P65 怪力少女
目が覚めると、目の前に鳥がいた。鳥の頭が見えた。
普通の鳥ではなく、滅茶苦茶でかい鳥だ。ダチョウとかそういうレベルの大きさを遥かに超えているでかさの鳥だ。
いやもう、ここまで来ると鳥というか、怪鳥だね。
「んーっ! はぁ、良く寝たぁ」
怪鳥を横目にわたしは身体を起こし、腕を上げて身体を伸ばした。
そう言えばなんでこんな所で寝ているんだっけ……。なんか記憶が曖昧だ。
確か、黒ゴブリンと戦って、妖力が尽きて……。その後、朧気に何か見えてたような……。
わたしはふと横に転がっている怪鳥を見る。
「こいつだー! そうだ、こいつがゴブリンとの戦闘で弱っているわたしを、ここぞとばかりに狙って来たんだ!」
だとすると、何故この怪鳥はここで倒れているのだろうか。まさか、わたしが気を失っている間に。秘められた力が解放されたのか!?
女神を騙っていたら本当に女神がわたしに憑依してしまったのか!?
なるほど、つまりはそういう事だったのか! 意識がなくてもわたしは強いんだね!
内に秘めている本物の女神が、わたしの意識がない時は代わりに顕現してくれるんだね!
これでわたしが女神と呼ばれてしまっている理由にも納得がいく。だって、わたしの中には本物の女神が住んでいるのだから。
女神を騙っていたのではなく、女神だったんだ。
「女神を襲うとはいい度胸だったね! この怪鳥め! 女神のわたしに掛かれば敵ではなかったけどね! ふはははー!」
わたしは調子に乗って腰に手を当て胸を張って威張る。既に倒れていて反応すらしない鳥に向かって威張る。
うん、虚しさこの上ないね!
「やっと目を覚ましたと思うたら、何を訳分らん事を言っておるのじゃ。頭でも打っておかしくなってるのかのう? それとも、元からおかしいのかのう?」
わたし一人だけかと思っていたら、そんな声が聞こえて来た。聞こえて来た方向にいるのは倒れている鳥だけ。
「ぎゃー! 鳥が喋ったー!? ゾンビ化して生き返って喋りだしたんだー!」
「ちがわい! 死んでおる鳥が喋る訳なかろう! こっちじゃ、こっち」
こっちと言われた方向に視線を向ける。
倒れてる怪鳥の後ろから、ファンタジーでよくある魔女が来ているようなフード突きのマントを被った美少年……いや、声的に美少女(?)が現れた。
背丈はわたしよりも高い。まぁそれは当然か。わたしみたいな子供が他にも森の中になんているはずないよね。勿論、子供って言うのは見た目だけであって、わたしは大人なんだけどね。
顔だけ見るに年齢は前世のわたしと同じくらいだろうか。とても若く見える。
そして、フードを被ってはいても伝わってくる、美少女オーラ! 才色兼備のわたしが見ても美少女と言わざるを得ない程の圧倒的美少女!
これで猫耳と尻尾があれば百点満点だったよ! 惜しい!
まぁ査定はさておき、この人は一体どちら様なのだろうか。わたしが言えた事ではないけれど、こんな森で何をしているのだろうか。
「えっと……誰? もしかして……! わたしに宿っていた女神!?」
こんなに美しい少女がこんな森にいる訳がない。でも、それが女神だと仮定するならどうだろうか?
超絶美しい見た目納得がいくし、怪しげな黒いフードを被っているのも、女神である事を隠していると考えると納得がいくよね……!
「ちがわい! 女神なんぞと一緒にするでない! わしはお主が鳥に食われそうになっていたところを助けてやった恩人じゃ。有難く思うがよい」
「え? じゃあ、この大きな鳥はわたしの潜在意識が目覚めて倒したんじゃなくて、あなたが倒したの?」
「そうじゃ。わしがワンパンで倒してやったのじゃ。赤子の手をひねるくらい簡単に倒してやったのじゃ。感謝するがよい」
マントの美少女は拳を握り、シャドウボクシングをするみたいにしてワンパンアピールをしている。
「いやいやいやいや、それはないでしょー。そのマント越しでも分かるような、ほっそりとした体形でワンパンはないない」
あからさまな嘘じゃないか。誰が見ても嘘じゃないか。もしかしたらこの人なりの冗談なのかもしれないけどもさ。
「助けてもらった恩人に対して、なんじゃその馬鹿にしたような顔は! 本当じゃぞ! こう見えてもわしは力には自信があるのじゃ!」
おっと顔に出ていたようだ。わたしの顔は正直者だね。困ったものだ。
「ふーん」
「信じておらぬな……。仕方あるまい。わしの力がどれほどの物か分からしてやるのじゃ。お主は土魔法は使えるのかのう? 使えるのならば、でかくて硬い岩を作ってくれぬか?」
テリトリーの警戒も使わず、ぐっすり寝たからか妖力もばっちし回復している。睡眠の重要性を感じるね。あの鼠さえいなければ……!
