P75 大会当日
ただいまツズリ視点
大会が開催される当日になった。
この宿に泊まっている間、ずっと宿に引き籠もっていた訳ではない。たまーに、シャロと一緒に外出をして街を見て回ったりもした。
人族の中心の街だけあって、本当に色んな種族がいた。色んな種族もいれば、色々な国の人達もいる訳だから、わたしのこの巫女服姿でも注目を浴びるって事はなかった。
ここに来た時のくっつきツズリの件は何だったんだ。怪しまれもしないなら、隠れる必要なかったじゃないか。
その色々な種族にはドワーフにエルフ、そして、待望の! わたし以外の! 猫と犬の獣人!
いやー、わたし以外のもふもふに出会えるなんて最高だね! 勝手に転生された甲斐があるってものだよ!
でも、惜しい事に眼前に歩いているもふもふには一切触れる事が許されなかったんだよね。
わたしと同じ身長くらいのちびっ子猫娘を発見したから、そっと後ろに近づいてフリフリ振っている尻尾を触ろうとしたら、ガッと首根っこをシャロに捕まれてしまうんだよ。
わたしは何も悪い事をしようとしていないのに、掴んでそのまま連れて行かれるんだよ。酷い話だよね。
何回もチャレンジしたけど、何回もシャロに邪魔される。
そこで、才色兼備であるわたしは一つの案を考えた。シャロに邪魔されるのなら、シャロと一緒に外出しなければいいんだよ!
何て天才的な発想なんだろうか。自分の才能が恐ろしい。
ま、そんな天才的な考えも結局は失敗に終わったんだけどね。
「ツズリを一人にすれば何をやらかすか分からんのじゃ。外出するときは飼い主であるわしを連れて行くのじゃ」
って、シャロが言うんだよ。わたしはペットじゃなないっての!
シャロにバレないようにこっそり抜け出しても、気が付いたら付いて来ているんだよね。
「わしを欺けると思うておるのか? 千年早いのじゃ!」
千年も生きてられないよ! わたしは獣人であって長寿のエルフじゃないんだよ!
シャロを巻く事も騙す事もわたしの作戦は尽く失敗に終わってしまって、一回ももふもふに触る事は出来ずじまいなんだよね。
ああ、わたしのもふもふ楽園が……。
そのくせシャロはわたしの尻尾や耳をもふもふ、もふもふっと暇な一日ずーっともふってくるんだよ!
まあ、世界一のもふもふを有するわたしのもふもふの魅力に虜になるのは仕方がない事だけれど、わたしにももふもふを堪能させてほしいよね!
街を歩けば犬っ娘と猫っ娘がいるんだよ! わたしにもふって欲しいと尻尾を振るもふもふが歩いているんだよ!
っとまぁそんなこんなで、大会当日までの出来事はそんな感じなんだけれども、わたしは今は観客席に居ます。選手なのにね。
何故、選手であるわたしが観客席にいるのかというと、子供だから出場が認められなかったからではないよ。ちゃんとした理由があるんだよ。
その理由というのは、わたしはラライア姫の父親である王様から事前に選手登録されていたから。そして今は飛び入り枠の選手を決める為のバトルロワイアルが開催されようとしているからだ。
わたしには関係ないから見る必要はなかったんだけど、シャロが出るらしいので一応応援しようかなって思って見に来ている。
バトルロワイアルで勝ち残った一人だけが出場枠を取れるらしいけど、そんなのシャロで決まりだよね。だって、あんなに大きい怪鳥をワンパンで倒す怪力美少女に誰が勝てようか。
魔法を使えればわたしも善戦出来るとは思うけど、魔法無しだとどうかなぁって思うくらいには強い。
心配なのは他の出場者の人だ。シャロに向かって行って手加減をミスったシャロがパンチなんてしたらはじけ飛ぶんじゃないだろうか……。
この国の回復魔法を使えるコタビみたいな神官の人達も、大会の救護班としているにはいるけど、はじけ飛んだら治せないよね。流石にわたしのゲームの魔法でも、はじけ飛んじゃったら治せないと思う……。
治す治せないのは無しじゃなくて、最早蘇生とかのレベルになりそうだし。
「シャロ、大丈夫かなー」
独り言ではなく、隣にいるシルフさんに問いかけた。
宿の受付をしていたシルフさんと一緒にシャロの応援に来たんだよね。言い争いばかりしていたけど、シャロとは仲良さげだったからね。
「大丈夫でしょ。ああ見えて滅茶苦茶強いのよ。前回出場した時もあっさりと優勝を取ってたくらいだし、心配いらないわよ」
まぁ普通は勝つか負けるかの心配だよね。わたし的にはシャロが人を殺めないか心配なんだけれども。
あ、でもそっか、前回を知ってるシルフさんからすると、そういう心配はないのかな。前回もバトルロワイアルをやってたとして、それで勝ち残っているのなら手加減の仕方も分かってるって事だもんね。
「それにしても、ツズリちゃんも出るんだって? 獣人だから近接戦闘は慣れたものなんだろうけど、まだ子供なんだし、シャロよりツズリちゃんの方が心配だわ」
近接戦闘は慣れたものではあるよ。魔法職は後衛という先入観にとらわれず勇敢に果敢に先頭に立っていたからね。
まぁソロだからどこにいても先頭なんだけれども。ソロが故に近接戦闘にならざるを得ないんだけども。
「心配してくれるのは有難いけど、杞憂に終わると思うよ。こう見えても故郷ではトップ五には入る実力だからね!」
シルフさんからすると獣人の国でトップ五なんだなって思うかもしれないけどだろうけど、わたしの言う故郷とはゲームの事である。ゲームでのランキングだ。
「あら、そうなの? 獣人の学園の幼学年のトップだなんて凄いわねー」
予想通りに獣人の国とは思ったみたいだけど、規模が滅茶苦茶小さくなってる! 獣人の学園ってだけでなく、幼学年限定のトップ五だと思われてる!
