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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、大会ライフ
86/144

P86 エルフは圧迫感がなくていい

 シルフさんの誤解は、わたしとシャロの熱い説明により、何とか解く事が出来た。


「なるほど、オフロっていう風習があるのね。オフロって、シャロがこの前ごちゃごちゃ言ってた事よね? 川の冷水に入って裸で泳ぐとかって言ってたのを覚えてるわ」


「何一つ覚えておらんではないか。そんな露出狂じみた事一言も言っとらんわい!」


 シルフさんがお風呂の認識が大幅にズレいるので、わたしが説明して軌道修正しておく事にする。


「お風呂っていうのは、温かいお湯に身体を入れて、一日の疲れを心身ともに取ることが出来る最高の癒しだよ。もふもふによる癒しには劣るけどね」


 もふもふに勝る癒しなど、この世に存在してはいないのだ。例えお風呂が相手だろうと、もふもふの癒しの前では、ひれ伏すのみ!


「そのもふもふも、オフロに入ればしなしなになるがのう。ツズリの尻尾は、そんなにも細かったのかってくらい、しなしなになるのじゃ」


「なにそれ! オフロよりもそっちの方が気になるわ!」


 シルフさんが、目を輝かせてわたしの尻尾を見てくる。


「そんな事、気にしなくていいよ!」


 癒しではお風呂に勝つもふもふも、物理的な水攻撃には成す術もなく負けてしまうのだ。

 ゲームなら水中に入っても、もふもふは失われないが、現実ではそんな事はない。キャンプで立証済みだ。


「オフロの話をしてたら、オフロに入りたくなってきたのう。大会も終わった事じゃし、身体の疲れをオフロでとりたいものじゃわい」


「あー、確かにねー。大会終わった記念にお風呂でも入りたいね」


 わたしもシャロも、今回の大会で疲れたかどうか怪しい試合ばかりだ。

 わたしは最初のピエロは良い感じに戦ってたけど、何故か逃げられて、二戦目何て試合というのもおこがましいものだ。シャロは全部ワンパンだし、言わすもがなで疲れていないだろうね。

 でもまぁ、決勝戦はそれを差し引いても、十分に上回るぐらいには疲れたから、どっこいどっこいかな。


「だからー、オフロなんてこの宿にはないからね? でも、私もそのオフロってのには入ってみたいわね。ツズリちゃんのしなしな尻尾を見てみたいって言うのもあるけど」


 どんだけわたしのもふもふではなくなった尻尾を見たいんだ。もふもふの方が魅力的でしょうに。


「シルフは大会にも出ておらんのじゃから、疲れてないじゃろうが。オフロは決勝戦に出た人のみのご褒美なのじゃ!」


「なによそれー! そんなのずるいわ! 私だってシャロとツズリちゃんの応援で疲れてるわよ! くねくねしすぎて腰がくねくね病になるくらい、くねくねして応援したのよ!」


