P71 駄々っ子ツズリとくっつきツズリ
街の結界の手前まで来た。
ルルの街から出発して色々と、本当に色々とあったけれど、何とか辿り着く事が出来た。
わたしがやらかさなければもっと順調に到着していたはずなんだけどね。鼠のせいで寝不足になって妖力不足になって、ゴブリンに襲われてシャロに助けられて……。
大会出るってイベントに辿り着くまでのイベントが長いんだよ!
妖力の質が魔物に似ているらしく、魔法を使えば使うほどにイベントが巻き起こされているから、文句を言っても自分に返って来るんだけれどもさ。
どこからが結界なのかは目に見えないから分からないけど、恐らく結界の外には一個も建物はないと思う。綺麗に一直線に建物が並んでいる。
円形の結界じゃなくて四角の結界なのかな。上から見れば分かるんだろうけど、ここからじゃ円形ではないって事くらいしか分からないや。
「へー、どこからでも街に入れるんだね」
結界の境目に柵くらいあっても良さそうだけど、何もない。柵も無ければ門もないし門番もいない。
それだけ信用出来る強い結界という事なのかな。
「結界に引っ掛からなければそうじゃな。普通の人間ならば引っかかる事はないじゃろうから、気にもせぬ事じゃがのう」
「門番もいないけど、盗賊とかも入り放題じゃないの?」
魔物には襲われる事はないかもしれないけど、盗賊は同じ人なのだからスッと入れてしまうよね。
「街の中にはゴーレムが配置されててのう、悪さをすればゴーレムが動くようになっておるのじゃ」
「ゴーレム!? ゴーレムって魔物でしょ!? 危なくない!?」
ゲームにもゴーレムはいた。岩や鉄といった色々な鉱物のゴーレムだ。
岩場地帯にいるモンスターで、魔法無効とか付いているゴーレムもいたなぁ。わたしに対して魔法無効は相当きつかった思い出がある。
思い出すだけで今でも腹が立つ。魔法無効を付けた運営、許すまじ……!
「何を言っておるのじゃ。ゴーレムは魔法陣を埋め込まれていて、条件満たすと動くだけのものであって、魔物ではないのじゃ」
「えっ!? そうなの!?」
ゲームのせいで魔物だっていう先入観があったけど、なるほど、ロボットタイプのゴーレムという選択肢もあったか。
わたしがやっていたゲームでは魔物としていたけど、確かにそういうタイプのゴーレムもあるっちゃあるね。
魔法陣でゴーレムが動いているとなると、元の世界の電子回路的な役割を魔法陣がしているという事かな。
「ツズリが悪さをしてゴーレムに襲われたとしても、わしがワンパンでゴーレムを木端微塵にしてやるから安心せい。姉として守ってやるからのう」
姉としての部分をやたらと強調したな……。姉である事が気に入ったのだろうか。
飼い主よりは姉の方向性の方がわたしとしては有難いから、別に強調しても否定はしないけどね。そこはいいんだけれども……。
「わたしは悪さしないから襲われないよ! 悪さする前提で話を進めないで!」
「ホントかのう……。大会で調子に乗ってでかい魔法を使う出ないぞ? 街中のゴーレムが作動しても知らんからの」
「武道の大会なんだから使わないよ! 遠距離魔法の禁止って言うルールはちゃんと守るもん」
全く、わたしを馬鹿にしないで欲しいね。森での魔物相手なら魔法は使うけど、流石にルールを破ったりはしない。そんなんで勝っても嬉しくないからね。
「それならいいのじゃがの。では、街に入って宿でも探すかの」
「そうだね。街の中に勝手に家を建てる訳にもいかないし、まずは宿を探さないとだね」
シャロがスタスタと結界に向かって歩いて行く。
本当にこのマントで結界が発動したりしないのだろうか……。取り敢えず、シャロで様子を見よう。
シャロが街に入っても何の反応もないし、遮られてもいない。どうやら、本当にマントには魔力を隠す効果があるみたいだ。
「何を突っ立っておるのじゃ。早くこんか。迷子になっても知らぬぞ」
結界を通れる事の確認が出来たのでわたしはシャロを追いかける。
「もう! 子供扱いしないでよ! 迷子になった事なんて数回しかないよ!」
「数回もあったら十分迷子の常習犯ではないか……」
迷子になったのは転生直後に森の中に放り出されたのと、沼に落ちた時だ。どっちも致し方がない事情での迷子だから、迷子としてカウントされないと言ってもいいくらいだけどね。
結界に引っ掛かる事はなかったけど、もう一つ問題点がある。新しい街に入るという事は、また色々と視線を集める事になると思うんだよね。
思い出される初めてルルの街に来た日の事。奇妙な格好やら珍しい獣人やら散々言われて、散々注目されて視線が痛かったのなんの……。
そして今の格好は、フードまで付いたマントを着ている黒い二人組。
怪しい、怪しすぎるよ……! 客観的に見て自分でも怪しむよ、こんな二人組!
だからと言って、マントを脱いだとしてもシャロは超絶美少女で超絶綺麗な銀髪が目立って注目されるし、わたしはわたしで可愛さが溢れてるし、巫女服やら獣人やらで注目される。
どっちにしても注目されるという道しか残ってない……!
「ね、ねぇ、あまり人がいない、この辺の端っこに宿とらない?」
「んー? 何でじゃ。大会の会場があるのは中心街じゃぞ。勿論、宿は中心街でとるに決まっとろうが」
「敢えて端っこって言う選択肢もあると思うんだよ。それに姉なら妹の我が儘を優遇してくれてもいいと思うんだよね!」
シャロは姉に拘っている節があるから、姉という事を持ち出せばわたしの言う事を聞いてくれるはず……!