妖力が回復しているんなら岩を作る事くらいは造作もない。何だったら嫌がらせの如く硬く生成してやろう。そう、ドラゴンがぶつかって来ても壊れないように作った家レベルで硬くしてやろう。
「これでいい?」
「おー立派な岩じゃのう。硬さも申し分なさそうじゃ。これくらいが砕き甲斐があっていいってものよのう」
マントの美少女は岩をポンポンと叩きながら、嬉しそうに言っている。
「嘘を付いて引き下がれなくて意地を張っているんだろうけど、無理はしないでね」
まぁ怪我をしてもわたしが治してあげられるから最悪どうとでもなるんだけど、怪我をしないに越した事はない。無理をしていい事なんてないからね。
黒ゴブリンと無理して戦って、鳥に襲われたわたしが言うのだから間違いない。
「だから嘘ではないと言っておろう。もう黙って見ておれ」
そう言って岩を殴る構えをとったので、わたしは言われた通りに黙って見ている事にした。結果は目に見えているけど、見てろと言われれば見ているしかない。
フードマント美少女は深呼吸そして息を整え、「それじゃあいくのじゃ」と軽く一言を言ってから、岩にパンチした。
何の迷いもなく、岩に向かって右ストレートを放った。
その瞬間、ドラゴンでも壊れないと思っていた岩が木端微塵に砕け散った。
「えっ!? うぇえええええええええええ!?」
あの岩を本当に素手で砕いた!? あのか細い腕のどこにそんな力があるの!?
強化魔法は確かにあるから、その線も考えられるけど、強化魔法の域を軽く超えているレベルのパワーなのではないだろうか……。
「ふんっ! どうじゃ! これがわしの力じゃ! これでわしがワンパンで鳥を叩きのめしたと分かってくれたであろう?」
そう言いながら笑顔で振り返る美少女は、パンチの衝撃波でフードが脱げ、銀色の綺麗な髪が陽に当たってキラキラと光り、風になびいている。
「綺麗な髪……」
わたしはその綺麗さに思わず口から思っている事がそのまま出てしまう。岩が砕かれた事にも衝撃だったけれど、それよりも髪の綺麗さに目が奪われる。
「髪よりわしの力を見るのじゃ!」
「ちゃんと見てた見てた。まさか砕かれると思ってもいなかったよ。それにしても綺麗な髪だね。触っていい?」
「岩を砕いた事がどうでもいい事になっとるじゃろうが! 髪にしか目がいっとらん! 髪はもうよい! お触りも禁止じゃ!」
わたしが触ろうとすると、またフードを被ってしまった。綺麗な銀髪が仕舞われてしまった。
「あー……わたしの銀髪が……」
「お主のではないのじゃ!」
まだ諦めずに髪を触ろうとフードに手を伸ばしてみるものの、振り払われた。
髪くらい触らせてくれてもいいのではないだろうか。わたしだってルル達に尻尾を好き放題もふもふさせているというのに。
いつまでも銀髪を惜しんでいても話が進まないので、話を戻そう。
「まぁさっきの岩砕きを見たら、あなたが鳥を倒してくれたのは分かったよ。わたしを助けてくれてありがとね。わたしはツズリ。ただの普通の冒険者のツズリだよ」
普通の冒険者である事はアピールしておかなければならない。わたし女神だとか天使だとか勇者だとか、兎も角変な役職が付いてしまうのはよくないからね。
折角、女神という役職が付かない旅に出ているのだから、フリーでありたい。
「分かってくれたのならよいのじゃ。お主はツズリというのじゃな。わしはシャロじゃ。ツズリは冒険者をやっておるのじゃのう。うーむ、わしはただの旅人ってところかの」
銀髪美少女の名前はシャロというらしい。
ただの旅人って言っていたけど、ただの旅人がわたしが硬ーく作った岩もワンパンで砕くとは思えないけどなぁ……。一体何者なのだろうか。
命を救ってもらっている訳だから散策は野暮かな。
わたしも人の事を言えないしね。見た目子供のわたしが一人で冒険者をやってこんな所にいるんだから、お互いがお互いに怪しい。
向こうも何も聞いてこないというよりは、聞かないでくれているのかもしれない。
「旅人かー。じゃあたまたま、通りすがりにわたしを助けてくれたんだね。シャロが来なかったら、今頃鳥のお腹の中だよ」
想像するだけでゾッとするね。ゲームならリスポーンするだけだけど、流石にゲームの身体だからと言ってこの世界でもリスポーンするとは思えない。
「近くに居たのはたまたまじゃが、助けに来られたのはたまたまではないのじゃ。ツズリのバカでかい魔力を感じ取って駆け付けたのじゃ」
なるほど、ゴブリンとの戦いで最後に大きい魔法を使ったから、それを感じ取って助けに来てくれたのか。
魔力を感じ取るなんて事は、わたしはテリトリーを発動しないと分からないんだけど、シャロもそういう魔法を使えるって事なのかな。
「わたしがあそこで魔法を全力で使ったのは正解だったんだね。そのお陰でシャロが助けに来てくれたんだもんね!」
「ツズリ……お主は馬鹿なのかのう?」
シャロがこいつなーにいってるんだっという目でわたしを見てくる。
何故そんな目でわたしを見るのか全く分からない。こんなにも賢さオーラが溢れているというのに。魔力は感じとれてもオーラは感じ取れんかー。
「え? 才色兼備のツズリの異名を持っているから馬鹿の欠片も備わってないよ?」
「その異名は今すぐ返上するとよい。森の中であんなでかい魔力を放つなんぞ馬鹿がする事じゃ。ツズリの魔力を狙ってこの鳥もツズリのところに来たのじゃぞ。こんな常識的な事も分からんのかのう」
なんかルルみたいな事を言われたんだけど!?
