P6 収納魔法を教えてもらう
朝、目が覚めるとルルの顔が目の前にあった。
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
ああ、夢じゃなかったのか。もしかすると、夢なのかなって思ったんだけどね。
ゲームキャラで別の世界に来て、魔法がイメージ通りに使えたりして、まさしく夢の中の世界だよ。
もしかしたら、起きたと思ってるけど実はまだ夢って事もあるかもしれないのかな?
頬をつねってみる。
い、痛い……。うん、夢じゃないね。
ルルを起こさないようにベッドから降りて、外に出る。
「あら? ツズリちゃんもう起きたの? 早いわね」
外に行くとメアさんとパルパルが居た。
他の二人はまだ寝てるのかな?
わたしが早起きなのは早朝イベントを逃さないために早起きしていたからだ。
そういう生活していたら自然と体に早起きが身についただけ。自然とね。
「メアさんおはよう。ついでにパルパルも」
「ついでかよ」
「パルパルって……ふふふ。その呼び方いいわね」
「お前は呼ぶなよ」
「わかったわよ。パ ル パ ル ふふふ」
「くそっ」
PT組んでるだけあって仲が良いね。
わたしはPT何てこの世界でも組む気はないけど。
「そう言えば聞いたわよ。ツズリちゃん素手でワーウルフと戦って勝ったんだって? 魔法使いだと思ったけど獣人っぽい戦い方もするのね」
「いや、素手だけど魔法だったんだって。凍ってたから間違いないよ。見たことない魔法だったけど、俺は魔法の事なんてわからないからな」
「そんな魔法私だって聞いたことないわよ。獣人なんだから身体強化で戦ったんでしょ。凍ったのはパルパルが見えないレベルで魔法を放ってたのよ」
「しれっとパルパル呼びを定着させるなよ!」
ほんと仲良いね。
そうかー近接魔法もないのかこの世界は。
でも、わたしの知らない魔法もあるんだよね。
凄いのかそうじゃないのかどっちなのか分からないよ。
「そうだ。あれだけ接近戦で戦えるんだから剣も使えるのか?」
「剣? まぁ少しは使えるよ」
「じゃあちょっと朝の運動にでも付き合ってくれよ」
模擬試合でもするのかな?
腕、結構細いし、力無さそうって言うか無いよね。武器とか持てそうにないけど……。
「まぁいいよ」
そういうとパルパルは、昨夜使っていただろう焚火の横から木の棒を持ってきた。
一本をわたしに渡してくる。
ふむ。これはあれか伝説の勇者の武器、ひのきの棒かな。
ゲームでは誰でも装備可能な初心者武器だ。
初心者武器というか、近接での戦い方のチュートリアルで貰える武器。
懐かしいなぁ。チュートリアルでしか使ったことないけど。
素手で持つとチクチクして痛そうだから服越しに握る。
おお、持てた。木の棒って言っても木刀だって結構重いからね。
軽く振ってみる。
ひゅんひゅん。
うん。問題なさそうだ。
どこにそんな腕力があるのか分からないけど。問題なく振れる。
このひのきの棒さえあればワーウルフも簡単だね。斬撃じゃないから血も出ない。
まぁ魔法が好きだから出来るだけ魔法を駆使して戦いたい。
「子供なんだから、手加減しなさいよ」
「わかってるよ。ちょっとした運動程度だって」
どうやら手加減してくれるらしい。
その必要はないと思うけどね。
「いつでもいいよ」
いつでもいいよって言ったのに一向に動かないパルパル。
ん? 来ないのかな?
相手が子供だからって力加減が分からないのかな?
まぁ確かにわたしって力がありそうにないもんね。見た目は。
さっき振った感じだと、ほんとに何の問題もなさそうだったんだよね。
木が重いわけもなく、握りが甘くて手から抜けるような気もしなかった。
実は力持ちなのかもしれない。
「来ないならわたしからいくよ」
そう言ってわたしはパルパルとの距離を詰めて木の棒を打ち込む。
最初は軽く打ち込んでいく。
何度か互いの木の棒を交えているうちに体が温まってきた。
「もう少し速度を上げるよ」
木の棒を振る速さを上げて打ち込んでいく。
うんうん。ちゃんと着いて来られてるね。
「じゃあ、もう少し」
「まじかお前っ」
段々とパルパルに余裕がなくなってきている。
ここくらいがパルパルの実力かな?
