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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、大会ライフ
79/144

P79 犬のもふか、猫のもふか

 お昼の休憩が終わり、午後の部が開始する事となった。

 一戦挟む事にはなるけど、漸くわたしの出番が来るんだね。ゲームぶりの試合緊張するなぁ。


 魔物と戦う、命のやり取りをする緊張感とはまた別の緊張が襲ってくる。

 寧ろ、魔物と戦う方が緊張しないまであるよ。魔物何てゲームと変わらない感覚で戦ってるからね。


 人と戦うのは心理戦も加わってくる。その辺の冒険者なら兎も角、ベテランの戦士となると尚更だ。

 そして大勢の観客の目。これがきつい。ゲームなら気にならなかったけど、現実となるとめっちゃ気になるんだよね。


「午後の部第一試合の選手はステージにお願いします!」


 二人の選手達が司会者の合図と共に、各控室からステージへと出てきた。


「なっ、なっ! 獣人対決だー! もふもふ対決だー!」


 出てきた二人はどちらも獣人だった。犬の獣人の男性と猫の獣人の女性の二人。


「うるさいのう。大会前からそうじゃが、ツズリはどうしてそんなに獣人に目がないのじゃ」


「そんなのもふもふしたいからに決まってるじゃん! それ以外の理由なんて必要ない!」


「自分のお尻に立派なもふもふが付いておるではないか」


 シャロがわたしの尻尾をここぞとばかりにもふもふと触ってくる。

 わたしも自分の尻尾のもふもふ差は世界一だと思っているともさ。だけど、自分の尻尾をもふっても意味がないんだよ。


「自分のじゃなくて他人のをもふもふする事に意味があるんだよ! シャロだって自分のもふもふするより、わたしの尻尾をもふもふする方がいいでしょ!?」


「そんな熱意込めて言われてもわしにもふもふ尻尾はないのじゃが」


 そうだった。シャロには綺麗な銀髪はあれど、銀色のもふもふ尻尾はないんだった。


「シャロにもふもふがあれば最高だったのに……。今のシャロじゃ満足出来ないよ……」


「その言い方はなんか危険な意味に聞こえるのじゃが……。そもそもツズリを満足させようとなんてした事はないわい」


「シャロはわたしの尻尾をもふもふして満足してるじゃん! だったらわたしが満足出来るようにもふもふの銀色の尻尾を生やすべき! もふもふの等価交換をするべきなんだよ!」


「尻尾何て生えてこんわい! それに飼い主であるわしがツズリの尻尾で癒されるのは当然の権利なのじゃ」


 やっぱ飼い主を気取っているのか。でも、今回はそれをうまく利用しよう。


「飼い主と言い張るなら、わたしを満足させるのも飼い主の務めだと思う! さぁ尻尾を生やして!」


「む、確かにそうじゃの。では、ツズリに褒美を上げんとな」


「ホントに!? もふもふ尻尾生やしてくれるの!?」


 まさか願いが通じるとは! 我が儘を言ってみるものだね!

 シャロにもふもふ尻尾が付いている姿……全然あり!

 おっと、嬉しさのあまりに、涎が垂れてしまった。危ない危ない。


「ほれ、よしよしなのじゃー。いつもわしを癒してくれてありがとなのじゃー」


「えへへーどういたしまして……って違う! 全然褒美になってないよ!」


 本当にペットを扱うがの如く頭を撫でられただけだった。もふもふを期待して涎を垂らしたわたしがバカみたいじゃないか。


「涎を垂らすほど喜んでおるのじゃから、十分褒美になっておるではないか」


 隠せてたと思ったけど、全く隠せていなかった涎案件。


「これは違うの! シャロのもふもふ尻尾を想像したら自然と垂れてきただけなの! 撫でられて嬉しかったわけじゃないから!」


「撫でられて出てきた涎の方がマシだったのじゃ……。やっぱりツズリはわしをそういう目で見ておるのじゃな……」


「違う! そういう目じゃない! もふもふの目だよ!」


「いや、全然良く分からんのじゃ」


 シャロが一歩引いて呆れたような目でわたしを見ている。

 何でこうなったんだ。わたしはシャロのもふもふ尻尾を拝みたいだけなのに。まぁエルフには尻尾は生えないだろうけどさ。


「さあ! 選手が揃いましたので第三試合を始めたいと思います!」


 シャロと適当な事を話している間に獣人の二人はステージの到着したようだ。


「ついにこの日がやってきた! 獣人犬種代表、剛獣ワンタン選手! 対するは、獣人猫種代表、柔獣のニイナ選手! 四年に一度開かれるこの大会で三回に一回、つまりは十二年に一度行われる獣人同士の戦い! 獣王が決定する試合です!」


