P67 美少女が使っていい魔法じゃない
どうやらシャロはわたしと同じ大会に出るらしい。
なるほど、武闘大会に出るような選手だからあんなにシャロは強いのか。武闘大会に出て軽く優勝を取るって言うだけの強さはあるって事だ。
うーん、でもシャロ程の強さの選手が出る大会って事は、他の選手も滅茶苦茶強い人が沢山出てくるんじゃないだろうか。
シャロみたいに強い人が沢山いる中で、魔法を縛ったわたしが勝てる道理ってあるのかな……。出るからには本気でやるけど、不安になってきた。
「その大会わたしも参加する予定だよ」
「ほう、それは奇遇じゃのう。じゃが、ツズリのような子供が参加するのなら優勝は簡単そうじゃの」
「ほーん! 言うねー。言ってくれるねー。そう簡単に優勝出来ると思わない方がいいよ。わたしだって本調子なら、この鳥だってワンパンで倒せるだけの実力があるんだからね」
ワンパンと言っても、パンチではない。魔法でパパッと倒すっていう意味のワンパンだ。
一回殴って倒すのも魔法で一発で倒すのも結果的には倒しているのだから、ほぼほぼ一緒の事だ。なーんにも変わらないさ。
ただまぁ、強いて言うなら、武闘大会に魔法は関係ないっていう致命的な点があるんだけれども、そこは目を瞑って誤魔化すしかない。
「ほうほう、それは大会が楽しみになってきたのう。弱い人間しか出ないと思っておったが、久々に楽しい戦いが出来そうじゃの」
どれだけ自分を上に見ているんだ。確かに物凄く強いんだけどもさ。
「ま、優秀するのはわたしだし、シャロの負けが確定している大会でシャロが楽しいと思えるような戦いが出来るとは思えないけどね」
「ふんっ、子犬がわんわん鳴きおるわ。すまんのう。子犬語は分からんのじゃ」
「誰が子犬かっ! わたしは犬じゃなくて狐だよ! 子でもないからね! これでもわたしは十七年も生きてるんだから!」
「たったの十七年じゃあ、子狐どころか産まれたても同然じゃのう」
十七年が産まれたてなのなら、シャロだってわたしと同じで赤子じゃんか。どう見ても、シャロは元の世界じゃ高校生くらいだぞ。わたしと同い年だぞ。
まぁいいさ。そう言っていられるのも今のうちだからね。大会でもしシャロと当たる事になったらぎゃふんと言わせてやる。
わたしを子供だと侮った事を後悔させてやるんだから。
「シャロは大会が開催される国の場所って知ってるんだよね?」
「勿論じゃ。何千年も生きておれば、多少なり地形が変われども、大体の場所は把握出来ておる」
その設定はまだ続けるんだね。別に何年生きてる設定でもいいけどさ。
「良かったー! 実はわたしこの森で迷子になっちゃっててさ、わたしもシャロと一緒に行ってもいい?」
「迷子になるような子供を森で置いて行く訳にもいかんし、折角、鳥からも助けてやったのじゃから、初めから面倒を見てやるつもりじゃったのじゃ」
絨毯飛ばしながら寝て、墜落して謎の森に迷子という自業自得のやらかし案件なんて事をしているのだから、これに関しては子供と言われても言い返しようがない。
時には素直に受け入れる事も大事なんだよ。
「ありがと! 命を助けてもらって更に迷子も助けてもらえるなんて恩に着るよ! その内、返せる時があったらちゃんと恩は返すからね!」
「そうかそうか。では、今すぐわしのペットになる事で恩を返してくれてもよいのじゃぞ?」
「絶対にやだよ! 誰のペットになるつもりもないから!」
いくらもふもふが魅力的で可愛い狐っ娘だからってペット化は禁止だ。
っていうか、人をペットになんてしないで欲しい。獣は混じってはいても人なんだよ、わたしは。
「一日三食付で、朝晩の散歩も欠かさずにするつもりじゃし、毛並みの手入れだって毎日してやるつもりじゃったのにのう」
まーじで完全なるペットじゃないか。完全なる犬じゃないか。
一日三食ってドッグフードじゃないよね。ちゃんとした人用の料理をくれるんだよね。それすら怪しいんだけど。
「いよーっし! 取り敢えず、大会開催地を目指して出発しよう!」
「いや、その前に昼飯の時間じゃな」
折角、出発する気満々だったのに即行で出鼻を挫かれた。こんなに早く鼻を挫かれる事なんてあるのだろうかってくらいの早さだった。
わたしは悲しいよ。
でもまぁ、確かにお腹は空いているな……。
昨日戦って気を失ってから何も食べてないからね。流石に食べないとダメだよね。腹が減っては旅は出来ぬってやつだ。
「うん、確かにそうだね。わたしもちょうどそう言おうと思ってたんだよね。初めてシャロと意見が一致して嬉しいよ」
「ついさっき出発って勇んでおったじゃろ。意見は不一致じゃったろ」
挫かれた事をなかった事にしようと思ったけど、流石に無理だった。
「シャロばあのくせに記憶力はいいのか」
「誰がばばあじゃ!」
「ひゃんっ!?」
まーた拳が飛んできた……。ちょっと、小声で聞こえないように言ったのに……。
シャロの耳は悪口だけ敏感に聞こえるパターンの耳なのか?
