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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、大会ライフ
82/144

P82 このパターン知ってる!

 シルフさんの誤解が何とか解けた翌日、今日も今日とて会場入りだ。


「本日はいよいよ準決勝だ! 決勝で戦うのは誰になるのか! 熱い戦いが予測されます!」


 司会者の意見にわたしは疑問を浮かべる。


 うーん、そうかなあ。シャロとかまーたワンパンで終わりそうだから、熱さは出なさそうだけどなぁ。

 わたしの試合は、ピエロみたいにならなければ熱い戦いになるかもしれないね。一応、獣人同士の戦い二戦目な訳だし、相手は獣王に決まった強者だからね。


「準決勝の試合時間が短い、かつ選手の疲労が少ない場合、そのまま決勝戦も行います!」


 シャロは問題ないとして、わたしがスパッと勝つ事が出来れば、ついにシャロと戦えるのか。シャロとは早く戦ってみたい気持ちが強いから、ここは是非とも頑張って獣王戦を勝ち抜きたい。

 獣王決定戦ではなく、獣王に挑戦っという意味の獣王戦だ。ゲームのボス戦みたいなものだね。今回のボスはシャロだから中ボス戦か。


「先ずはわしがサクっと終わらしてくるのじゃ。ツズリもちゃっちゃと終わらせられたらわしと戦えるのじゃから、ちんたら戦うではないぞ?」


「魔法使っていいならパパッと終わらせられるんだけど、流石に近接勝負は早く終わらせる自信ないよ。勝つ自信なら大いにあるんだけどね」


「勝てるなら良いわい。では、決勝で待っておるからの」


 っと言ってシャロがステージに向かって行った。

 決勝で待っているからって言われても、今から準決勝な訳で、もう勝った気分でいるのか。まぁ絶対勝つだろうけれどもさ。


「準決勝第一試合の選手が揃いました! バトルロワイアル含めワンパンで勝ち進んできた、怪力少女! シャロ選手対、Sランクの実力を見せつけて勝利を獲得した、変幻自在の武器を操る、スライク選手! 試合開始です!」


 前回の試合では、何が変幻自在なのか全く分からなかったあの大剣使いがシャロの対戦相手だ。

 シャロの不意を突く為に隠してたんだと思うけど、今回は流石に使ってくるだろうね。さて、どう変化するのか楽しみだ。


 わたしの聴力のいい耳を研ぎ澄まして、シャロ達の会話にも注視する。


「この後、ツズリとの決勝が控えておるのでな、ほれ、さっさとかかって来るが良いのじゃ」


 わたしには油断するなとか言っておいて、シャロは随分と余裕そうだな。もはや油断の権化じゃないか。


「ふ、随分と嘗められたものだ。これでも俺は有名なSランク冒険者なのだがな。Sランクは冒険者のトップランクだ。あまり嘗めない方がいい」


 わたしは全然知らなかったけど、この男の人は有名人だったんだ。まぁそりゃそうか、イケメンでSランクにいける程の実力者なのだから、有名になっているのはむしろ普通だ。


「お前のような小物なぞ、知らんわい。自分の事を有名などと見栄を張るのは、大衆の面前でパンツを見せる事くらい恥ずかしい事じゃぞ」


 有名の割には、自称何千と生きているシャロも知らないらしい。っというか、おい。大衆の面前で云々はわたしの事だよね。わたしを恥ずかしい代表みたいに例えないでよ。


「昨日の子犬と一緒にしないで欲しいものだ。恥ずかしさなら、あれに勝る物なんてないだろう」


 おい、ガッツリ見られてるじゃないか。誰だよ、昨日、わしにしか見えておらんじゃろって言ったやつ。


「まぁそうじゃな」


 否定しろよ! そうじゃなって納得しないでよ!

 この後わたし試合なんだけど、どんな顔してステージに出て行けばいいんだよ!