 観客がいつものようにわーっと盛り上がる。でも、いつもと違う。今朝とはちょっと変わっている。

 どこが変わっているかというと、獣人の比率が格段に上がっているんだよね。


 なるほど、獣王を決める大切な試合があるから、獣人達の注目度が高いって訳か。


「って、獣王? 魔王を倒す勇者パーティの一員って言ってた獣王をここで決めるの?」


「その獣王じゃの。どっちが獣王に就くのか楽しみじゃのう」


 シャロが口だけにやっと笑って楽しみにしている。

 どっちが獣王になるのかが楽しみというか、どっちと戦えるかが楽しみっていう顔だね。まぁエルフだし、獣王に興味はないけど、強い人とは戦ってみたいって事かな。


 ま、わたしが勝ち上がるからシャロと獣王は戦う事にはならないと思うけどね。っというか、獣王に勝ったらわたしが獣王になってしまうのかな。

 それは嫌だな……。でも、負けたくはないな……。うーん、悩める。


「それにしても十二年周期で王を決めるって早くない?」


 勇者は千年に一度現れるみたいな事言ってた気がするけど、獣王は十二年に一度って王変わり過ぎじゃないか。


「獣人は人族の中で寿命が一番短いからのう。それに獣王を決めるのは純粋の強さじゃ。犬種と猫種に別れ、種別に強いやつを決める。そしてこの大会でどっちの種が王になるのかを決めるのじゃ」


「へ、へーそうなんだ……」


 獣王とかどうでも良くなるくらいの情報がサラッと入って来たぞ……。

 獣人って寿命短いの……? え? それ本当にそうなの? え?

 転生して憧れの魔法の世界に来られたのに、短いの……? なにそれ、つらい……。


 確かに犬や猫、狐も勿論そうだけど、人に比べれば寿命は短いのは確かだ。その両方が合わさって、人と獣の中間が寿命と考えれば確かに短くなりそうだけれども……。


 まぁ一度終わったらしい人生だ。どうせ短いなら、やりたい事をやりまくって、満足してからこの新しい人生を往生するしかないね!

 マイナス思考になってしまう回路なんて無駄な時間だ! プラスに行こう!


「新時代の獣王はどちらになるのか! 武闘大会第三試合、兼獣王決定戦! 開始!」


 長いな。なんだ武闘大会第三試合、兼獣王決定戦って。こんな大きな大会で獣王を決めるのを兼ねないで欲しい。

 いや、大きいからこそ沢山の人が集まるから、獣王なんて重要な事を決める事を兼ねてるのかな。


 司会者の開始の合図で獣人(犬)と獣人(猫)との戦いが始まった。


 あっちにもふもふ、こっちにもふもふと犬と猫の尻尾がもふもふしている。

 毛が長い犬の尻尾の方がもふもふ率は高そうだけど、男性であるがゆえに毛質が硬そうではある。猫の尻尾しなやかにしなっていて尻尾そのもの柔を感じる。更に女性であることからして柔らかい毛のイメージが思い浮かぶ。


「うーん、猫の人が優勢かな……」


「いつにも増して真剣に見ておるのう。準決勝の相手にある訳じゃから、相手の戦いを見る事は大事じゃからのう」


「うん、そうなんだよ。この二人のどちらかのもふもふがわたしの前に立ちふさがって、隙あらば触れるかもしれないもふもふなんだよね! わたし的には猫の人に勝ち進んで欲しいかな。もふもふ度的なイメージが猫が一歩リードしてる!」


「……ダメじゃこやつ、真剣に見ておると思ったら尻尾しか見ておらんのじゃ」


「他に注視する所なんてないでしょ!? 尻尾のもふもふ重要な見るべき所なんてある!? いや、ない!」


 あんなにもふもふが振り回って跳びはねているのに、そこ以外を見るなんてもふもふに失礼だ。

 この会場にいる誰もがもふもふを見ているに違いない。


「あるじゃろうが……。ツズリが戦う事になるかもしれん相手なのじゃから、どんな戦い方をしているのかを見てないといかんじゃろ」


「もふもふ度の勝負ならわたしは負けないから大丈夫だよ!」


「もふもふの話なぞ誰もしておらんわい! 一旦もふもふから離れい!」


「ふにゃふんっ!?」


 何故だか殴られた。わたしが一体何をしたというのだ。

 シャロはすーぐ暴力を振るう。そういうのよくないと思います!


