P53 お風呂でぺったんこ
浴室というよりは浴場と言った方が良いかもしれない。それだけ広々としたお風呂場だ。
元々浴場って言えるような広さではなかったけど、浴室の真横の部屋の壁を取り除いて、一部屋にしたんだよね。何せ、元の世界に浴室のままじゃ、子供であったとしても流石に五人は入る事が出来ないと思ったからね。
っという訳で、この世界での我が別荘のお風呂は、銭湯かってくらいの広さになっている。子供五人が悠々と入れるどころか、泳げちゃう広さだ。
この浴場の内装はというと、大きい浴槽、床、壁を土魔法でタイル擬きに仕上げている。木でも良かったけど、わたしに木を加工する技術はないからね。土魔法でパパッと仕上げました。
浴槽前の窓というか、もはや窓ではないんだけど、浴場の浴槽側の壁が一面ガラス張りだ。お湯に浸かりながら外の景色を一望する事が出来る。周りが街だったら人の視線があるのでそんな事は出来ないけど、ここは平原にポツンと作ったツズリランドだからね。人の視線何てある訳がない。
なので乙女の肌は誰にも晒される事なく守られている。安心だね。
鏡や桶とかも一応置いたけど、洗剤がないので多分使わない。まぁ清潔魔法があるからなくても平気だ。
シャワーや蛇口は水の魔石を知らなかったから作っていない。自分の水魔法で出せばいいやって思っていたからね。
今後、魔道具を研究してそういうのも自分で作れたら楽しそうだよね。
「ここがお風呂だよ!」
「おーこれが天界の文化! オフロなの!」
「これがツズリが言っていたオフロですか。って! 外から丸見えじゃないですか!」
「大丈夫だよ。ここに人はわたし達しかいないんだから、覗く人なんていないよ」
万が一居たとしてもわたしが探知出来るから直ぐに分かる。ツズリランドに侵入した時点でバレバレだ。どこかの盗賊団のようにね。
「確かにそうですけど……。裸で外にいるみたいで落ち着きません」
「まぁ直ぐに慣れるよ」
「ツズリは裸で外でいるのは慣れているっと」
「そういう意味じゃないよ! リリナ!」
リリナが手にメモを書くようなしぐさでそんな事を呟いた。
確かにそういう意味にもとらえる事は出来るかもしれないけど、決してそういう訳ではない。この世界にお風呂という習慣がないだけで、元の世界にはこういう施設は沢山あるんだから。
「ツズリ様を見習ってコタビも外で裸でいる事に慣れるの!」
「だから! お風呂でだけだからね! 街中を裸で何て歩いたりしないからね!」
何かとわたしの真似をするコタビ。この前も冗談で言ったパンツ穿いていない事件もあったし、本当に裸で生活しそうで怖い。
「コタビ、あなたも女なのですから、節度を持った方がいいですわ。裸に慣れるのなら、せめてわたくしの部屋でだけにしてくださいですわ」
それはそれでどうかと思うけど、まぁ部屋の中でなら許容範囲内だろうか。家では裸って人も元の世界にも少なからずいただろうからね。
それでも、友達の部屋で、しかも一国の姫の部屋でっていうのは若干引っかかる所もあるけど、本人が良いって言っているからまぁいいのだろう。
「あれ? ツズリ、オフロって確かお湯の中に入るって言ってませんでしたか? 何処にも見当たらないですよ?」
「今からここの浴槽にお湯を張るんだよ」
元の世界なら事前にお湯を入れとかないといけないけど、この世界には魔法がある。一気にパパッと浴槽にお湯を張る事が出来る。やっぱ魔法って便利だね。
「この広さの水を炎の魔石でお湯に変えるには相当な時間が掛かる。今から待っていたら風邪を引く」
「そうですわね。ツズリ様が炎魔法で温めたとしてもそれなりに時間が掛かりそうな量ですわね」
「なーに言ってんの。お湯くらい水魔法だけで出せるでしょ? ほら、こうやって」
大きい水弾を出す感覚で浴槽にお湯を創り出す。
パパッと一発でお湯を張る事が出来た。これは流石に元の世界の文明でも出来はしない。魔法の世界は電気やら電波やらで劣っている部分はあるけど、魔法で出来る事に関してはずば抜けてこっちの世界の方が楽だ。
浴槽からは湯気が立ち込み、入れたのがお湯である事が触らなくても目で見て確かめる事が出来る。
「えっ!? お湯って水魔法で出せるんですか!?」
「流石ツズリ様なの! お湯を出せるなんて素晴らしいの!」
