P8 冒険者ギルドに行く
昨日は、清潔魔法を教えてもらいそのあと少し話して、ルルの隣の部屋を借りて眠りについた。
「ふぁ~、良く寝た」
馬車の時もそうだったけど、枕が変わるだけで寝付けない人がいるけど、枕が変わってもベッドが変わっても場所が変わっても、わたしはぐっすり眠れる派だ。
さて、今日はルルに冒険者ギルドに案内してもらう事になっている。
そういう話を昨日したからね。
ベッドから降りて軽く伸びをする。
そう言えば、寝る時も巫女服のままで寝てるけど皴とか付いてないね。流石、神様謹製。
まぁでも、替えの服とか下着とかあった方が良いかな。下着も巫女服とセットで神様謹製だろうけど、ずっと同じって言うのはなんだかちょとね。
うーん、下着は買いたいけど服はやっぱいいか。ゲームの時から気に入ってるし、汚れないって神様のお墨付きだし。
早起きの癖があるとはいえゲームイベントもないし暇だ。ゲームがしたい。いや、身体はゲームキャラではあるけどね。
まだ早いけど、ルル起きてるかな?
ルルの部屋に行ってみよう。いくら屋敷が広くても、隣なのですぐだ。
トントントン。
「ルルー、起きてるー?」
ドタドタと足音が聞こえる。どうやら起きてるみたいだね。
「お、おはようございます!」
馬車では寝起きが悪かったと思うけど、元気の良い挨拶だ。
「おはよう。早起きだね」
「いえ、街を案内するのが楽しみで寝られなかっただけです……」
自分の街なのに遠足が楽しみな小学生みたいな事になっている。
もうすぐ10才って言ってたし今9才だよね。小学生みたいっていうか年齢的に小学生か。
あれ、だとすると、そのルルと同じくらいに見えるわたしも小学生くらいに見えるって事?
まじかー。小学生くらいに見えるのかわたし……。
そりゃ子供って言われるし、子供扱いされるわ。
「今日は街の案内よろしくね」
「はい! 任せてください!」
と言っても今から行く訳ではない。まずは朝食を食べないとね。
昨日の夜にも使った食堂に移動する。
食堂で座って待っていると、後からハセンさんも起きてきて一緒に座る。
しばらく待っているとメイドさんが朝食を運んできてくれた。
そう、この屋敷にはメイドさんも居たんだよ!
メイド長の50代くらいの人と20歳くらいの若いメイドさんが2人。
この広い屋敷にメイドさん3人で掃除とか大変じゃない? ってルルに聞いたんだけど、掃除にも清潔魔法を使うらしい。身体じゃなくて掃除とかにも使えるんだね。魔法って便利だ。
朝食もメイドさん達が作ってくれているらしい。とても美味しくて幸せだ。
「ルルーナ、今日は街を案内するらしいな」
「はい! ツズリをしっかり案内します!」
「冒険者ギルドにも行くんだろう? 冒険者には野蛮な奴らも多い、街の中だから暴れたりはしないだろうが子供2人だけで大丈夫か?」
「大丈夫だよ。もし襲われたら、わたしが返り討ちにするよ」
冒険者の実力がどれくらいわからないけど、メアさん達の中で一番強いであろうキリークさんが襲ってきても勝てると思う。パルパルは論外。
「そうか。そうだな、ツズリはワーウルフ複数を相手にできるくらい強いんだったな」
そもそも、冒険者だからって街の領主の娘に何かするとは思えないけどね。
朝食を食べた後、街を案内してもらう為に屋敷の門の前まで来ている。
門番の人がやっぱり微妙な顔をしてる。
「最初はどこに行きたいですか?」
「うーん、まずは冒険者ギルドかな。登録とかしたいから時間かかりそうなとこを先に済ませとこう」
「わかりました。こっちです!」
嬉しそうに歩くルルの後に続いてわたしも歩く。
うん。凄く視線がこっちに向いてる気がする。視線を感じる。
これはきっと領主の娘が歩いているから見られている訳ではないだろう。
絶対わたしの格好のせいだろうね。知ってた。
「皆さん、ツズリの事を見てますね。人気者です」
「人気者になんてなりたくないよ。それに人気者だから見られてる訳じゃないと思うよ」
「まぁそうですね。獣人ってだけでも珍しいのに、服装と髪の色も注目を集めますからね」
「なんかごめんね、ルル。わたしのせいでルルまで注目を浴びちゃって」
わたしは別にいい。いや、出来たら見られたくはないけど、実際こういう珍しい格好してたら目が行っちゃうものだから仕方ない。
ゲームでも可笑しな格好をしてるプレイヤーや派手な格好をしてるプレイヤーが居たらそのキャラをついつい見てしまう。それと同じだ。
でも、ルルは違う。わたしのせいであまり迷惑を掛けたくない。
「大丈夫です。人の目が集まるのは慣れてます。これでも領主の娘ですからね」
貴族はやっぱり見られる事も多いのかな。
