城にもオフロを作りましたのですわ!」
「作ったの!?」
なるほど、確かにここに作れば、わざわざツズリランドにまで行かなくてもお風呂に入ることが出来るね。だからって作るとは思わなかったけど。
「姫の権力を有効活用して、このお城の最上階に作ってあるの!」
「わざわざ最上階に!? まぁ、景色は良いだろうけど……」
景色は良い。でも、エレベーターがある訳でもないこの世界で、尚且つこのでかいお城の最上階って事は……。わたしの懸念している事が正しければ……。
「ですが欠点がありまして、スイン宅配便を使わなければオフロに辿り着くまでに、朝になってしまいますの」
「でっすよねー」
そりゃそうなるよね。体力のないラライア姫だもの。
っていうか、スイン宅配便ってなんだ。普段お風呂に行く為に、スインさんに運んでもらっているって事なのかな。
それはそれで、迷子とかになって時間掛かりそうだけれども……。
「それに部屋に帰って来る頃には、オフロに入る前と同様の疲れと汗をかいてしまっているの」
「そりゃそうだろうね! 作る前から分かるじゃん!」
何故、最上階に作ったんだ。いつでも入れるように自分の部屋の近場に作ればいいじゃないか。
「はぁ、今回はわたしが運んであげるから、一緒に入ろっか」
「ありがとうですわ!」
「ありがとうなの!」
部屋の窓の外に絨毯を取り出して、皆で絨毯に乗り込み、そのまま最上階に上がっていく。
広い廊下を通って、更には階段まで上がらなければならない城内ルートより、外から一直線で上がる事が出来る絨毯のエレベーターの方が、よっぽど早い。
そして、最上階にあるお風呂へとパパッと辿り着いた。
「おー、本当にこんな所にお風呂が出来てる!」
最上階、お城の一番高い所である尖っている部分にお風呂があった。窓はなく、柱が何本か立ってあるだけの吹き抜けの部屋。
もはや部屋と言って良いのか怪しい。
なんだこの、スーパー露天風呂は……。ほぼ360度どこからでも覗けちゃうじゃないか。
まぁ、ここより高い場所も、同じ高さの建物もないから覗きようがないんだけどさ。それこそ、わたしみたいに空を飛んでいないと、覗けない高さだ。
最上階のフロアの唯一壁となっているところに部屋があって、そこが脱衣所になっていた。脱衣所の隣は、下の階に降りる為の階段がある。
絨毯がなければこの階段から上がって来たって事か。ラライア姫の部屋も上階にはあるけど、更に上だから上がってくるのは大変だ。
最上階という辺鄙な場所であっても、流石お城というだけの無駄に広い脱衣所で服を脱いで、再び外に出る。部屋じゃなくて、もはや外だ。
「さむっ!? 寒いよここ!」
最上階、最も高い場所。そして、吹き抜けの外。
そりゃ寒いよね! 普段は防寒着にもなる巫女服を着ているから、外の気温何て気にしなくてもいいけど、巫女服を脱いでしまえば、そりゃ寒いに決まっている。
「ここのオフロの欠点はもう一つあって、風が良く通って寒いのですわ」
「は、早くお湯に入るの! 凍え死んでしまうの!」
「なんでここにお風呂作ったんだ……」
先に出たわたしの後ろから、腕を組んで寒そうに震えながら二人が出てきた。
本当に何故、最上階になんてお風呂を作ったのだろうか。もうちょっと後先考えて作ろうよ。
いつまでも寒い風の中で、裸のまま突っ立っている訳にはいかないので、早速、湯船に浸かる事にする。
最上階のほぼ全部がお風呂になっていて、本当に無駄に滅茶苦茶広いお風呂になっている。もはやプールだよ。
わたしが作ったお風呂以外に入るのは初めてだけど、お湯加減や如何に。
「あ、程よい暖かさだー」
冷えた身体にスッと身に染みてくる温かさに、思わず身体が溶けるかの如くお湯に身を任せる。
冷たかった風が、お湯から上がる湯気と混ざって顔に当たると、冷たくも無く心地よい暖かさになっている。
「……最上階のお風呂……ありだね……」
「ありですわよね! 苦労して最上階まで上がると、街と街の外まで見渡せる絶景があり、そしてこの風の冷たさと、オフロの温かさが調和している心地よさが堪能できるのですわ!」
「何その、秘境の地の温泉理論……」
それにしても、凄く熱く語っているな。さては、失敗ではなかったと自分に言い聞かせる為にも言ってるんじゃないか。
でも、実際ありだよね、ここのお風呂。最上階まで来るのには苦労してはいないけど、確かに景色は良いし、心地よさも最適だ。
「ツズリ様、大会はどうだったの?」
お風呂に三人並んでのんびりしていると、コタビが聞いてきた。
「残念ながら二位だったよー」
「女神であるツズリ様よりもお強い方がいらしたんですの!?」
「優勝したエルフの人がめっちゃ強かったんだよね。わたしがちょっと油断しちゃったってのもあるかもしれないけど、あれは完全なる負けだって思える納得のできる試合だったよ」
「きっとエルフの女神なの! 女神対女神なら、実力が拮抗しているからツズリ様が負けても仕方がないの!」
確かに実力は同じくらいだとは思うし、女神って言われても納得してしまう程に美人でもあったけれども、血を操る女神なんて居てほしくないから、シャロは女神の皮を被った悪魔だよ。
何かとわたしをペットにしようとしてきたし、もふもふを堪能しようとしたら阻止してくるし、悪魔で間違いない。
「なるほど、同じ神ならツズリ様の負けもありえると言事ですわね。それにしても、女神対女神、きっと歴史に残る名勝負だったに違いありませんわ!」
「歴史には残って欲しくないけど、わたしが戦ってきた人達の中でも、記憶に残るくらいに熱い戦いだったよ」
わたしが戦ってきた人達は、シャロ以外全員ゲームプレイヤーな訳だけどね。
剣を使う大会で絶対に勝つことが出来なかった不動の一位さんとか、今でも鮮明に覚えてる。一回は勝ちたかったけど、転生しちゃったら戦う事は出来ないね。
勝ち逃げされちゃった気分だ。居なくなったのはわたしの方だけどもさ。
「ツズリ様が本気で戦っている所観たかったの……」
「神々の熱い戦い、観たかったですわね」
「まぁ、また試合する機会はあるんじゃないかな。それこそ、二人が大人になって、遠出も許されるようになったら、今度は一緒に行ってもいいしね」
何年後になるか分からないけど、シャロとはまた会う気がする。それがまた大会だったら、今度は皆の前で堂々と勝とう。
「明日には大人になってみせますわ!」
「ラライア様には負けないの! 先に大人になってみせるの!」
二人がザバーっと立ち上がって意気込んでいるけど、絶対無理だからね。成長は時間に身を任せるしかないからね。
コタビに関しては、胸だけは既に子供を一歩抜けている気がするのが腹立たしい。立ち上がって湯船から出ているせいで、目に見えているのが尚更腹立たしい。
いいさいいさ。わたしもそのうち成長するんだから!
「寒いですわ!」
「寒いの!」
「そりゃそうだろうね……」
そして、すぐさま湯船に浸かりなおす二人であった。
誤字報告等、いつもありがとうございます。