「いやいや、氷魔法って水魔法を冷たくしたものでしょ? だったらその逆だって出来るのが普通じゃないの?」
冷たく出来るのなら、その逆に温める事だって出来ると思うんだけど、違うのかな。でも、実際にわたしは出来ている訳だから、わたしの言っている事は正しいよね。
「普通は炎の魔石で温める。大体、氷魔法なんて上級魔法、普通の人には使えない」
「氷魔法が上級なら反対のお湯魔法(?)も上級になりますわね。流石ツズリ様ですわ! 氷もお湯もどちらの上級魔法を使いこなすなんて、魔法を使わせたら右に出るものはいませんわ!」
そうだった。氷魔法は個としての氷魔法ではなく、水魔法の上級魔法扱いだった。魔法とか戦闘はついついゲームの感覚になるから忘れてしまう。
水の上級が氷になるなら、水魔法に魔力を込めまくると氷になるって事なのかな。だとすると冷たくなるだけで暖かくはならないのかもしれない。そうなるとお湯は水魔法と炎魔法の混合技とも考えられるね。
でも、わたしは普通に使えてるからなぁ。イメージ力の差とかだろうか。
「ツズリは魔法に関してだけは超一流ですね!」
ルルが感心したような目でわたしを褒めてくれる。いや、褒めてくれているのか?
「魔法だけって事はないよ! 魔法以外もそれなりに一流の物はあるよ!」
「例えば?」
ここぞとばかりにリリナが割り込んできた。無理やり服を脱がした事でも根に持っているのだろうか。指示したのはわたしだけど実行犯は他の子なのに。
「た、例えば……せ、戦闘センスとか……」
「戦闘狂。そのセンスの一欠けらでも料理のセンスに回す事をお勧めする」
うっ……。それを言われるとどうしようもない。反論の余地はない。
でも、これは仕方ない事なんだ。わたしが前世で会得したスキルはゲームだけなんだよ。ゲームの魔法と戦闘だけなんだよ! 料理なんてネットがあれば持ってきてくれるんだよ!
「うるさい、うるさい! もう! ここで突っ立ってても風邪引くかもしれないからさっさと入るよ!」
まぁ風邪を引いたところでわたしが治せるんだけども、引かないに越した事はないからね。治ると分かっていても病気にならない方がいいに決まっている。
一気に入ると熱いかもしれないので、足からゆっくりとお湯に浸かっていく。
そして、ゆっくりとお湯が肩までくるまで浸かる。
「はぁ……、気持ちいい。これだよ、これ。最高だよ」
数か月ぶりくらいのお風呂は最高だ。もう、感激で涙が出そうなくらい最高だ。
「コタビも入るの!」
っとコタビを皮切りにラライア姫、ルル、リリナも湯船に入ってくる。
「身体がポカポカと温まって気持ちいいですわ」
「ふわ~、気持ちいいの~。身体と心が安らぐの~」
のへーっとだらしなくお湯に浸かっているラライア姫もコタビ。
よしよし、お風呂を気に入ってもらえたようだね。そりゃまぁ当然か。お風呂は人の身体も心も温めてくれるのだから、気に入らないはずがない。
「ツズリ湯、意外と悪くないですね! これなら毎日入りたいくらいです!」
「ツズリ湯って……」
「ルル様に賛同。ツズリ汁、悪くない」
「待って! ツズリ湯より酷くなってるよ! 確かにわたしが出したお湯だからツズリ湯ではあるかもしれないけど、わたしで取った出汁じゃないんだからツズリ汁ではないよ!」
ツズリ汁というよりは、現在進行形で美少女汁になっている最中じゃないだろうか。
お湯の中に美少女が五人も入ってゆでられているのだから、わたしだけではなく他の美少女からも出汁が……。いや、この考え方はやめておこう。わたし達は別に食材じゃないからね。
それにしても、コタビに目が止まってしまうな。明らかにこの五人の中で一番でかい。何がって、そりゃ胸がだよ。
子供にしてはふくよかってだけで、メアさんやカレンさん並みに大きい訳ではないけどね。それでも、この五人、そうわたし含めたこの五人が並ぶと目立つくらいには差がある。ちっ。
ルルとリリナは平均って言ったところだろうか。わたしよりは大きいけど、然程、差がある訳ではない。と思う。そう願う。ちっ。
ラライア姫は最近まで寝たきりであまり食事を取れなかったのか、細身の身体だ。胸もわたしと同じくらいだろうか。病弱だったラライア姫と同じなわたしの身体って一体……。
ねぇ神様。どうしてわたしを神殿にある女神像のようなナイスバディに産んでくれなかったの?