でも、慣れていたとしても今はわたしのせいだ。
「それに、ツズリの服装は素敵で好きですし、髪の色も夕日のような色でとても綺麗で好きです! そんなツズリと一緒に注目されるなら何の問題もありません!」
「ありがとうね。そう言ってもらえると嬉しいよ」
本当に良い子だなぁ。
ルルの為なら、わたしはなんだって出来る気がするよ。
守りたいこの笑顔を。
と、そんなことを思っていると目的地に着いたらしい。
「着きました! ここが冒険者ギルドです」
冒険者ギルドって看板が大々的に書いてある。わかりやすい。
というか、ちゃんと読めるね。明らかに知らない文字の形をしているけど、そう書いてあるって理解できる。
「中に入ってさっさと用事を終わらせよっか」
わたしはギルドへ足を進ませるが、ルルの足が止まっている。
「ルル?」
「実は……ここに入るの初めてなんです。王都などに行く護衛依頼もロランがやるのでわたしは入ったことがないんです」
まぁ確かに貴族の子供が入るような事ってそうそうないだろうね。
ここに来る前にハセンさんも野蛮な人もいるって言ってたし、怖いのかな。
「外で待っててもいいよ?」
野蛮な人がいるかもしれない建物の前で1人で待っててもらうのも不安だろうけど、パパッと登録だけしてすぐに戻ろう。
「いえ、一緒に行きます。ツズリを1人で行かせられません」
自分も不安だろうに、わたしを心配してくれてるのか。ルルは優しいね。
「じゃあ、一緒に入ろっか」
「はいっ」
ルルがわたしの袖をぎゅっと掴んで覚悟の決まった返事をする。
登録するだけなんだからそんなに緊張しなくてもいいと思うけど。
ドアを開け中へと入る。
中に入ると、まぁ当然のように視線を集める事になった。
「なんだあの奇妙な格好」
「獣人のガキか?」
「子供が何しに来やがった」
「領主の娘も一緒にいるぞ」
「依頼でも持ってきたんだろ」
「領主の依頼か? 儲かりそうだな」
「両方とも可愛い」
怪しむよね。仕方ないね。
さっさと登録してしまおう。
場所は見ればわかる。奥の方に受付カウンターっぽいところがある。
「ツズリ、怖いです」
「大丈夫だよ。流石に建物内で騒ぎなんて起こさないでしょ」
ルルがわたしの袖を握ったまま後ろに隠れている。
まぁ確かに強面顔の人も何人かいてこっちを見てきてる。
わたしから喧嘩を売ったりはしないけど、そんな睨むように見てくるのは気分が良いものではないね。
視覚を遮るような魔法とかないのかな。
あーいや、あるにはあるね。ゲームのように魔法が使えるって言うのが攻撃魔法だけじゃなくてデバフも使えるならだけど。
身体強化って言うのがあるし、バフ系が使えるとしたらデバフも使えるのかな。
ゲームでも最近使ってなかったからなぁ。使わなくてもごり押しで勝ててたからね。というか使わない方が戦闘を楽しめる。縛りプレイみたいになってるけど、それが楽しかったから良いのだ。ゲームは楽しむものだからね。
とまぁ、あらゆる視線を無視して真っすぐ受付に行く。
「冒険者登録しにきたんだけど、ここでいいの?」
受付のお姉さんが、なんか困った顔してる。わたしの見た目のせいもあるだろうけど、それだけじゃないって顔だ。
もしかして年齢制限とかあるのかな。それとも、獣人は冒険者になれないとか。
んーそうだとしても、メアさんとかハセンさんが冒険者にはなれないって教えてくれたはずだよね。
「あのー?」
「あ、すみません。冒険者登録ですね。ここで出来ますよ」
「じゃあお願い」
「えーっと、ルルーナ様も……ですか?」
あー、ルルも一緒に登録すると思ってたのか。
「いや、わたしだけだよ。ルルは一緒に付いて来てくれただけ」
「そうなんですね。では、書類を持て来ますので、少々お待ちください」
そう言って受付のお姉さんは奥に書類を取りに行った。
「皆聞いたか? あんなガキが冒険者だってよ!」
男が大声でそう言って笑う。さっき睨んできてた男だ。
周りにいる人たちもそれを聞いて笑っている。
まぁいるよね、こういう人達も。煽る事生きがいにでもしているんだろう。
こういう人達は無視に限る。絡むとめんどくさいからね。
無視しても絡んでくる人はいるけど、その時はその時だ。
「ゴブリンも倒せなさそうなガキが冒険者とか迷惑だからやめて欲しいよなぁ! ゴブリンにやられて喰われるのが目に浮かぶぜ! 冒険者はゴブリンの餌じゃないだぞ!」
と、さっきの男がまた何か言ってる。
そして同じく笑う周りの烏合の衆。
うるさいからさっさと登録して出て行きたいね。
「ツズリはゴブリンなんかに負けません! ワーウルフだって倒したんです!」