こんな可愛い妹なのだから甘々にデレデレになって、わたしの思うがままになるはず……!
何て完璧な作戦なのだろうか! わたしは天才か!
「姉と妹なら姉の方が偉いのじゃ。つまり、行動権限は全てわしにあるのじゃ! 妹の我が儘は一切聞かぬ!」
作戦失敗したー! わたしの完璧な作戦が一瞬で崩壊したー!
「シャロの頑固者! ちょっとくらい聞いてくれてもいいじゃんか!」
「ほれ、さっさと行くのじゃ」
くっ! こうなったら次の作戦だ!
「やだやだやだやだやだ!」
必殺子供のように駄々をこねてみる作戦! これでどうだ!
「恥ずかしいから道のど真ん中で転がって駄々をこねるでない! 皆見ておるぞ!」
はっ! 注目を浴びない為にこの辺に宿を取りたかったのに、これじゃあ本末転倒だ!
物凄く恥ずかしい……。普通に注目されるより恥ずかしい……。
わたしはフードを深くかぶって顔を隠し、更にシャロに引っ付いて顔をうずめて誰にも見られないように完全防御状態に入った。
「はぁ、ホントに子供じゃのう……。困ったものじゃ……」
シャロはわたしをくっつけたままズルズルと歩き出す。勿論ズルズルいっているのは、わたしが着ているマントである。
流石、怪力少女。わたしという重りがあっても何のそのってか。いや、わたしが滅茶苦茶軽いだけかもしれない。きっとそうだ。
「ママー、なにあれー」
「子供が甘えてるのよ。あなたにも弟か姉が出来たら可愛がってあげるのよ?」
道中、そんな声が聞こえてくる。
ダメだ……。この状態から抜け出す事が出来ない。恥ずかしすぎるよ……。
もういっそ宿の中に入るまではこのままシャロにくっついていよう。コアラが如くへばりついていよう。
暫く経つと人の声が多くなってきた。恐らく町の中心に到着したんだろう。
よし、後はシャロが宿を見つけてくれればいいだけだ……!
「そろそろ離れんか。歩きづらいのじゃ」
「宿に着くまではわたしは離れない。断固として……!」
「なんじゃその固い決意は。何がツズリをそうさせておるのじゃ……」
それは勿論、羞恥心だよ!
いや、もう駄々っ子ツズリを見た人は周りにいないだろうけど、くっついて歩いてるところは現在進行形で見られているだろうから、くっつきツズリの恥ずかしさがあるんだよ!
それにしても、怪しいフードがーって声は聞こえないな。聞こえてくるのは、わたしに対しての「なんだあの甘えっ子は」とか「黒い塊がひこずられている」とかの声ばっかりだ。
くっつきツズリモードのわたしが悪目立ちしているから、皆こっちに目がいってフードの怪しさに気づいてないのかな。
カランカラーンと鳴って扉が開く音がした。そして、さっきまで踏んでいた道の感触から、木の感触に変わった。
どうやら、どこかに入ったらしい。
「ほれ、宿に着いたのじゃ。くっつくのは宿までの約束じゃろう。そろそろ、離れるのじゃ」
わたしは恐る恐る、シャロから顔を離す。そして、周辺を見回して安全確認を行う。
よし、人はいないみたいだね。リリナの所みたいに宿のロビーが食事処になっていて、人が沢山いるって事ではなさそうだ。
「ふぅ、助かったー」
「顔を隠してずっとくっつきおって、指名手配でもされおるのか、ツズリは」
「初めてくる街で指名手配何てされてたまるか! ちょっと、恥ずかしさが溢れすぎてて溺れてただけ!」
「子供じゃのう……。まあよい、さっさと受付を済ませるのじゃ」
あ、そうか。そうだった。周りにお客さんは見えなかったけれど、受付の人はそりゃいるよね。
シャロが立ち塞がっていて見えていなかった前の方に目をやると、受付らしきところに一人の若い女性がいるのを見つけた。
金髪で整った顔をしている若い女性。そして、わたしの目はしっかりとある場所を、ある特定の部位を見逃さずに捉えた。
「耳が長い……!」
そう、耳が長かったのだ。
大仏のように耳たぶが長いとかではない。かと言ってわたしとか、兎とかのようにケモ耳だから長い訳でもない。
人の耳の先がとがるようにして長くなっている耳だ。
それはつまるところ、そういう事なのだろう。
わたしバッとカウンターまで走って質問をした。したというより投げつけた。
エルフと思しき女性がビックリしてて、申し訳ないと思いつつも、ゲームではない本物のエルフを見た事による興奮の方が上回るよね。
「も、もしかして……エルフ……!?」
「は、はい、そうですね。私はエルフです。ここの宿の受付をざっと七百年くらいやってるエルフですよ」
七百年!? 間違いない! 間違いないよ! 長命と言われるあのエルフだよ!
「わぁ! 本物のエルフだぁ! 握手してください!」
「えっ? ええっ? い、いいですよ」
わたしは快く差し出された手を両手で握り、ぶんぶんと上下に振った。
「感激だー! エルフだー! エルフだよー! ふぎゃんっ!?」
わたしが興奮しているといきなり頭に何かが降ってきた。いや、振り下ろされた。
「こらっ! 何をやっておるのじゃ。カウンターの上にまで乗りおってからに」
振ってきたのはシャロの鉄拳。そして、そのまま首根っこを捕まれて床に落とされた。
カウンターの上に乗ったのは背が低くて届かないから、致し方なく乗るしかなかったからだ。
「だって、エルフだよ!? わたし初めて見たんだもん! 興奮が抑えられなかったんだら仕方ないでしょ!」
初めて見る人以外の人。ファンタジーでお馴染みと言ってもいいエルフに会えたんだから、そりゃテンションも上がるというものだよ!