 いやまぁ、二人の会話はわたしにしか聞こえてはいないだろうけどさ……。


「細い身体の割には凄い力を持っているみたいだが、ここまでの戦いを見るに、それしか能がないのだろう? 大して俺は、さっきの試合では全てを見せていない。俺を嘗めた事を後悔させてやる!」


「ふむ、そうかそうか。なら、はよ掛かって来るがよい。さもないと見せ場もなく、あっけなく終わってしまうぞ」


「ちっ、ちょっと美少女だからって生意気なっ! うおりゃあ!」


 シャロ的には煽ってるつもりはないんだろうけど、煽りに痺れを切らしたイケメンがシャロに接近し、大剣を振りかざす。

 流石Sランク冒険者、あんな重そうな大剣を持ってても結構な速度だね。


「軽い剣じゃのう。外を金属で塗っただけの紙の剣のように、軽いわい」


「なっ!?」


 シャロは当然のように片手で大剣を受け止めていた。地面がひび割れている事から、相当な威力である事が分かる。

 最早、いつもの光景だね。隕石が降って来てもシャロなら受け止められるんじゃないかな。


「ほれ、どうしたのじゃ。もしかして、これで終わりかのう」


「くっそ! う、動かねぇ……!」


 イケメンが明一杯、力を込めて大剣を動かそうとするも、片手で持っているシャロの手からはびくともしていない。

 握力どんだけ凄いんだよ。ゴリラか何かかな。いや、ゴリラ何て可愛い物じゃないか。もっと上の化け物レベルだよね。


「仕方ねぇ。形態変化、短刀!」


「おっ、やるのう」


 イケメンがそう言うと、さっきまで大剣だった武器が短剣になり、短くなった事でシャロの手から剣が離れた。


 おー! 変幻自在の武器って本当に変幻自在なんだね!

 魔道具的な仕組みの武器なのかな。すっごいファンタジーって感じがする武器だ。カッコいい!


「伸びろ!」


 如意棒って続きそうな言葉と共に、イケメンの剣が伸び、地面に突き刺さってそのまま宙に浮かび上がる。


「形態変化、ランス!」


 空高く伸びた所でまた武器の形態を変化させている。今度はランスか。色々な武器に変化させることが出来るんだね。

 上空からランスを構えて、そのままシャロを目掛けて落下。重力を利用して威力を上げたってところかな。


 勿論の事シャロは動かない。流石、油断の塊。何があっても動かないつもりらしい。そして、片手を上げてるのを見るに、受け止める気満々だ。


「そう来ると思ってたぜ! 形態変化、大槌!」


 イケメンがシャロに迫った所で、ランスが大槌に変わり、器用に空中で身体を捻らせ大槌をシャロ目掛けて横薙ぎに振るう。


「片手だけで戦うつもりじゃったのにのう。とうとう、足を使ってしまったわい」


 シャロの不意は付けていたみたいだが、シャロは片足で大槌を蹴り受け止めていた。

 うん、何も言うまい。こんなの誰も勝てないよ。っというかこれ、わたしも勝てないのでは……? どうしよう……。


「美しい顔をして、とんでもない化け物だぜ……」


「化け物扱いとは失礼じゃのう。足を使わせた実力者と見て、敬意を持って終わらせてやるのじゃ。手加減はするがしっかり防御するのじゃぞ」


「っ!? 形態変化、大盾!」


 シャロがスッと構え、そのまま拳がイケメン目掛けて放たれる。

 ドンドンっと二回でかい音が鳴り響く。一回目はシャロが大盾を殴った音。二回目はイケメンが壁にぶち当たる音だ。


 うわぁ、まーた壁を破壊する威力で吹き飛ばされてるよ。シャロの対戦相手って皆、壁にめり込むのかな。わたしはそうならないように気を付けないと……。


「し、勝者、シャロ選手! 決勝戦進出です!」


 司会者も呆気に取られている展開だったけど、無事シャロがワンパンで勝利だね。対戦相手のイケメンが無事かどうかは分からないけども。まぁ、救護班が何とかするでしょ。多分。