身体強化ってのがあるし、それを使えばまた違うんだろうけど。
よし。十分動いたし朝の運動はもういいかな。
いつの間にかテントに居た他二人も起きてきてメアさんの横で見学してるし。
木の棒とはいえ、ぶつかり合えば音が響くもんね。起こしちゃったみたいだ。
でも、パルパルが言い出したことだからパルパルのせいだ。
「これで最後ね」
パルパルには隙ができる癖がある。
誰にでも癖はあるんだけど、自分では気づけないんだよねこういうの。
その隙を狙って木の棒を振るう。
「なっ!」
辛うじて受け止めるが、体勢が悪い。
わたしはそのままパルパルの持っている木の棒の根本。刀で言うと柄頭の部分を打ち上げる。
パルパルの木の棒は勢いよく飛んでいく。
ここを狙われたら手放しちゃうよね。
剣を手放すなんて剣士の恥だって言う人もいるけど、まぁ今回はわたしが子供だからって手加減してるらしいしね。
身体強化使ってなかったのがその証拠だ。見た目じゃよくわかんないけど、きっと使っていなかった。
「最後に狙った場所がパルパルの悪い癖だよ。PvP……あーいや、対人戦だったら気を付けた方がいいよ」
「……。お前、少しできるってレベルじゃねーじゃねーかよ!」
「少しだよ。わたしより強い人はいるからね」
剣の大会イベントではずっと二位だったしね。
どう頑張ってもあの人には勝てなかった。
大会系のイベントは1位を狙いたくなる。ゲーマーとしての性かね。
「驚いたわ。ホントに魔法だけじゃなく近接でも戦えるのね。しかもパルパルより強いなんて」
「て、手加減してただけだ」
「最後の方は結構本気でやっていただろう」
「げっ、キリークも観てたのかよ。ちょっと軽く運動しようと思ってただけなのになんでこんな事に……」
長剣さんはキリークさんだったか。
PT同士で仲良く会話を始めたし、わたしは馬車に戻ろうかな。
ルルが起きてたら収納魔法を教えてもらおう。
馬車へと足を進めていたら、目の前に壁があった。
いや、壁ではなく斧さん、確かブロムさんだったかな。大柄の男性だ。
わたしが小さいってのもあるんだろうけど、それにしても大きい。
まぁあのでかい盾代わりにもなる斧を使ってるだけあるってものだ。
「えっと……?」
「……ありがとう」
「え、あ、はい」
それだけ言って去って行った。
え? 何が?
わたし何かしたっけ。
うーん。心当たりがない。
というかあの人が喋るの初めて聞いた。
「ワーウルフが抜けて行ったのを倒してくれた事のお礼だと思うわよ」
わたしが疑問に思っていると、メアさんがそう言って話しかけてきた。
さっきまで剣士2人と話してたと思ったのにもうこっちに来てる。
わたしがブロムさんにいじめられてるとでも思って来たのかな。
「あーあの時の事か」
「敵を抜かしたのを責任感じてるのよ」
「斧とワーウルフじゃ相性悪いし仕方ないよ」
「でも抜けられると私は接近戦なんて出来ないから、すぐやられてしまうかもしれないでしょ?」
あーそうか。確かにそうだね。
PTプレイ何てした事ないから失念していたよ。
守る味方も守ってくれる味方もいなかったからね。
まぁそれが楽で好きなんだけど。
「まぁ土壁で障害物作って足止めしてるうちにキリークかパルパルが助けに来てくれたと思うけどね」
そう言いながら笑うメアさん。
「信頼してるんだね」
「同じパーティーなんだから当然よ」
良いPTだね。ほんと。
こういうのを見てると、わたしもいつかPTを組んでもいいかなって思ってくるよ。
メアさんがPTメンバーの所へ戻ったので、わたしも馬車へと戻ることにした。
馬車の中に戻ると、ルルが眠そうな顔でソファーに座ってるのが見えた。
「ルルおはよう」
「おひゃようごひゃいます」
ふにゃふにゃとあいさつを返してくれる。
ルルは朝弱いんだね。
そう言えば、この馬車どこに向かってるのかも聞いてなかった。
「今ってどこに向かっているの?」
「ゼルドガルの街ですよ。お父様の領地です」
「じゃあ、どこかへ行っていた帰りなんだね」
「そうですね。王都にある、兄様が通っている学校へ行っていました」
この世界にも学校あるんだ。
学校にいい思い出ってないんだよね。
でも、魔法も教えているとしたらちょっと興味あるかも。
見学とか出来ないかな。機会があれば行ってみよう。
「お兄さんいるんだね」
「はい! 兄様は優しくて強くて、わたしの自慢の兄様です!」
仲が良さそうでいいね。
わたしは一人っ子だからよくわかんないけど、兄妹とは良いものなのだろう。
しばらくルルと話した後、朝ご飯を食べてから出発することになった。
御者台にキリークさんとパルパル。後ろの見張り席にブロムさん。馬車の中にわたし含むその他4人。
まぁ昨日と一緒だ。
馬車にいる間は暇だし、ルルに収納魔法を教えてもらおう。
というか早く知りたい使いたい。
「ルル、収納魔法教えてよ」
「はい! 任せてください!」
「私もルルーナ様の補佐として教えてあげるわね!」
収納魔法先生を二人ゲットした!
