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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、大会ライフ
73/144

P73 リリナの一日

ツズリ側は、この後戦闘シーンが続くんだろうなと思ったら耐えきれなくなったので、リリナ視点です。

 ツズリが旅に出たから、いつもツズリと一緒に空を飛んで来ていたルル様は、昼食を食べには来ないと思っていた。だけど、そんな事はなく、毎日、メイドのノリスさんと一緒にお昼を食べに来ている。


 ツズリが一緒じゃなくても、表からではなく裏口から入ってもらっている。ツズリがいるいない関係なく、いつも通りが一番。


 そして、今日もルル様がやってきた。


 コンコンコンと扉がノックされたので、あたしは扉を開けに行く。


「いらっしゃい。もうそろそろ来ると思ってから、既に今日のオススメ料理をテーブルに置いてある」


「流石リリナですね! わたしの事を良く分かってます!」


「ふ、それほどでもない。ルル様の事なら、服のサイズから一日のトイレの回数に至るまで全部把握している。今日来る事と注文する料理を予測する事は造作もない」


 本当は毎日同じ時間に来るし、毎日オススメしか頼まないから誰にでも予測出来る事。

 ルル様が自宅で何をしているかなんて一切把握してもいない。あたしも宿で忙しいから、ルル様を観察する時間なんてないから。

 でも、ルル様をからかうのは好きだから、軽く嘘を付く。


「それは把握しすぎですよ! 服のサイズはリリナと体格が変わらないから兎も角、なんでトイレの回数を把握しているんですか!」


 本当に自分のトイレの回数を把握されていると思っているのか、ルル様が顔を赤くしてちょっと照れている。

 これだからからかうのをやめられない。かわいい。


「そこまで把握されている友達がいるなんて、ルルーナ様はいいお友達を持ちましたね」


「確かにいいお友達ではありますけど、行き過ぎているというかなんというか……」


 いい友達とは思ってくれているんだ。嬉しいな。

 どっかの狐だったら、今頃にやにやしているだろうけど、、嬉しいと思ってもあたしは顔には出さない。

 どっかの狐とは精神の育ち方が違う。あんな内心が分かりやすい狐そうそういない。レア狐。


「先読みをして料理を用意出来るその先見の明、リリナ様はメイドの素質がございますね。将来的にルルーナ様の専属メイドになる道も見えてきましたね」


「ノリス、ツズリがメイド服を着てから自分の弟子を作る事に目覚めてませんか!? リリナには宿の看板娘という大事な仕事が既にもうあるんですよ!」


 ルル様の専属メイドは物凄く魅力的だけど、実際ルル様の言う通りにあたしには宿の仕事がある。メイドの仕事に就く事は出来ない。

 でも、ルル様をからかう事を優先する為に、あたしは軽く嘘を付く。


「メイドの道も悪くない。ルル様の世話という世話をこなしてみせる」


「ええっ!? リリナには宿があるじゃないですか! メイドに道よりしないで宿娘を極めてくださいよ!」


「ルル様はあたしが専属メイドになるのは嫌……?」


 ちょっと悲しい顔をしながら、言ってみる。どっかの狐とは違って内心を公にしている訳ではなく、わざと悲しい顔をする。

 何故って、それは勿論、ルル様をからかう為。


「な、何でそんな悲しそうなんですか! べ、別に嫌ではありませんけど……、寧ろ、そうなったらそうなったで、いつもリリナと一緒に居れて嬉しいですけど……」


 あたしと一緒に居ると嬉しい……!?

 い、今のはどっかの狐じゃないけど、ちょっと照れが顔に出てしまった気がする。にやついてしまった気がする。

 不意に照れるような嬉しい事を言ってくるのがルル様の怖い所。


「嬉しいんだ……ツズリと一緒にこの前みたいに世話をされるの。分かった、今度ツズリと相談してメイドをやりに行く」


「それはやめてください! あれはもうこりごりです!」


「ふふふ、二人も新人メイド候補が出来るなんて嬉しい限りです」


「ノリスも本気にしないで下さい!」


 っと、ルル様をからかうのはこの辺にして、折角の料理が冷めてしまうのでテーブルに案内する。案内すると言ってもいつもの席だけど。


「今日の料理も美味しそうですね!」


「当たり前。母さんの料理は世界一。ノリスさんのもあるので座って食べてください」


「ノリス、一緒に食べましょう!」


「畏まりました。ご一緒させてもらいますね」


 メイドさんは主人が食べ終わって片づけをして後から食べるらしいけど、ここは屋敷ではなく宿屋であり、昼食を取る場所。折角来てくれているのなら、一緒に食べて欲しいから用意している。