「ただいまなのじゃー」


 油断の権化が戦い終わって戻ってきた。何の苦もなかったような顔で汗もかかずに帰ってきた。

 まぁ実際、苦はなかったんだろうね。端的にさっきの試合を説明すると、片手で受け止めて、片足で受け止めて、止めパンチしただけだし。


「おかえりー。相変わらず、何かを破壊するんだね。あの壁なんて二回目だよ」


「強度が無さ過ぎるのが悪いのじゃ。わしがパンチしても壊れない事を前提に作ればよいだけなのじゃ」


「無理だよ……」


 そんなの絶対無理に決まってるじゃんか。わたしが、割と全力で作った岩を、木端微塵にする威力前提なんて無理難題が過ぎるよ。

 それに、壊れた方がクッションになって逆に良いのかもしれないし、強度は敢えて弱くしているのかもしれない。壁にぶつけられる事を前提に考えてるとは思えないけど……。


「それより、次はツズリの番じゃぞ。わしと今日中に戦えるように、勝ってくるのじゃぞ!」


「準備体操くらいの気持ちでパパッと勝てたらいいけどね。現実はそう簡単に行かないと思うよ」


「いーや、絶対に素早く勝ってくるのじゃ! わしはツズリと戦いたくてうずうずしておるのじゃ!」


 そんな求められても困るんだけど……。シャロからしたら張り合える相手が居なくて、わたしとガッツリ戦いたいって思ってるのかもしれないけど、わたしもシャロ張り合えるかは微妙な所だ。


「どっちにしろ明日には戦えるんだから、それくらいは我慢しなよ」


「もう我慢できないのじゃ! ツズリに勝てばツズリが部下として手に入るからのう! 楽しみで仕方ないのじゃ!」


「そんな約束してないよ! 勝手に決めないで!」


 全く、張り合える相手が居なくて戦い足りないのかと思ったら、そんな理由だったのか。勝っても負けても、シャロの部下にもペットにも、なったりなんてしないっての。


 くだらない理由でわたしと戦いたがっているシャロは置いておいて、わたしはステージへと移動する。

 シャロとの試合で、ちょっとだけ壊れたステージとボロボロになった壁はすでに修復されている。流石、魔法だね。


「準決勝第二試合、これまた獣人同士の戦いだ! 新しい獣王に決まったワンタン選手に挑むは、初戦を勝ち抜いた、まだ幼い獣人娘! 果たしてどちらが勝つのか見ものです! 新獣王ワンタン選手対、幼くも確かな実力者、ツズリ・フォ――選手! 試合開始です!」


 勿論、わたしは油断せずに司会者を妨害する。わたしのフルネームは言わせはしないからね!

 いや、わたしのフルネームですらないんだけども。ただのどっかの王の策略なんだけれども。


 それはさておき、対戦相手のもふもふ、もとい獣人の男性に目をやる。

 よし、もふもふ差ではわたしの勝ちと言っていいね。圧倒的もふもふであるわたし尻尾は、美少女を数人魅了しているレベルだからね。どんなもふもふでも勝ち目はない。


 って、そんな事考えている場合じゃなかった。もふもふじゃなくて、ちゃんと対戦相手を見ないと。

 相手の武器は自信の力を大いに発揮できるナックルだ。それに対してわたしは刀。うーん、相性的にはどうなのかな。


「申し訳ないけど、シャロにせかされてるからパパッと終わらせるからね!」


 相手はずーっとわたしを凄い目で見てくるけど、動かない。獣王になったから、強者の余裕でも見せつけてるのかな。


 わたしが刀を抜き、一気に近づこうとした瞬間、地面が抉れる程の脚力で獣王が迫ってきた。

 これが獣人の速さか! っと、驚いたはいいものの……。


「おおっ!? お、おお……? え?」


 そのまま、滑るようにしてズザーっとわたしの前で片足を付いて止まった。まるで、王の前にかしづいているかの如く、頭まで下げている。

 何だこの状況。意味が分かんない。


「えーっと……、何してるの?」


 わたしに首を差し出しているって訳でもなさそうだけれども……。


「はっ! 神獣様の前で頭を下げるのは当然の事でございます!」


「え? ごめん、ちょっと何言ってるのか分かんない」


 なんかデジャブ感あるこの感じ。コタビ臭を感じるこの感じ。

 気のせいであると信じたい。心から。


「隠されていても分かります! 神々しく可愛らしい見た目に神々しい髪の色。そして、その神々しい神なる武器。あなた様は、まさしく我ら獣人族の神、伝説に語られる神獣様であると!」


 でたー! このパターンだー! 最早慣れつつあるこのパターン!

 意味が分かりません。また、新たな役職がわたしに付与されました。


「なんの伝説か全く分からないけど、人違いの獣違いじゃない?」


「大昔に獣人族の危機を救ってくださった伝説です! 覚えていませんか? いや、神獣様からすると普通の事で伝説ともなり得ない些細な出来事なのかもしれないですね!」


 救ってないよ! 救うどころか、獣人を見たのもこの国に来て初めてだよ!

 何だったら、最近この世界に来たばっかだよ! 完全なる勘違いだから!




誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

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