「暴力反対だよ! 特に頭への暴力は反対だよ! シャロみたいに馬鹿になったらどうしてくれるんだ!」
「わしは馬鹿ではないわい! それに安心せい。既にツズリはわしの中では馬鹿の分類に入っておるのじゃ。馬鹿が馬鹿になっても変わらんじゃろ」
「なーんで既に入ってるんだよ! 早くその分類から天才の分類に移動させて!」
馬鹿と天才は紙一重って言うし、間違えて馬鹿の分類に入れられてしまっているとはね。何とかして天才の分類だという事を分からせてやらないと……。
「移動させるかどうかは今後を見てからじゃの。まぁそんな事より飯じゃ。ちょうど都合よく鳥が取れたからのう。今日は鳥を焼くとするかの」
この鳥を食うのか……。まぁ鳥なら鶏も鳥だし、明らかなワーウルフみたいな魔物よりはマシか。
最悪食べられる味じゃなかったらリリナ弁当があるし、それを二人で別けて食べればいいかな。
「わたし解体とか出来ないし、料理も出来ないんだけど、シャロは出来るの?」
蘇えるキャンプでの記憶。ルルに戦力外通告が出されたキャンプでの料理。
料理なんて出来ないからこそ、リリナに弁当を頼んだ訳だしね。料理が出来るのならば、材料を買い貯めて旅に出てる。
「心配せんでも良い。わしは何千年と一人で生きて来ておるから、料理歴も何千年じゃ。そんじょそこらの料理人よりも腕は上手いのじゃ」
「おー! それは期待出来る料理が出てきそうだね! 料理はシャロに任せてわたしは机とか用意しておくよ」
意地でも何千年と生きている設定を貫き通そうとしているな。もうわたしはそれに関しては絶対にツッコまないぞ。
料理担当はシャロ。わたしは食べる場所のセッティングだ。
まぁ料理と違って準備なんて十秒で終わるんだけどもさ。収納から机と椅子、食器類を取り出すだけだし。
パパッと準備して椅子に座ってシャロの様子でも見ている事にしよう。
シャロを見てみると何もしていなかった。いや、何かしらはしているんだけど、ただ立っているだけなのに、怪鳥がみるみると綺麗に解体されていっているのだ。
きっと何かしらの魔法を使っているんだろうね。目には見えないから風魔法かな。
属性は風魔法と仮定したとして、その魔法の操る精度が凄い。羽だけを切り落として骨から綺麗に肉だけを切り離している。
わたしも魔法を扱う身だから分かる。その魔法の扱う技術の凄さが。
シャロは容姿だけでなく魔法の扱いも美しいね。いつもなら解体なんて気持ち悪くて見ていられないんだけど、魔法の繊細な扱いに目が離せないよ。
いや、それだけじゃないね。わたしがこの解体ショーを見ていられる理由。
血がないからだ。一滴も血が見えない。
それだけ魔法の切れ味が良いって事なのかな。解体については分からないから何とも言えないね。
「シャロって殴るだけじゃなくて魔法の扱いにも長けてるんだね。血も出ないように解体しているし、繊細な風魔法の操作も凄く熟練されてるよね」
「そりゃそうじゃ、長年この魔法と共に生きておるのじゃからな。因みに色々訂正しておいてやるが、血を出さないように解体している訳でも、風魔法でもないのじゃ」
「え? どういうこと?」
わたしの見解は間違っていたらしい。目に見えないからてっきり空気を操る風魔法かと思っていたけど、違うのか。
うーん、じゃあ何だろうか。凄く透明な水魔法とかあり得そうだけど、そんな特殊な事はないか。
「わしの魔法はちと特殊での。血を操る魔法なのじゃ」
「血!? 血を操るの!?」
何その怖い魔法!? めっちゃ特殊過ぎるんだけど!?
