P83 ツズリ対シャロ
女神という肩書がないこの国で、今度は神獣扱いされてしまった。しかも、獣王から。
これ絶対この人が獣人族の国に帰ったら言いふらすやつだ。獣王というトップになったこの人が言えば、国中に広がるやつだ。
これは困った事になったぞ。わたしは獣人族の国に行く事が出来なくなってしまった。
待ち望んだもふもふ天国の世界に、わたしは行けなくなってしまった……。
行ける事は行けるだろうけど、崇められるのは勘弁願いたい。
もふもふと崇められるのを天秤に掛けるなら、崇められたくないという気持ちの方が僅かに勝ってしまう。
でもまぁ、女神を騙り続けているわたしだ。新しく神獣を騙るのなんてどうって事もないさ。
ふん! もうどうにでもなるがいい!
「そう! その通り! わたしが獣人族の危機を救った神獣だよ! でも、この事は秘密にしてくださいね。今ここでバレると騒ぎで大会が台無しになりかねないからね」
「はっ! 畏まりました!」
よし、取り敢えずこの場はどうにかなりそうだ。獣王の試合という事で、見に来ている獣人は多い。更に言えば、わたしも獣人だから、獣王対わたしの試合という事もあって、尚更獣人の客は多いだろう。
「っという事で、怪しまれないように普通に戦おう!」
「神獣様に拳を振るうなんて、そんな罰当たりな事出来ません!」
「えっ? いや、でもほら、神獣と戦えるなんて滅多に出来ないよ? 自分の実力を試すいい機会だよ?」
「試しているのですね! 自分が殴りかかれば信仰心が足りないと一蹴されるおつもりだったのでしょうが、自分の信仰心はそんなものではありません! 絶対に神に拳を振ったりしません!」
重いよ、その信仰心。コタビ並みに重いよ。
コタビは子供で可愛らしさがあるけど、成人男性でガッチガチの戦闘実力者にやられるときついものがある。信仰されるならコタビの方がマシだね。
コタビも犬みたいなところあるし、どっちも犬という事ならコタビがいい。出来たらどっちにも信仰はされたくないけれども。
「でもこれ大会だし……。戦わないと終わらないし……」
「任せてください! 自分にいい考えがあります!」
「待って! そのパターンは良くない考えのパターンだから! わぶっ!?」
っと、わたしの声は届く事はなかった。コタビのような狂信者の獣人は既にステージ外にいる。
力強いバックステップで、地面を抉った破片をわたしに浴びせながらステージ外に跳んで行った。
「ぺっ、ぺっ! 最悪……口の中砂だらけだよ……」
巫女服は防御力は高いけど、口に砂が入ればその防御力何て関係ない。だって、痛さとかじゃないんだもん。ただの害なんだもん。
っというか、神獣のわたしに砂を掛けていくってなんだよ。殴るより害意極まりないじゃないか。
「えー、あ、勝者ツズリ選手! 目にもとまらぬ速さでワンタン選手を場外へと飛ばしましたー!」
わたしの試合は相変わらず司会者も困惑しているね。そして、わたしが飛ばしたんじゃなくて、自分で跳んでったんだよ。
「はぁ、またこんな感じの勝利……。シャロ戦に向けての準備体操にすらならなかった……」
まぁシャロに言われた通り、パパッと勝利出来たのには変わりないからいいよね。結果良ければ全てよしっだ。よくない点も多々あるけれども、そこは目を瞑ろう。
「なんか自分から後ろに跳んでいったように見えたのじゃが、何はともあれ、これでツズリと戦えるのう」
わたしと戦える事が楽しみなのか、シャロがにやっと笑いながら言う。
「ちょっと納得はいかないけど、今日中には戦えるね」
「ふははー、絶対に負けんのじゃ」
「わたしも負ける気はこれっぽっちもないよ」
火花がバチバチとなっているくらい、お互いに見つめ合う。
そして、わたしは思う。シャロってやっぱ美少女だな。見つめ合ってるとなんか照れてしまう。
「何を顔を赤らめておるのじゃ……。戦いってゆうても、夜の戦いじゃないぞ」
「誰もそんな事考えてないよ! いい加減、わたしをそっち方面に考えるのやめてよね!」
シャロは自分の美貌の凄まじさを自覚した方がいいと思う。同性をも照れさせる魅惑の美貌の自覚を持つべきなんよ。
「準決勝が思いのほか早く終了いたしましたので、午後から決勝戦を行います! それでは皆様、決勝戦が始まるまで、お昼休憩となります」
わたしもシャロも試合では全く疲れてはいないけど、しっかりと休憩を取って英気を養う。
さっきまでバチバチやらテレテレやらしていたけど、お昼は今日もリリナ弁当を一緒に食べた。これから戦うというのに、何とも呑気なものだね。
「それでは決勝戦を行いたいと思います! 選手の方はステージに上がってください!」
司会者の連絡と共に、わたしとシャロは仲良く一緒に歩いてステージに行く。
絶対おかしいよね。これから戦うのに、仲良く登場なんて。
「さぁ、決勝戦の選手が揃いました! ついにこの試合で勝てば優勝者が決まります! それでは、改めて選手の紹介をいたしましょう!」
しなくていいよ! また、防音魔法使わないといけなくなるじゃん!