「リリー! 今日はリリの分も用意しているから一緒に食べときなさーい!」


「はーい、分かった。直ぐに取りに行く」


 隣の厨房にいる母さんからそう言われたので、自分の分を取りに行く。


 いつもは昼食時は忙しいから食べるのは後なんだけど、従業員を雇って時間に余裕が出来たから、友達と一緒にお昼を食べていいよって言う母さんの配慮だと思う。


 従業員を雇えたのも、借金を返せたのもツズリが女神だったお陰。ツズリのお陰で今のルル様との関係があると言ってもいい。

 雑に扱ってはいるけど、これでもツズリには感謝している。本人には決して言えないけどね。


「今日はリリナと一緒に食べられるんですね! 嬉しいです! わたしの横空いてますよ!」


「ありがと、座らせてもらう」


 あたしはルル様の横に座って、一緒に食べる事になった。

 一緒に食べるのはツズリのバーベキュー以来かな。あの時は料理も一緒に作ったりして楽しかった。ルル様も料理を練習してたらしく、あたしほどではないけど上手だった。


「ねぇ、リリナ。わたしもリリナの事をリリって呼んでいいですか? そっちの方が友達っぽい気がします」


「別にいいけど、その時はあたしはルル様の事をルル母様と呼ばなくてはいけなくなる」


「どうしてそうなるんですか! 友達じゃなくなっているじゃないですか!」


「あたしをリリと呼んでいいのは母さんだけ。つまり、リリと呼ぶならルル様はあたしの母さんという事になる」


「それならリリナのままでいいです! まだ子持ちになるには早すぎますからね!」


 本当は呼び方なんて何でもいいけど、ついついからかいたくなるから、軽く嘘を付く。


「ふふ、こうしてみていると二人は姉妹の様ですね」


 前に座っているノリスさんがあたし達を見て、にこやかに言った。

 あたしは一人っ子だから姉妹の感じが分からない。だけど、もし姉か妹が居たらルル様みたいな人がいい。そして、出来る事なら妹がいい。


「あたしが姉って事でいいよね。ルル様」


「何言ってるんですか。わたしが姉に決まっているじゃないですか! ルルお姉ちゃんと呼んでくれてもいいですよ」


「ルル妹様」


「何ですかその呼び方!? 百歩譲ってわたしが妹とするなら、呼び方はルルでいいですよね! 妹を付けて上に更に様付けって、良く分かりませんよ!」


 ルルッと呼んでしまうと様がのいて喜びそうだから、様を付けるのは絶対条件。ルル様の方が妹であると強調する為にも妹を付けるのも必須。完璧な呼び方。


「こういうのはどうですか? 姉らしい事を出来た方が姉を名乗れるというのは」


 ノリスさんがいい提案をしてくれた。

 日頃ルル様をからかっているあたしが、ルル様との勝負で負ける事なんてない。完全に上手を取っている。


「それいい。あたしが姉であるところを見せてあげる」


「望むところです!」


 ルル様もノリスさんの提案に乗るようだ。

 この勝負負けられない。どうからかってあげようか。


「ルル様の大好きなこの果実、あたしの分もあげる。食べさせてあげるからお口あーんして」


「それこの前のメイドごっこと変わらないじゃないですか! でも、その果実は好きなので頂きます」


 ルル様が小さい口を開けて待っているので、果実を口に入れてあげる。

 メイドの時は嫌がっていたのに、好きな食べ物だと受け入れている。果実の魅力には勝てなかったみたい。


「うーん! 果汁が溢れてきて美味しいです! 食材選びも抜かりないですね!」


 果物を食べるルル様は凄くいい笑顔で食べている。かわいい笑顔。


「母さんは料理の腕も食材の目利きも超一流。負の打ちどころなし」


「流石、人族一の料理人です! あ、リリナ。ほっぺに食べ残りが付いてますよ。取ってあげます」


 ルル様がおもむろに手を伸ばして、あたしのほっぺに付いてたのを取ってそのままパクっと食べた。


「な、なななななっ! き、急用が出来たからみみみみ店を手伝ってくるっ!」


 あたしは自分の食器をパッと片付けて、バッと走ってその場去る。

 唐突にあんな事するなんて卑怯。あんなの誰だって顔を真っ赤にするに決まっている。どっちが姉とか関係なく勝てる訳がない。