わたしは無視してたけど、ルルの方は出来なかったみたいだ。
勇気を出して反論をしたのか、わたしの袖を握っている手は震えて目には少し涙が見える。
「ルル、ああいう人はほっといたらいいんだよ」
「ダメです! わたしの友達を馬鹿にする事は許せません!」
わたしの為に勇気を出して怒っているのか。
それは嬉しいけど、でもやっぱああいう人とは関わりたくないからなぁ。
「領主の娘っ子の友達だぁ? これは笑いものだな! そいつもどこぞの貴族って事か? ふんっそんなやつが冒険者とか笑わせてくれるじゃねぇか」
この人いつも笑ってて幸せそうだね。
「ツズリは貴族じゃありません!」
「じゃあなんだ? 獣人の奴隷でも買ったのか? これだから貴族のやつらはよぉ!」
勝手に奴隷にしないでほしいね。
というか、奴隷いるんだね。盗賊とかもいるらしいし、奴隷制度くらいあるのかな。
ルルの屋敷にはいなかったけど、他の貴族の人は買ったりしてるのかな。
この世界の事なんてわたしはまだ全然知らないし、気にしても仕方ないか。
「奴隷じゃありません! 友達です!」
「ルル、弱い犬ほどよく吠えるって言うし、あんまり声荒げてるとそこの弱い犬と一緒に見られるよ」
そろそろ、止めておかないとね。受付のお姉さんも戻ってきてるし。
とっとと登録して出て行きたいよ。切実に。
「ごめんなさい。ツズリの事を悪く言われてつい……」
「ありがとう。でもルルまで弱い犬にならなくていいんだよ。吠えてるだけなんだから無視してれば飽きて吠えなくなるよ」
「てめぇ……誰が弱い犬だぁ?弱い犬はてめぇだろうがクソガキが!」
む? 確かにそうかもしれない。
狐はイヌ科だったはず。ということは犬はどちらかというとわたしだ。
「そうだね。じゃあ、弱い犬のわたしより弱いあなたは虫かな?」
「いい加減にしろよクソガキっ!」
さっき笑ってた時も怖い顔してたけど更に怖い顔をしてこっちに近づいてきている。
煽るくせに煽られるとすぐキレる。あるあるだね。
もし手を出すなら反撃しないとね。喧嘩は売らないけど、売られたら買わないとね。
「あら? ツズリちゃんじゃない!」
ん? 聞いたことがある声だ。
声がした方を見ると、メアさんがいた。
「いつもより騒がしいと思ったらお前かよ」
うわ、パルパルもいる。
「おい、なんで俺の顔見たらそんな微妙な顔するんだよ! メアの時はちょっと嬉しそうだったじゃねーか」
どうやら、顔に出ていたらしい。
「で、何騒いでたの?」
「弱い虫が鳴いてただけだよ」
「弱い虫?」
そう言われわたしは弱い虫、もとい睨みつけてきている男を指さす。
「ああ、ボルレね。あなたまた騒いでたの?」
ボルレって言うのかこの人。
また騒いでたって事は、しょっちゅう騒いでるのかな。厄介者だね。
今後関わらないようにしたいものだ。
「こんなガキが冒険者になるとかほざいてやがったから、冒険者の厳しさを教えてやってただけだろうが」
教えてほしいとも言ってないし、教えられてもない。
勝手に煽ってきて勝手にキレてただけだ。
「厳しさを教えるねぇ……。でもその子剣の扱いならパルパルよりも強いわよ?」
メアさんの中でパルパル呼びは定着しているみたいだ。
哀れなり。パルパル。
「おい! 俺が本気出したら俺の方が強いからな!」
「子供相手に本気出さないといけないなんて弱いわよ」
メアさんに言い返されて何も言えなくなっているパルパル。
哀れなり。パルパル。
「はぁ? このガキがパルマより強いだぁ? そんなわけねぇだろうが。パルマは俺と同じDランクだぞ」
「ちなみに言うと、その子は魔法使いで私よりも強いと思うわ」
「はぁ? それこそ信じられねぇ。お前はCランクだろ? こんなガキが、しかも獣人のガキが魔法使いってだけでもありえないのに、Cランクの魔法使いに勝てる訳ねぇ」
メアさんと戦ったことはないけど、魔法で負けるもとも思わないね。
わたしが知らないゲーム外の魔法の知識はあるだろうけど、メアさんが知らないゲーム知識をわたしは持っている。
「じゃあ、ツズリちゃんと試合でもしてみたら?」
「え?」
なんでそんな事しないといけないのか、登録しに来ただけなのに。
「上等じゃねぇか」
「え?」
なんでこの人もやる気なの?
まぁ負ける気はないけど、勝手に話が進められて試合なんて困る。
どうしようかと、ルルに目を合わせると。
「ツズリ! わたしツズリが戦うところ見たことがないので見てみたいです!」
ルルは止めてくれると思ってたのに!
まぁルルの期待した目を見ると断れないね。見たいというなら見せてあげよう。
ルルにはお世話になっているしね。
「うーん、わかった。いいよ」