「教えるって言っても基本中の基本なので凄く簡単ですよ」
「お願いします! ルル先生!」
「先生って……。まぁいいですけど。まず収納魔法というのは魔力空間です」
ほう。魔力空間か。
異次元とか亜空間とかじゃないんだね。
「魔力空間っていうのは、言葉の通り魔力で創る空間です。魔力で作る箱と思ってもらえばいいです」
魔力で作る箱ねぇ。
そもそもわたしって魔力じゃなくて妖力ってステータスに書いてるんだよね。
魔法は使えてるから大丈夫だと思いたい。
魔力空間じゃなくて、妖力空間だ。よし。
「ルルーナ様、一回やって見せてあげたら?」
「そうですね。では、机にあるこれを仕舞ったり取り出したりしてみましょう」
ルルは机にあったコップを手に取る。
「仕舞うときは、仕舞いたい物を魔力で包み込む感じです」
そういうとルルが手に持っていたコップが消えた。
おおー。手品みたいだ。
いや、魔法だから手品みたいとかじゃなく普通に魔法か。
魔力で包み込む感じか。
近接魔法と似てるかな?
あの魔法は手に魔力、わたしの場合は妖力を纏わせていると言えるだろう。
「取り出したいときは、取り出したいものを思い浮かべて、魔力を放つというよりは出したいところに置く感じですね」
ルルが机に手を向けると先ほどのコップが机の上に現れた。
なるほどね。
これは飲み水を出したときに似てる気がするね。
空中に停滞させる感じだ。
「取り出したい物が置ける空間がないと取り出せないので注意してくださいね」
「それと魔力空間の容量、重量は自分の魔力量に比例するわ。魔力が多いほど沢山仕舞えるって事ね」
魔力量か。
わたしはどれくらいなのかな。
ゲームのままのMPなのだろうか。
魔法を打ち続けて出せなくなるまで試してみようかな?
いや、やめとこう。
まずそんな撃ち続けれるような場所はないだろうし、MPが切れたらこの世界だとどうなるのかわからない。
「ありがとう、実際にやってみるよ」
まずは、妖力空間かな。
妖力作る箱。
うーん。やっぱゲームであったアイテムボックスみたいな感じなのかな。
まぁ多分そうだろう。
よし、次はその空間に仕舞う事が出来るかだね。
机にある先ほどのコップを手に取る。
そしてコップ全体を包み込むようにイメージする。
近接魔法で手を覆っていた感覚でコップを覆う。
そして、アイテムボックスに仕舞うイメージだ。
「出来た! 出来たよ!」
手に持っていたコップがどこかに消えた。
どこかというか成功していたなら妖力空間。アイテムボックスに行ったはず。
「おめでとうございます! さぁ次は取り出してみてください!」
「そうだね。やってみるよ」
さっき仕舞ったコップをイメージする。更にそのコップを置くイメージ。
すると、机の上にコップが出てきた。
「おお! 出来た! 取り出せたよ!」
「凄いです! 一回で成功させるなんて凄いです! わたしなんて一か月はかかりましたよ」
「ホント凄いわね。元々属性魔法が使えて、魔法の扱いに慣れているから直ぐに習得できたのかしら。普通は属性魔法を後に習得するものね」
これで、わたしにも収納魔法が使えるようになったぞ!
ゲーム以外での魔法で初めて習得した魔法だ!
いや、待てよ。飲み水とか氷溶かすのに使った熱湯とかもゲームにはない魔法だよね。
うーん。よし、あれはノーカンだ。ただの水魔法だ。うん。
何はともあれ
「ありがとう! ルル!」
そう言って、ルルにハグをして嬉しさを伝える。
「あー! また、ルルーナ様だけ! ずるい!」
教わったのは飽く迄ルルだ。メアさんは無視することにしよう。そうしよう。