 シルフさんが腰をくねくねしながら、シャロに異議を申し立てている。昨日よりもくねくね度が上がっている気がしなくもない。

 いや、くねくねし過ぎでしょ。なんだよ、くねくねし過ぎてくねくね病になるって。聞いた事ないよ、そんな病気。


「お風呂は別に決勝戦のご褒美って訳でもないし、シルフさんが一緒でもいいよ。それに、皆で一緒に入った方が楽しいしね」


 一人でのんびり入るのも良いけど、キャンプの時みたいに皆でわいわいしながら入るのも、それはそれで良いんだよ。

 あの時は、ラライア姫が倒れるっていうハプニングがあったけれども、それも良いか悪いかは置いといて、思い出として残るものだ。


「シャロと違ってツズリちゃんは心が広いのね! ありがとー!」


「うぶぁっ!?」


 ぱぁっと明るい笑顔になったシルフさんが、お礼を言いながら勢いよくわたしに抱き着いてきた。いや、抱き着いてきたというよりは、抱き上げてきたが正しい。身長差的に。

 そして、胸のクッションが小さくて若干痛い。これがメアさんやカレンさんなら、全てを受け入れるクッションなのにね。エルフだから仕方ない。


 わたしが成長したらボッキュッボンの麗しい女性になる予定だだから、転生した身体がエルフじゃなくて良かった。夢も希望も無くなる所だった。

 グッジョブ、ゲームキャラを狐っ娘にしたわたし。エルフではなく、獣人を選択したわたし、グッジョブだよ。


「誰と違ってじゃと!? わしこそ心の広さの第一人者とまで言われておる者じゃぞ!」


「そんな訳ないでしょ。心広いねって言われる私以外の知り合いもいないのに」


「シルフ以外の知り合いくらいおるわい! ツ、ツズリとか……の?」


 シャロが痛い所を突かれたとばかりに、涙目でわたしに意見というか助けを求めている。

 泣きたいのは、寧ろわたしの方だよ。シルフさんにずっと抱き上げられているわたしの方だよ。

 抱き上げたついでに、尻尾をもふもふしている感じから、もふもふの虜になってしまったんだろうね。なんて罪なもふ尻尾なんだろうか。


「あー、うん、シャロは心がひろ……」


 ……広いだろうか? ちょっとシャロばあとか言っただけで、鉄拳が振り下ろされるし、未だにわたしをペット扱いするし、そうでもないのでは。

 うん、広くない。


「それより、お風呂入るのは良いんだけど、お風呂を作る場所はどうするの?」


「おーい、話をすり替えるでないのじゃ! わしの心は広いと断言する方が先なのじゃ!」


「うーん、そうねぇ。水を使うみたいだから台所……は流石に狭いだろうし、どの部屋も埋まってるから、空き部屋なくて使えないわよ?」


「無視か? 無視なのかの?」


 これは困ったぞ。お風呂に入りたくても作る場所がない。自分らの部屋に作るのならありかもしれないけど、土魔法を使って浴槽を作るし、その中に大量のお湯を入れるから床が抜けそうだよね。

 空き地を探してそこに小屋でも作る? こんな夜中から探したくないよね。どうしよう。


 わたしがうーんっとシルフさんに抱かれながら悩んでいると、無視され続けていたシャロが口を開いた。無視していただけで、ずっと口開いてたけども。


「オフロの場所なら、心の広いわしにいい考えがあるのじゃ。心の広ーいわしにな」


 心が広いとって事を強調していた気もするけど、その部分には一切触れない事にする。


「人目が付かない所で、それなりのスペースがあって、重量にも耐えられるところだよ? あるの?」


「うむ、丁度いい場所があるのじゃ。ツズリも知ってる場所なのじゃ」


 わたしが知っている場所って言われても、そんな場所は限られていると思う。何せこの街の見学を全くしていないからね! 街を歩いても、わたしの目に入ってくるのはもふもふの尻尾だけだし!

 そのわたしでも知っている場所となると……、この宿か、闘技場な訳だけど、まさかね……。


 シャロに案内されて、到着した場所は――、


「やっぱここか!」


 わたしが思った通り、大会が開催された闘技場、わたし達が試合をした場所だった。


「ここなら持て余すほどに広いし、大会も終わって立ち入り禁止じゃから、人の目も気にする必要もないのじゃ。オフロに入るのにもってこいの場所なのじゃ!」


「立ち入り禁止じゃ駄目じゃんか!」


 確かに、条件は揃っていてお風呂に入るならもってこいの場所かもしれないけれども……。入ってはいけない場所になっているのなら、入っちゃダメに決まっている。


「何を言うツズリよ。バレなきゃ侵入した事にならんのじゃ! そんな常識的な事も分からんのか」


「いや、流石にそれは非常識だよ!」


 シャロがジト目で、わたしを小ばかにした感じで常識を説いているけど、散々ルルに常識がないと言われ続けているわたしでも、これが非常識である事は分かる。


「ツズリちゃん、エルフの諺でこういうのがあるわ。毒キノコ鍋を皆でつつけば、怖くないって」


「毒キノコなら何百人で食べようが怖いよ!」


「因みに意味は、。皆で過ちを犯しても、自覚が無ければ大丈夫! って意味よ!」


「それただ馬鹿なだけじゃんか!」


 駄目だこのエルフ達……早く何とかしないと……って思ったけど、長寿のエルフに対して今更何をやっても無意味な気がするから、そっとしておくしておこう。それが一番いい。


「二対一じゃな。さ、中に不法侵入するとしようかのう」


 不法って言ってる時点で、悪い事だと自覚していると思うが、エルフの発言なのでわたしはスルーする。


 決まってしまった事は仕方がないので、わたしは入り口に向かって足を進めていると、シャロのに呼び止められた。


「どこに行くのじゃ、ツズリよ。堂々と入り口から入れば、警報が鳴ってゴーレムが騒ぎ出すぞ」


「え? そうなの?」


 入り口に防犯の結界か何かあるのかな。そりゃ、街全体を覆う結界が張ってあるくらいなんだから、それくらいの魔法技術はあっても不思議ではない。


「入り口がダメなら、どこから入るの?」


「それは勿論、上からなのじゃ」


 シャロが上を指さしながら言った。


 あー上ね。この闘技場は屋根がないから、上からは侵入し放題だ。全面的に結界が張ってあったらアウトだけど、流石にこの高い壁を登ってまで侵入するような馬鹿は早々いないから、張ってないのかな。

 まぁ、その侵入しようとしている馬鹿三人組がここにいる訳だけれども……。


 このくらいなら、土魔法でも風魔法でも階段や床を作って、ぴょんぴょんぴょーんって飛べ越えられるね。ルルの街の壁を越えた事があるという実績もあるし、余裕だね。


「なるほど、これくらいなら確かに飛び越えられるね」


「シャロやツズリちゃんみたいに、運動能力高いならいいけど、私に無理だわ」


「大丈夫だよ。わたしが階段を――」


 っと、言い切る前に、シャロにガシッと捕まれて担がれた。シルフさんもわたし同様に担がれている。

 シャロの両脇にシルフさんとわたし。両脇に華だね。いや、何この状況。


「では、二人ともしっかりと捕まっておくのじゃぞ」


「「え?」」


 わたしとシルフさんは声を揃えた。

 勿論の事、聞く耳を持たないシャロはそのまま壁に向かって走り、大きく跳躍をした。一気に壁を超える高さまで。


「おー! 流石シャロ! 跳躍力も凄いね!」


「いいいいいいいいやあああああああああああ! 降ろしてええええええ!」


 普段、絨毯で空を飛んでるわたしは平気だけど、シルフさんは平気ではなかったみたいだ。ジェットコースターにでも乗っているんじゃないかってくらいの悲鳴が、隣から聞こえてくる。