「それで、どっちが勝つか分からんが勝てそうかのう? わしからすれば犬と猫の喧嘩みたいなものじゃが、ツズリからすれば手強い相手になるのではないか?」


 また殴られるのも嫌なので、無礼を承知でもふもふから目を離す。


 改めて見ると、人とは思えない動きの戦闘をしているね。普通の人とは違って獣が混じってるから、当然なのかもしれないけども。


 猫獣人の女の人は凄い跳躍をしたり、そんなに身体って曲がるのってくらい曲げて躱したりと猫っぽさがある。

 武器はかぎ爪を両腕に腕に付けて、身体の柔らかさを活かした戦い方だ。


 それに対し犬獣人の男の人は、実にパワフルな戦い方だ。ナックルを手に付け地面に当たれば地面が破壊するほどの威力を出している。

 バトルロワイアルでのシャロの暴れっぷりを見た後だと、見劣りしてしまうけど十分凄い威力である事は間違いない。


 まぁこれくらいな普通の人でも達人レベルくらいになれば出来るかなとは思う。強化魔法っていう魔法もあるからね。

 問題は獣が如く動く速さが迅速だって事だ。獣が入った人、獣人だからこそなんだろうけど、やたら速い。


 速いけど、動きが捉えられない程でなはいね。ゲームのモンスターはもっと速いやつはいたから、問題はないかな。


「どっちが相手でも勝てない事はないかなー。っというかこのくらいなら余裕だね」


 今までの戦いを見てても思った事だけど、ゲームでの大会の方がレベルが高いように思える。大会上位は組はわたし同様にゲーム廃人ばかりだから、当然っちゃ当然なのかな。

 それを踏まえた上でも、シャロは頭一つどころか大分ずば抜けて強いけどね。エルフ代表の勇者パーティにでも入れるんじゃないだろうか。


「ほう、余裕か! くっくっく、そりゃ良いのう。わしはツズリがより一層に欲しくなったのじゃ。この大会が終わったら、わしの部下にならぬか?」


「何その戦争前に『この戦いが終わったら結婚しよう』みたいな、死亡フラグのセリフは。ペットよりかは扱いの位が上がっているかもしれないけど、部下何て絶対やだよ!」


 っというか、普通に友達って言えばいいんじゃないのか? どうして飼い主やら上司やらと、やたら上に立ちたがるんだ。


「そうか……残念じゃのう……。ツズリ程の逸材何てそうはおらんというのに、チラチラッ」


 チラチラッて口で言いながらわたしの様子を伺ってくるシャロ。


「褒めても下になんて付きませんー!」


 わたしはちょっと褒めたくらいで靡くようなちょろい狐じゃないんだよ!


「勝負あり! 獣王は獣人犬種代表の剛獣ワンタン選手です!」


 またシャロと話している間に試合が終わってしまった。結局、もふもふも戦闘もどっちも碌に見てなかったや。どうせならもふもふだけでも見ておきたかった。


 横たわって倒れている猫の獣人の女性に犬の獣人の男性が手を差し伸べ起き上がらせて、そのまま硬い握手をしした。

 その光景を見て会場はわーっと盛り上がって、拍手喝采だ。


 殆ど見てなかったというか見ても尻尾だけだったというか、なんか熱い試合が行われていたんだね。シャロとわたしは蚊帳の外って感じだ。

 っと思ったらシャロが熱い拍手をしていた。


「いや、シャロも見てなかったでしょ! その場のノリで自分はちゃんと見てましたアピールしないでよ!」


「チッ、バレてしもうたか」


 バレてしまったかじゃないよ。どうせ、ここにいるのはわたしとシャロだけなんだから、絶対ツッコませるためにワザとやったでしょ。


「はぁ、次はとうとうわたしの番かー」


「そうじゃのう。余裕ぶっこいて負けるでないぞ。ツズリはおっちょこちょいの所があるからのう」


 シャロとはまだ大した時間を共にした訳ではないけれど、わたしの性格とかを大分見抜かれている気がする。そして、おっちょこちょいなのはシャロもだよ。

 念の為に言っておくけど、ペットは飼い主に似るからって理由で二人ともおっちょこちょいな訳ではなく、たまたま一緒だっただけだ。偶然の産物だ。


「悔しいけど、割とあり得そうだから、どんな人が相手でも最初から本気で行ってくるよ!」


 そう決意をして、わたしはステージへと足を進める。




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