「えっ、どこに行くんですか! まだわたしの番が残ってますよ! もう、行っちゃいました。折角わたしの姉力を見せつけるつもりだったのに」


「ルルーナ様は無自覚なのが怖いですね。将来学校に通う機会があると思いますが、男の子にさっきみたいな事をしてはいけませんよ」


「何の事ですか? ノリス」


「……はぁ、何でもありません」




 ルル様から逃げ出して、心が落ち着いたところで会計の仕事をする事にした。

 普段からかう側のあたしがルル様にからかわれる(多分無自覚だろうけど)なんて、なんたる屈辱。明日はあたしもからかい度を上げよう。


 それにしても、前なら会計でのんびり座っているなんて事はなかったな。料理を運ぶのから食器の回収、そして会計も厨房以外は全部あたしがやっていた。

 あの時は外に並ぶ今ほど客はいなかったけど、忙しかったのには変わりはない。


 認めたくはないけど、これもツズリのお陰。感謝している。


「リリナちゃん、今日も美味しかったよ」


「ほっほっほ、いつも働いてて偉いのお」


「仕事なので当然です。こちらこそ、いつも食べに来てくれてありがとうございます、おばあちゃん、おじいちゃん」


 ツズリのお陰でこうしていつも食べに来てくれる常連も増えた。

 あ、違う。この老夫婦の方はお隣に住んでてツズリが来る前から度々来てくれている方だ。ツズリのお陰ではなかった。

 危ない危ない。ツズリの功績を増やしてしまう所だった。


 さっきの人達はツズリのお陰で増えた常連ではないけど、でも、ちゃんと常連も増える。次に会計に来るお客様はきっと増えた常連さん。


 ほら、早速こっちに来ているお客様が。


「リリナちゃんお疲れさまー。私は今日昼までだからこれで上がらせてもらうね」


「あ、お疲れさまでした。また明日お願いします」


 違った。従業員さんだった。

 まぁツズリのお陰で増えたと言えば増えたけど、常連さんではなかった。


 あ、次のお客様は間違いなく最近増えた常連さんだ。ここ最近毎日来ている冒険者の二人だからよく覚えている。


「よう、嬢ちゃん。お会計よろしくな」


「いつもありがとうございます」


「なーに良いって事よ。料理も美味しい上に女神様のご加護も付くかもしれないってんだ。魔物と戦っていつ命を落とすか分からない冒険者のとっちゃ、いざって時に命拾いする奇跡が起きるかもしれないからな」


「そうですね。藁に縋れる程度にご利益があるかもしれませんね」


 ツズリのご利益となると、髪がもふもふになるくらいしかないと思う。毛根の命を拾うくらいにしかならないと思う。

 あ、でもこの冒険者の人の毛根はもう死んでいるから拾う命はなかったか。


「ところで、最近空飛んでる女神さんを見ねぇんだが、何か知らないか?」


 もう一人の髪が死滅していない方の冒険者がツズリの事について聞いてきた。


「ツ……女神……様なら一ヵ月はこの街を離れてる。お金にこま……じゃなくて、他の国を救いに行っている」


 一応、ツズリには恩があるので悪い印象を与えないように説明する。


「ふーん、そうなのか。尻尾に触ると幸運が訪れるらしいから触りたかったんだがな」


 ほぼ毎日ここに来ているから、ほぼ毎日尻尾をもふってるけど、特に幸運が訪れるなんて事はないと思う。あ、でももふってる時は幸せな気持ちになれるから、間違いではないかもしれない。


「それじゃあ、ありがとな。また来るぜ」


「はい、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」


 っと、こういう風にツズリのお陰で常連さんも増えた。

 ここだけではなく、この街自体に人が増えた。そんな気がする。


 いろいろと恩があるし、帰ってきたら辛辣に扱わずに、たまには優しくしてあげようかな。




誤字報告ありがとうございます。

軽く見直しをしていても誤字は発見される。助かります。

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