「今降ろせば、地面にぶつかって死んでしまうが、良いのかの?」


「ダメえええええ! 降ろさないでええええ!」


 シルフさんが涙を流しながら、声を震わせながら懇願している。

 心配しなくても、翼を生やして飛んでいる訳ではなく、ただジャンプしただけなんだから直ぐに地上に降り立つのにね。


 っと、言っている間にスタッと無事に着地した。

 まぁ、着地したのと同時に不法侵入にも成功してしまった事になるんだけれどもさ。そこはこの際、目を瞑る事にしよう。何て言っても、わたしもお風呂には入りたいからね!


「はぁ……し、死ぬかと思った……」


 シルフさんがぺたんっと地面に座り込んでしまった。座り込んだというか、腰が抜けて立つ事が出来なかったと言うべきかな。


「だらしないのう。ビビり過ぎておしっこをちびってないじゃろうな?」


「漏らしてないわよ! 千年近く生きてるのに、そんな恥ずかしい事する訳ないでしょ!」


「シルフさん、お風呂におしっこを入れないでね? 漏らしてたらちゃんと清潔魔法を掛けて、念の為、水で洗ってから入ってね? 尿風呂とか入りたくないから」


「だから漏らしてないわよ!」


 シルフさんをからかうのもほどほどにして、わたしはお風呂を作る事にする。

 土魔法で浴槽をパパッと作って、水魔法でお湯をパパッと入れるだけで完成だ。

 覗き見防止の壁は作らなくても天然(闘技場)の壁があるから、人目を気にする必要もない。そもそも、ここに立ち入るような馬鹿はわたし達以外には多分いないから大丈夫だ。

 脱いだ服を置く机類も、収納魔法から取り出しておく。地面に捨ておくわけにはいかないからね。


「久方ぶりのオフロなのじゃー! 早くはいるのじゃー!」


「わーい! お風呂ー!」


 わたしとシャロはすぐさま服を脱ぎ、お湯に浸かる。

 シャロとの旅以来のお風呂、久しぶりなだけあって尚更気持ちいい気分になる。流石お風呂、身体の疲れがお湯に溶けていくようだ。


「ふぅ、身体の芯まで温まって、大会の疲れが取れるのじゃー」


「やっぱ、お風呂は最高だねー」


 のほほーんと二人でお湯に浸かって、まったりと疲れを取る。


「あなた達……、こんな場所なのに、服を脱ぐのに躊躇がないわね……」


「こんな場所だからこそ、人なんて来ないから大丈夫だよ」


「そうなのじゃ。来ても記憶が飛ぶくらい殴ればいいのじゃ」


 シャロが殴ったら全ての記憶が失われそうだけど、わたしとシャロという、超絶美少女の入浴を覗き見代償は、それくらい消し飛んだ方が丁度いい。


「達観してるわね……あなた達……」


 シルフさんも意を決したのか、服を脱いでわたしの横にゆっくりと入って来た。


「あー、これいいわね。ただお湯に身体を入れているだけなのに、凄く気持ちがいいわ」


 どうやらシルフさんもお風呂を気に入ったみたいだね。お風呂を嫌いな人なんて早々にいないよね。


 シャロは少女って感じの見た目で、シルフさんはお姉さんって感じの見た目。そして、わたしはルル達と同じだから、受け入れたくはないけど小学生くらいの見た目だ。

 その三人が並ぶと、三姉妹って感じがするね。


 そして何より、シャロもシルフさんもエルフだから胸の主張が少ないという事だ。わたしよりは勿論あるけれども、嫉妬するレベルの大きさではないから、わたしも何の憂いもなくお風呂を満喫できる。

 これが、メアさんとカレンさんに挟まれてたりなんかしたら、胸の圧迫感で窒息死してしまう所だったよ。


「ツズリ、何か失礼な事を考えておらぬか? そういう顔をしておるぞ」


「な、なにも考えてないヨ。あ、ほら、星が良く見えてキレイダヨ」


「絶対何か誤魔化したじゃろ!」


 誤魔化すも何も、星はちゃんと綺麗だよ。雲一つない星空だよ。

 わたし達は、暫く星を見ながら、くだらない会話をして、ゆっくりとお風呂を堪能した。




誤字報告等、いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 余計なことかもしれませんが、誤字脱字報告の方にちょこっと文の修正案?を入れときました。 その案を使う使わないは別として、手間が少し増えて申し訳ないのですが、お役に立てれば良いな~と。
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