でも、獣人の国何て言った事ないし、ましてやゲームの事なんていう訳にもいかないから、否定しにくい……。
「す、すごいでしょー……」
わたしは泣く泣くシルフさんの言う事を否定しなかった。つまり、肯定した事になる訳だ。
いや、せめて幼学年ってとこだけは否定するべきだったかもしれない。
「でも、自惚れちゃダメよ? 幼学年トップだからって大人の世界に乗り込んだりなんてしたら、痛い目見ちゃうわよ? あ、もしかしてそれが狙いでツズリちゃんの先生はこの大会に出場させたのかしら。自分の強さに自惚れるなって」
シルフさんの頭の中のわたしの設定が完全に幼学年でちょっと強いからってイキってるお調子者になってる気がする。
誰だよ、わたしの先生って。
自惚れた事なんてないよ。わたしより強い人なんて沢山いる。うん、魔法以外ならね。
魔法でなら絶対に誰にも負けない自信はある。自惚れでもなんでもなく事実上に一位だし。勿論、ゲームではだけども。
この世界に来てからも魔法に関しては、自惚れる事なく魔法の使い方を研鑽する日々だよ。家を建てたり、美少女フィギュア作ったり、パルパルデコイ君を作ったりと……あれ、そんなでもない気がしてきた。
あ、でも電撃魔法はゲームになかった魔法だし、魔法を研鑽した成果と言えるよね! うん!
「わたしの事はもういいよ。それよりもほら、もうすぐ始まるみたいだよ」
大会が開催される闘技場の中心辺りに一人誰かが歩いて来ている。恐らく司会の人だと思う。
「さあ! 四年に一度の人族の人族による人族の最強を決める武闘大会! ついにこの日がやって参りました!」
っと司会の人が大声で言うと、うおおおおおおっと観客が一斉に盛り上がった。空気が揺れていると感じるくらいの歓声だ。
わたしのよく聞こえるもふもふ耳には凄く大ダメージだよ……。歓声が終わるまで、暫く耳を抑えていよう。
しかし、あの司会の人が持ってるマイクみたいなのは魔道具かな。電気のマイクがあるとは思えないから多分そうだよね。
わたしも王都のムカデ襲撃の時に風魔法の応用で声を広範囲に響かせたけど、それと同じ事をあの魔道具がしているのかな。
魔法って本当に電気用品の代用品になるね。そりゃ電気なんて開発しようと思わないはずだ。
「本命のトーナメント戦を始める前に、先ずは飛び入り参加枠を決めましょう! 今回も枠は一人だけだー! さぁ、このバトルロワイアルを勝ち残るのは誰なのかを決めようじゃないかー!」
司会の人がマイクを上げるとまた、うおおおおおっと歓声が響き渡る。
皆ノリノリなのは良いけど、凄く頭に響く……。
まさかこんな所で狐っ娘の長所が短所に変わるなんて思わなかったよ。
隣のシルフさんはというと、周りと同じようにノリノリでジャンプまでしている。
勝手にこういう盛りあがるのとかって好きじゃないと思っていたけど、そうでもないみたいだね。めっちゃノリノリだ。
わたしはその横で耳を抑えて小っちゃくなっていよう。
元から小っちゃいけどれどもさ。それは余計なお世話だ。
「それでは、バトルロワイアルに出場する選手の入場だー!」
今までになく司会者が大声を上げて盛り上げる。それに応えるかのように会場の観客達も歓声で返している。
歓声を受けてバトルロワイアル参加者達がゾロゾロと入ってくると同時に、司会者も別の場所へと移動していく。
結構な人数が参加しているなー。ざっと百人はいるんじゃなかろうか。
この中からシャロを見つけ出すのは難し……くないな。めっちゃ分かりやすい黒マント着ている人がいる。絶対あれがシャロだ。
他の人は動きやすそうな格好をしているのに、一人だけ黒マントでめっちゃ目立ってる。
バトルロワイアルなんだから乱戦になる事が分かり切っているし脱いどけばいいのに。絶対邪魔になるでしょ。
でも、マントを脱ぐと華奢な銀髪美少女だから、嘗められて早めに潰しておこうとか思われるのかな。まぁ、シャロならそうなったとしても、飛んで火にいる夏の虫が如く返り討ちにするだろうけどね。
わたしも真似しようかな。女で子供って馬鹿にされたり、手加減なんてされるより正々堂々と戦ってもらいたいからね。
姿を隠して出場するのは良いかもしれない。
「選手の皆さんの入場が終わったみたいだ! 本選に出場出来る一人を決めるバトルロワイアルのルールは簡単! 遠距離武器、遠距離魔法の使用は禁止! それ以外なら何でもありの近接戦闘だ!」
遠距離魔法は禁止、それ以外なら何でもありか。
本選も同じルールだろうし、刀に属性付与させたりするのはルール違反って事にはならないって事かな。流石に斬撃として飛ばすのは無しだろうけどね。
「さぁ、それでは始めていただきましょう! この乱戦を勝ち残るのは誰なのか! バトルロワイアル開始だー!」
観客と今度は選手も含めて盛り上がっている。空気どころか闘技場が揺れている。
今まで一番大きい歓声で抑えてても耳が痛い……。頭に響く……。
鼠に囲まれた時みたいに消音魔法でも使おうかと思ったけど、シルフさんに話しかけられたら、無視する事になってしまうからね。