えっなに? わたしの妖力を狙ってこの怪鳥がこっちに来たの?
一体なぜ……。
「えっと……ごめん、全然分かんない。どっかの鼠みたいにわたしの魔力を食べに来たって事?」
「はぁ……。本当に知らんとはのう。確かに魔力を餌にするマジックイーターの魔物もおるが、それとこれとは狙われ方が違うのじゃ。ツズリは常識知らずなのじゃな……」
魔力を狙ってって言うから、食事目当てかと思ったら違った。
「悪かったね。常識知らずで。ちょっと生まれが特殊で教育不足だったんだよ」
どうせ転生させるなら一年くらいこの世界について教育を受けてから転生させてほしかったよ。
「ツズリよ、過去に魔物に狙われた経験くらいあるのではないかの?」
魔物に狙われた経験……。うーん、まぁあるね。ムカデとかその代表的魔物だ。
一匹目の王都に向かってたムカデなんてあからさまにわたしを追ってきていたし、二匹目は復讐の線もあるけど、わたしが家を建ててその妖力を感じ取って来たとも考えられる。
あとは……もしかしたら、リリナ弁当が狙われたのではなく、わたしの妖力を感じ取って狙われたのかな。
ワーウルフの時も油スライムを魔法で凍らせていたから、その妖力を感じ取って狙われて、黒ゴブリンの時もお風呂で妖力を使って狙われたのかもしれない。
かもしれないってだけで確証はないけど、そう捉える事も出来るよね。
「あるっちゃあるね。ドラゴンに間違われるような魔物に狙われた事があるよ。パパッと倒してやったけどね」
「うむ、あるようじゃな。よいか? 何故狙われるのかというとじゃ。自分の縄張りに入って来た自分の傘下ではない魔物を排除しようと狙われたのじゃ」
「ははーん。なるほど、そういう事だったんだね! 全て理解したよ! 魔物にも縄張りがあって、その縄張りに見ず知らずの魔物が入ったからわたしが狙われたんだね!」
「常識はないけど理解は早いのう。その通りなのじゃ。倒したと言っていたドラゴンに間違われるような魔物ならば、その縄張りのヌシだったのじゃろうな。ツズリはヌシを倒した事により、その周辺のヌシになったと言うことじゃの」
「うんうん、なるほどね。わたしが新しいヌシになったのか……って、それじゃわたしが魔物みたいじゃん!」
魔物何て付属品を付けられるなら、わたしは女神の肩書を甘んじて背負いたいよ。どう考えても魔物より女神の方がマシじゃんか。
「だからそう言っておるのじゃ。普通の人間ならば狙われたりしないのじゃが、わしらは魔物と魔力の質がほぼほぼ変わらぬからのう。魔物はわしらを魔物と判断するのじゃ」
衝撃の事実が発覚した。魔物の魔力とわたしの魔力はほぼ同じらしい。つまり、わたしが魔法を使うと魔物がわたしを魔物だと判断して狙われるという事だ。
その事実も衝撃だったけど、もっと気になる事を言っていた。
「普通の人間じゃ狙われない……しかも、わしらって……なんか、わたしとシャロが普通じゃないみたいに聞こえるんだけど……?」
あの怪力だからシャロは普通じゃないとしても、わたしは普通だよ。
普通の獣人……だよね……?