「うむ。ツズリは目で見えないから風魔法と勘違いしたのじゃろうけど、これは極々細い血の糸で切っておるのじゃ。少しばかり太くすれば見えるようになるかの」
そう言うと、シャロの周りに赤い糸が舞っているのが見えるようになった。
確かに赤い。血のように赤いと言うか、細さも相まって血管そのものに見えて不気味だな。
なるほど、血に糸を目に見えない程に限りなく細くして切っていたのか。
ピアノ線で切るみたいな事をアニメとかで見る事があるけど、それの魔法版だね。
強度と細さは魔法でどうとでもなるし、更に言えば形状もどうとでも操れる訳だから、利便性は凄く高いと思う。
血である事を除けばいい魔法の使い方だね。
わたしが真似するなら同じ液体である水魔法になるのかな。流石に血でやるのは無理だからね。
今度、暇があったら真似してみよう。
「そう言う魔法の使い方は思いつかなかったよ」
糸なら妖力糸を使った事があるけど、あれは敵を察知するだとか、遠隔操作だとかで使うだけで一切切れ味はない。
液体なら物があるから斬るって事が出来たのか。戦闘で使うとめっちゃ強そう。
「こんな事も出来るのじゃ」
血の糸が今度はスコップみたいな形を作り、土を掘っていく。シャロは動かずそれを操作しているだけだ。
そして掘った穴には怪鳥の骨やら臓器やら羽などの料理には使わない部分をスコップで入れて、土を戻して埋めた。
「糸として使うだけじゃなくて、いろんな形に出来るんだね」
「まぁそう言う事じゃの。中々使い勝手が良くてお気に入りじゃ」
わたしもそれが血じゃなければ気に入ってたと思うよ。血でさえなければね。
赤色の水じゃなくて、本当に血なのが欠点だ。使い勝手が良くても血なのはちょっとなぁ。
シャロが切り取った怪鳥肉は血で出来た入れ物にまとめて入れられている。
大きい怪鳥なだけあって肉の量も相当な量になっている。それに合わせて入れ物も必然的に大きくなる。
便利だなぁ。本当に血でさえなければなぁ……。
そして、シャロは血で出来たトングで肉を一切れ取り、その肉をこれまた血で出来たフライパンに置いた。
フライパンもトングもシャロが操っている為、手で持たなくても宙に浮いている。わたしの片付け魔法的なのと同じだね。
いや、今はそんな事はどうでもいい。目の前の光景にツッコまなくてはいけない。
「ちょっとまったー!」
「ん? 何じゃ? 犬じゃから生のまま食いたかったのかの?」
「違うよっ! 犬じゃないって言ってるでしょ! そう言う事じゃなくて、その血濡れのフライパン使うつもりなの?」
「勿論じゃ。血を操れるのは形だけじゃなくての、温度も操れるのじゃ。冷やす事も出来るし、熱する事も出来るのじゃ」
フライパンに置かれた肉がジューっと焼かれている音が聞こえてくる。
なるほど、IH的な感じで役って事だね。炎魔法で焼くのではなく熱で焼く。
「って、そういう事でもなくて! その血に染まったフライパンで作った料理なんて食べられないよ! 食欲が喪失してどっかに行っちゃうよ!」
「魔法で血の成分は肉に染みつかんから大丈夫じゃ。気にするでない」
「気にするよ! めちゃめちゃ気にするよ! 調理器具を用意するからこっち使って!」
キャップで使った時のバーベキューセットを取り出す。
収納したらずっと入れっぱなしにしてあるので、結構色々な物が収納されている。何が入っているか忘れてしまっても、メニューからアイテム欄を開けば分かるので安心だ。