「誰もが目を止めてしまうほどのその美貌! そして、華奢な身体のどこからその力が出されているのか分からない、驚異的な破壊力! バトルロワイアルから全てワンパンで勝ち進み、使ったのは片手と片足のみ! 果たして、決勝戦もワンパンで勝ってしまうのか!? シャロ選手!」
やっぱそうだよね。誰が見てもシャロの美貌と、華奢な身体から放たれるスーパーパンチは疑問だよね。
それにわたしはワンパンではやられない。そんな見っとも無い試合を決勝戦では出来ないし、わたしのプライドが許さない。
さて、次はわたしの紹介か……。怪しげな単語が出てきそうなら即防音してやろう。
「対するは、珍しい髪色を靡かせ、ふっくらとした尻尾を揺らす獣人の女の子! 道化師と獣王をも退けさせた、その幼く可愛い見た目からは予測出来ない戦闘能力! 間違いなく、今大会のダークホースと言えるでしょう! ツズリ・フォル――選手!」
だからなんでフルネームで言おうとするんだ。他の人は名前だけなのにさ。いや、フルネームではないけどね。
絶対、どっかの胡散臭い王の指示が入ってるでしょ。ラライア姫には悪いけど、わたしあの王、嫌い!
「勝つのはどちらの選手なのか! 決勝戦! 試合開始です!」
わーっと、会場が盛り上がっている。流石決勝戦、今までの比じゃないくらい盛り上がってるね。
あ、あそこでくねくね踊ってる人、絶対シルフさんだ。もしかして、準決勝の時も踊ってたのかな。シルフさんならあり得そうだ。だって、シャロと同じエルフだし。
「何か失礼な事を考えておらぬか?」
「え? いや全然考えてないよ! エルフって頭がおかしい人多いのかなってなんて、これっぽっちも思ってないよ!」
「それならよいのじゃがのう。ほれ、先手はツズリに譲ってやるからかかってくるのじゃ。楽しい試合を始めるのじゃ!」
ふぅ、何とか誤魔化せたみたいだ。考えている事が直ぐに顔に出てしまうのは、厄介な癖だね。それでも、治そうという努力はしないけれども。
「相変わらず、突っ立って堂々と待ち構えるんだね。今までの対戦相手と一緒にしない方がいいよ」
「それは戦ってみないと分からん事じゃのう。案外あっけなくワンパンで終わるかもしれんのじゃ」
一発目は甘んじて受け入れるみたいな、この強者プレイをどうしても貫き通したいみたいだね。じゃあ、わたしも遠慮なくその要望に乗ってあげよう。
ゲームの頃から、近接戦闘には欠かせないツズラオさんを握り、シャロに突っ込む。まぁ、普通に斬りかかっただけでは片手で止められる事だろうね。
そんな馬鹿正直に、先人達の同じ轍を踏むような事はしない。ちゃーんと、小賢しい事は考えているともさ。
先ずは、目を閉じます。そしてその後、光魔法を使って閃光弾を使いシャロの目を眩ませます。
ここで一番重要なのは、目を閉じる事である!
「なんじゃ!? 卑怯じゃぞ!」
よし、上手く効いているようだ。初見じゃ防ぎようがないよね! わたしも自滅した事があるから良く分かるよ!