産んでというか、創って……? そうなると、このゲームの身体、つまりゲームキャラのクリエイトしたのはわたしだから、わたしが創ったって事になるのかな。
つまり自業自得。でもきっと、成長すれば妖艶で美しい狐お姉さんに……。
「わー! ツズリ、ぺったんこです!」
「ホントなの! ツズリ様、ぺったんこなの!」
「えぇっ!?」
なんだなんだ!? どうして急にわたしはいじめられているんだ!?
ルルは兎も角としても、絶対的信者のコタビにまでいじめられるのか!?
そんなに胸の大きさで態度が変わるのか! コタビよ! 見損なったよ! 裏切られた気分だよ!
胸の大きさでは初めから裏切られていたけどね! ちっ!
「わーん! ラライア姫ー! コタビとルルがいじめるー!」
胸の大きさが近しいラライア姫にわたしは助けを求めた。わたしがぺったんっていじめられるのならば、ラライア姫だってわたしと同族だ。
「大丈夫ですわ! ツズリ様はぺったんこでも変わらず可愛らしいですわ!」
胸が小さくて可愛いって事!? 小動物的な扱いされてる感じの可愛さって事!?
ラライア姫だってわたしと大差ないくせにさー!
期待はしていないけど、最後の希望のリリナに助けを求めて目を合わせてみる。
「ツズリのツズリたる部分の消失を確認。あたしは悲しい」
リリナだもんね! 知ってた!
消失ってなんだよ! ちょっとはあるよ、ちょっとは!
コタビ以外は五十歩百歩もいいとこじゃないか!
何なんだ皆して! 仮にも女神だぞ!
ん? 待てよ。「ツズリのツズリたる部分の消失」っておかしいな。
自分で言うのもなんだけど、わたしがわたしである部分は胸ではないだろう。第一印象で胸が目に付くとは考えにくい身体だ。
……自分で言ってて泣きそうになるな。まぁ子供だから仕方ない。そう子供だから。コタビの方は見ません。
「えっと……、何がぺったんこなの……?」
わたしは恐る恐る皆に聞いて見る。
一応現実を叩きつけられない為に胸を腕で隠して、手遅れの対策を施しておく。
「何ってそれは勿論……」
「勿論……?」
「尻尾ですわ!」
「やっぱむ……えっ? あ……あー! 尻尾か! 尻尾ね! 本当だ! 水に濡れて尻尾がぺったんこだー!」
皆が言っていた事はわたしの胸の事ではなく、尻尾の事だった。尻尾がお湯を吸収して、いつもはもふもふのふかふかの尻尾がしぼんでぺったんこになっていた。
そりゃそうだよね! 女神たるわたしが急にいじめられる訳ないよね!
しかも世界一と言ってもいいくらい狂信者のコタビがわたしをいじめてくるはずがないよね!
それでもちょっと、コタビからぺったんこって言われると嫌味にしか聞こえないんだけども。例え尻尾の事であったとしても。
「オフロって気持ちいいですけど、ツズリの尻尾がぺったんこになるのが欠点ですね」
「そうですわね。お綺麗でふわふわな尻尾はツズリ様の魅力的の一つですのに」
「尻尾がぺったんこのツズリはツズリにあらず」
わたしの本体はふわふわ尻尾か! って突っ込みたくなるようなリリナの意見は一先ず置いておく。
「ツズリ様はぺったんこでも十分魅力的なの! 大丈夫なの!」
コタビはわたしの味方をしてくれているんだろうけど、コタビにぺったんこって言われるとさ……。やっぱ、どうしても胸の事が頭をちらつく訳ですよ。頭にちらつくどころか、目の前にちらついているというかね。ちっ!
「お風呂上がって乾かしたら、ちゃんとふわふわに戻るから大丈夫だよ」
「それは良かったです!」
かくしてわたしのぺったんこ疑惑事件は解決に至ったのであった。
どっちもぺったんこだから疑惑じゃなくて事実? やかましいわ!