目くらましをしたからと言って、真正面からは仕掛けない。ここは徹底的に不意を付いて行かないとね。
シャロの後ろに回り込んで、刀を振るう。
「一撃もらったー!」
「ふん! 目が見えずとも気配で分かるのじゃ!」
「にゅあ!? ったああああ!?」
後ろ手に刀を正確にキャッチされて、そのまま前に投げられた。
空中で身を翻して、スタート位置に着地する。これが双六だったら、悪意あるマスを踏んだ事になるところだった。
「シャロって後ろに目でもついてるの!?」
「そんな訳なかろうが。意志ある攻撃には、少なからず殺気が混じるものじゃ。それを感じ取れば目を瞑っていたとしても相手の位置くらい分かるのじゃ。戦闘の基本じゃぞ」
戦闘の基本だと言われても、流石に分かる訳がない。
ゲームでの戦闘経験は多いけど、殺気なんて分からないよ。ゲームではモンスターの位置はアイコンで分かるし、マップにも表示されるもん。
この世界に来てからだって、わたしの優れた聴覚とテリトリーによる魔力感知に頼ってきたから、殺気なんて感じ取れないもん。
目くらましは効かないって事か。
あのピエロみたいに煙じゃないけど、水魔法で霧でも発生させようかとも思ったけど、それも無意味だね。
「いよーっし! 第二作戦!」
「どんな作戦で来るの知らんが、子供騙しの技などわしには効かんぞ?」
「今度は堂々と真正面から行くから問題なし!」
刀を振っても掴まれたら意味がない。じゃあ、どうすればいいかなんて簡単だ。捕まれないようにすればいいだけだからね。
刀に妖力を流し、炎魔法を纏わせる。
「ほう、炎属性の魔法剣じゃったか。珍しい武器を持っとるのう」
「正確には剣じゃなくて、刀だよ!」
わたしは正面から堂々と正直に突っ込む。
さて、シャロはどう出るかな? 避けるのか、それとも何かして来るのか。
炎で覆ったツズラオを、シャロに向けて真っすぐに振り下ろす。
「武器には武器を、じゃ」
シャロの右手から赤い大剣が生えてきた。生えてきたというよりは、瞬時に生成したが正しい。
赤い大剣。ただの赤い色のカッコいい大剣ではなく。血で出来た大剣だ。その大剣でわたしの攻撃を容易く受け止められた。
「そういや忘れてたけど、血を操るんだったね。でも、大剣は失敗なんじゃない?」
相手が大ぶりの大剣なのなら、小回りが利くわたしが有利だ。
「そう思うかの?」
バックステップで一旦下がり、再度接近し今度は横薙ぎに刀を振るう。シャロは勿論、防ぎに来る。狙い通りだ。
刀を寸止めして、身体を回転させ逆を斬る。
キンっと金属と金属がぶつかった音が鳴り響く。
「大剣二刀流!?」
新しく赤い大剣がもう一本増えていた。それに防がれたみたいだ。
「大剣は失敗だと言っておったのう。どうしても大振りになって隙が増えるからだと思うが、それはわしには関係ないのじゃ」
防いでいない方の大剣が物凄い速さで振り下ろされる。
「はやっ!?」
わたしは瞬時に横に跳びのいた。我ながら良い反射神経をしていると思う。こういう所はゲームでの経験が活きているのかな。
振り下ろされた大剣はドゴーンっと言う轟音を鳴らしながら地面を砕いている。
相変わらず、とんでもない威力だ。そりゃ素手でも破壊出来る力を持っているんだから、武器を持ったらそうなるよね。
その威力を出せる怪力のシャロが大剣を振れば、それだけ早く振る事が出来るって事だよね。
「すばしっこいやつじゃのう。まぁこれくらい避けてくれんと、楽しくないわい。ここからは、わしからも攻めるのじゃ」
シャロが大剣を軽々しく持ち上げ、こちらに剣先を向けてくる。やっと同等に戦える相手も見つけたと言わんばかりの、嬉しそうな顔で。
わたしは深く深呼吸をする。
これは、思っていたよりも一筋縄ではいかない厳しい戦いになりそうだ。




